第3話「振りった斬った思い」

 2組は互いに譲らず、一勝一敗のタイスコアで迎えた最後の試合。時間的にも最後の試合となることが分かっていたため、出場する生徒たちの中には大きなプレッシャーを感じているものも少なくなかった。

その一人、椿も例外ではなかった。機内で次の試合について考えを巡らせていると、せつなからの通信が入っていることに気づく。通信許可のスイッチを押すと、通信モニターにせつなの顔が映し出された。

「どう、椿?」

「どうって?さあなー、相手が相手だからな~」

「相手は確か…」

「神城綾瀬…」

 椿の言葉に、せつなは画面から飛び出す勢いで驚いた。

「綾瀬って…あの学年主席?あんたもとんでもないやつに当たったわね…」

「そう、まだ1年にも関わらず、生徒会長や教員からの信頼もあり、副生徒会長を務めてほどの秀才でもある。神城綾瀬様だよ」

「で?ないか策はあるの?」

「うん~多分今のアタシたちじゃあ、あの副会長様にはどうしたって勝てない…勝てないなら…負けない戦い方をすれば良い、それだけだ」

 頭をかきむしりながら椿は答え、せつなは呆気にとられた表情を浮かべる。

「…まあー良いわ、頑張ってきなさい!負けたら明日の昼はあんたの奢りね!」

「分かったよ!まあ見てろってこのアタシの戦いぶりをな!」

 椿は陽気に返し、その陽気さにせつなも微笑み、黙って通信を切った。

 切った瞬間、試合終了の合図と共に、椿は機体を試合場へ向かわせた。心には不安と同時に、ある種の自信が湧き上がっていた。

 そして、両者の整列がステージに整い、試合開始のアナウンスが会場に響き渡り、観客たちの心を今まで以上に高揚させた。双方の雌雄を決する最後の訓練試合が幕を開ける。

 最初に動き出したのは、2組の綾瀬の部隊。

 綾瀬は部隊をV字型に形成し、自らを中心に左右に展開させた。鶴翼の陣を取り、前進を開始した。この陣形はある意味で最も基本的なもので、相手が前進や突撃してきた場合でも、左右の部隊で包囲し攻撃することができる。

「椿さん!僕たちも前進する?」

「そうだよ!私たちも早く進むべきよ!」

 綾瀬たちが早くも行動を起こしたことに、椿を指導する部隊のメンバーたちは焦りを感じている。

 しかし、椿は手を顎に当て、冷静に相手の動きを分析している。

(なるほど…その陣形か…確かにその陣形なら、仮にアタシたちが向かっても包囲できる、だが、相手がまとまっていることが重要で、しかもこの密林と足場の悪さでは包囲も苦労する…そもそもこんな密林で陣形を組むなんてな…)

「よし!」

 椿は思いついたように指をなぞり、メンバーに作戦を伝えるために各機に通信モニターを展開させる。

 詳細な作戦の説明を終えた椿は最後にメンバー各員に対して、力強く言葉を紡いだ。

「最後に勝つのは…私たちだ!」

 椿はそう高らかに自信を持って言い放つ。









 同時刻、テニアン島前線基地では轟音が響き渡り、帝国軍の超重爆撃機が、まるで鋼鉄の翼を広げた怪鳥のように大空に舞い上がる瞬間が迫っていた。

 その光景をエルフのような尖った耳を持つ二人の中年くらいの男性が眺めていた。基地司令官である中将「アーネスト・ルベルト」は、綺麗に洗濯されたテーブルクロスが掛けられたテーブルに座り、東アジア方面軍攻略司令長官である上級大将「シャルン・ヴィーザル」は、執務室の窓から帝国本国から送られてきた紅茶を嗜みながら、爆撃機の群れを眺めている。

「相変わらずここからの眺めは壮観だな。しかし、定期便の爆撃にしては今回は少し数が多いのではないかね?」

「えぇ… 今回は日本だけではなくフィリピンそして台湾に爆撃する計画ですので」

シャルンが問いかけると、アーネストは淡々と答える。

「台湾とフィリピンか…」

 アーネストはシャルンの言葉に思いを巡らせる。

 シャルンは一度アーネストに視線を向け、再び窓から爆撃機の群れを見つめながら焦りを感じていた。去年の日本攻略において戦死した前任者の後任として着任し、自身の力量を示すべく、一日でも早く日本とフィリピンそして台湾を攻略したいと願っていた。

 帝国がなぜ日本とフィリピンを攻略せざるを得ないのか。その背後には三つの要因があった。まず、中国を封じ込めること。中国は東シナ海と南シナ海に面しており、注目すべきはその海域にフィリピン、台湾、そして日本の沖縄と九州が存在することだ。これらを制圧すれば、中国を実質的に封じ込めることができる。

 二つ目は中国を牽制するため。中国は帝国軍との激しい攻防戦を繰り広げ、人的資源を割いている状況だ。しかし、もしフィリピン、台湾、そして日本が占領されれば、中国は海岸線に兵力を配置するか新たな沿岸防衛の編成を余儀なくされる。どちらにせよ、これは中国にとって好ましくない状況だ。人的資源の不足からくる交通や通信などのインフラの不足、そして前線が手薄になり、敵が突破して本土に侵入する可能性が高まるからだ。

 この上陸作戦は東アジア方面軍攻略司令長官であるシャルンが立案し、帝国軍上層部とカイゼリンから裁可を受けていた計画だ。彼は小さな島に40機近い超重爆撃機を抱えながらも、今以上に多くの航空機を保有できる土地が必要だと考えていた。同時に、その土地を不沈空母として利用し、大陸間弾道弾を配備する戦略も計画していた。

そういった思索の中、アーネストがシャルンの顔を見て答えた。

「なにご不満ですか?むしろ閣下にとっては良い事ではありませんか」

 シャンルンはアーネストの言葉に「まあー」と答え続ける。

「しかし着任したばかりの私を良く信用しているな」

「いいえ、閣下の計画は着任前に読ませて頂きました。信用という訳ではありませんが、部下として上司のために務めるのは当然というだけです」

アーネストのこの発言にシャルンはある種の安心感を覚えたように微笑む。

 本基地に所属する第120戦略爆撃機隊司令官である「オットー・グレゴリウス」少将が中央管制室から激励の言葉を搭乗員たちに贈っていた。

「諸君!我々の雄姿は常に偉大なるそして至高なるマインカゼリンたるセイレーン陛下と共にある!我々は恐怖と破壊をもたらし、帝聖『大ギルディアナ帝国』の栄光を人間界に知らしめるのだ!ジーク・ギルディン!ジーク・カイゼリンセイレーン」

 オットーの声が響く中、超重爆撃機の群れは一斉にキューインという音を鳴らし、滑走路を前進。その巨大な機体はまるで怪鳥が大空に舞い上がるかのように重々しく飛び立ち、その群れは鋼鉄の翼を羽ばたかせながら、日本へ向かって進撃していった。

 その様子をシャルンは重々しい視線で見つめていた。まるで自身の行く末と国の行く末を憂いているようでもあったと同席してた。アーネストが自身の手記に書き記している。


















 しかし日本はこの事実をまだ知らなかった・・・




 







 試合が幕を開け、我らの部隊はやがて、綾瀬の軍勢との接触が迫っていた。椿は部隊を横一列に広げ、前進する綾瀬たちの前に立ちはだかり、銃を構えて照準を合わせる。

「撃て!」

 椿が力強く命じると、一斉に攻撃が始まり、綾瀬たちの部隊は銃撃の嵐に晒された。その激しさに彼女たちは前進を躊躇し、反撃の余裕すらない。

「よ〜し!全機、一次離脱!」

 椿は部隊に中断を伝え、彼女たちの前から撤退。更に部隊を二手に分け、観戦者たちはおそらく驚きと戸惑いの中にあることだろう。しかし、それで結構だ。今の状況では、正面からの直接対決は難しい。ならば後ろから仕掛けるのが、賢者の戦略。しかも、あの陣形には大きな隙間がある。鶴翼の陣は正面からの接近に強いが、後ろからの攻撃には脆弱だ。

「全機!ここから相手の両脇を全速で駆け抜けろ!」

 椿は力強く命じ、機体のスピードを上げて、他の機も同調して加速した。後少しで相手の後方に回り込めると思ったのは一瞬。

椿の前に、綾瀬たちの部隊が既に展開し、銃口を向けていた。そして、綾瀬の搭乗機が命令を下すと、一斉に猛烈な攻撃が始まり、弾丸が雨のように飛び交った。防壁も展開する暇もない。椿は機体をかろうじて低くし、危機を切り抜けたが、二手に分けた部隊の中から二機が戦闘不能判定となった、残りは      椿の搭乗機を含めて四機だけとなってしまう。

「予想はしていたが、こんなに早いとはな。」

 椿は軽口を叩いたが、本音は気を紛らわせたかった。そして、浅いため息をついた後、命じる。

「全機!この場から速やかに撤退だ。」

 別に恥じることじゃあない。戦っても勝てないのなら、逃げることが先決だ。相手に先を読まれ、攻撃を受けた時点で彼女の速戦即決の作戦は失敗に等しい。

「まだ負けが決まったわけじゃない。戦いはこれからだ。」

 椿は自らに言い聞かせ、その場を後にする。

 しかし、椿たちへの執拗な追撃はいつまでも収まる気配を見せず、それでもなお、一機も損傷を被ることはない。

 追われるに事に、椿自身も焦りを感じていた。そこで、彼女は新たな作戦を展開するべく、部隊に次なる指令を下す。

「全機!光学迷彩術式を発動し、今の両機と共に各機は一時散開せよ。散開の際には煙幕を立てることを忘れずな!」

「了解!」

 椿はメンバーたちの返事を聞き、まだあきらめていないメンバーたちの姿に力を感じる。

彼女が言うと同時に、椿と共に行動する「高山湊」も含め、部隊は一斉に大量の煙幕を展開し相手の視界を奪いながら光学迷彩術式を発動。一方のステージの組は西南側へ向かい、もう一方は東南へと進む。

 相手もしくは会場に居る人たちから見れば、それは逃げたように映るだろうが、戦術的には「思わせる、見せる」ことが非常に重要なのだから。

 そして、綾瀬たちを混乱させる中で、二手に分かれた椿たちは、創造術式を駆使して自らの武器をコピーし、それを自動的に攻撃できる形に作り上げた。さらに、急いで創造した銃座にこれらの武器を取り付け、その銃座を遠隔操作できるように巧妙なシステムを組み上げる。

 もちろん、急いで組み上げたためにわずかなバグが生じる可能性はあるが、これもまた作戦の一環。全てが完璧に機能しなくても、いくつかが正確に動けば十分だ。ましてや、煙幕がまだ完全に晴れるまでの時間は十分にある。何よりも、試合は前半をわずかに過ぎただけである。





 椿たちが疾風の如く行動を始めたその頃、綾瀬たちは濃密な煙幕に包まれながらも、彼女の冷静な指揮のもとに秩序を維持していた。しかし、現状では行動が極めて危険だという事実を受け、私たちは機内で通信モニターを展開し、次の一手を緊急に協議することになった。

「ここまでは予想内だが…これを行うべきか。皆の意見を聞かせてくれ」

 綾瀬の言葉に、モニター越しに隊員たちが相手の目を見つめ合う。誰が最初に声を上げるべきか、それぞれが責任を避けるように見えた。ただし、時間が迫っており、だれが発言してもいいはずだった。しかし、このような時期に責任を押し付けあうことは避けたいのだろう。

(仕方ない…私が言うしかないか…)

そう思ったその瞬間、意外な声が響いた。

「よろしいですか?」

「ああ、構わない」

「はい! では…」

 綾瀬はその意見に耳を傾け、修正を加えながら提案された意見を受け入れた。その作戦は、相手が後退したであろう位置まで前進し、火炎放射器のようにメギド粒子をまき散らしながら横一列で進み、その後高温の光学レーザーで周囲を焼き払うというものだった。

 さらに綾瀬は自ら修正を施した。その修正点は前進の方法だ。相手の位置が不明なため、この動きでは相手に捕捉され全滅する可能性があった。そこで私たちは二手に分かれて前進し、粒子を散布する方法も修正され、火炎放射器のようなものではなく、岸桐が以前行った方法―粒子の入った弾を投擲して散布し、移動して相手に的を絞らせないという戦術を採用することになっている。。

 しかし、この作戦には綾瀬も完全に賛成しているわけではない。相手が見えないという点が最大の懸念材料だ。見えないことによる判断の鈍り、そして戦術的な危険性がある。しかし、時間がない中での迅速な決断が求められる。指揮官として即断即決が必要な状況だ。

「これから作戦を開始する!全員異論はないか?」

 最後に全員の意見を確認することで、綾瀬は自信を取り戻そうとした。皆は特に異論を唱えず、むしろ信頼の視線を向けてくれる。

「了解!これより行動を開始する。総員!ー」

 綾瀬の指示が口から出ようとしたその瞬間、通信モニターの一つがノイズと共に切れ、行動不能判定が表示された。焦りが走り抜ける。

「まさか…攻撃…どこから…」

 綾瀬は慌てふためいた。突如として始まった攻撃に、頭は一瞬真っ白になり、即座に戦闘配置を指示した。四機の機体が彼女を守るように陣を組み、赤い点がレーダーに現れる中、全員が緊張感をます。

「祭火、木尾は三時方向!奈央、奈哉は八時方向より接近する目標を狙え!」

「了解」

 赤い点がゆっくりと近づき、銃の射程内に入ると、全員が集中している。そして、綾瀬の叫び声とともに攻撃が始まる。

「撃てー!」

 綾瀬は思わず叫ぶように命じた。自分でも感情的になって居るという感覚は確かにある。しかしそれでも叫なけば、気持ちをこの悔しさを叫ばざずには居られなない。

 猛烈な勢いで弾丸が宙を舞い、その轟音と共に鉄同士がぶつかる音が響き渡った。大粒の雨と化した薬莢が、綾瀬の機体の足元に次々と降り注いでいく。

 やがて、綾瀬たちは一斉に弾を射出し、戦場にはしばしの沈黙が訪れた。空に舞い散る薬莢の音が地面に落ち着くと、機体の腰に新たな弾倉が装填された。

 綾瀬は冷静な眼差しでレーダーを見つめ、状況を的確に把握した。先ほどの攻撃で一機を撃墜し、相手は敗走しているようだ。

機内に表示された試合時間を確認すると、残りはわずか10分。綾瀬は残り時間と相手の数を総合的に考慮し、一つの結論に達した。それは…勝利だ。

慢心の余地はないと自覚しながらも、綾瀬の心にはただ一つの目標が灼熱していた――勝利。彼女の心の中にはそれ以外の何物もなかった。

だからこそ、今、彼女が下すべきはこの瞬間。声を 張り上げ、機内に響かせる。

「全員に告げる!時間がないため、インカムで伝える!これより私たちは敗走中の相手に追撃戦を仕掛ける!この試合での誰か…奴らに教育するぞ!」

「「「はい!」」」

 士気は頂点に達し、その高まりが綾瀬に自信をもたらす。彼女が指揮を執る戦場は、まさに未知なる舞台。そして、その緊迫感あふれる試合終盤の中。

「目標!敗走する椿の部隊!前進!」

綾瀬たちの攻勢が始まる。




 目標への前進を開始した綾瀬たちであったが、一行に追いつく事が出来ないでいた。

 理由は目標がこの機体よりも速い事にあるのだが、おかしい・・・本当であればもう追い付いて居てもおかしくはない、しかしなぜ・・・追い付けない。

 彼女たちと機体のスペックは変わらない、むしろここに居る生徒全員は同じ機体で試合をしている以上はそんな事はあり得ないのだ。

 綾瀬は彼女たちの不正行為を疑った。いやむしろ疑いたかったと言った方が正しいかもしれない、だがそれ以上はそんな考えをする自分にも嫌気が刺した。

 そんな嫌悪感を抱いて居ると。

「前方!目標より銃声!」

 仲間の一人が前方の目標・・・つまり椿たちの方向から銃声が聞こえたという。 

 その直後再び同じ方向から銃声が聞こえた。

(反撃?・・・だとしても何故一発づつ・・・)

 私がそんな思考を巡らせている間にも合計で4回の銃声が聞こえてきた。

(何を企む・・・)

「まあ良いこのまま目標までの距離を詰め殲滅する!」

 綾瀬は彼女たち企みも気になる所ではあるが、なにより試合終了まで時間ない事が私を焦りが、彼女に前進を続けるように促する。

 綾瀬たちは目標に向けて加速を始めたが、追いつくことができなかった。目標が搭載している機体が彼らのものよりも速いのは理解していたが、それにしてもおかしい。もう少しで追いつくはずだったはずなのに、なぜだろうか。

(おかしい。同じ機体で同じ試合をしているはずなのに、なぜ追いつけない?)

綾瀬は呟きながら、不審な空気を感じていた。同じ仲間たちと同じスペックの機体を持っているはずなのに、まるで何かが違うような感覚が彼女を襲っていた。

 そして、綾瀬は疑念を抱く。仲間たちが何か不正なことをしているのではないかと。いや、正確にはそうであってほしかった。しかし、その考えに自分でも嫌悪感を抱いていた。仲間たちが信じられないことだと分かっていたが、なぜか疑念が頭をよぎるのだった。

 そんな複雑な心情の中、仲間からの警告が飛び込んできた。

「前方だ!目標の方から銃声が!」

続けて、再び銃声が響き渡った。しかし、それが一発ずつだったことが気になる。

「何を企んでいいる?」

綾瀬は不安げな思いで呟きながら、銃声が続く中、目標に対しての距離を詰めるよう仲間たちに促した。

「仕掛けがあるかもしれないが、しかし私たちはこのまま進撃し、目標を殲滅する!」

綾瀬の心は激動し、緊迫感が漂う中で、彼女の感情は複雑な葛藤に揺れ動いていた。だが、その中でも勝利への強い意志が彼女を支配していた。まさに、その実感は圧倒的だった。

機体を前進させる綾瀬たちの前方に、急速に接近してくる赤い4つの点がレーダーに表示された。それは椿たちの存在だった。

「今度は一体何だ?奴らは…気が狂ったのか?」

綾瀬は呟いた。しかし、もし相手が自爆してくれるのなら、それに越したことはないだろう。

椿たちが高速で接近し、綾波たちは銃口を向ける。顔には冷たい汗が浮かび、手は震えていた。

「なぜ…こんなに私が震えているのか⁉」

 綾瀬は自問する。

そして、目標が目視可能な範囲に入った。   「これは一体…?」

 綾瀬は驚きを隠せなかった。目の前に現れたのは、無人操作の銃座だった。混乱と警戒心が感情を支配し、突如として銃座が爆発し、白い煙が彼女たちを包み込んだ。

 椿たちが発砲し、弾丸の着弾地点から高密度の魔力反応が感知された。             「まさか!」

 綾瀬は叫び声を上げた。光の柱が立ち上がり、一点に集約され、そこからガラスのような障壁が広がり、綾波たちを包み込んだ。          

「これは…魔力の障壁?」

 綾瀬は驚きの中で呟く。

「まさか、あのサイズで!」

 彼らは困惑した表情を浮かべた。

 動揺する中、綾瀬はやるせない気持ちを抱えていた。しかし、その瞬間、彼女のインカムに一つの通信が入った。

『悪いが、ここからはアタシたちのターンだからなぁ!』と。





 遡ること、数分前。

 綾瀬たちの猛烈な攻撃を何とか振り切り、椿たちは二手に分かれた後、ステージの北西で合流した。逃げる間に脱落者がいなかったことは幸運だと思いながら、彼女は胸を撫で下ろす。

 しかし、何はともあれ、ここからどう反撃するのかについて、私を含む残った四人のメンバーで話し合うことになった。私たちは現在、光学迷彩術式を展開している。だから相手に見つかる心配はない。この世代の機体は光学迷彩術式を探知できない。

「これからどうするの?」

「椿は? 何かない?」

 メンバーの一人が椿に尋ねた。彼女は手を顎に当て、「うんー」と言いながら顔を少し斜め上に向けた後、簡単な問題を解くようにすらりと答える。

「なくはない…ただこれは私たちの連携が重要になる」

(まあ、その点に関しては心配ないかな)

「そしてこの作戦は全部で3段階ある。それを聞いてみんなが賛成してくれれば、即座に実行する」

こうして椿は淡々と作戦の概要を解説する。

「いいんじゃない?」

「他に短時間でやれる作戦もないし、今出来る最善はそれかな?」

 椿が解説を終えると、みんな妥協的ではあるが、作戦にはひとまず賛成してくれた。

「それじゃ!早速だが作戦を開始する。みんな頼んだぜ!」

「「おお!」」

(追い詰められてるにしては士気やたら高いな、良いことではある)

「じゃあ…作戦第一段階!無人銃座!誘導開始!」

椿の命令の下で、ついに作戦が始まる。


 まず、無人銃座が綾瀬たちの方に向かって軋轢とともに動き出した。

しかし、椿は機体で目視可能な範囲まで接近させるように指示を出した。これは、綾瀬たちに彼女たちがその銃座であると誤認させる必要があった。あくまでレーダーで確認可能な範囲まで接近させれば十分だ。

「椿!綾瀬たちが無人銃座に攻撃を仕掛けている!」

その報告を聞くと、椿は微笑みを浮かべた。

「よし!無人銃座を予定地点まで後退させろ!綾瀬たちを引き寄せろ!」

 レーダーに表示される、綾瀬たちを示す赤い点と無人銃座を示す青い点を追いかける様子が確認できた。

(こんな簡単に引っかかるとは…綾瀬も焦っているな…とは言え本人たちは真面目なのかもしれないが)

そんなことを考えながら、椿は次なる指示を出した。

「作戦第二段階!正方形を形成して射撃を始めろ!」

 メンバーの一人が機体に備えられた銃をスナイパーライフルに変更し、ステージ上に巨大な正方形を描くために、マップを確認し、着弾地点を正確に測定する必要があった。一発一発、確実に射撃し、命中させる。

 この方法で相手に不安を与えることができる。見えない場所からの銃声は、ただの恐怖以外の何ものでもない。

「射撃完了!」

「了解!作戦第三段階!無人銃座を奴らの前に突っ込ませろ!」

 作戦はついに最終段階に突入した。最後の仕上げとして、綾瀬たちに自分たちがこれまで追いかけていた存在の正体を明らかにする。彼女たちがそれを見たら、どんな表情を浮かべるのか、今から楽しみだ。

 そして無人銃座は、綾瀬たちの前に姿を現した。彼女たちが困惑する中、ついに…

「今だ!無人銃座を爆破!同時に防壁術式を発動!」



 無人銃座は、綾瀬たちの前で轟音とともに大爆発を起こし、木々の合間から巨大な煙が立ち上り、濃い霧が立ち込め始めた。その霧には大量のメギド粒子が混じっており、不気味な光を放っていた。

同時に、4つの地点に弾丸が緑に光り、その光が柱として伸び、一点に集約され、ガラスのような障壁が広がり、綾波たちを包み込んだ。

「今頃大変なことになってるな、アレは」

「椿はこれを見越して仕掛けて置いたのか?メギド粒子?」

「いや…別に仕掛けておけば何かに使えるかもしれないと思っただけだ」

 椿は他のメンバーの言葉に少し気だるげに頭をかきながら答えた。

「それより全機!近接戦闘用意!防壁は時間稼ぎだ!湊、綾瀬の機体をハックして通信回線を開いてくれ」

「了解!」

 綾瀬と椿の間に通信回線が開かれ、言い放つ。

「悪いが、ここからはアタシたちのターンだからな!」

 そして、現在へと戻る。

「まもなく防壁消失」

「周りの連中は任せたぞ!綾瀬はこのアタシがやる!」

「防壁消失5秒前… 4… 3… 2… 1…」

 最後のカウントダウンが終わると、防壁に細かなひび割れが生じ、ガラスが割れるように砕け、地面に落ちる前に消えた。

「防壁消失!」

「全機!綾瀬たちの部隊に向かって… 突撃!」

 椿の掛け声でメンバーは武器をトマホークやランスなどの近接武器に切り替え、霧の中へと突撃を始めた。アタシと共に行動していた4機も同様に、綾瀬を守る4機へと襲いかかった。

彼らは混乱し、霧に包まれて周囲が見えない中、メインカメラや腕、足が次々に破壊され、行動不能になっていった。その姿はまるで山賊か盗賊のようだった。

 しかし、その4機の仲間を討つかのように、綾瀬はアタシの仲間の機を即座にかつ同時に行動不能にした。

 綾瀬は仲間を斬った剣を振り上げ、次の目標を定めるようにアタシに向かってきた。

「さあ、椿!これでお前と私の一対一だ!」

まるで決闘を申し込む、戦士もしくは騎士のように椿に強く呼びかける。

 椿は綾瀬のその堂々たる姿に思わず笑みを浮かべた。

「良いぜ!お前が投げた白い手袋、確かに受け取った… 受けったからには」

 椿はある種の緊急感に包まれつつ、機体を低くし膝をやや曲げ、地面に足を付けた。握った刀は胸部の前に位置し、柄は機体の中心線に対してやや左に傾けられ、刀身をやや斜めに構える。

 そして、綾瀬の問いかけに対して椿は答える。

「その挑戦!正々堂々と受けてやるよ!」

 椿は地面を強く蹴り上げ、綾瀬に向かって全速力で走り出す。

「来い!」

 綾瀬の覚悟にも似た声が聞こえ、椿の勢いに負けじと彼女も受けの構えを取った。

ついに剣と刀が交わり、火花が飛び散った。飛び散った火花は周りに充満していたメギド粒子に引火し、椿たちを包み込むように辺りを炎へと変えて行く。

同時に、椿の中にあった緊急感は綾瀬の、そしてせつなの期待に応えようとする気持ちへと、気づかぬ内に変化していった。

一瞬の静寂の後、綾瀬は閃光のような速度で剣を振るい始めた。

それまでの攻防は一進一退、膠着状態だった。互いに一歩も譲らず、激しい攻防を繰り広げている。

しかし、綾瀬の猛攻はまるで別人のようだった。怒涛のような攻撃に、椿は徐々に押され始めた。

機内の時間の表示を見る。制限時間まであと4分。

(そうか、もう時間がない…だったらアタシも!)

椿は決意を固め、刀に魔力を込めた。そして、綾瀬の隙を見逃さずに、渾身の一撃を放つ。

「喝!」

椿の刀が綾瀬の剣を弾き飛ばし、大きな隙が生じる。その瞬間、彼女は機体の右足で綾瀬機の腹部を力強く蹴り上げる。

しかし、綾瀬も素早い反応で剣を構えいた方手で椿の攻撃を防御する。

「なっ!」

「私を甘く見るなよ!」

綾瀬の怒声が響き渡る。

今度は逆に、綾瀬が椿の機体腹部に強烈な蹴りを繰り出す。

魔力を込めた一撃は、椿の機体を4メートルも吹き飛ばし、木に激突させる。機内は大きく揺れ、彼女は思わず声を漏らした。

「かっは…へぇ~流石にやるじゃん」

椿は痛みを堪えながら、余裕を装って呟く。

しかし、メインモニターを見ると、綾瀬が機体ごと突進してくるのが見えた。

回避する時間ももうない。一か八かで、私は機体の右腕に魔力を込めてシールドを展開する。

「くっ…!」

綾瀬の剣がシールドを直撃し、機体が大きく後退する。

それでも、綾瀬の猛攻は止まらない。

「…そうか…お前がその気なら…」

綾瀬は剣を構え、渾身の一撃を放つ。

恐らく、これで決着をつけようというのだろう。

椿は機体の腰を低くし、刀を後へと向け、刀身を地面と水平にやや下に向ける。まるで綾瀬の問いに答えるようにして・・・

静寂が戦場を包み込む。燃え盛る木々の音だけが、鼓動のように響き渡る。

椿は機体の右足で地面を蹴り、全速力で綾瀬に突撃する。

綾瀬もまた、負けじと全速力でこちらへ向かってくる。

ついに間合いがゼロになった瞬間、綾瀬は剣を振りかぶり、渾身の一撃を繰り出す。

椿は刀身を上にして、綾瀬の機体の下へ潜り込む。

そして、全身の魔力を刀身に込め、両腕に高速術式を起動させる。

綾瀬の剣が振り下ろされる瞬間、私は刀身を稲妻のような速度で振り上げ、綾瀬機の両腕を切断、切り飛ばされた両腕と剣は高く舞い上がり、地面に突刺さった。

同時に、試合終了を告げるブザー音が響き渡り、勝敗が表示され、勝利が自分である事を知る

椿は安堵の溜息を漏らし、椿はコックピットを開くと、綾瀬もまた、コックピットを開けていた。

目が合うと、綾瀬は一瞬だけ椿を睨みつける。

しかし、すぐに微笑みへと変わり、椿もそれに応えて微笑む。

突如、耳元でせつなからの通信音が鳴り響く。慌てて指をスライドさせ仮想CPを開くと、呆れたように微笑む彼女の姿が映し出された。

「随分と無茶したわね、あんた」

「勝てたから良いだろ、それにお前も対外たけどな」

「…うるさいわよ」

せつなは頬を赤らめ、照れ隠しのように声を弾ませる。

「まあ、お互い勝てた事だしな…次回も必ず勝とうな!」

自信に満ちた笑顔で拳を突き出すせつな。画面越しでも、その熱い想いが伝わってくる。

歓喜と悔しさ、二つの感情が渦巻く会場。それはまるで、学生たちの青春そのものだったかも知れない。




しかし戦争の影が静かに彼女たちに迫っていた。

西暦2142年7月4日、日本時間午後4時30分の事だった・・・















突如訪れた!帝国軍の爆撃機による空襲‼️2人は取り残さ一人の女の子の救出へと向かう!しかしそれは容易なものではなかった‼️


  次回蒼空のヴァルキリー第4話「走れ私たち❗️」

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