020【魔法】と【ガイドマップ】があれば人助けも余裕だぜ!
洞窟の中。
俺は、右手の人差し指を掲げながら【ライト】を唱えた。
懐中電灯ほどの灯しかないが、それで十分だ。
最初に現れたのは、魔コウモリたちだった。
天井から降りてくるも、ミルフィが全てを叩き落す。
「よく見えるにゃあ!」
【ガイドレンズ】もおかげで敵を見逃すことが殆どなくなった。
俺の目からはロックオンのようにターゲットが表示される。
さらに【ガイドマップ】もあるので、不意打ちは気を付けていれば食らわない。
狩場で一番危険なことが起きないのは、俺の能力の一番の利点だろう。
【魔の洞窟】
4.2★★★★☆(4947)
B級魔法使い
★★★★☆
光魔法さえあれば敵は弱いので楽
素材も美味しい
A級冒険者
★★★★☆
光に弱い魔物ばかり
奥へ行くほど危険
B級冒険者
★★★★☆
たまに強い魔物も現れるが、外には出られない
太陽を嫌う性質がある。
ライトだけでもだいぶ相手を弱らせることができた。
一通り倒し終えると、岩に座って水を飲む。
「ふう、美味しいにゃあ」
「――ウォーター」
俺は、その場で魔法を詠唱した。
チロチロと真水が精製されて、飲み水の代わりとなる。
「凄いにゃあ、便利だねえ」
「だな。けど精神力を使うし、普通に水飲む方が早いな」
「それにしても凄かったね。この前」
「ああ」
初めての魔法を使った後、エドナさんから宮廷付きにならないかと何度も誘われた。
ちゃんとした魔法を習ってみたかったが、そのためには訓練を一年間しないといけないとのことだ。
とはいえそれは俺の異質な能力を想定してのことらしく、普通はそんな短期間で使いこなせない。
ただ俺は自分探しをしている。ミルフィの同胞もだ。
今はそこまで困っていないので、こうやって地道に能力を使いながらレベルを上げることに決めた。
とはいえ、あれだけ褒められたことはないので嬉しかった。
「最後泣いてたね、エドナさん。タビトが離れていくとき」
「ああ、ちょっと気まずかったな」
「旅が終わったら考えてもいいんじゃない?」
「そうだな……。それも楽しそうだが、まだ先の話だろ」
魔法はイメージの世界、それを念頭に置きながら今後も訓練を重ねていこう。
「ん……なんだこれは」
「どうしたの?」
こうやって休憩しているときは、ボーっとクチコミを見ていることが多い。
新しい情報を見つけたりできるからだ。
全部見てからにしたほうがいいのだが、流石に毎回4000件以上を見たりするのは辛い。
王都少女
★☆☆☆☆☆
怖いよ、出口がわからない
するとそのとき、新しく追加された。
最近気づいたのだが、最新ほど一番上に表示されている。
つまり、今更新されたってことだ。
ということは――。
「ミルフィ、休憩終わりだ。この洞窟のどこかで、誰かが遭難しているらしい」
「ええ!?」
「冒険者の規定に乗っ取り、検索行動を開始する。いいか?」
「もちろんだよ」
冒険者規定、要は困った人がいたらできるだけ助けてあげろってことだ。
これは世界の共通のルールで、助けてもらった人はちゃんとお礼をする。
拾ったら一割払えよ、と同じ感じだ。
それよりも緊急性が高い場合が多いらしいが。
死に規約、と呼ばれることも多いらしいが、俺はブリジットさんから冒険者の埃を感じた。
カリンさんからも聞いたが、ブリジットさんはよく人助けをしているという。
俺もそれに倣いたい。
「マップ上には映っていない。今日はここまでの予定だったが、もう少し潜るぞ」
「わかったにゃ。ただ、魔物が多すぎて、無理だと判断したら退くよ」
「ああ、それは
つまり助けられないと判断したら見捨てるということだ。
悲しいがそれが現実。
戦闘判断は彼女に任せている。適材適所、それが、命を預けあう最低の礼儀でもある。
歩いていると、マップに【!】が表示された。
クリックすると、小型の人に移り変わる。
だが魔物に囲まれていて動けないとわかった。
「この先だ。魔物が5体」
「了解」
ライトで照らしながらまっすぐ進む。
するとそこに、デカい蜘蛛の魔物が現れた。
【沼地蜘蛛】。
人間の血肉を好んで捕食する。
大きな足に毒針がついていて、刺されると痺れて気絶。
ゆっくりと捕食される。
弱点は足。
その影には少女の姿。
地面は水でぬれていて、踏ん張りがきかない。
だがミルフィは駆けた。
魔物だって俺たちと同じで思考が存在する。
不意打ちを食らえば面を食らう。
彼女はそれをよくわかっている。
先手が、何よりも大事だと。
一体目の首を落すと、二体目に取り掛かった。
なら俺は三体目、彼女のカバーに徹する。
短剣を手に駆ける。やはり戦闘時は頭がクリアになる。
「ギャギャッ!」
蜘蛛の毒針を回避。
右足に短剣を添わせて攻撃を与える。
しかしそのとき、ふと脳裏に浮かんだ。
最小限の魔法でも使えるはずだ。
余った左手でファイアを唱える。
ほんの少しだけ火が灯り、左目を燃やした。
――なるほど、おもしろい。
そのまま首と足を落す。
残りはミルフィがいつのまにか倒していた。
どんな小さな魔法も戦い方次第。
俺はまた知見を得た。
「大丈夫かにゃ?」
「あ、ありがとうございます!」
ミルフィが声をかけると、少女は怯えていた。
「なんでこんなところに?」
「あ、あの薬草を獲りに。その近くの村に住んでて……」
そして俺は、左手で火をボッと灯らせた。
暗闇から一転、ふたたび明るくなる。
少女が手品を見たかのように驚いて、少し落ち着いた。
これもまた使い道だ。
「もう大丈夫だよ。さて、帰ろうか。ミルフィ、解体作業は今度――」
「――もうすぐ終わりにゃ」
「はやい」
◇
「ありがとうございます。本当に娘をありがとうございます」
「いえいえ、無事でよかったですよ」
近くの村まで少女を届けると、母親が必死に駆けてきて子供を抱きかかえた。
心配だっただろう。
いい事をした後は気持ちがいい。
あの洞窟の奥で落とし物を見つけた。
なかなか高そうな剣だった。売ればそれなりになるはずだ。
「気を付けるにゃあね」
「すいません。女手一人で育てていて、お金があまりなく、支払えるものがこれしか……」
そういって差し出してくれたのは、大量の銀貨だった。
かき集めてくれたんだろう。
冒険者の規約を知っているらしい。
申し訳ないのでいらないと伝えようと思ったが、驚いたことにミルフィはそれを受け取った。
「ありがとう。これから気を付けてね」
「はい、ありがとうございます」
小声で、ミルフィに声をかける。
「さすがに可哀想じゃないか?」
だが驚いた事に、ミルフィはとても真剣な顔つきで答えた。
「私たちは命を賭けて助けたんだよ。優しさだけじゃ生きていけない。これは、正当な報酬だから」
頭をガツンと殴られたような衝撃だった。
善人は生き残れない、それが冒険者の間でよく言われている言葉だ。
ミルフィはちゃんとこの世界の住人でしっかりと生きている。
元の世界の価値観で物事を語るのはやめるべきだ。
……だが。
俺は、旅行鞄から拾った剣を取り出し、手渡した。
「これは落ちてたもんだ。少女の隣に落ちてたんでな。売ればそこそこ金になるはずだ」
「ええ、でもこれは――」
少女が洞窟に入ったのは家族の為だったらしい。
高級薬草が見えて走って、だが魔物に追いかけられ奥に入ってしまった。
これは、彼女が見つけたのと同じだ。
村からは離れた後、ミルフィを不安げに見つめる。
怒られるだろうか、呆れられるだろうか。
「タビト」
「は、はい」
「そういう優しい所、好きだにゃ」
すると、満面の笑みでそういってくれた。
ああ、間違ってなかったらしい。
「さて、そろそろ帰ろっか。リルドの親父さんが、美味しい魚獲れたって言ってたよー」
「そういえばそうだったな。よし、手を繋いでくれ」
今日も又お互いの理解が深まったいい日になった。
ミルフィ
★★★★★
今日もいっぱい稼いだにゃ
タビトはやっぱり優しいにゃーね
タビト
★★★★☆
色々とミルフィに迷惑をかけてしまった
俺ももっと強く、そして思慮深い男になろう
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