013 特別任務も【クチコミ】と【フリーピン】で完璧だぜ!

 まえがき。

 結構長いです。二つに分けようと思ったのですが、一つの話なのでまとめました。

 良かったら最後までみてくださると嬉しいです。


 ――――――――――――――――――――――


 冒険者任務は、大きく分けて三つある。


 一つ目は、受注依頼。

 掲示板、つまり木板に張られている依頼書を受ける。

 一番オーソドックスで、薬草拾いから魔物討伐まで幅広い。


 二つ目は、個人依頼。

 是非お願いしますと直接個人から依頼を受ける。

 受ける受けないは自由だが、理由があって依頼している人も多く、取り分も多いので、よっぽどでなければ断ることはないらしい。

 もちろんギルドは通している。


 三つ目は、冒険者ギルドからの直接依頼。

 申請書に記入した職業、適正や任務の成功率、貢献度、人徳を鑑みて依頼される。

 たとえば召喚士テイマーなら、魔物に関することが多いだろう。

 俺はレベルが上がった際に、荷物ポーターの項目を増やしておいた。

 移動魔法は凄すぎる・・・・らしいので秘匿にしている。

 ミルフィはA級で戦闘能力が高いのと、亜人という種族も依頼者によっては安心に繋がるらしい。


 で、今回は何と三つ目。

 いつものように依頼書を見に行こうとしたら、まさかの直接依頼を頼まれた。


 そして――。


「エルティア王女、よくぞこられた」

「とんでもございません。こちらこそ、お力添えいただいたものですから」


 王座の間、煌びやかな装飾、とんでもない数の要人が左右に並んでいる。

 ステンドグラスの前、豪華絢爛な椅子には、国王陛下が座していた。


 そして今、会釈した姫が依頼主である。

 薄く長いピンク髪に、お人形さんのようなぱっちりお目目、気品のある純白ドレスを着ている。


 俺の横では、ビシっといつもとは違う襟付きの服に着替えたミルフィが、毅然とした態度で立っていた。


 ……何この人カッコイイ。


 こんな一面もあるの!?

 凄くない!? 朝起きたときは「お腹すいたにゃあ」とか言ってたよね!?

 今はむしろ話しかけたら「……私に何か?」みたいな返答しそうな顔してるけど!?


「慣れないだろうに悪いな」


 俺の変な挙動に気づいたのか、隣の美女が話しかけてきてくれた。

 もとい、S級冒険者のブリジットさん。


 茶色の髪に、すべて見透かすようなグリーンの瞳が特徴的だ。

 高身長でカッコイイ姉貴って感じ。


 この人が、ギルドを通して俺たちを必要としてくれたらしい。

 内容としては【エルティア王女】の【観光のお手伝いと荷物持ち】だ。


 よってここで立つ必要はなかったのだが、やるなら最初から最後まで手伝いしたいと頼み込んだ。

 とはいえ、まさかここまで厳重とは思わなかったが。


「大丈夫です。頑張ります」

「そうか。もうすぐ終わる。無理するなよ」


 ミルフィ曰く、S級は規格外。

 魔力量、戦闘力、能力スキル、すべてにおいてA級とは天と地のほどの差があると。


 ……確かに【すげえ】な。たゆんたゆんたゆんたゆんたゆん。


 その時、俺の視界の右上がチカチカした。

 ……クソ、こんな時に!? たまにしか出てこないのに!?


 今まさに姫が、何か凄そうな書類を陛下からもらっているところだ。

 なのに、クソッ、煩悩よ静まり給え! 静まり給え!


 ……ポチッ。


 ブリジット・パーカー。

 S級冒険者。

 好きなもの:クマのぬいぐるみ 裁縫 料理。

 持ち物:S級剣 S級短剣 S級防具

 装備品:白い襟付きのシャツ、白いロングパンツ、カワイイフリルの白下着。


 好きな物が【ぬいぐるみ】だと!?

 嘘だろ……な、なんて男心をくすぐるんだ。


 裁縫に料理――白下着。


「……俺を殺すセットすぎる」

「ん? 今何か言ったか?」


 ゲームセット、試合終了。

 ブリジットさん、あんた神だよ。

 これは規格外です。


「問題ありません。任せてください」


   ◇


「ふにゃああ、気を張ってたら疲れたにぁああああ」


 全てが終わって城の裏口、少し離れた場所で待機していた。

 服も着替え終わり、いつもの冒険者の服装ではなく、平民っぽい感じだ。


 ミルフィは豪快にあくびをしていた。


「しかし驚いた。あんなにキリッとしてるミルフィを見るのは初めてだった。かっこよかったぜ」

「そうかな? でも、タビトもカッコよかったよ。途中でなんか驚いてたみたいだけど、気のせい?」

「それは気のせいだ」


 すまないミルフィ。

 煩悩を消す努力はしているので許してほしい。

 するとそこに、ブリジットさんとエルティア姫が現れた。


 本当に、という表現が正しいのかどうかわからないが、マジで今から秘密の護衛&観光をするのだ。


 わざわざお忍びで街を見たいだなんて、色々と周りも苦労しているのかもしれない。


 ブリジットさんは、意外にもワンピースのような服に着替えていた。

 庶民的ではあるが、美人が隠し切れていないたゆん。


 王女は、カワイイ幼馴染みたいな素朴感のある服を着ていた。

 と言ってもやはり同じく綺麗だが。


「待たせたな。エルティア姫、時間は夕刻過ぎまでとなります。そして、ここから名前はなんてお呼びしましょうか」


 そういえば【王女】だとか【姫】だとかいうわけにもいかないもんな。


「はい。まずは今日よろしくお願いします。基本的に名前はお呼びしてもらわなくて結構です。しかし、必要ならエルを飛ばして、【ティア】とお呼びください。敬語は結構です」


 するとティアは、ペコリを頭を下げた。

 殿下の時と違って無表情だ。

 これが素なのだろうか。まあ、愛想笑顔をする必要もないか。


「よろしくお願いします。僕はタビト、仲間のミルフィです」

「よろしく! ティア!」


 そのときミルフィが、とんでもなくラフな挨拶をした。

 俺は慌てて訂正しようとするが、先ほどの言葉を思い出す。


「はい、それでお願いします。おそらく私が一番年下なので、普通に話してもらえるとありがたいです。そのほうが、周りからも怪しまれないで済むので」


 何ともドライな返事が返ってくるが、ミルフィは気にしていないみたいだった。

 とはいえ、依頼者の望みを叶えるのが冒険者の仕事だ。


 ……よし。


「よろしくな【ティア】、今日は俺に任せてくれ」

「タビトは観光の達人だよ! 安心してね!」


 それから俺たちは、ティアのご希望通りまずは【観光】から始めた。

 事前に調べていたので、まずは有名な大神殿から。


【王都大神殿エーテル・サンクチュアリ】

 4.8★★★★★(5321) 


 C級冒険者

 ★★★★★

 年に一度の”祝福の儀式”では大勢が集まる

 通常時も人が多く、とても綺麗


 A級冒険者

 ★★★★★

 女神の石像の横には、かの有名なアドバルスの言葉が記載されている。

 見逃すなかれ


 王都民

 ★★★★★

 西のステンドグラスの絵は、アーサー・ドルスティが描いている

 見逃しがちだが、ファンにはたまらない。


「…………」


 間違いなく楽しんでもらえると思っていたが、どうやらあまり興味がないようだ。

 自分から観光したいといったんじゃないのか?

 ミルフィも積極的に声をかけているが、返事がどうも要領を得ない。


 ……しかしこれは俺たち冒険者の信用にも関わる。

 楽しんでもらわなければせっかくの依頼が台無しだ。


 俺は、ゆっくりと声をかける。


「ティア」

「……なんでしょうか?」


 俺は、クチコミに書いてあることを伝えた。できるだけ面白いであろうものを選出し、面白おかしく。

 ティアは時折頷きはじめた。

 興味があるのかないのかはわからない。


「それで、これが【アドバルス】の言葉らしいんだ。その横のステンドグラスは【アーサー・ドルスティ】が――」

「……何でも知っているんですね」

「タビトは本当に凄いにゃ! ティアも何でも聞いてみて!」


 それは言い過ぎだと思ったが、その勢いが良かったのだろう。

 ティアが初めて笑う。


「ふふふ、だったらこれは何ですか?」


 急いでクチコミを検索、書いてある事を伝える。

 段々と興味津々となり、ティアが笑顔になっていく。


 ああ、なるほど。


 こっちが本当の彼女なのだ。


 ただ……【アドバルス】と【アーサー】って誰だ?


「ティア、これも凄いにぁ!」

「わ、ほんとだ」


 やがてミルフィとティアは、まるで姉妹のように声を掛け合うようになった。

 心を許してくれたのか、初めて会った時とは違う表情を浮かべている。


 そのとき、ブリジットさんが声をかけてきた。


「ありがとう。私は観光に疎くてな、おかげで助かるよ」

「あ、いえ。こちらこそ」

「……それに君の能力は凄いな。何でもわかるのか?」

「そういうわけじゃないですよ。ただ、人のその、何というか、強く感じたことがわかるっていうか」

「……なるほど、また時間がゆっくりある時に話してみたいものだ」

「こちらこそです」


 ブリジットさんは事前に伝えてもらっていたが、基本的に完全護衛に徹するという。

 俺たちは案内役、徒歩のバスガイドみたいなもんだ。


 にしても、たまにジッと不思議そうに見ている気がする。

 そんなめずらしい顔してるか? 俺。


「タビト、ティアが美味しい【スイーツ】が食べたいって!」


 観光だけと聞いていたが、まさかの注文に驚いた。

 ティアが、恥ずかしそうもじもじしている。


 ……かわいいな?


「何が要望はあるか? 果実がいいとか、クリームとか」

「ええと、その、チョコレートが……その、好きで……」


 もじもじティア、ティアもじもじ。


「わかった。じゃあ、最高のチョコレートの店を探すぜ!」


 ぱあっと笑顔になる。

 ハッ、これが姫なのか。


 普通の女の子じゃないか。


 それから良いクチコミを見つけお店に入る。


 おすすめを頼んだ後、ティアはほっぺにチョコレートをつけながら美味しいと笑った。

 

 そして――。


「タビト、本当にありがとう。すごく……楽しいです」

「気にするな。俺もいい店を知れて楽しいぜ」

「にゃあ!」


 ようやく、今日一番の笑顔を見せてくれた。


  ◇


「ねえ、タビト、ミルフィ! 次は街並みが見たいんだけ――」

「ティア、そろそろお時間です」


 街の往来、とびきりの笑顔で振り返った彼女に、ブリジットさんが言い放った。

 夕刻の時、約束の時間だ。


 凄く楽しかったらしく、最後は砕けた言葉で話してくれていた。

 いい店を見つけすぎたので、お土産もいっぱい購入した。

 念の為、旅行鞄を空にしておいてよかった。


 【旅行鞄】1850/2000


 任務とはいえ本当に楽しかった。

 知らない場所へ行くこともできた。


 ただ、ティアは悲し気だった。


「……最後に王都の街並みを見たいんですが、難しいでしょうか?」

「申し訳ありません。冒険者ギルドとの信用問題になりますので」


 ミルフィもこればかりはどうしようもないと言った様子で余計な口出しはしなかった。

 そのとき、まさかの俺のレベルが上がった。


 いっぱい歩いたからだろう。


「……ですよね。すみません、楽しすぎてついわがままを言ってしまいました。本当にこんな無茶を聞いて頂き、ありがとうございました。凄く楽しかったです」

「こちらこそ楽しかったよ! ティア、また遊ぼうね!」

「え、遊ぼうって――」


 そのとき、ミルフィが慌てる。

 すっかり姫ということを忘れてしまっていたんだろう。

 あわてて訂正するも、ティアはむしろ嬉しそうだった。


「ありがとう。良かったら、また遊んでください」

「にへへ、ありがとにゃ!」

「俺も楽しかったよティア」


 だがそのとき、ほんの少しだけだが、ティアの表情に陰りが見えた。


 その瞬間、俺は気づいてしまった。


 彼女の表情の意味が。


 ……ああ、そういうことか。


 なるほどな。


 帰り道、ブリジットさんから隠れて、ティアに声をかける。


「ティア、今日は王城で泊まるんだよな? 帰りは明日か?」

「え? あ、はいそうですけど、どうしましたか?」

「……夜中、迎えに行っていいか」

「ど、どういう――」

「街並み、みたいんだろ?」


 小さな声で問いかけると、ティアは少しだけ顔を明るくさせ、静かに頷いた。

 それからすぐ王城の裏口に、待っていた執事さんにティアを引き渡し、任務完了だ。


「ありがとうございました。また・・

「ああ、またなティア」


 護衛終わり、ブリジットさんが声をかけてきてくれた。


「ありがとう。任務はこれで終了だ。突然だったのにすまないな」

「いえこちらこそありがとうございました。なんか、俺たちだけ楽しんでしまった感じで」

「ありがとうございました!」


 だがはやはり、ブリジットさんはどこか不思議そうな顔をしていた。


「……タビト、記憶喪失だと聞いたが、それは本当か?」

「え? あ、はいそうですが」

「……そうか」

「どうしました?」

「何でもない。報酬については後日になるだろう。私も今日は疲れたので休む。またゆっくり話をしよう。楽しかったよ。ミルフィとやらもありがとう」

「こちらこそありがとうございました」

「ありがとうございましたにゃ!」


 一度も振り替える事無く去っていくブリジットさん。

 

 カッコイイ。

 できる女って感じだ。


 ただ俺は申し訳ないが気づいていた。


 お土産屋さんで、クマのぬいぐるみをジッと見ていたことを。

 俺たちが気づかない間に、手に取って「かわいい……」と呟いたことも。


 そしてその店に真っ直ぐ向かっていっているのを。


 ……可愛すぎるだろ。


「タビト、ティアに迎えに行くって何?」

「え? き、聞こえてたのか?」

「耳はいいからね。どういうこと?」

「ええとな……」


 そして俺は、ミルフィに全てを話した。


   ◇


 深夜、王城の外。

 目立たない服に扮装して待機していた。

 

 そのとき、壁を伝ってくる人影、もとい耳が見える。


 ぴょんぴょん、だがその速度は恐ろしいほど静かで速い。


 背中に、王女・・を連れていた。


「到着ー。ティア、大丈夫?」

「は、はい! それにしても驚きました……まさか本当に来てくれるとは思わなくて」

「悪いな。つうか、これってバレたらどうなるんだ?」

「多分、首を切られるんじゃないかにゃー」

「え、マジ?」

「あ、ええと……私が言うのもあれですが、可能性はあります……」


 どうやらとんでもないことをしているらしい。

 

 俺は――考えるのをやめた。


「ティア、じゃあ手を繋いでくれるか」

「え? は、はい!」

「ん、ミルフィどうしたんだ? 行こうぜ」

「私はこのまま王都の入口へ向かうよ。戻って来たとき、バレるかもしれないでしょ?」

「そうだった……悪いなミルフィ」

「私はいつでも見れる・・・から。楽しんできて。いってらっしゃい、ティア」

「ありがとうミルフィさん、任務が終わっても変わらないでいてくれて」

「当たり前だにゃ!」


 ティアとミルフィが、嬉しそうに笑う。


「よし、じゃあ行くぜ。――ティア、俺を信じて目を瞑っててくれ、面白いものをみせてやる」

「わ、わかりました。はいっ」


 さあ、行くぜ――。


【10秒後に移動します。戦闘状態になった場合は、強制的に解除されます】


 ――――

 ――

 ―


「目開けみな、ティア」

「ん……え、凄い。凄い凄い凄い!!!! ――すごく、綺麗」


【王都付近、秘密の夜景】

 5.0★★★★★(45)


 王都一のロマンチスト

 ★★★★★

 結婚を申し込む為、必死に探した場所

 答えは言う必要がない

 俺の隣には、愛する妻がいるからな。


 偶然見つけた冒険者

 ★★★★★

 綺麗な場所だー

 すごーい、ほんとにすごーい


 A級冒険者

 ★★★★★

 1人になりたいとき、俺はここへくる

 景色が綺麗で、王都の街並みが一望できる




 ここは、本当に偶然見つけた場所だ。

 クチコミがなければ気づかなかっただろう。


 護衛任務が終わった後、レベルが上がって手に入れた【フリーピン】。

 それを刺したのだ。


 差し替えにはまた時間がかかかるが、ティアに喜んでもらいたかった・


「これを私に見せてくれる為に……本当にありがとうございます」


 ティアは本当に嬉しそうだった。

 不思議なことがある。

 彼女はどうしてお忍びで観光なんてしたいんだろうと。


 気づけば俺は、自然と尋ねていた。


「元々はお母様と二人で普通に観光しようって話してたんですよ」

「そうなのか? でもお母さんは一緒じゃなかったよな?」

「……亡くなったんです。病気で」

「そうだったのか……悪いな」

「いえ大丈夫です。それでも私は、お母さんと行く予定だった観光をしたかったんです。ですが、お父様はどうしても許してくれませんでした。それで、今回だけ無理を言ってお忍びでお願いしたんです。ただ、やはり複雑でした。お母様がいないのに、一人で楽しんでるみたいで……」


 通りで最初は物静かだったのか。

 感情を表に出してはいけないと思っていたのだろう。


「でも、本当に楽しかったです。ミルフィさん、タビトさん、ずっと護衛をしてくれていたブリジットさんに感謝しています。おかげで、自国に戻ってからもいい思い出になりそうです!」


 ティアは笑顔だった。

 満面の笑みだ。


 そして――悲しげだった。


「ティア、無理するなよ」

「……え?」

「俺の前では取り繕わなくていい。もっと我儘を言っていいし、砕けて話してもいい。普通でいいんだ」

「……どういうことですか?」

「俺は君を姫としてみていない。ティアとして接している。だから、普通でいいんだ」

「……普通」


 初めて見たときの彼女は、俺からすれば遠い存在に見えた。

 まあ実際にそうだが。


 だが街で色んなものをみて喜んでいる彼女は違う。

 まるで、普通の子だった。


 その時ようやく気付いたんだ。


 王女ってのは、とんでもなくブラック・・・・な仕事だってことに。


 外交はもちろん、どれだけ悲しいことがあっても笑顔しか許されない。

 どこへ行くのも護衛が付き、少しでも危険な情報が入ると部屋に籠るしかなくなる。


 自由はなく、ただ政治の為に動いている。


 その顔が、以前の俺と重なったのだ。

 責任感から自分を出すことができない。俺以上に辛いはずだ。

 好きな事すら1人で出来ないのだから。


 やがて黙っていたティアだったが、ぐすぐすと泣きはじめる。


 え、ええ!?


「ど、どうしたんだティア!? ごめん!?」

「ち、違います。……嬉しいんです。こんなによくしてくれて、ここまで私のことを考えてくれていたなんて……」

「……俺にティアの本当に気持ちはわからない。けど、人は本来自由だ。ティアの立場ではなかなか難しいと思うが、本当に嫌になったら言ってくれ。一緒に冒険にいこう。案外、髪型を変えただけでもバレないんだぜ」

「……本当?」

「ごめん、多分だ。でも、きっと大丈夫。ちゃんと、ミルフィにも許可は取ってる」


 するとティアは、笑いながら涙をぬぐった。


「えへへ、ありがとうございます。……初めは今の立場でも楽しかったんです。護衛の人とも家族みたいで。でも、段々と私が大人になっていくにつれて、よそよそしくなって……日常会話っていうのかな、そういうのができなくなりました。戦争が始まってからは最悪です。外にも自由に出れなくなって、私のやることは挨拶と媚び売り、ほんと嫌」


 ティアが初めて見せる言葉使いと表情だった。

 人は一面だけじゃわからない。

 俺が異世界人であるように、みんな秘密の過去や想いを抱えているのだ。


「でも、私を慕ってくれている人たちの笑顔は好き。喜んでくれるのが好き。だから、仕事というか、今の生活は楽しいです。でも、たまには……私も……」

「息抜きがしたい?」

「そう! 今日は本当に楽しかったです。友達・・と一緒に遊んでるみたいに。なんて……依頼をしただけなのにね」

「何言ってんだ?」

「え?」

「俺たちはもう、友達・・だろ。ミルフィも言ってたぜ。ティアとまた遊びたい、私も一緒に夜景みたかったって」

「……えへへ、友達。私に、友達……嬉しいな」

「ハッ、俺たちで良ければだけどな」

「こちらこそです! 本当にありがとうございました!」

「ました、はいらないだろ」

「えへへ、ありがとう」


 それから二人で少し話しをした。

 俺は、彼女に異世界人であることを伝えた。


 記憶喪失ではなく、彼女には真実を話したかったのだ。

 心のうちを開けてくれたからこそ、伝えようと。


 そしてミルフィが仲間を探していることも。


「私も自国に戻ったら調べてみます。それに……死の将軍を倒した話は聞いたことありますよ。誰も勝てなかったって、凄いね……」

「みたいだな。でも……疑わないのか?」

「当たり前ですよ。友達・・の言う事ですから!」

「ははっ、だな」


 夜景を少し眺めた後、俺たちは再び移動ワープした。

 王都の入口ではミルフィが待っていてくれた。

 急いで王城まで戻り、ティアの背中に乗って飛んでいく。


 ヒヤヒヤしたが、何も問題なかったらしく、ミルフィも無事、外まで戻ってきてくれた。

 流石に神経を使ったのか、ミルフィも疲れている。


「ミルフィ、ありがとな」

「大丈夫! ティア、嬉しそうだった。タビトに何度もお礼言ってたよ」

「ああ、ミルフィにも言ってたぜ。本当に楽しかったって」

「えへへ。あ、そういえばで待ってるって! いっぱいご馳走するっていってくれたよ!」

「ああ。それに俺たちのことも調べてくれるらしい。次の国は決まったな」

「楽しみだにゃ! ふぁああ、でも今日はぐっすり寝るにゃあ」

「確かにな。昼過ぎまで寝過ごそうぜ」

「賛成!」


 その時、マップがチカチカしていたので目を凝らすと、驚くべき名前を見つけた。

 地図には、一度会ったり話したことがある人がな名前付きで表示されるのだ。


 チラリと視線を向けたが、姿は現さない。


 もしかして……隠れて護衛を――。


 ……ありがとうございます。ブリジット・・・・さん。


「ん? タビト、なんで頭下げてるの?」

「ちょっとな」


  ◇


 遠く離れた角、姿を隠していたブリジットが首をかしげる。


「……気づかれていたのか? 気配は完全に消していたはずだが……」


 しかし夜中に姫を連れ出すとは、なかなか勇気のある二人だな。あの様子だと夜景でも見に行ったのか。 ……少しうらやましいな。

 突然の転移魔法には驚いたが……問題はないか。


 しかし本当に私が知っている彼なのだろうか。

 性格が随分と変わっている。


 記憶を失ったと聞いた時は驚いたが、声も顔も、全部同じだ。


「……記憶喪失、か。少し調べてみるか」



 さて、新しく買ったクマちゃんを抱きながら寝るとしよう。



 

 ミルフィ

 ★★★★★

 今日は友達ができて幸せいっぱいにゃ

 私も夜景見たかったなー


 タビト

 ★★★★★

 色々と勉強になる任務だった。

 責任感もそうだが、人の気持ちが一番大事だ

 これからも頑張るぜ


 エルティア

 ★★★★★

 本当に幸せな一日だった

 もっと遊びたかったな

 タビトとまた会いたい



 ブリジット

 ★★★★★

 任務も無事に終わってよかった

 それにしてもタビトは私を覚えていないらしい。

 ……気になるな。


 しかしこのクマさん、可愛いな……むぎゅっ。

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