第4話 「走れ私たち❗️」

 遡る事数分前、小笠原諸島、三宅島観測場

 同・情報処理室

 薄暗い情報処理室、張り詰めた緊張と期待が交錯する。

 薄暗い、窓のない情報処理室。まるで秘密基地のようなその空間には、張り詰めた緊張感と、期待が入り混じった空気が漂っていた。

中央に設置されたメインモニターには、日本列島が鮮明に映し出されている。その周囲には、情報処理員と呼ばれる男女6人が、まるで戦士のように立ち並び、モニターを食い入るように見つめていた。

30代前半の男、所長と呼ばれる彼は、眠そうな目をこすりながら、安田に声をかけた。「調子はどうかな?みんな中央の安田君」

 その言葉に、全員が椅子ごと体を回転させ、彼の指示を待つように視線を集中させた。

20代後半の安田は、真摯な表情で立ち上がり、状況を報告する。                       「はい!探知結界は正常に稼働中!稼働率は98.9%で保たれています」

「うん!じゃあ次」

 所長の視線は、右側の美紀に向けられる。30代前半の女性である彼女は、キリリとした表情で報告する。「はい!魔力不足及び多い所はありません!排他的経済水域までに展開されている結界魔力量は全て均等に行き渡って居ます」

 続いて左側の信谷が、状況を伝える。20代後半の彼は、真剣な眼差しでモニターを見つめながら話す。「はい!現実までの所、通商破壊を目的とした帝国軍潜水艦以外に水上艦及び航空機の反応の類は在りません!」

緊張はピークに達する。帝国軍の潜水艦が、まるでゴキブリのように日本列島を徘徊しているのだ。

「速い事、転移術式が完成すれば良いだがな~あれが在れば通商破壊に怯えなくて済むし、世界の物流も楽になる」

 所長の言葉は、みんなの願いを代弁していた。転移術式が完成すれば、帝国軍の潜水艦の脅威から解放され、物流革命が起こる。

「確か理論は完成しているんですよね」

安田が尋ねる。所長はため息をつきながら答える。「ああだが、機械に落とし込めてないらくしてな、それにアレは言わばワープと同じだ。ワープ可能なエンジン開発も同時に行われているそうだ」

そんな世間話に花が咲こうとしたその時、信谷の席から突然ブザー音が鳴り響いた。

「どうした⁉」

所長が声を張り上げる。信谷は、蒼白な顔でモニターを見つめる。                               「沖ノ鳥島沖より反応あり!識別は帝国軍の爆撃機隊です!」

「なに!数は?」

所長の声は、尋常ではない緊張を帯びていた。信谷は、震える声で答える。「10 、15、20・・・なおも増加中!」

情報処理室は、一瞬にして戦場と化した。

「分かった!反応場所から相手の予想進路を割り出すようにAIに掛けるんだ!急げよ!」

所長の命令が飛び交う。情報処理官たちは、一瞬の躊躇もなく、それぞれの役割を完遂していく。

「入力完了!結果が出ます!」

美紀の報告に、全員が息を呑む。中央のメインモニターに、爆撃機隊の予想進路が映し出された。

「敵は二手に分かれ、片方は青島(チンタオ)方面に向かう模様!」

「もう一方は・・・」

 美紀が言葉を続ける。「和歌山県から北東へと向かうとのデータだ出ています」

 所長は、目を細め、冷静に指示を出す。「美紀君!そのデータを直ちに長官と大臣に送れ!それと二人に緊急連絡だ!回線を開け!」

情報処理室はその一言で緊張感とさらに慌ただしさが加わった。

しかし、そこにいた情報処理官たちは、決して怯むことはなかった。目の前の敵に立ち向かうべく、それぞれの持ち場で最善を尽くしていく。

 




 そして現在・・・日本支部国連海軍横須賀士官育成高等学校地下試合場、教員用観戦場。

 華麗なる逆転勝利を収めた椿に、会場は熱狂に包まれていた。明もまた、その勝利を微笑みながら見守っていた。しかし、そんな歓喜も束の間、**「緊急回線」**と書かれた赤い表示が明の目に飛び込んでくる。直感的に重大な事態を感じ取った明は、ためらいなく表示をタップする。

「明君!聞こえるかね?」

 インカムから聞こえてきたのは、少し年季の入った声。それは、日本国内における明の上官である富野英二防衛大臣の声だった。

「富野英二防衛大臣⁉︎ 緊急回線ですか⁉︎」

明は驚きを隠せない様子で尋ねる。

「ああ・・・君は今何処にいるんだ?」

「私は国連海軍横須賀士官育成高等学校、地下訓練所に居ります」

「そうか・・・分かった。もう少しでそっちもJアラートが発動する。君は生徒及び市民に対して落ち着いて避難するように呼びかけてくれるか?」

 防衛大臣の言葉に、明は事態の重大さを理解する。

 明は校長と理恵に視線を向ける。

「わかりました!そちらもお気を付けて!」

通信を終えた明は立ち上がった直後、

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥー

訓練所内そして街中にサイレンが鳴り響いた。

「くっ!もうこんな所に・・・」

 明は状況を把握し、校長に指示を出す。

「校長!このサイレンが聞こえるな!直ちに生徒たちに指示を!」

 校長の指示を受け、備え付けマイクのスイッチを入れた校長は、全校内に聞こえるように設定し、放送を開始する。

「生徒諸君!校長である!これは訓練ではない!諸君はこれより民間人専用地下シェルターへと向かい、民間人のシェルターに誘導せよ!繰り返す!これは訓練ではない!」

 校長の放送を聞いた生徒たちは、担任の指示で一斉に立ち上がり、左の教室から順番に駆け足で移動を開始した。

 放送を終えた校長はマイクのスイッチを切り、明に視線を向けた。

「さあー閣下もこちらへ!来客用シェルターはこちらです!」

「いや、管制室に向かいたい!」

 校長は明の要望に驚いた。

「しかしまた何故?」

「私は軍人だ!軍人である以上は状況が確認出来る所に居たい、詳細にな!」

「・・・分かりました!ではこちらへ!」

 その理由に校長も納得し、二人を管制室へと案内する。

案内される直前、明はふと会場の二人へと視線を向け立ち去った。


 校舎内に響き渡る、空襲警報の不快な音が、せつなの心を掻き乱す。せっかく放課後、行きつけの店でアイスを食べて帰ろうと楽しみにしていたのに、この不快な警報は、せつなの計画を台無しにしてしまう。

(よくもやってくれたわね帝国軍!せっかく椿と放課後デートじゃなくて二人でアイスを食べる予定を・・・!)

怒りに震えるせつなの前に、椿が現れる。

「おい!お前なに考えてだんよ!」

「えっ!ごっごめんなさい!」

「ぼーとしてないで急ぐ!」

椿の鋭い声が、せつなの現実を引き戻す。

「えぇ!」

(もうーなに考えてるよ!私はー!)

教官の号令が響き渡る。

「一組の生徒は民間人の避難指示を!二組は格納式対空砲陣地へとお向き、弾薬輸送に従事せよ!」

教官の指示で、せつなの気持ちは一瞬で切り替わる。民間人用シェルターへと続く階段へと、せつなの足は椿共に自然と加速していく。


 同時刻

「ぐわああああ!」

 けたたましい警報音が、地下シェルターに響き渡る。パニックに陥った人々が、我先にと避難口へと殺到する。その様子は、まるでアリ塚が崩れたときのようだった。

「落ち着いて!落ち着いて!」

 警察官や自衛隊員が、必死に人々をなだめる。その間にも、巨大なパラボラアンテナがゆっくりと地上へと姿を現す。眩い光を放ちながら、空へと伸びていくその姿は、まるで神々しい光景のようでもあった。

「防壁展開率、68%!安定して展開中です!」

 通信機から、冷静な声が響き渡る。指揮官の明は、状況を把握しながら、的確な指示を下していく。

「民間人の避難率は?」

「まだ50%です!シェルターの収容人数を超えてしまい……」

副官の理恵が、眉をひそめる。

「長官!あれを!」

 理恵が、モニター画面を指さす。そこには、一人の少女が映っていた。7歳くらいの女の子で、泣きながらあたりを見回している。どうやら、家族とはぐれてしまったようだ。

「場所は?」

「第24シェルターブロック、ヴェルニー公園付近です!」

 明は、画面の中の少女の姿をじっと見つめる。そして、毅然とした声で指示を出す。

「そのシェルター近くにいる者に連絡しろ!すぐさま現場に急行し、女の子を保護するように伝えろ!誰でも構わない!今すぐ私の元に繋げ!」

 通信員が慌てて回線を繋ぐ。そして、そのシェルター近くで誘導を行っている、中年の兵士に繋がった。

「はい、こちら第24シェルターブロック入口!後藤幣司曹長です!何かご用件でしょうか?」

「こちら連合艦隊司令長官、花森明だ!応答せよ!」

突然の司令官からの通信に、後藤曹長は思わず目を丸くする。

「はっ……花森閣下!?」

「なにか?ございましたか?」

「そのシェルター近くのヴェルニー公園に取り残された市民が居る!7歳くらいの女の子だ!画像を転送する。近くに手が空いてる者は居ないか?」

「わかりました!」

後藤曹長は、周囲を見回す。そして、近くの士官学校高等部の女子生徒二人、東郷せつな准尉と小烏椿准尉に声をかけた。

「おい!そこの女子生徒の二人!こっちに来てくれ!」

「「はい!」」

 二人は、後藤曹長の指示を聞き、すぐに駆けつける。

「二人共!名前は?」

「はっ!東郷せつな准尉です!」

「同じく小烏椿准尉です!」

貴官正名を確認し、後藤曹長は二人に指示を出す。

「二人とも、このシェルター近くのヴェルニー公園に残された避難民が居る。7歳くらいの女の子らしい。画像と詳しい位置は二人のCPに転送する。確認してくれ!」

「「了解です!」」

せつなと椿は、互いに顔を見合わせ、力強く頷いた。そして、軍用エレベーターへと駆け込んでいく。


 逃げ遅れた民間人救助の命令を受けた。 。軍用エレベーターが地上に開いた瞬間、目に飛び込んできたのは、パニックに陥った人々の群れだった。 

 軍と警察による大勢の民間人の避難誘導が続いている。

「ひとまず私たちも急ぎましょう!」

「ああ!」

 二人は、必死に駆け足でヴェルニー公園へと向かう。

 ヴェルニー公園とはフランス人技師ヴェルニーが建設に貢献した旧横須賀製鉄所跡地が臨める、フランス庭園様式を取り入れた公園で、今もその当時のまま残っている珍しい場所だ。

 しかし公園に今、一人の女の子が怯えている場所となっている。怯える人を助けいという想いが、走りながら徐々に強くなり、自然とせつなの決意は、足取りをさらに速める

 途中、空を覆うように展開する防壁と迫りつつある爆撃機とを確認しながら二人は、少女を救出するという一点に集中し、ヴェルニー公園へとたどり着いた。

「着いたわね・・・どうする?二手に分かれる?」

「うん・・・そうだな」

 椿は仮想PCを展開し、公園の地図をくまなく見渡す。

「せつなは海岸側をアタシは内陸側から探す!そして噴水の所で一旦し、中央部で再び別れ、よこすか近代遺産ミュージアム ティボディエ邸で合流する・・・これでどうだ?」

「そうねそれで行きましょう!女の子の特徴は?」

椿は次に黒いロングヘアに白いワンピースを着た女の子を表示した。

転送されたデータの子だ。

「黒いロングに・・・白いワンピースか・・・」

「特徴も覚えたし・・・行くか?」

「了解!」

 二人はそれぞれ違う方向へ足を向けた。

 せつなは波打ち際の遊歩道を必死に駆け抜ける。潮風が髪を乱し、遠くに聞こえる叫び声が、私の心を焦らせる。どこかに、あの少女の姿はないだろうか。

 一方、椿は色とりどりの花が咲き乱れるフランス式庭園を捜索していた。噴水、バラ園、そしてボードウォーク。ありとあらゆる場所を調べ尽くすが、少女の姿は見当たらない。

「どこにいるんだ……!」

絶望感が、せつなの心を覆い始める。

約束の場所、ティボディエ邸前で再び合流した私たち。互いの顔には、疲労の色が濃く映っていた。

「見つからなかったか……」

「うん……」

 その時、遠くからかすかな声が聞こえてきた。

「誰か……助けて……」

 それは間違いなく、あの少女の声だ。

 二人は、その声に導かれるように茂みの中へと足を踏み入れた。

 茂みの奥には、小さな隠れ家のような場所があった。そして、その中に、二人が探し続けていた少女がうずくまっていた。

「もう大丈夫よ!助けてきたわ!」

 せつなは少女を抱きしめると、彼女はせつなの腕の中に顔を埋めて泣き出した。

「ありがとう……本当にありがとう……」

 彼女の言葉に、せつなの心は温かくなった。二人は、無事に少女を救出することができた。

「よし!ならさっさと戻ろう!爆撃機が来るまで時間がない!」

「ええ!」

二人は再び走り出した。

 椿を前方に立て、せつなは小さな女の子を抱きしめて必死に走っていた。女の子はせつなの腕の中に安心して身を委ね、不安そうな表情を浮かべていた。その小さな顔を見ていると、私の心も少しだけ落ち着く。

「前方まかせろ!」

 椿の声が後ろから聞こえてきた。彼の励ましの言葉に、恐怖で震えていた足が不思議と軽くなった気がした。

シェルターの入口はもうすぐそこ。

 その時、轟音が響き渡り、厚木市近くの山からレーザー砲が次々と閃光を放ち始めた。空一面が複雑に編み込まれたレーザーの網で覆われる。

(まさか…こんなところに…!)

嫌な予感が頭をよぎる。ゆっくりと顔を上げ、空を見上げた。

「嘘でしょ…こんなところに…!」

 せつなの予想は的中した。空には帝国の大型爆撃機が6機、不気味な影を落としていた。恐怖が全身を支配し、足がすくんで動かなくなる。

「お姉ちゃん…」

 女の子が心配そうにせつなの顔を見上げる。

「せつな、なにやってんだ!」

 椿の声が私を現実に戻した。震える足を引きずるように、私は再び走り出す。



「やっと……!」

 視界に飛び込んできたシェルターの入り口に、せつなは思わず安堵の息をついた。

 その瞬間、背後から風を切り裂くような声が響く。

「せつな!伏せろ!」

 椿の叫び声とともに、せつなは地面に叩きつけられた。咄嗟に身をかがめると、椿が私の上に覆いかぶさってくる。

「え、っ!?」

 何が起きたのか、理解が追いつかない。

 視線を上げると、空が真っ赤に染まっている。無数の火の玉が雨のように降り注ぎ、轟音とともに爆風が吹き荒れる。瓦礫が椿の背中に叩きつけられ、一瞬、心臓が止まるような音が響いた。

「つ、椿……!大丈夫……?」

 震える声で問いかけると、椿は自信に満ちた笑みを浮かべた。

「ああ……大丈夫だ」

そう言いながら、彼はゆっくりと立ち上がり、せつなに手を差し伸べる。

「ほら……」

 その頼もしい姿に、せつなは思わず顔を赤らめてしまう。

「なにーしてんだよ!早くしろよ!」

「ご、ごめんなさい!」

「謝るのはあとだ!さっさと行くぞ!」

「ええ!」

 椿に引っ張られながら、せつなは必死に足早に走り出す。空は燃え盛る炎に包まれ、まるで終末を迎えたかのような光景が広がっていた。

最初は恐怖に震えていたけれど、椿の後ろ姿を見ているうちに、いつの間にかその気持ちは消え去っていた。

 そしてついに、せつなたちはシェルターに到着。見上げると、防壁が透明な膜のように広がり、外からは炎が燃え盛る様子がうかがえる。

 せつなたちは急いでシェルターの中へ駆け込み、エレベーターに乗り込んだ。


エレベーターの扉が開き、薄暗いシェルターの本棟へと続く廊下が現れた。せつなは、小さな女の子を優しく抱きかかえ、一歩足を踏み出す。

「お姉ちゃん…」

 女の子の小さな手が、せつなの手をぎゅっと握りしめる。その不安そうな声に、せつなの心はざわめいた。

「どうしたの?」

 せつなが優しく問いかけると、女の子はうつむき加減にせつなの手をじっと見つめる。

「手…震えてる…」

 その言葉に、せつなは自分の心の奥底に隠していた感情と向き合う。

「貴女は…大丈夫なの?」

 そう尋ねるせつなの声は、どこか震えていた。

「まだ少し…怖い」

 女の子の言葉は、せつなの心の奥底に響いた。

 そうか、自分の手は震えていたのか。今まで、そのことに全く気づかなかったなんて。

 女の子の言葉が、せつなの体中に広がる。震えは、もう手のひらだけのものではなくなっていた。全身が震え始めた。

 思わず、エレベーターの壁にもたれかかり、視線を無意識に椿に向ける。

 椿はせつなの視線に気づき、微笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてきた。そして、女の子の前に膝をつき、目線を合わせる。

「大丈夫だよ!もうすぐお母にも会える!それまでアタシたちがちゃんと守る!約束だ!」

 椿と女の子は、小さな指を絡め、真剣な表情で約束を交わした。

 しかし、せつなはわかっていた。

 その約束は、自分にも向けられているということを。



 エレベーターの「ピンポン」という音が、緊張感を張り詰めていた空気を切り裂いた。扉が開くと、そこには30歳前後の男女が、まるで自分たちの子供を待つ親鳥のように、不安げに立っていた。

「あっ!お父さん!お母さん!」

 女の子の小さな叫び声が、シェルターの静寂を打ち破る。不安げな表情だった彼女の顔が、パッと輝き出す。駆け寄る足取りは、まるで羽が生えたよう。両親は、我が子が無事であることを確認すると、思わず彼女を抱きしめた。

「良かった…、良かったよ…」

 母親の目に、光るものがきらめく。父親も、硬い表情を崩し、安堵の息をついた。その温かい光景を、せつなたちは少し離れた場所から見つめていた。

 せつまたち二人は、互いの顔を見合わせた。言葉はなくても、通じ合っていた。

「やったね!」

 椿が、そう言って微笑んだ。その笑顔は、冬の寒空に咲く一輪の花のように、温かくて眩しかった。

 せつなも、つられて微笑んだ。緊張していた糸が、ぱちんと切れたように、心が軽くなった。

 二人は、無事に任務を遂げた。



 ようやく、空襲警報が解除されたのは午後7時頃のことだった。3時間にも及ぶ空襲。まだ外は火の手が揺らいでいて、危険が完全には去っていない。そのため、士官学校の生徒たちは、民間人と一緒に地下シェルターでの待機を命じられた。

 この地下シェルター、全長7205メートルもある巨大なもので、地下5キロもの深くに広がっているんだ。まるで、巨大な地底都市みたいだ。もちろん、徒歩で移動することも不可能ではないけど、かなり大変。だから、シェルター内には円を描くように列車が走っていて、みんなはそれに乗って移動するのが普通になっている。

 民間人には、寝袋や夕食が配られた。一方、生徒たちは軍属として扱われるため、列車に乗って軍専用の宿舎へと向かうことになった。

 列車に乗り込むため、生徒たちはホームへと続く長い通路を歩く。薄暗い照明の中、轟轟と音を立てて走り過ぎる列車の風を切りながら、生徒たちはそれぞれ思いを巡らせていた。


 長い一日を終え、ようやく座ることができたせつなは、椅子に深く腰掛けた途端、全身に疲労感が広がった。堪え切れなくなったのか、ふっと息を漏らし、椿の方へ顔を向ける。

「ねぇ、椿……ちょっとだけ、肩を貸してくれないかな?」

 甘えたような、どこか弱気な声に、椿は思わず振り向く。するとそこには、眠気に誘われるように、ゆっくりとまぶたを閉じ始めたせつなの姿があった。

「まったく、しょうがないやつだなぁ……」

 椿は苦笑いを浮かべながら、せつなの頭を自分の肩にもたれさせた。そして、静かに目を閉じているせつなの髪を優しく撫でる。

 しばらくすると、せつなの呼吸がゆっくりと深くなり、眠りについたのが分かった。椿は、そんなせつなの穏やかな寝顔を見つめながら、自分の心も少しずつ落ち着いていくのを感じた。

(姉が、妹の頭を撫でるときも、こんな気持ちなのかな……)

椿は静かにそう呟き、しばらくの間、せつなの寝顔を見つめていた。


 それからしばらくして、ようやく軍の宿舎がある駅に着いた。「おい!起きろよ!着いたぞ!」と椿はせつなを揺り起こそうとするが、せつなは夢の中。何度肩を叩いても、全く起きる気配がない。「はぁ、仕方ないか…」ため息をつきながら、椿はせつなを背負って、レーションを受け取り宿舎へ向かった。

 宿舎は、想像していたよりもずっと狭かった。4畳半の部屋に、二段ベッドと洗面台、そして蛍光灯が一つ。いかにも軍隊らしい質素な部屋だ。

 レーションを開けると、出てきたのは、パサパサのショートブレッド。味気ない食べ物だ。戦地ではもっと種類があるけど、こんな場所ではこれくらいしか支給されない。

「はぁ…相変わらずまずいな。特にこのショートブレッドとか…おい!お前のもあるから食えよ!」

 椿は味気ないショートブレッドを口に運びながら、せつなの様子を伺う。

「…椿…」

 せつなが、かすれた声で呼びかける。

(こうして見ると、せつなって可愛い顔してるよな…なんて、アタシ、今、何考えてんだ!)

 そんなことを考えながら、せつなの寝顔を見つめていると、せつなが椿の手を握り始めた。

「なんだよ、いきなり。…ふふ」

 せつなの少し安心したような表情を見て、椿は思わず笑ってしまう。

 小さな声で、せつながつぶやく。

「ありがとう…椿…好きだよ…」

 せつなの寝言に椿は少し驚きつつ微笑んだ。

「…アタシも、せつなが大好きだ。」

 椿は、そう呟くと、せつなの頬にそっとキスをした。そして、歯磨きを済ませ、上の段のベッドに横になった。

 しばらくして、椿は眠りについた。












帝国軍の爆撃から数日後、また何気ない日常を送る二人の所へ花森明がやって来た。

明は二人に新型アーマードギア「ヴァルキリー」のパイロットになるように要請を受けるが・・・




次回!蒼空のヴァルキリー第5話「蒼空のヴァルキリー 」



          

    今!歴史の歯車が動き始める・・・














 







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蒼空のヴァルキリー 蒼本喜十 @ksdoug

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画