030 港町でやることは【食べ歩き】に決まってるぜ!

「さて次の問題です。アリストゴーレムは、何が好きでしょうか!?」


 ミルフィが、目の前の岩の魔物に向かって駆けながら叫んだ。

 それに対し、アクアが支援魔法を付与しながら答える。


「太陽の光――です」

「ふふふ、正解にゃっ!」


 そしてミルフィの強靭な腕力によって、ゴキッと首がもげる。

 これは、つまらない狩りを楽しくする二人の怖い遊びで、なおかつ勉強にもなる座学ならぬ戦学。


 俺も答えたりするが、彼女たちほどの余裕はない。

 というか、心の問題だろう。


 魔物と戦うのが日常化している違いというべきか。


 おそらく俺もそうだったのだろうが、今は違う。

 サイクロプスの時のように気持ちが高ぶらない限りは、まあ日本人って感じで、それなりに緊張している。


 だが――。


「ミルフィ、アクア、右奥にアンガーだ。――俺が殺る」


 マップ上で強い魔物が現れた瞬間、頬が緩む。

 ミルフィの横を颯爽と抜き去り、手に力を籠める。

 

 直後、後ろから身体能力が強化された。

 アクアは俺のことをよくわかっている。


 ヒュッと浅い息を吐いたあと、ゴーレムの硬い岩を切り裂く。

 数秒後、大きな岩がごろごろと崩れ落ちた。


「やっぱりタビトが一番凄いにゃあ」

「規格外すぎますね」

「そ、そうか? アクアの支援のおかげだろ」

「そんな事ありませんよ。普通はこんな簡単にゴーレムは切れませんから」

「……マジ?」

「マジです」

「超マジ?」

「超マジです」


 俺たちを心から信用してくれてからのアクアは、無表情ではなく少し微笑んでくれるようになった。

 なおかつ俺の謎のノリにも付いてきてくれる。なんだったら超える時もある。

 

 しごできエルフ少女。


「ゴーレムの解体終わったよー!」


 もちろんミルフィは、いつも凄い。


   ◇


「お、ようやくマップの先端に映ったぜ。長かったな……」

「やったにゃー! 今日はぬくぬくお布団で寝るにゃー!」

港町・・なら水もたっぷり使えそうですね。身体を洗いたいです」

「やっぱり綺麗好きなのか?」

「? 私ですか?」

「はい」

「ええまあ、エルフ並程度には」


 ど、どの程度!?

 と、いうウザがらみはやめておこう。

 

 けど二人とも風呂に入っていなくてもいい匂いするんだよな。

 たまに隣で眠ると、マジでこうなんというかフローラルな香りがする。


 さながら俺はハチミツにたかる蜂、ブンブンタビトと呼んでくれ。


「タビトさん、また空を眺めてませんか?」

「よくある事だにゃあ」


 それから仲良く歩き、ようやくたどり着いた場所は、入口から賑やかだった。

 街の奥には広大な海が見えている。

 久しぶりの海水の匂いがする。

 釣りをしている人もいれば、木船で魚の網を回収している人もいた。


「すげえ、魚だ、魚の街だ」

「美味しいお魚食べたいにゃー」

「治安もよさそうですね」


【港町:ヴィルディ】

 4.3★★★★☆(24541)


 魚大好き冒険者

 ★★★★☆

 アクアパッツァが新鮮でおいしい

 生魚の刺身は最高


 港で噂の魚好き

 ★★★★☆

 さかなさかなさかなー♪

 魚をたべーるとー♪


 A級冒険者

 ★★★★☆

 船の滞在の為に二泊

 賑やかで美味しい魚料理が多い


 旅好き冒険者

 ★★★★★

 今まで訪れた港町の中でも賑やかでいい

 塩焼きは食うべし



 【ティア】がいる国へ行くには、船で海を渡らなければならない。

 その為には、この港町に来る必要があった。

 

 話には聞いていたが、魚の街って感じだ。


 国のように大きな壁はなく、開けた場所で入りやすい。

 当然だが入口には兵士がいた。

 王都の支配領らしいが、ここまでとは驚きだ。


 地面はコンクリートに近く、常にどこかが水でぬれている。

 左右にはお祭りの屋台のようなものが並んでいて、まるで縁日だ。


 人々が行き交い、建物は王都と違ってカラフルな色合いになっている。


 船の手配をしないといけないが、到着が想定より早かったので、出発は一週間後くらいだろう。

 まずは【クチコミ】で宿を決めようと思っていたら、ミルフィとアクアの姿がない。


 慌ててマップを確認すると、すぐ近くにいた。

 視線を向けると、屋台でマグロの串焼きみたいなものを購入している。


 流石ミルフィ、早い。


「あいよ! 姉ちゃんたちカワイイから、デカい奴にしといたぜ!」

「ありがとにゃあ」

「ありがとうございます」


 いや、アクアもだ。

 あいつめ、段々と俺たちのノリに慣れてきたな。

 

 魚の切り身を塩で振って焼いたものみたいだ。

 クチコミを確認してみる。


【ベルスおっさんの串焼き】

 4.9★★★★★(4541)


 港町の常連者

 ★★★★★

 ここの串焼きを食べなきゃもぐり


 ふらっと立ち寄った王都民

 ★★★★★

 サクサクで塩加減もいい

 一口食べるだけでマグロの味が口いっぱいに広がる


 ブリジット

 ★★★★★

 美味しい、美味しいぞ



 え、ブリジットさん!?

 書き込みの日時からすると、既に船で出発しているだろう。


 ここに寄ったか。


 ていうか、評価高ッ!?

 なにこれッ!?


 俺は急いで駆け、ベルスのおっさんから串焼きを購入。


 出来立てほやほや、三人で並んでかぶりつく。


「美味しいにゃああああああああああ」

「……これは、美味ですね」

「最高だ。魚はやっぱいい……ビバフィッシュ」


 王都の近くには海がなく、魚料理は殆どなかった。

 だが俺は日本人、見た目は違うが、心はそうだ。


 最高だ。やっぱ魚は最高。


 ミルフィも満面の笑み、そして――アクアも嬉しそうだった。

 ハッ、何がエルフは感情がないだ。


 ただ気づいてないだけじゃないか。


「さてとりあえず胃袋を満たそうぜ。俺が最高の魚料理店を探してやる」

「賛成、賛成にゃあ!」

「宿……と、思っていましたが、同意します」


 よし、今日はもう食べ歩きの日だ!


 

 ミルフィ

 ★★★★★

 魚魚魚~魚を食べると~♪


 アクア

 ★★★★★

 あの串焼きも……美味しそうですね


 タビト

 ★★★★★

 刺身が食いたい

 刺身、刺身あるかな

 ツマもほしい

 




 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る