014 初めてのネームド討伐
──【
B級魔物
鋭い牙で噛みつき、血と魔力を吸い取る。
個体差はあるものの、総じて鱗が固い。
弱点は腹。
「ミルフィ、腹だ! 腹を狙え!」
「わかった!」
【王都付近、魔の沼】
2.3★★☆☆☆(5478)
C級冒険者
★★☆☆☆
現れる魔物が硬すぎる
なんだこいつら
D級冒険者
★☆☆☆☆
足が沼地にはまって動けねぇ!
ひ、ひいい
B級冒険者
★★★☆☆
弱点は個体差であるみたいだが見極めが難しい
素材は非常に高値で売れるが、難易度が高いな
F級冒険者
★☆☆☆☆
た、助けてくれ沈んでいくううう
俺とミルフィは、狩場を順調に増やしていた。
フリーピンは現在3本、今いるこの【魔の沼】と【魔の崖】を刺している。
一本は何かあった時の為に残していた。
「さあ、いい子だ腹を見せな!」
獰猛な蜥蜴が襲いかかっているが、右足で蹴りつける。
そこに短剣をグサリと刺す。
この詳しい情報は、新しく手に入れた【ガイドレンズ】というスキルのおかげだ。
今まで最低限の情報だったものが、より詳しく表示されるようになった。
落とし物も【!】ではなく【1ギール】といったように。
ズブズブと刃が突き刺さり、蜥蜴が絶命する。
ミルフィも同じく倒したらしい。
安全な場所に移動して、解体作業に入る。
「この皮は……こうか?」
「そうそう、で、そこに筋があるからしっかりと切り取って血抜きするの。魔物は魔力が動力源だから、血抜きも動物と違って時間がかからないのは利点かな」
「なるほど……けど結構グロいな」
「慣れだよ、頑張って」
「ああ」
今まで任せきりだった作業も、彼女に教わっているところだ。
今までこんなことはしたことない。力と根気のいる作業だ。
◇
「さて、戻るにゃ」
「おう。今日は結構疲れたな……」
「敵も多かったからねえ。にしても、日に日にタビトの動きがよくなってるよ。死の将軍を倒したのは伊達じゃないねえ」
「俺であって俺じゃないけどな」
王都にエリアピンで戻ると、我が家に戻った気持ちになるくらい愛着がわき始めていた。
リルドのおっさんも相変わらずいい奴だし、門兵とも仲良くなった。
エリアピンが二本になった時点で移動の予定だが、ここから離れるときは涙でも流してしまいそうだ。
するとそのとき、街中が騒がしい事に気づく。
「募ってるらしいぜ。行くか?」
「サイクロプスか、面倒な魔物だが実入り次第だな」
「報酬はかなり高いらしい。急いでるんだとさ」
屈強な男たちが、冒険者ギルドへ走っていく。
何度か見たことある奴らだ。
金が好きで、よく酒場を飲み歩いている。
サイクロプス?
「ミルフィ、今のみたか?
「……もしかしたら
「緊急討伐?」
「たまにネームドって呼ばれる魔物の亜種が生まれるんだけど、その時は兵士だったり、冒険者を募って大勢で討伐するんだよね。普通の個体よりかなり強くて」
つまり今のはその話ってことか。
「とりあえず見に行こうか。情報収集もできるだろう。もしかしたら俺を知っている奴やミルフィの同胞がいる可能性もある」
「そうだね。報酬次第では受けてもいいだろうし」
そのまま移動。
ギルドの扉を開けると、見たことがないほど人で溢れていた。
荒くれものとまではいわないが、装備もよい奴らばかりだ。
人混みをかき分けながらカリンさんに声を掛けると、これから数十分後にネームド討伐で移動を開始すると教えてもらった。
近郊の川に陣取っているサイクロプスの亜種が道を塞いでいるらしい。
「参加するだけで金貨一枚だってさ。凄い大盤振る舞いだな」
「かなり急いでるみたいだね」
報酬が想像以上に高い。理由を訊ねると、今夜、他国から外交官が来るらしく、急いで処理をしないといけないそうだ。
赤字は覚悟の上で、ということらしい。冒険者たちの頬が緩んでいる理由がわかった。
ちなみに俺たちも参加可能だ。
「ミルフィ、どうする?」
「任せるよ。実入りがいいとはいえ、少なからず危険はあるし」
「そうか。なら、A級冒険者としての意見も聞かせてくれないか?」
「……そうだね。報酬は置いといて、周りを見る限りではB級が多いけどこの人数なら問題ないんじゃないかな」
「よし、ならやろう」
「いいの?」
俺たちは二人だがパーティーだ。
ミルフィはガイドマップのこともあって基本的な決定を俺に委ねてくれている。
懐は潤っているが、いつまでこれが続くのかもわからない。
冒険者のほとんどは報酬をもらったその日に飲み食いや夜でお金が消えるらしい。
できるだけ任務は受けておきたいし、経験も積んでおきたい。
「ああ、もう一仕事がんばろうぜ」
「わかった。それじゃあ、武器と装備の再確認しておこっか。それと、もしはぐれたときの集合場所と合図も」
戦闘前のミルフィは頼りになる。
いつもほわほわしているが、表情を切り替え何度も装備の点検を口酸っぱく言うのだ。
基本的な事ができていないと簡単に死ぬよ、それが彼女の口癖でもある。
だからこそA級なんだろうな。
「集合場所はわかるが、合図ってのは?」
「これだけ大人数がいると何が起こるかわからないからね。例えばもし暗くて姿が見えないとかね。同士討ちはしたくないにゃ」
夜にはまだまだ先だが、色々な経験もあるんだろう。
俺では到底考えられないこともこうやって伝えてくれている。
なくてはならない存在だ。
するとその時、人混みをかき分けて高身長姉さんが現れた。
もとい、ぬいぐるみS級――ブリジットさん。
「何だ、お前たちも来てたのか」
「ブリジットさんも行かれるんですか?」
「ああ、私が先導する」
S級がいるとは思わなかった。
なるほど、通りで緊張感の欠片もないわけだ。
おんぶに抱っこってことだな。
「あいつら、ブリジットと親し気に話してるぜ。誰だ?」
「最近かなり稼いでる二人だよ。A級とD級って話だが」
「何だそのちぐはぐコンビ、どう取り入ったんだ?」
聞こえてる、聞こえてますよ。
ちなみに今までも何度かこういう陰口はある。
間違ってはないが、俺も戦っているんだぞプンプン!
「私は兵士と共に前に出る。強い個体とのことだ。気を付けてくれよ」
「わかりました」
「ありがとうございます!」
王都兵士も着いてくるらしいが、外交官の護衛と準備で忙しいのか少数らしい。
不謹慎ではあるが、ブリジットさんの戦っている所も見てみたい。
きっと……【すげえ】んだろうな。
話が終わり、S級とA級、B級だけが指揮系統に組み込まれるらしく、それ以下は外に出された。
何だか寂しいが、後でミルフィに聞けばいいだけだろう。
ここからすぐに移動だ。
まだ行ったことのないエリアなので一石二鳥でもある。
当然徒歩だろうが、俺的にはありがたい。
一度だけ馬車に乗ったのだが、歩数が溜まらなかった。
ズルはできないってことだ。
「よォ荷物持ち。いい気になってんじゃねえぞカス」
サイクロプスか、デカいんだろうな。
やっぱり一つ目だろうか。
「おい聞いてんのかヒモ男」
っと、戦闘に頭を切り替えておかないと。
ん? なんだこいつ?
「おいコラ無視すんじゃねえよD級の雑魚が、俺様はC級のガルダス様だぞ」
「………」
気づけば隣に大男がいた。
背中にデカい斧を背負っていて、横には金魚の糞みたいなひょろっちい目つきの悪いのが二人。
どうにもわかりやすい絡み方だが、今まではなかった。
なるほど、ミルフィがいないからか。
思えば俺たちはずっと一緒だ。
A級が傍にいると声をかけられないレベルってことでもある。
今までの俺なら無視したり、適当にあしらっていただろう。
だが短い期間でも学んだことがある。
冒険者は舐められたら終わりだ。
寝込みを襲われることもあるらしい。
「黙ってろ。任務の前に死にたくなけりゃな」
毅然とした態度で接するべきだ。
ガルダスとかいうバカは少しだけ驚いていた。言い返されるとは思ってなかったんだろう。
しかしすぐに表情を戻す。
「てめェ、討伐の前にぶち殺してやろうか? A級つれてるからって俺に勝てると思ってんのか?」
そういえば人と戦ったことはない。
なのに頭は冷静だ。
――やってやろうか?
しかしその時、会議が終わってミルフィたちが外に出てくる。
それに気づき、ガルダスが舌打ちをした。
「ケッ、雑魚が。せいぜい俺の邪魔するなよ」
「ああ、お前もな」
っどうしてこうも嫌な奴ってのは存在するんだろうな。
他人を蹴落とすことで自己肯定感を上げたいんだろうが。
「タビト、どうしたの? 何かあった?」
「いや、何でもないぜ。それで、なんて?」
「かなり急いでるらしい。普通はもっと作戦をか決めるんだけど、現地で決めるんだってさ。もしかしたら、階級ごとに分かれるかも」
「そうか。俺のことは気にしなくて大丈夫だ」
「わかった。それじゃあいこっか」
こうして俺たちは、初めてのネームド討伐に参加することになった。
ミルフィ
★★★★☆
緊急討伐、何事もなかったらいいけど……
タビトのことは絶対守らなきゃ
タビト
★★★★☆
油断せず、ミルフィと離れても自分のやるべきことをやる
嫌な奴は無視だ
ガルダス
★★★☆☆
ケッ、金魚の糞が粋がりやがってよお
俺様が全部倒してやるぜ
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