003【クチコミ】があれば【食事選び】もハズレなし!
生前、旅行が好きだった俺は、初めての国、街、村、観光名所にいつも心躍らせていた。
ただそんな俺でも、今この目の前に広がる風景は、今までで一番の衝撃だ。
「ブルドリフルーツやすいよー!」
「兄さん、その武器の手入れしようかー?」
「ほらほら、うちのドラ串食べてって!」
大勢が行き交い、商人が元気よく叫んでいる。
西洋風な街並みで馴染みやすいのも落ち着くが、それよりも異世界に来ていることが何よりも興奮していた。
――ああ、すげえな。
「ふふふ、凄く子供みたいな顔してるよ」
「え? ああすまん。ちょっと興奮してたぜ。マジで異世界なんだなあって」
ミルフィが、俺の顔をのぞき込む。やはり可愛い。
「ど、どうしたんだ?」
「ねえ、タビト好き嫌いはある?」
「え? あ、飯のことか。いや、何でも好きだよ。でも本当にいいのか? 俺、さっきも言ったように金は持ってないんだが……」
オストリアという王都に辿り着いた俺たちは、何よりもまず空腹を満たそうとなった。
で、なんとミルフィがおごってくれるらしい。
転生直後にヒモになるとは思わなかった。
「大丈夫! 命を助けてくれたからお礼ぐらいさせて!」
「っても、落とし穴から助けただけだろ」
「ううん、本当に死ぬところだったよ。ありがとね」
「そうか……ならありがたく」
「それに後で魔狼の素材を売りにいくから、わけわけもできるし!」
「ああ、なるほどな。だから解体してたのか。さすが慣れてるな」
「褒めても何も出ないにゃあ////」
感情が高ぶると猫化するらしい。
……可愛すぎるだろ。
だが目を離すとすぐに俺から離れていく。
極度の方向音痴は伊達じゃないな。
この王都に来たのはミルフィも初めてらしく、街についてはよくわからないという。
「じゃあ【クチコミ】お願いしていい? 美味しいの食べたいっ」
「おう、任せとけ」
旅での食事は大切だ。胃袋が満たされるだけでなく、美味しい物を食べたときの幸福感は何よりも得難い。
もちろん健康面も大きく変わる。
知らない土地の場合は適当に入るか、客引きで判断するしかない。
だがその際、運頼みになる。
しかし――俺だけは違う。
まずは、目の前にある店に視線を向けた。
店内は結構混雑しているみたいだ。
【トルニアキッチン】
2.9★★★☆☆(7845)
E級冒険者
★★★☆☆
おすすめはミルクパン、モチモチの食感と甘さが口に広がる。だがちと量が少ない
C級冒険者
★★★☆☆
ミルクパンはうまい。アットホームでくつろげる雰囲気。ただし、店内の混雑によりゆっくり食事を楽しむのは難しい。
王都民
★☆☆☆☆
観光客向けの店で、地元民にはあまり愛されていない。
E級冒険者
★★☆☆☆
ミルクパンは確かに美味しいが、他の料理にはあまり期待できない。味のバリエーションが少なく、物足りなさを感じる。
「ここ入る?」
「んー、悪くないんだが、もう少し見ていいか?」
「美味しい物食べたいから、ゆっくりで大丈夫だよ!」
どうやら気持ちは同じらしい。
観光がてら国を散策していく。
マッピングが広がっていくのが存外楽しい。
クチコミやアイコンが増えていくたびにニヤニヤしてしまう。
これなら一日中歩けそうだ。
そのとき、凄く綺麗なレストランを見つけた。
ミルフィも同時に声を上げる。
「めちゃくちゃ綺麗だねえ」
「確かに、よさそうだな」
【トルニアのレストラン】
1.1★☆☆☆☆(7989)
E級冒険者
★☆☆☆☆
パンが固すぎる
C級冒険者
★☆☆☆☆
泥みたいなスープ
高すぎる
王都民
★☆☆☆☆
地元の住人たちからは敬遠されている。
「ダメだ。次へ行こう」
「そうなの? じゃあ仕方ないね……」
もしクチコミがなければ入っていただろう。やはりこの能力、凄い。
あやうく――ん?
C級冒険者
★★★★★
飯なんかどうでもいい。
店員のたゆんが大きい
D級冒険者
★★★★☆
たゆんを見るために金を払いに行ってる
F級冒険者
★★★★★
たゆんが最高、飯は食べなくてもいい。
「……やっぱりここにするか」
「え、でもさっきダメって――」
「いや高評価もちらほらあるみたいだ」
俺は静かに呼吸を整え、店に入ろうとする。
そのとき、遠くで女性定員を見つけた。
――たゆんが、大きい。
はははは! 最高だ、この能力!
最高じゃないか!!!!
「――今日は上がりますね。お疲れ様でしたー」
だがその瞬間、俺の横をたゆんが通り過ぎていく。
次に現れたのは、ガタイのいい男だ。
「どうぞ、お二人さんいらっしゃいー」
「すみません、店内に給仕さんは何人いますか?」
「え? オレだけですけど」
「また今度きます」
「え?」
そして俺は、すぐにその場を去った。
「ど、どうしたのタビト!?」
「俺は最善の選択をした」
「よくわからないにゃあ……」
ミルフィのお腹がぐぅと鳴る。
すまない、人類はたゆんに勝てないんだ。
しかしあまり待たせるのはミルフィのお肌にも良くない。
ちなみに悲しいときにも、にゃあが出るらしい。
小さな食堂を見つけ、クチコミを開く。
【アンネの小さな食堂】
5.0★★★★★(245)
冒険者ギルドの料理評論家
★★★★★
まさに隠れた名店。小さな店舗ながら、驚くべき料理が楽しめ、リーズナブルな価格にも驚かされる。
A級冒険者
★★★★★
誰にも教えたくない食堂
値段も手ごろでメニューも豊富
B級冒険者
★★★★★
スープも肉もパンもとにかくうまい
毎朝ここで食べる為に生きている
S級冒険者
★★★★★
私が今まで訪れた国の中でも最高の食事
最高の接客、最高の時間
王都民
★★★★★
平日は地元客でいっぱい
週末の夜は家族みんなでディナー
「――ここしかねえ、行くぜミルフィ」
「やったあ! 腹ペコペコにゃあ!」
中に入ると、確かに狭かった。
だがそこにいる人たちは、みな高そうな装備を身に着けている。
つまりお金を稼いでいるということだ。
ということは、この世界を生き延びているということ。
なるほど、これは当たりの予感しかない。
俺たちは、おすすめメニューを頼んだ。
日替わりで値段も手ごろ、パンやスープ、肉がついている。
「どうぞ、冷めないうちにお召し上がりください。飲み物とパンのお代わりは自由なので、気軽におっしゃってくださいね」
簡単な説明だったが、出された食事は元の世界と見劣りしないくらい豪華なものだった。
パンはふっくらしていて、手に取るとほどよい温かさでモチモチ。
ちぎるというよりは、ふわっと外れていく。
スープも野菜がゴロゴロ、肉はびっくりするほど大きく、だけど柔らかい。
更に給仕のお姉さんは、すごく笑顔だった。
気づけばお代わりしまくり、だがお姉さんは嫌な顔一つせず、むしろ笑顔で対応してくれた。
「ありがとうございました。お二人さん、初めましてですよね。私の名前はシルクです。良ければ、またいらしてくださいね」
「もちろんです。シルクさん、ありがとうございました」
「最高だった! また来るにゃあ!」
店を出た後、俺たちは満腹のお腹をすりすり。
最高だ。
最高すぎるぜ、異世界ガイドマップ。
「タビトのクチコミがあればハズレなしなんじゃない? これからもずっと一緒に旅したいくらいにゃ!」
何気なく言ったミルフィの一言。
だが俺にとっては嬉しかった。
「俺もだよ。ミルフィとなら楽しそうだ」
すると、彼女が何かもじもじしていた。
どこか恥ずかしそうに。
「どうした?」
「え、ど、どうかなと思って……」
「ん? あ、マジで言ってくれてたのか?」
「もちろんだよ?」
THE・日本人気質だったので冗談だと思っていた。
ありがたい、ありがたいが、俺でいいのだろうか。
「俺もミルフィと一緒なら楽しいと思う。1人だと色々不安だしな。でも、俺はこの世界の事を何も知らない。迷惑とかかけるかもしれないぞ」
「それはお互い様だよ。今のクチコミがなければ、私も何もわからなかったし」
「そういえば、ミルフィは旅の目的とかあるのか?」
俺は何もない。今の所は。
もし彼女に何かあるのなら、先に聞いておきたい。
彼女は、少しだけ悲し気な表情を浮かべた。
「私は、同じ猫人族を探してるんだよね。今まで一度も会ったことなくて」
「そうなのか? でも、あの人は?」
俺は、同じ猫耳の人に視線を向ける。だが、あの人は違うという。
……いや、待てよ。
「だったら、俺のクチコミはかなり使えると思うぜ。もし猫人族の書き込みがあれば、すぐに伝えられるしな」
「ほんと? 嬉しいにゃああ!」
すると、ミルフィが抱き着いてくる。
たゆんたゆんが当たって、気持ちが良い。
グッ、何という攻撃だ。
「あ、で、でもいいのにゃ? タビトは何かする目的とか?」
「ああ、目的か……」
俺に明確は目的はない。そもそも、なぜこの世界にいるのかがわからない。
けど、異世界ガイドマップは楽しい。
思えばこんなにも時間がゆっくり流れているのは久しぶりだ。
やりたいことを探す旅、それも悪くない。
ミルフィに伝えると、いいにゃあ、ねと言ってくれた
「俺はやりたいことを探す。ミルフィは仲間を探す。確かにこれなら一緒にいても問題はないな」
「うん! あ、それにそこまで急いでないのにゃ! 美味しいもの食べて、観光して、楽しく探したいし!」
「そうか。なら俺もありがたいよ」
ひょんなことから出会った彼女だが、どうやら俺たちはいいパートナーになれそうだ。
それにしても食堂は【凄かった】な……。
最後に良いクチコミを見つけてよかったぜ
ミルフィ
★★★★★
お代わり自由でなおかつ美味しいなんて最高。
また行く!
旅の仲間も出来たにゃあ!
タビト
★★★★★
最後に見つけた【クチコミ】通りだったぜ
シルクさんの接客が最高だった
また来るぜ! 飯は全部が美味しい!
旅の相棒も出来て幸せいっぱい!
地元住民の大ファン (タビトが入るきっかけになったクチコミ)
★★★★★
アンネの小さな食堂は王都でも随一の名店。
毎回の食事が幸せな時間になり、リラックスした雰囲気が心地よい。
シルクさんがとても可愛く、たゆんも大きくてスタイル最高
とにかく彼女にいやされます
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