024 本当の自分とたゆんたゆん
「大したものはないがゆっくりしてくれ」
クマの魔物を倒した後、冒険者ギルドで討伐証明を出して、さらに付近の住民からも話を聞いたりと大変だった。
おかげで夜遅くなってしまい、とはいえ過去の話を聞きたいのでまさかのブリジットさんの家に。
といっても冒険者なのでほとんど家にはいないらしいが。
「お邪魔します」
「しますにゃ!」
ブリジットさんの自宅は閑静な家の一つだった。
マンションでもアパートでもなく木を基調とした一軒家。
留守が多いので、定期的にハウスメイドにお願いしているとのことだ。
確かに埃一つない。
中はかなり広い。
寝室は二階らしいので是非行ってみたい。
下心はもちろんない。
マップにあった【!】が【白下着】に変わって、ブリジットさんがこっそり拾っていた。
生活感萌え!
「凄いにゃあ。――クマさんがいっぱいにゃあ!」
そのとき、俺が言えなかったことをミルフィが笑顔で言った。
壁の棚には、たくさんのヌイグルミクマが並んでいるのだ。
大きさも色も揃えられていて、熱いコレクション魂を感じる。
「俺はこのクマが好きだなー」
「私はこれかな!」
趣味はいいことだ。
俺も生前は旅行が好きだったし、アニメや漫画、小説も好きだった。
うんうん。
「……そ、そうか」
後ろ姿で返事をするブリジットさん、首が赤いので恥ずかしいのだろう。
それもまた萌え! だ!
少しだけ雑談した後、飲み物も出してくれて、テーブルに座った。
話はついに本題に。
「私が君と出会ったのは、ここから遥か北の地。ちょうど一年前くらいだろう」
「一年前……ですか?」
「ああ、風貌は変わらないよ。ただ、口調が今よりも少しぶっきらぼうだったな。私のことを『よォ』と呼んでいた」
「ええ!? それはすみません……」
「はは、いや、私のほうがお礼を言いたい。なぜなら私は――君に命を助けられたんだ」
「え……俺が?」
「ああ、私が死にかけたところにね。君が、現れたんだ」
――『よォ姉さん、大丈夫か?』
そこからの話は驚くべきものだった。
ブリジットさんが北の魔族の生き残りと戦っていて、絶体絶命のときに颯爽と現れたらしい。
そこからは俺の無双だったそうだ。
なんと、笑みを浮かべながら敵を殺していったとのこと。
……うーん、記憶はないが、戦闘に興奮するからこそリアリティがある。
ただ不思議な話もあった。
「記憶がおぼろげなんだ。物覚えはいいほうなんだが……すまないな」
「それだけでも十分な手がかりですよ」
「ほええええ、凄いねえタビト!」
「いや俺であって俺じゃないけどな」
「だが……あれほどの強さを持っていたにも関わらず周りは誰も君の事を知らなかった。それは、やはり奇妙ではあるな」
「どうしてですか?」
「この世界で強者は否が応でも目立つ。それが絶対正義だからだ。金持ちは目立つだろう」
なるほど、確かにそう言われてみればそうだ。
なんか知れば知るほど摩訶不思議だな俺。
「でもほんと良かったねタビト!」
「え? な、何がだ?」
「人助けしてるんだよ、凄くいい人だったってことだよ」
「あ、ああ。そういえばそうか」
「彼女の言う通りだ。私はあの時本当に死を覚悟していた。だが助けられた。――ありがとう」
そのとき、ブリジットさんが頭を下げた。
俺であって俺ではないのだが……とはいえ申し訳ないので、俺も頭を下げる。
それを見たミルフィが笑う。
「ふふふ、でもこうやってまた会えるのって凄い偶然だね。もしかして運命なのかも」
「それはあるかもしれないな。長い間冒険者をやっていると、不思議と何度もよく会う人がいる」
確かに、人と人との縁は不思議だと思う。
これから先、俺は俺を知る人と出会うかもしれない。
そんな時、こうやって感謝されると嬉しいな。
……逆はやめてほしいが。
「今日は良かったら泊まっていくといい。流石に疲れただろう」
「え、いいんですか!? やったー」
「え、ちょ、ちょっと待てミルフィ!」
「ふぇ!?」
「流石にマズい……いや俺が特に……」
「え、なんで?」
「そ、その――男だぞ俺は!?」
それを言った後、二人が笑う。
「面白いな君は」
「面白いねえタビト」
「え、な、なんで……」
「私たちは冒険者だ。そんなこと気にしないよ」
「そうだよ」
「俺は気にするんだが……」
リルドのおっさんの所に戻ると伝えたが、まさかのブリジットさんがお酒をドンっと置いた。
「久しぶりの再会なんだ。前はゆっくりできなかったからな」
「賛成ー! ね、タビト?」
まあでも下心なんて皆無だ。
煩悩を消した男、タビト改2だからな。
俺が何もしなければいい。何も気にしなければ問題はない。
だったら大丈夫だ。
「そうか、そうだな……。よし、今日は飲みましょう!」
「やったにゃー!」
その日の夜は、とても思い出深い時間を過ごした。
「それで、このクマはな! ここが可愛くてな!」
それと、ブリジットさんはやっぱり可愛かった。
翌日、目を覚ますとなんだかむにゃむにゃしたものが頬に当たっていた。
左と右で少しだけ柔らかさが違う。
……え?
「んっ、ん……」
ブ、ブリジットさんのたゆん!?
「んにゃあ、もっと食べたいにゃあ……」
ミ、ミルフィのたゆん!?
……わりぃリルドのおっさん、最高の宿、ここにあったぜ。
ブリジット
★★★★★
自分の趣味を理解してくれる人と出会えたのは初めてだ
本当に楽しい一日だった
不思議だが懐かしい気持ちになった
【ブリジットハウス】
5.0★★★★★(2)
ミルフィ
★★★★★
凄く楽しい一日だったにゃあ
ブリジットさん好きいい
クマさんも好き
タビト
★★★★★
自分の事が少しでもわかってよかった
何だか割といい奴みたいで安心だ
お泊り会は最高たゆんたゆん!
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