016【ガイドマップ】があれば、迷宮ダンジョンも余裕だぜ!

「あいつがサイクロプス相手に無双したっていう、のタビトか」

「相当ヤバいらしいぜ。期待の新人ルーキーどころか、残虐クルーティーって言われてるけどな」

「しかも水晶は黒だったんだろ? どんな魔法を使うんだろ」


 ミルフィの言う通り、サイクロプスの亜種討伐事件から俺は目立ちまくりだった。

 広い王都の中であっても歩けばヒソヒソ、食事をしていたらヒソヒソ、冒険者ギルド内にいたってはガヤガヤ。


「タビ兄じゃないすか! 今日も任務っすか!?」

「お、おう。おはよう」

「調子どうっすか? ミル姉さんもこんちゃす!」

「こんちゃー!」


 また、以前、俺に絡んできた図体のデカい男、ガルダスが背中を丸めてペコペコ。

 命を助けてもらったことと、俺の動きを見て男として惚れたらしい。

 ちなみに土下座もしてきたし、謝罪金も払おうとするくらいには律儀だった。


「ガルダスが慕ってやがる……すげえな」

「ああみえてやべえのか」


 あまりにもきまずいのですぐ外に出た。「今度飲みに行きましょう!」と最後に言われた。

 可愛い女の子を呼んでくれたら行く。


「あ、あの!」

「はい?」


 そのとき、外で俺よりも一回りも小さそうな少年少女たちに声を掛けられた。

 冒険者パーティーだろうか。村から出てきて夢を抱いている青春の匂いがする。


 光の勇者、みたいな名前をつけてそうなキラキラ感だ。


 というか、なんだかモジモジしている。


「タビトさんですよね!? あの噂って本当ですか!?」

「あの話……とは?」

「サイクロプスをぶちゅぶちゅにすり潰して『粉々プス』って冗談を言いながら殺しまくったって!」

「マジかっけえよな!」


 うん、どうやらめちゃくちゃ尾ひれがついているらしい。


「一応倒したが、そこまでのことは――」

「すげえ、マジなんだ!」

「カッコよすぎだ!」

「ど、どんな魔法使うんですか!?」


 なんだこうこの青春をぶつけられている感じは。

 俺の魔法は「マップ」を見ることなんだぜ、とはとても言えない。


 ピンを刺してこうやってね、も恥ずかしい。

 とはいえ若者に夢を与えるのは年長者の仕事だ。

 ミルフィは隣でニコニコしている。


 カッコイイ所を見せておくか。


「……そうだな。詳しくは言えないが、深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている、ということだ」


 ちらりと視線を向ける。

 無表情だ。あれ、まずったかもしれない。


 と思っていたら――。


「すげえ、かっけえ!」

「ヤバー! 俺たち、タビトさんやミルフィさんみたいに頑張りたいっす!」

「また色々教えてください! よし、狩りいこうぜ!」


 どうやら興奮してくれたらしい。

 笑顔で去っていく少年少女たち。


 何だか悪い事をした気分だが、夢を与えただろう。


「凄いね。大人気だねえ」

「これは人気と言えるのか? それに尾ひれが凄いな。粉々プスって」

「うーんでも、結構そんな感じだったよ?」

「……マジ?」

「マジ」


 確かに……楽しかったんだよな。

 魔物の命が費える瞬間、止めを刺す瞬間、なんだかわからないがやたらと興奮する。

 

 死の将軍を殺したって話だが、腕試しで倒したんじゃなかろうか、なんて。


「というかあんな子供たちでも冒険者なんだな。改めて凄い世界だな」

「そうだね。でもあの子たちのタグ見たけど、全員B級だったよ」

「え? び、びぃ!?!?」


 既に超えられてんじゃねえか……。

 精一杯偉そうにしてしまったが、次からは気を付けよう。先輩たち。


 というか子供でも関係ないんだな。

 結局はセンスなのかもしれない。


「伸びる子は伸びるからね。等級なんてタビトもすぐあがるよ」

「そうだけどいいけどな。さて、道具アイテムの確認も済んだし行くか?」

「おっけー! 普通の狩場と違って危険が多いから気を引き締めようね」


 ミルフィが言うくらいだから相当なのだろう。


 さて、ひとまずは魔の崖まで飛ぶか


   ◇


「凄いなこれがダンジョン・・・・・か。こんなデカいのか?」

「これはかなり大きいよ。人気がないのもうなずけるかも」


 フリーピンで飛んだあと、トボトボと歩いてやってきたのは、王都近郊のダンジョンだ。


 等級が上がってダンジョン内の素材買取依頼も受けられるようになったので、狩場の移動を決めた。


 入り口前で持ち物の二度目の点検。

 ミルフィは毎日、武器防具の手入れも欠かさない。

 A級になるにはこういうところが大事なんだろう。


 身近で見られる貴重な経験でもある。


 何も問題ないことを確認し、入口にいる王都兵士に声をかけた。

 

「初めまして、こちら冒険者タグです」

「はいはい――あ! あなたがタビト様とミルフィ様ですか!?」

「あ、はい? そうです」

「お噂はかねがね聞いてますよ。大変素晴らしいご活躍をしたと」

「とんでもないです」


 どうやら兵士の間でも名前が広がっているらしい。

 ただ、本当の俺のことを知っている人がいるのかと期待したが、今のところは現れていない。


 死の将軍を倒したのに友達ゼロは悲しすぎるんだが、前の俺はボッチだったのか?


「こちら確認しました。探索師としての認定も兼ねているダンジョンですので、気を付けてくださいね。多くの人が戻ってきていませんので」


 兵士の言う通り、このダンジョンは冒険者から避けられている高難易度なのだ。

 だがその理由は、俺にとっておそらく問題がない。


 まずはいつも通り【クチコミ】を確認する。


迷路ラビリンスダンジョン】

 1.3★☆☆☆☆(2653)


 B級冒険者

 ★☆☆☆☆

 お宝が多く夢はあるが、道がややこしすぎる

 強制帰還を習得している魔法使いが必須


 探索好きの冒険者

 ★☆☆☆☆

 魔物よりも複雑で入り組んだ道が強敵

 腕に自信があるやつが多く死んでいく


 冒険者ギルド勤務

 ★☆☆☆☆

 仕事で確認しにきたが低層でギブアップ

 危険すぎる


 C級冒険者

 ★☆☆☆☆

 感知系の魔法があれば低層はそこそこいける

 それ以上は死と隣り合わせ


 A級冒険者

 ★★☆☆☆

 探索師がいないと踏破は不可能


 なるほど、兵士の言う通りだ。

 【探索師】とは、未踏ダンジョンや危険な魔の森を先導する職業のことらしい。


 パーティーに一人は絶対に欲しいと言われているが、探知系の魔法はレアで、需要と配給が間に合ってないとのこと。


 今回はその【探索師】として認定される試験も兼ねている。

 第三層まで行って戻ってくることが確認できれば、職業欄に記載できるのこと。


 今のところ俺の欄は旅行鞄の荷物ポーターだけだが、今後のことも考えると増やしておきたい。

 移動テレポーターは凄すぎるので、まだ様子見がいいとミルフィと話し合った。


 更にそこに戦士ウォーリアー魔法使いウィザードが加わる。


 ……字面だけ見ると凄いな。


 入口は綺麗な扉だった。

 開けてると、ひんやりと風が頬に触れる。


「――よし、マップはちゃんと広がってる。問題なく使えるみたいだ」

「じゃあタビト前はお願いね。後ろは私に任せて」


 マッピングが機能しない可能性も考えていたが一安心だ。


 通路は縦横3メートルほどで、壁はごつごつしている。

 地面は普通の道なので随分と歩きやすい。


 次の瞬間、【!】【!】【!】【!】】の文字が現れた。

 ガイドレンズのおかげで詳細の表示ができるようになったのでクリックする。

【魔核】【銅貨】【弱ポーション】【ハンカチ】。


 す、すげえ……落とし物パラダイスだ。

 てか、魔核!?


 そのとき、ガイドマップの右端が動いた。

 魔物だ。


「ミルフィ、右――」

「――了解」


 天井の端、通常より明らかにデカい蜘蛛が現れた。

 一秒後、彼女が跳躍して一撃で息の根を止めた。


 うーん、早い。


 次に進むと、道が5本に分かれていた。

 一つ一つ丁寧に確認する。行き止まりや罠が仕掛けられているのがわかった。


 どうやらダンジョン内のマップはより詳細に表示されるらしい。


 ……あれ? もしかして俺って――。


「左から魔物だ。ミルフィ」

「にゃあ!」


 そのまま一撃。

 そしてまた落とし物をゲット。


「ねえ、タビト」

「はい」

「……わかってたけど、凄すぎるよ。こんなの他の冒険者バレたら、とんでもないことになるね。きっと、今より凄いことになる」

「ああ……俺もそんな気がした」


 この能力、ダンジョンで無双すぎる。


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