第2話 焼けつく程に手を伸ばせ!

 そんな二人の思惑がある中、試合に臨む生徒たちは、意気揚々としていた。北側には1組の小隊が、南側には2組の小隊が6機ずつ、それぞれ配置され、一方、観戦する生徒たちは、機内で仮想PCを展開し、緊張と期待に胸を膨らませていた。試合の興奮が最高潮に達しようとしていた。

そして、合図とともに試合が開始された。瞬く間に、訓練場の殺風景な壁からポリゴンに変化し、まるで樹海のような密林へと変貌した。その美しさと壮絶さが、一体となって生徒たちを包み込む。

「制限時間は20分!隊長機を撃破するか、全滅させることが勝利条件だ!時間内に勝敗が決まらない場合は、倒した機数で判定する!さあ、始めよう!」

 教官の声が響き渡り、小隊は行動を開始する。まず初めに動いたのは1組の小隊だった。

 まず初めに動いたのは1組の小隊だった。2つに分割された。前衛部隊は敵の領域へと侵入し、情報を収集しながら敵の掃討を図る使命に就いた。隊長機とその護衛2機からなる後衛部隊は、司令部の要としての役割を担いつつ、戦局を見守り、戦友たちの安全を確保する使命に励んでいた。前進が始まり、最前線の3機は巧みに大木や岩に身を隠し、まるで森そのものと一体化しているかのようだった。彼らは幅広い4メートルの間隔を保ちながら、熟練の動きで密林地帯を進んでいった。木々の間から、彼らの眼は鋭く状況を見極め、周囲の警戒を怠ることはなかった。しかし、もう2組の小隊は静かに佇んでいた。彼らの足取りは一歩たりとも動かない。

(うん〜前衛部隊はもう少しで、相手と接触する時間だな、しかし何故奴らは動かない…)

 1組の小隊隊長の男子生徒が彼らの微動になしない様子に一抹の不安を覚え始めた。

「前衛部隊へ!両機の2機は端へ!俺の両機も向けるそれと合流せよ、俺も前衛部隊長と合流し、3方向から前進。相手の両機を排除し隊長機を叩く!以上」

 命令を下した、隊長機と共にいた。両機は隊長機は前衛部隊の部隊長機と接触、接触を確認した両機は二手に分かれ前衛の二機との合流を目指した。

 ーその時だった。

「ふん!総員!火炎術式展開!」

 二組の小隊隊長機の命令の元、全機が右手を前に掲げると、赤い魔法陣が展開され始めた。

 アーマードギアの動力は居ずもがな魔力である。そんな魔力は常に機体の中を人間の血液のように循環している。そしてその魔力を一か所に集中させる事でその部分を強化したり、もしくは彼らのように術式を展開出来る。なおこれが確立されたのは、彼らが乗る一世代前の機体からである。

「さあ〜奴らを石器時代に戻してやれ!火炎放射術式!総員!放射ー!」

 掛け声の元、魔法陣を展開している6機から巨大な火炎が放たれ、密林を包み込み、前進していた1組の小隊はその火炎をもろに受け行動不能となり、密林も一瞬にして灰になった。なお魔法陣から放たれる術式の威力はエンジン出力と比例する。出力が高ければ高い程に高威力の攻撃を繰り出せる。

『そこまで!勝者・・・2組小隊!』

 勝利者を告げるアナウンスと共に、その上では勝敗の結果が表示されている。

 観戦していた多くの生徒がこの結果に歓声を上げる中、ただ一人教官のみが頑な表情でその結果を見つめる。

「よくやった!だがもしこれが実戦ならお前たちは確実に戦死する!何故か分かるか?」

 教官が勝者2組の生徒たちに説いた。しかし彼は答えなかった。むしろ答えたくなかった。

「知っての事だと思うが!「アーマードギア」は魔力を動力としている。当然それだけの術式を使えば、魔力を多く消費する事になる。もし仮に敵の中でそんな事をしてみろ!ほとんどの魔力を使い果たし、機能を失った「アーマードギア」など・・・ただのデカい的だ!お前たちもそうなりたいのか?答ええろ!」

 教官は彼らに視線を向け、怒鳴り睨み付ける。

「いっいいえ・・・」

 あんなに傲慢にも勝利を収めた。2組の小隊の隊長は怯える声で答える。

「ならば二度そんな真似はするな良いな!」

 厳しい教官の叱咤が轟き渡った後、1組と2組は激闘を交わすために観戦場から戦場へと足を運んだ。

 そして、教官の視線が観戦席から離れるや、彼の口から次なる試合の始まりを告げる声が響き渡る。                     

「さあ、次の試合だ!即座に整列せよ!」

 教官の命令に応え、新たな訓練試合に臨む生徒たちが、次々と観戦場から離れて行った。そしてその中には、せつなも含まれていた。しかしその移動の途中で、機内に備わった仮想モニターが突如として開き、彼女の視線を引き寄せた。そのモニターには、椿の姿が浮かび上がっていた。

「力を出し切って勝ってみせろよ!これはアタシからの応援メッセージだからな!」

椿の声が響くと、せつなは微笑みながらも、内なる緊張が解けていくのを感じる。

「当然のことよ!きっちりと私の活躍を見届けなさい!」

彼女は自信に満ちた表情で応じる。

「期待してるぜ!」

通信が途切れると、せつなは「よし!」と自らを奮い立たせ、気迫に満ちた顔つきで訓練所へ向かった。そして、1組と2組の第2小隊は整然と整列し、その中にはせつなの姿だけでなく、彼女が嫌悪する岸桐涼介の姿も見受けられた。

(せつな・・・必ず、君を・・・僕のものに・・・)

(絶対に・・・負けはしない!)

そして、第二の試合が幕を開けました。せつなは行動を開始しようとしたその瞬間、隊長である雪野居雪から通信が入り、急いで通信モニターを展開する。

「みんな、聞いて!私に良い作戦があるの!」

「どんな作戦なの?」

せつなの疑問に答えるように、雪野居は淡々と小隊メンバー6人に説明を始めた。その説明が終わると、せつなを含む三機のアーマードギアに、ビー玉サイズの球体4つが渡された。そして、再び行動を開始した。

最初は前回の試合と同じように見えたが、今回はせつなたちの小隊は前の試合とは少し違った要素を加えた。具体的には、各々が直進するのではなく、雪野居から渡された4つの球体をランダムに落としながら移動した。

「こちらせつな!y軸方向に探知機配置完了!」

「同じくx軸1方向、設置完了!」

「こちらx軸2方向も配置完了!」

この報告が、隊長機を守る両機に伝えられ、雪野居にも当然伝えられた。

「了解!作戦フェイズ2に移行!全員、デバイスを開いて!相手の射程に入る前に終わらせるわよ!」

雪野居の命令に従い、小隊は授業で使ったことのある仮想PCを展開し、プログラムの入力を始める。

 キーボードの画面には、相手の前衛部隊のメインカメラに相当する顔の部分が表示される。

「相手がこちらを射程に収めるまで、あと3分…」

小隊の一人が報告すると、せつなたちは焦りを感じ、キーボードを打つ速度を上げた。しかし、ただ一人、隊長の雪野居だけは冷静さを保ち、正確にコードを入力し続ける。

(焦ってはだめ… 焦らずに急いで… 正確に!)

「射程内まであと40秒!」

 その報告を聞いた瞬間、全員が同時にキーボードのエンターキーを押した。

 1組がエンターキーを押したと同じ頃、相手も密林というホバリング移動ができない中を慎重に進んでいた。しかし突然メインスクリーンに一瞬、ノイズのようなものが走る。

「なんだ今の?」

『どうした?』

『どうかされせまして?』

 2組小隊の前衛の一人の男子生徒が疑問を感じ、声を漏らすと、その通信を聞いた両機の男子生徒と女子生徒が反応した。しかし二人の反応を見る限りでは、先のノイズに疑問を呈している様子はない。

『どうした? なにかトラブルか?』

 隊長である岸桐もその生徒の様子に気がついたのか通信で声を掛ける。

「いっいいえ問題ありません!」

 生徒は岸桐に迷惑は掛けまいと、即座に嘘を付く。

『そうか・・・ではそのまま前進を続行せよ!』

「了解!」

 通信を終えた岸桐は何かを察したのか頬を少し上げ、微笑む。

『岸桐様!なにがあったのですか?』

「あったから笑っているんだ!フハハハ・・・楽しませてくれる」

 岸桐の不気味な笑いをよそに彼の前衛部隊は前進を続けていた。

 その瞬間、彼らの前方を一発の弾丸が疾風のように駆け抜け、その後に続くように無数の弾丸が大粒の雨となって降り注いだ。三機の中の一機が猛烈な砲火に襲われ、行動不能の判定を受ける。

「どうしてこうなったんだ…」

「何が起きていますの!」

 彼らは突如として訪れた銃火に取り乱した。しかし、なぜこうなったのか、その状況を理解しようとする余裕はなかったほどだ。

そして、少しだけ冷静な判断力を取り戻した時、彼らは気づく。

「まさか…奴ら!」

「メインモニターに何かとやりましたわね!」

 彼らは遂に真相を理解した。彼らのメインモニターは、試合開始直後にせつなたちによって改ざんされていたのだ。

 メインモニターの改ざん・・・それは機体の目を奪うも同義である。ならレーダーを見れば良いのでは?しかしレーダーもメインモニターと同じシステムで運用されている。第五世代型の欠陥の一つでもある。しかもせつなたちはこちらの位置を完全に把握しているようでもある。

 そして彼らは混乱の中反撃を行う。

 風雲急を告げる2組の小隊。混沌とした戦場の中、せつなは迫りくる敵に弾丸をぶち込んでいった。

せつなは優雅に双銃を手に取り、左右に交互に三発ずつ放ちながら、仲間たちもAKに似た突撃銃で反撃に出る。

しっかりとしたリーダーシップで二機の仲間に指示を送りながら、敵陣に猛攻を仕掛けていく。

そして、弾薬が尽きると、せつなは木々に隠れて、機体の腕部分に格納されている弾倉を巧みに二丁の銃に装填する。                「よし!二人共!援護射撃、お願い!相手の視界を奪ったとは言え。弾幕で制圧して頂戴!」

「「了解!」」

仲間たちは迅速に応じる。

せつなは深く深呼吸をし、決意の表情を浮かべる。

「私のターン!」

 気合い十分、せつなは操縦桿を前に突き出し、敵陣地に向けて突撃を開始した。

 先に設置した探知機が反応し、連動したレーダーによって、相手の位置が正確に把握された。巧妙な弾幕を縫いながら、ついにせつなは相手の機体に接触した。一瞬の隙も与えず、機体を巧妙にジャンプさせ、相手のメインカメラを容赦なく蹴りつけて粉砕した。さらに、両手に持つ銃を駆使し、左右交互に攻撃を仕掛け、最後には機体の腹部に力強い蹴りを放ち、近くの木々に相手を叩きつけ、行動不能にまで追い込む。

その壮絶な戦いぶりは、まるで体術と銃撃を 緻密に練り上げられたガン=カタのようでもある。

やがて相手は、せつなの圧倒的な力に抗う術もなく、銃口を向けられただけで、その場から撤退を余儀なくされる。

「ふん、意気地なし!隊長!追撃しますか?」

『追撃不要よ!戦場での深追いは死を招くだけよ!』

「・・・了解。」

せつなは少し悔しげな表情を浮かべつつ、相手が去った方向を睨みる。

そんな逃走を図った相手の2組機は木々に一度身を潜め、隊長の岸桐に連絡を取る。

「隊長!申し訳ございません!相手を侮っていました!撤退のご許可を」

連絡を受けた岸桐だったが反応は意外なほど冷静だった。微笑みながら答える。

「構わんよ、それにそこに居るのはお前だけだろ?数的にも不利だ、ここは一時撤退し戦局を立て直す」

 そして戦況を冷静に判断し、撤退を命じる。そして、撤退の命令と共に新たな指令が下る。

「全機!グレネードランチャー発射用意チャフ魔動弾装填!目標!森林上空!構え!」

 岸桐の命令に従い、周囲の二機はチャフを装填し、グレネードランチャーを仰ぎ向ける。

「撃て!」

 その号令と共に、グレネードランチャーから凄まじい轟音と共に弾頭が放たれ、大きな放物線を描きながら前進をせつなたちの周囲に着弾する。

「これは…」

「不発弾かしら?」

 せつなと雪野居が疑問を呈したが、その疑念は的中している。

 砲弾や弾頭は通常、着弾と同時に爆発し、敵に被害を与えるためのものである。爆弾は直接的な打撃が役目であり、その効果は爆発による衝撃や熱によってもたらされる。

 しかしその後、突如として弾頭が爆発し、同時に白い霧が立ちこめた。

(まさか…遅延信管!)

遅延信管とは、目標に着弾した瞬間からタイマーを作動させ、一定の時間が経過した後に爆発する装置だ。

せつなたちはこの遅延信管の可能性に気付かず、混乱を来たしてしまう。しかもその霧にはチャフの術式が掛けられており、金属破でなくても通常のチャフと同様に効果を来す。その影響で、レーダーや他の電子機器が故障し、通信もメインモニターも使用不能になり、目と耳を奪われたも同然の状態になった。しかもまだ撤退中であった味方が居る中での決行である。

この結果に岸桐は再び今度は高らかに命じる。

「総員!グレネードランチャーに魔動火炎弾装填!火炎範囲2キロメートル!装填完了次第、各自発砲!」

 その号令に従い、二機の機体が装填を終えると、霧が広がった地点を狙い撃ちし始めた。せつなたちの周囲には再び遅延信管式の弾が降り注ぎ始めた。

降り注ぐ弾は各所で爆発し、その熱が霧に引火し、瞬く間にせつなたちの周囲を炎の海に変えた。混乱の中、せつなたちの小隊は次々と行動不能に陥り、ついにはせつなと共に行動していた両機も爆風に巻き込まれ、動けなくなってしまった。しかも味方である機もまき沿いにして。                        「さすがです、岸桐様!霧にメギド粒子を混ぜていたなんて」


メギド粒子──それは非常に引火性の高い粒子だ。たった一本のマッチの火でも周囲を焼き払ってしまうほどの危険な物質だ。通常は敵味方の重火器を封じるために使われ、「アーマードギア」が使う剣や鎌、ランスなどの武器を用いて近接戦闘に持ち込むためのものだが、近年では装薬、つまり火薬の一種としても用いられるようになった。


(くっ・・・どうしたら良いのよ…)

せつなは混乱しながらも周囲を見回す。しかし、メインモニターは相変わらずノイズが強く、全く役に立たない。通信も不可能で、もはや手を打つすべがないと思ったその瞬間──。

(そうだ…あれなら!)

突如として、せつなは思いついたように動かせるデバイスを隅々まで探り始めた。

(あった!少し危険だけど…)

心を落ち着かせながら、せつなはそのスイッチを押すと、機体の頭部にあるライトが周囲を青く照らし出す。

未だに猛威を振るう敵の攻撃の中、一か八かの賭けに出る。光を隊長機のいる方向へ向け、チカチカと点滅させる。

せつなが照らした。その明かりに、雪野居が気づいた。メインモニターは相変わらずノイズにまみれており、最初は気のせいかと思ったが、よく見れば、せつなの機体が光を放っているのが見える。

「あれは…せつなさんからの…発光信号!」

雪野居は喜びを隠せず、声を上げた。動けるのは自分を含め、わずか三機。他の三機は混乱の中、攻撃に耐えかねて行動不能に陥っていた。

 そして、雪野居はその発光信号を解読し始めた。モールス信号の・とーが光の点滅で表現されているため、読み取ることができる。

「なるほど…分かったわ!」

解読した雪野居は、返信の信号をせつなに送り返す。

せつなもそれを受けて、深い呼吸をし、心を落ち着かせる。

「ここからは…私のターン!」

せつなたちの反撃が幕を開ける。



 時は同じく、岸桐は機内で静かにレーダーを見つめていた。彼の眼差しは熱く、熱心に敵の位置を追い求めていた。

「どうしたのですか、岸桐様?」

 岸桐の部下である者が、その静かな雰囲気に気づき、通信を開いた。

「ううん、何でもないさ。どうやら彼女たちは反撃の気配を見せているみたいだ」

「まさか、ここからどう立て直すつもりなんでしょうか?」

「さあね…でも、なんだか面白くなってきたじゃないか? ひいき続き攻撃は続行!試合終了のまであと10分・・・それまで続けろ!」

「はっ!了解しました!」

 通信を終えると、岸桐はにやりと微笑んだ。

「それでいいんだ…さあ、楽しませてくれよ、東郷せつな…」

 再び、岸桐は楽しそうにレーダーを見つめ始める。

「では全機!引き続き攻撃を続行!撃ちまくれ!」

 岸桐の部下たちはその言葉通り、撃てるだけの弾を撃っている。右から順番に発射された弾丸は4つの方物線を描き、着弾、爆発する。そして装填が完了すると、「アーマアーギアに搭載された。超小型のスーパーコンピュータと連動した。グレネードランチャーが自動的に着弾座標を計算し、正確軌道修正の結果が瞬間的に弾きだされ、パイロットはそれを音声入力でデータを認識させ、グレネードランチャーと連動し機体の腕から位置の移動までを自動で行い発射する。

 この連動システムにより大砲工学の知識が無くとも正確な攻撃が可能となっている。






 その頃、二人は粒子が舞い散り、炎が猛烈に燃え盛る場所からの脱出を試み、全力で足を駆け抜ける。

しかし、空中からは連携したレーダーによる容赦ない猛攻が降り注ぐ。息もつかせぬ状況の中、彼らは決死の覚悟で前進する。

「もうすぐ、安全地帯よ!」

「では、一気に行きましょう!」

「ええ!」

「「高速術式、発動!」」

 せつな雪野居と共に声を合わせ、機体の足元に魔法陣を描き、脚部を包み込んだ。すると、二機の脚部が一段と速く動き出し、まるで風のように駆け抜ける。

突然、雪野居は機体の足先にブレーキをかけ、地面に着地した。その様子にせつなも驚きつつ、雪野居から少し離れて立ち止まり、「どうしたの?」と口に出してしまう。

しかし、せつなは雪野居が武器をサブマシンガンからスナイパーライフルに変更している所を見て、彼女の意図を理解し、再び全力で走り出した。

(美味しい役を上げるんだから…絶対に負けないでね、せつな!)

スナイパースコープからせつなが駆る機体の背中を見ながら、雪野居は心の中でそう祈いる。

おそらくはせつなもその事を分かった上で走り出したのだと、雪野居には分っていたし、そしてその権利を差し出した自分は何に徹するべきかも理解している。

 せつはその祈りを感じたのか、今以上に機体の速度を上げる。


 





 時を同じくして居たして、その魔法陣の輝きは岸桐たちの陣地からも見え隠れしていた。

「岸桐様!今のは…」

「ああ、魔法陣の輝きだな。全員!弾頭をメギド粒子と混ぜたチャフに切り替えて!次の弾を装填せよ!」

 命令を受けた両機は急いで、装填した弾頭を抜き、チャフ弾に切り替えようとしたその瞬間、予期せぬ事態が起る。

 訓練用の弾が右の機体の頭部に命中し、次いで腹部へと続けざまに打ち込まれた。機体は激しく揺れ動き、戦闘不能の表示が点灯する。

(これは…狙撃!)

 岸桐の心臓は激しく高鳴り、驚きと恐怖が彼の胸を突き刺す。

「総員!防壁術式展開!」

 岸桐の命令が響くと同時に、左側の機体も同様の運命に見舞われる。

 岸桐は周囲を見回した。しかし、狙撃手の気配はまるでない。レーダーの反応もない。それでも、何かが高速で彼に迫っているのは確かだ。

不敵な笑みを浮かべながら、岸桐は銃口を真正面に向け、迎え撃つ構えを見せる。

「さあ…来い…」

岸桐は胸に秘めた恐怖をぎりぎりまで押さえながら、銃口を前に掲げていた。すると、木々の陰から何かが勢いよく飛び出す。

 彼は手練れの動作でその銃口を向けると、そこにはせつなが駆る「アーマードギア」が立ちはだかる。

 せつなは敏捷にして果敢。岸桐の機体頭部めがけて瞬時に蹴りを放ち、一瞬の隙をつくることに成功。勢い余って右に着地し、左手に構えていた銃を向け、岸桐を睨みつける。

「お前… 東郷せつな!」

「あんたの攻撃は終わり?」

 岸桐は悔し気に岸桐は歯を食いしばる。

「だったら私のターンね!… 文句ある!」

そう宣言し、せつなは岸桐に向かって猛然と突進する。

「おおーありーだぁぁぁぁぁー」

岸桐は声を荒げながらつなが搭乗する機体にグレネードランチャーの銃口を向け、三連連続で弾丸を放つ。

 しかし、せつなは瞬時に機体を操り、巧妙に回避した。左へと反れ、姿勢を下げ、右へと反らせ、弾丸を見事にかわしてみせる。

「武装変更!マシンガン!PPSh-41型!」

岸桐の叫び声が戦場に響くと、グレネードランチャーはまばゆい光を放ち、粒子のように分解された。その後、粒子はまとまりを取り戻し、太めで短い銃身を持つ、トンカチのような形のマシンガンへと変化する。

再び銃口をせつなの機体に向ける岸桐。しかし、その瞬間、岸桐の両機を撃った弾がマシンガンの銃身とマガジンの間に命中し、岸桐の武器は使用不能となる。

 その隙間に、木々の奥で一瞬だけピカッと光るものがあった。岸桐は機体の頭部をその方向に向けると、そこにはスナイパーライフルを構えた雪野居が搭乗する機体の姿があった。

 しばらくすると、その機体はゆっくりと消えていった。正確には、透明になったと言った方がいいかもしれない。

(・・・!光学迷彩術式!だから雪野居がレーダや光学探知にも反応がなかったのか!)

 そう理解したのも束の間。その隙をつかれ、せつなは機体を左に少し傾け、下げ助走を付けて岸桐の機体に蹴りを放った。そして、右に回りながら、左手にある銃で機体の胸部を撃ち抜き、背中を晒した。その際に下から蹴り上げ、機体は宙に舞い上がった。そして、せつなは機体を一回転させる。

「くらいなさい!」

 せつなは叫ぶと機体の右足で岸桐の機体は地面に叩きつけられる。

「やってくれたね・・・東郷せつな!雪野居!」

 岸桐は自らの敗北を受け入れながらも、機体を立て直す。

「降伏しなさい!」

 岸桐のコクピットのメインモニターにせつなの姿が映し出された。どうやら、せつなは岸桐に降伏を促すつもりらしい。

「試合時間も残り、5分よ。おとなしく降伏して」

 岸桐は微かにため息をつきながら、静かに呟いた。しかし、すぐに顔を上げ、微笑みながら言い放つ。

「…この僕が君に対して降伏なるものか!」

「そっ・・・」

せつなの冷たい視線に、岸桐は怒りを向ける。

通信が途切れる。

 岸桐はしばしの沈黙を経て、仮想PCを手に取った。指先でナイフのアイコンを選ぶと、機体の右足脹脛が静かに開き、サバイバルナイフに似た武器が姿を現した。手に握ると、彼は瞬時にCQC(近接戦闘)の構えをとる。

「これで終わりだ!」

言葉と共に、岸桐の機体は疾走を始め、相手に迫る。しかし、せつなは軽やかにその攻撃をかわしてしまった。

 せつなにとって、彼の動きはまるで素人の戯れ言に過ぎず、その姿勢に無理が感じられた。逆にせつなは攻撃をかわした瞬間に、岸桐の機体の肩を掴み、前方に投げ飛ばすと、両手の銃を左右に振りながら攻撃を仕掛けた。試合終了まで残りわずか、銃口は平行に構えられた。

そして、せつなは両手の銃に最大限の魔力を灌注し、頭部のメインカメラも広角から精密な照準レンズに切り替えた。魔力は最大の120パーセントに達する。

「これで、ターンエンド!」

たれた弾丸は強力な魔力に包まれ、岸桐の機体に向かって疾走する。

「防壁術式!展開!」

岸桐も抵抗の意志を込めて、5重の防壁を張り巡らせた。しかし、強力な魔力に纏われた弾丸の前には、それも空しく、最初の3枚はまるで紙を裂くように容易に突破され、最後の2枚も岸桐の意志を押し留めることはできず、ついに突き破られてしまった。機体の頭部に命中した瞬間、行動不能が宣告され、同時にタイムアップの表示が現れる。

『勝者・・・1組!』

 せつな達は見事な逆転勝利を収め、会場は歓喜に包まれた。その瞬間、岸桐は機内でひとり静かに微笑んでいた。

 そして、勝利の瞬間を管理室の窓際で見つめる明と校長そして理恵の姿がそこにある。

(東郷せつな…東郷教授の娘か…)

 深い興味を持ってその姿を観察する校長の視線に、ふとした瞬間、敬意が宿った。

「やるものだな…彼女」

耳元にそっと寄り添うような声が花森に響く。

「気になりますかな?」

校長の問いかけに、明は微笑みながら答える。

「うん…まあ少しな」

 微かな興奮が彼女の心を駆け抜ける。しかし、まだ手元にデータを持つつもりはない。

「もし良ければデータを差し上げますか?」

 そんな申し出に対し、明は少し首を横に振り。

「いや、まだ良い。全ての試合が終わり次第、もらうことにしようか?」

 その判断には彼女自身、まだ決断の時を迎えることができなかった。それは、新型「アーマードギア」の最適なパイロットとしての資質を持つ者を見極める難題だった。

 新型機のパイロットとしての適性を見極めるには、まだ二回戦目の試合の結果だけに頼ることはできない。それは彼女自身が一番良く理解していた事実だ。だからこそ、試合を細心の注意をもって観察し、ふさわしい人材を探し出す必要がある。

 そして花森の言葉に校長は頷き、納得の表情を見せた。その瞬間、三人の視線が窓の向こうに集中する。

せつなは機体のコックピットに当たる胸部を開き、勝利の栄冠を誇らしげに受け止めるように微笑んだ。













                 次回予告










 数々の試合を経て、ついに椿が試合に参加する。相手主席で入学し生徒会副会長を務める。女性「神城綾瀬」。強敵相手に椿は勝つ方法を模索する。一方帝国軍はテニアンから日本へ向け、超重爆撃機を発進させていた・・・





          次回!蒼空のヴァルキリー第3話

           「振りった斬った思い」

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