蒼空のヴァルキリー

蒼本喜十

プロローグ&1話





 西暦2145年4月1日






  太平洋ハワイ沖約200キロ。歴史上類を見ない大海戦が、熾烈を極めていた。

 敵は全長510メートルもの巨躯を誇る戦列艦のような大戦艦中核とする、250隻もの艦隊。 まるで鋼鉄の城塞が海上に浮かんでいるかのようだった。

 対するは、日本の戦艦「大和」を旗艦とする「統合連合艦隊」210隻。 数こそ劣るものの、彼らこそ人類最後の希望を背負って戦場に立っていた。

「榛名!防火区画貫通!なお応戦中!」

 巡洋戦艦「榛名」の艦橋、絶叫とも咆哮とも聞こえる声が響き渡る。しかし、その声は爆風と共に掻き消されていく。

「花森提督・・・本艦はもうダメです・・・。御健闘を・・・!」

 戦艦「フロリダ」の艦長、彼の言葉には、悔しさと無念が滲んでいた。明は、その声を聞きながら、拳を強く握りしめた。掌から、熱い血が滴り落ちる。

「分かった・・・お前たちの犠牲は、決して無駄にしない!」

 明は、力強く決意を叫ぶ。しかし、指揮官や艦の損失は刻一刻と増していく。敵の放つレーザー弾幕は、容赦なく連合艦隊をのみ込んでいく。

 戦列は乱れ、次々と撃沈していく艦船。絶望が、戦場に蔓延していく。 それでも明は、諦めずに戦い続けた。

「こんな所で・・・。敗北する訳には・・・行かない!」

 明はある決断を下す。

「展開中の全艦に打電!現海域より離脱!転進する!取り舵一杯!」

一瞬、周囲は驚きと戸惑いの表情に包まれる。しかし、明の眼差しは決意に満ちていた。

「副司令!復唱はどうした⁉」

 彼女の鋭い声が、副司令を奮い立たせる。

「了解!全艦に打電!これより現海域から離脱!転進する!航海長!取り舵一杯―!」

「了解!取り~舵~一杯!」

 明の決断の下、連合艦隊は最後の力を振り絞り、敵の包囲網を突破しようと試みる。鋼鉄の巨体が唸りを上げ、最後の力を振り絞った。




 





 同時刻、アリューシャン列島沖

 そこには、前代未聞の規模を誇る大艦隊が、ハワイ方面に向けて悠々と進撃していた。

 その数は、約1250隻。先ほどまで出現していた敵艦隊の5倍以上という圧倒的な戦力だ。

「人間どもなど、我ら大ギルディアナ帝国に勝てるはずがない」

 艦長たちは、慢心の笑みを浮かべていた。その慢心は、ただの一隻にとどまらず、全ての艦隊に蔓延していた。さらには、艦隊司令官までもが「ふふふ」と笑みを浮かべていた。

  彼らは、圧倒的な戦力に自信を持ち、勝利を確信していたのだ。

 しかし、その自信は、すぐに打ち砕かれることとなる。

 突然、敵の攻撃が炸裂したのだ。

  一撃で防火区画を貫通された戦艦は、たちまち炎上。ダメージコントロールは機能を喪失し、上部構造物は巨大な炎を上げ、下部は浸水。

  そして、轟音とともに爆沈していった。

  もう一隻の戦艦も、紅い雷に機関部を貫かれ、操舵不能に陥った。

 さらに防火区画が貫通され、浸水。艦はバランスを失い、他の艦船を巻き込みながら補給艦に衝突。

  そして、大きな炎を上げながら撃沈された。

 目の前で繰り広げられる地獄絵に、兵士の一人は震えながら見入っていた。

 恐怖に打ち震え、彼は空を見上げた。

 そこには、赤い光と蒼い光が激しく衝突していた。

 不思議な感覚に襲われながらも、彼はその光が人の形をしていることに気づく。

同時に、硝煙の臭いと炎の熱が、これが夢ではないことを教えてくれた。

 そして、二体の巨大な機械化兵(ロボット)が現れ、兵士たちの頭上を通り過ぎた。

 その直後、灰色の空を埋め尽くすほどの航空機と機械化兵が襲来し、攻撃を開始した。

 雷撃機が投下した魚雷は、兵士たちが乗っていた駆逐艦に命中。

駆逐艦は横転し、兵士たちは海の藻屑と化した。

 辺りは火の海と化し、急降下爆撃を行う機体や機械化兵は、マシンガンやバズーカ砲で容赦なく兵士たちを射撃していた。

しかし、兵士たちの視線は、その中でも蒼い機体と赤い機体の行方を追っていた。

 風を切る音と共に、蒼い機体と赤い機体は空を駆けていた。その機体は、高度な技術が詰まった最新鋭のロボットである。二人の少女が操縦席に座り、

鋼鉄の体を自在に操っていた。

「思った以上にうまくいったわね、椿!」

蒼い機体を操縦する少女が語りかける。

「ああ、でも戦いはこれからだぜ、せつな!」

赤い機体を操縦する少女が答える。

二人は息が合っており、お互いを信頼していた。彼女たちは、二人で敵を倒すことにその命をかけていたのだ。

「ああ!ド派手にやろうぜ!」

椿が叫ぶ。

「オッケー!」

せつなが答える。

二人は、艦隊に向かって降下していった。蒼い機体は、手に持っていたライフル銃のようなものから二丁のリボルバー式の拳銃に形態を変化させ、赤い機体も握り締めた刀に力を籠めた。

 その光景に相当の苛立ちを覚えたのか、メインパネル(メインスクリーン)を見た敵指揮官は荒々し声と共に命じる。

「な~にてる砲撃しゃあがれ!」

「しかしそれでは友軍艦への被害が!もっと間隔を開けてから開始しても!」

「甘ったれたことを言うなー!全艦、砲撃開始だぁー!」

 艦隊司令の無茶苦茶な命令に従い、艦隊は全艦を開始するが、間隔がなく、相手はたったの二機の12メートルのロボットだけだった。どんなに強力な砲火力や対空を備えた艦が多く居ようとも、無意味であると同時に密集した艦隊のために砲撃をすると味方に攻撃が及んでしまう危険性も十分にある。

そんな無茶をしり目に艦隊は一斉に降下する二機に猛烈な対空戦闘を開始した。撃っているのは対空砲や機銃だけでなく、主砲及ぶ副砲までも対空戦闘に用いたのだ。しかし先も述べた通り、艦隊はかなり密に密集しているため、例え実弾でなく光学兵器(レーザー砲の類)だとしても主砲から撃つとそれだけで大きな衝撃波が生まれ、同行状態の艦の対空機銃要員はまともに戦闘が出来ず、無人の自動対空システムも衝撃波で故障が続出し、まともに二機を狙う所か攻撃もできない状態に陥り、対空戦闘の基本である弾幕を張ることもまともに出来ず、ましてや厚くする事も出来なくなってしまった。

 そしてゆっくりと機体が海面に降り立つと、二人の少女は無言で周囲を見回した。彼女たちは、それぞれが持つ武器を手にし、深く息をし、眼つきを厳しくして・・・

「さあ〜覚悟して!」

そう言って、蒼い機体の少女は二丁のリボルバー式拳銃のシングルアクションアーミーを機体の顔(メインカメラ)の前でクロスさせたあと、敵艦に銃口を向けると艦隊の中に突っ込んで行き、一方、赤い機体の少女も握り締めた刀を抜く。

「いざ・・・参る!」

力図良く言い放つと同様に艦隊の中へと突っ込んで行った。

 蒼い機体を操るせつなは近づくミサイルを足で蹴り飛ばし、蹴り飛ばされたミサイルは敵艦の上部構造物などに命中し甚大な被害を逆にもたらす結果になり、また周囲の敵艦の主砲部に弾丸を打走りながら次々に打ち込んで行き、打ち込まれた主砲は弾薬庫に達しているものもあり、弾薬庫から爆発で3基9門の主砲が吹き飛び、艦の前方部が大破し、炎上しながら沈んで行くといった方法で対象して行き。

 紅い機体を操る椿も手に握られている刀で敵艦の主砲部分などの戦闘区画を重点的に切り刻みながら敵艦の戦闘能力を確実に無くした後、紅い雷で周囲の敵艦の上部構造を木っ端微塵に破壊すると行った方法で敵艦に対象して行った。

「やっぱり・・・これじゃあ・・・時間がかかりすぎるわね・・・。」

そう言うと、せつなは自分の搭乗する機体に向かって呟いた。

 すると、突如としてコンピュータの音声が鳴り響く。

「了解。武装形成変更ヲ開始シマス。シングルアクションアーミーカラ連射マスケット銃ヘ変更。」

その瞬間、銃身が伸び、外装が変形し、せつなの手に握られた銃は、シングルアクションアーミーから機械的な連射マスケット銃へと変わる。

「よし!これでいける!」

 せつなは自信に満ちた声を上げ、機体を一気にジャンプさせ、そのまま一回転し、二丁のマスケット銃を艦隊に向けた。そして、引き金を引くと、弾丸が連続して発射される。

 弾丸は砲弾と交差し、爆発が起こった。その爆発は、主砲にも及び、砲弾は爆発に巻き込まれた。そして、砲弾が命中した主砲は爆発し、隣にいた重巡洋艦に主砲が落下した。その結果、艦橋部は壊れ、艦の指揮機能が麻痺し、戦艦と衝突するなどの混乱を引き起こす。

 せつなは再び海面に着地し、機体を横回転させた。そして、マスケット銃を乱射し、周りの艦隊を大破もしくは撃沈させた。

 椿もまた同様に自分の搭乗する機体に向かって呟くと、機械的な巨大な鬼の手のようなものが構築され、さらにその手には巨大な刀が握られてきた。椿が刀を抜くと、    紅い雷光がその刀を纏い、同時に各艦の頭上に紅い魔法陣が展開され、せつなの頭上にも同様の魔法陣が現れる。

 せつなは魔法陣にマスケット銃を向け、一発を打ち込むと、椿が完全に刀を抜くと、彼女たちの搭乗する蒼い機体は紅い機体に背中を合わせた。そして、せつなは指を鳴らし、椿は刀を完全に鞘に納めると、周囲の艦艇は次々と爆発し、たちまち360度の敵艦を全て撃沈した。

炎を上げながら艦が沈んでいく中、二人の少女は背中合わせに立ち、その光景を見つめていた。彼女たちは自らが背負うべき罪を痛感していた。

 そして雲の切れ間から光りが差し込み、まるで二人にスポットライトが当たっているかのようだった。

「これが私たちの役目・・・」

せつなが口を開き。

「この戦いが終わった後も、アタシたちはこの罪を背負い続ける・・・」

椿が続ける。

二人の少女は、その時の瞬間を永遠に記憶に刻み込んだ。彼女たちは、敵を倒すためには自分たちが背負うべき重荷があることを知っていた。しかし、その重荷を背負い続けることが、彼女たちの決意が揺らぐ事はない・・・








1話 真正面から狼煙を上げる!

 


 西暦2142年7月4日、日本国、神奈川県横須賀市。

 海に面した丘の上、21世紀初頭の校舎を思わせる建物が建っている。しかし、その外観は近未来的なデザインで、周囲の自然と調和している。ここは、日本支部国連海軍横須賀士官育成高等学校。次世代の士官を育てる、中高一貫教育機関だ。

高等部1年3組の教室。 中年の先生が、スライドをパネルのような黒板に映し出しながら、熱弁を振るっている。

「さて、約6年前のことだが、ドイツの日系人科学者によって新たなエネルギーが発見された」

 どうやら今日は現代学の授業らしい。生徒たちは、最近の出来事や事象について学び、将来を考える授業だ。今回のテーマは、「魔法力」として知られる一般的なエネルギー、「魔力」についてだった。

 先生は、力強く語り始めた。

「日系人科学者によって発見されたエネルギーは『魔法力』または『魔力』と呼ばれており、人類が知りうるあらゆるエネルギーを超えるもの。核分裂や核融合よりもはるかに膨大なエネルギーだ。そのため、原子力発電などの従来の発電方法は次々と廃止された。

 また、日本では『魔動エンジン』と呼ばれる次世代エンジンの開発にも成功。これにより、自動車や船舶、航空機など、あらゆる乗り物に『魔動エンジン』が採用されるようになった」

 生徒たちは、先生の話を熱心に聞きながら、透明半導体デバイスと呼ばれる、まるで未来のタブレットのような端末に内容を入力していく。しかし、濃いアイスブルーのポニーテールの少女だけは、端末を操作せず、室の窓から青い空を眺めていた。

 少女は青い夏の空を見つめながら、大きな憧れを抱いているような目でただ空を見つめていた。



「東郷!東郷!」

 先生が呼びかるが、東郷は何の反応も示さず、まるで声が届いていないかのように窓の外を見つめ続けた。そこで先生は諦めずにもう一度呼んだ。

「東郷せつな!」

「あっ!はい!」

せつなは驚いた表情を浮かべ、焦りながら立ち上がる。

「「あっはい」とは答えられんぞ!ちゃんと話を聞いていたのか?」

「はい!」

先生は不満げな声で、昨日の授業の一部を抜粋して質問した。どうやら昨日も似たような状況だったようだ。質問の内容しては魔力が具体的に原子力の何倍かというものだった。

「えーと、確か…」

せつなは悩んで居るが、隣の席の少女・・・短い黒髪に赤いメッシを入れている少女「小烏椿」が自分の机で指を小さく小刻みに周囲に聞こえぬように連打していた。

 小烏椿は、せつなの幼馴染であり親友でもあり、同時にライバルでもある存在。

 せつなは最初、椿が何をしているの分からかったが、徐々にその連打に規則性があることに気が付いた。

(もしかして…モールス信号?)

 せつながモールス信号を知っているのはシンプルな理由がある。この学校すなわち軍の士官を育成する教育機関である故、モールス信号は基本中の基本であり、士官学校中等部ではモールス信号の暗記が必須科目とされている。軍人のしかも士官としてモールス信号を読めない、理解できないということは大問題。現代ではあらゆる情報が瞬時に伝わるようになったが、モールス信号は以下の三つの理由から重要視されている。

1.言語に依存せず、国境や言語の壁を超えてコミュニケーションが可能

2.電力効率が高く、デジタル通信において効果的

3.災害時や緊急時に重要な通信手段として利用されているの3つだ。

 せつなはその連打を読み解き、答えを出す。

「約10億2000倍です!」

「よし…分かっていれば良い!座れ」

 先生の指示に従って、せつなは「はい」と答えて席に着く。

 せつなが席に着いた途端

 キン〜コン〜カン〜キン〜コン〜カン〜

 時限終了の授業チャイムが鳴り響く。

「うん?もう時間か・・・午後は『アーマードギア』の操縦訓練だ・・・遅れるなよ〜」

 そう言うと先生は教室を後にし、生徒たちも急ぎ足で食堂に向かった。

「なに〜考えてたんだ?せつな」

「別に・・・なんでもいいでしょう」

 せつなはそう涼し気に答えた。

「ありがとう・・・さっきは助かった・・・」

 せつなは空を向いて呟く。

「なら責めてアタシの顔を向いて言えよ」

椿はどこか呆れげに答える。

「それより私達もっと行きましょう!午後は訓練だし」

「それもそうだな、行こうぜ!」

そう言うと二人は他の生徒たちと共に教室を出る。

廊下は食堂に向かう生徒たちで溢れている。二人は その人混みの中を早足でかき分けながら進んで行く。


 しばらくすると二人は食堂の扉の前まで行き、扉を開けた。そこには同じ一年生以外にも二年生や三年生の先輩方も居る。

また、この士官学校の食堂の天井には仮想テレビが漂っており、日々様々な情報がAIアナウンサー(女性アバター)によって報道されている。

 二人はとりあえず注文を済ませるために注文カウンターへと向かう。

カウンターに付くと、ポニーテールでエプロン姿の美少女が現れた。彼女は突然の登場に驚くことなく、学校の自立型AIだとわかっていた。

 この学校には同じ様なAIがこういった受け付を担当している。なお他の一般校でもこういったAIは数年前から稼働しているらしいが、二人は一般の高校に通っているわけではないので知識として知っているだけだ。

『今日はなにしますか?』

「私は鯖味噌定食、ご飯はえ~と・・・普通で」

「アタシは肉豆腐丼!ご飯大盛で!」

『かしこまりました。直ぐにお作りしますので隣のカウンターへどうぞ。』

 そう言われ、二人は隣のカウンターへ向かうと、注文した。鯖味噌定食と肉豆腐丼を二体のローラで動く自立型ロボットによって運ばれて来た。二人はそのロボットに手をかざすと会計され、支払いを済ませた。この支払い方法はコンビニの無人レジが始まりとされ、数年前からAIやロボット存在がある意味での店員としての役割得るようになった。

 二人は料理を受け取り、海が見える窓側の席を見つけ、そこで食事を取ろをした時。

「おやおや、これはせつなじゃあないか?」

 そうせつなに声を掛けると、三人の男子生徒が二人の前に現れた。

「おい!なんのようだよ?!岸桐涼介!」

その声に答えるように、涼介は軽く笑顔を浮かべていた。岸桐涼介、日本有数の大企業、岸桐グループの会長の孫子で、父親は現在の財務大臣、母親はグループ傘下の企業の会長を務めているという、いわゆる富裕層の出身である。その為将来、この学校を卒業したとしても彼は決して前線に出来る事はない。それはいつもいつも左右に居る柄の悪い男子生徒も同様である。岸桐にいる二人も同じ富裕層ではあるが消して上の立場ではない、その為か左右にいる男子生徒は言わば、虎の威を借る狐そのもの

「僕はせつなと話しをするだよ、君は少し黙ってもらえるかな?」

椿は岸桐の上から目線の言い方に腹立たしさを覚えた。無論これは初めてではない。入学して以降、岸桐はしつこく嫌がるせつなに声を掛けてはナンパをし始め、彼からしてみれば椿はせつなに纏わり付く、虫も同然で椿を邪魔な存在として認識しており、椿と岸桐が仲良くなる事はない。当然せつなも自身の親友をその様な扱いするものと仲良くしたい訳もなく、岸桐は恋人関係を望んでいる様であったが、そんなも望むはずもないのに勝手に期待され、迷惑この得ない気持ちである。

「前の言ったけど私は貴方と付き合う気はこれっぽっちもないわ!当たるなら他にしてくれるかしら?」

「本当にこのぼくと付き合う気はないのかい?僕と付き合えば将来的、地位も名声も簡単に手に入るだ!なのに何故?」

「でもそれは貴方のものではないでしよう?親の権威を笠に着るお坊っちゃん!」

 そう言うと二人はその男たちを避けるようにして席に着く。

 すると左右の召使いの様な男子生徒が不満を漏らす。

「なんですか?あの無礼な女は!」

「全く!庶民の分際で岸桐様に無礼な物言いを!あの隣の女もだ!」

 二人が怒りをあらわにするのに対し、当の本人は冷静だった。しかしその表情の裏で、彼は怪しい企みを巡らしていた。無論左右の二人はその事に気がついてはいない。

「「いただきます!」」

 二人はまるで何事もなかった様に食事を始める。せつなはゆっくりと椿がかきこむ様に食べる。そんな最中お昼のニュースが始まり、AIアナウンサーが話し始めた。

『お昼のニュースを申し上げます。昨日 日本時間午前8時40分頃から始まった。帝国軍によるフランスのコルシカ島への上陸作戦ですが、先程速報で帝国がコルシカ島を占領下置いたとフランス政府より発表がありました。政府によると帝国軍はコルシカ島を完全に占領し、これにより北イタリアなどに帝国軍の超重爆撃機が飛来する可能性を指摘イタリア政府に充分な注意をする様呼びかけて居ます。現在もフランスの国連軍はオルレア付近で激しい戦闘を繰り返しており、戦局も常に防衛線を突破されるかわからない状況が続いておりおります。またドイツ首脳部は北イタリアに新戦線が構築されるのではないかと危惧しています。』

 そんなニュースをこの場に居る生徒及び先生たちは食事をしながらも真剣な表情でそのニュースを聞いていた。勿論二人もその例外ではない、例外ではむしろ居られない。

「帝国軍がコルシカ島を・・・ね・・・確かにコルシカ島からならヨーロッパのほとんどは爆撃可能範囲に入るな」

「それだけじゃあないわ、北アフリカ周辺も可能範囲に入るわよ、いくら地中海があるとは言え、相手は高度2万メートルを飛べる機体よ!それくらいも出来るわよ」

 そうニュースで報道されている通り、現在二人がいる世界は帝国との戦争状態にある。始まりは今から4年前にさかのぼる。


 西暦2139年、平凡な一日が突如として終わる。世界中に衝撃が走る。

「我々!帝聖大ギルディアナ帝国は、人類全土の返還を要求する!これが否定された場合は、宣戦布告を行うものである」

 突如として現れた未知の帝国、ギルディアナ。その要求は、まるで悪夢のようだった。しかし、世界はこれを笑い飛ばす。そんな馬鹿な、と。

 だが、彼らは本気だった。

 翌日から、ギルディアナ帝国軍は、まるでどこからともなく現れたかのように、世界各地に現れる。圧倒的な軍事力で、アメリカ太平洋艦隊を粉砕。ハワイ、ミッドウェー島を次々と占領していく。

 その勢いはとどまることを知らない。インド、中東、ヨーロッパへと、まるで火が燃え広がるように帝国の勢力は拡大していく。

 特に、ヨーロッパ戦線は凄惨だった。黒海艦隊を壊滅させ、セバストポリを陥落。ウクライナ、そしてフランスへと侵攻していく。

 フランスでは、伝説的な将軍、ジャンヌ・ダルク14世が、帝国軍を迎え撃つ。激しい戦いの末、フランスはパリの陥落を阻止する。しかし、ヨーロッパはすでに帝国の影に覆われていた。

 2140年、帝国はイベリア半島を制圧。そして、フランスへと侵攻を再開する。

 世界は、かつてない危機に直面していた。


 一方、日本周辺では、帝国軍が前年6月にマリアナ諸島へ侵攻。グアム島、ロタ島、テニアン島、サイパン島を全土制圧し、サイパン島とテニアン島には飛行場を整備。日夜、日本、韓国、中国、極東ロシア、フィリピンへの無差別爆撃を繰り返していた。

 それが現実まで続く彼女たちが居る世界の実状である。平和とはほとんど遠いものであり、二人を始め、ここにいる人々はいつかは一軍人として帝国と戦場で戦う事になる。または既に戦いそれぞれ理由から戦場を退き、こういった育成教育に力を注いでいる人たちも居る。ちなみにせつなと椿は前者に当たる。そのため位は既に持っている階級は二人とも准尉で、ここに居る生徒の大半はこの位はを持っている。

 無論先ほど彼女たちが言った事は決して出任せではない、先の太平洋戦争時に日本本土を爆撃したアメリカの超重爆撃機B29や1955年から運用が開始され、2046年に退役したB52を例に出してみても、B29の航続距離は9000Km、B52は14,162Kmとかなりのもので、これは仮にテニアンからの日本側に飛んだ場合でも日本含めた東アジアの半分近くはその範囲に入る。

「それに帝国軍が保有しているその超重爆撃機は航続距離24,262Km・・・仮にテニアンから日本側に向かった場合でも 東アジアにある国々の全域がその範囲に入る事になる」

「でもそれはあくまで数値上の話しでしょう?航続距離って言うのは片道距離だから往復距離の場合は含まれていないのよ」

「だからこそ中間基地が必要・・・って訳だな」

 そのニュースを聞いてから、食堂は二人の話しと同様の話題で持ち切りになった。如何せん事によって教育期間が短縮され、明日にでも自分たちは血と硝煙と泥に塗れた戦場で戦う事になるかもしれないのだから。

 そんな事を話し、思い耽りながらも二人は昼のひと時を過ごした。



 


 同時刻 横須賀。海と空を鮮やかに染める夕陽の中、一台の黒塗り車が静かに走り抜けていく。その車内は、高級車とは打って変わって質素な装い。しかし、そこに座る人物たちは、決して平凡な存在ではない。

窓辺に腰掛けるのは、漆黒の髪をなびかせる黒髪の少女。白い軍服(二種軍装)を凛々しく着こなし、鋭い眼光で遠くを見つめている。まるで、漆黒の疾風を体現するかのような存在だ。

 その隣には、白銀の髪を短くまとめた白髪の少女が静かに佇む。黒髪の少女とは対照的に、柔和な雰囲気を漂わせている。しかし、その瞳には、知性と強さを秘めた光が宿っている。

 二人は、年齢二十歳前後。それぞれが持つ独特なオーラは、車内を静寂で包み込んでいた。

「間もなく、日本支部国連海軍横須賀士官育成高等学校に到着します。」

 若い男性運転手が、後部座席の二人に声を掛ける。彼らの目的地は、まさにこの士官学校だった。

車窓を流れる景色は、徐々に横須賀港の街並みへと変化していく。高層ビル群、活気あふれる商店街、そして海に浮かぶ艦船。それぞれの風景が、二人の旅路を彩る。

 黒髪の少女は、窓の外を眺めながら、何かを思案している様子。一方、白髪の少女は、仮想タブレットを手に取り、今日の予定を再確認している。

 薄暗い車内、黒髪の女性・花森明上級大将は、窓の外を流れる景色に見向きもせず、深い思索に耽っていた。その瞳には、鋼鉄のような強さと、揺るぎない使命感が宿っていた。一方、白髪の女性・村田理恵少佐は、冷静沈着な佇まいで、次々と確認すべき事項を処理していく。その様子は、まるで熟練の指揮官のようであった。

「はい、閣下。そろそろ到着です。」

 村田少佐の静かな声が、花森大将の思考を断ち切る。大将はゆっくりと視線を窓から車内へと移し、村田少佐に穏やかな微笑みを向けた。しかし、その微笑みは一瞬にして消え、厳しい表情へと変化する。

「それにしても、光栄の限りです。あの小笠原諸島沖海戦の英雄を、こうして送り届けることができるとはね。」

 村田少佐の言葉に、大将はどこか嫌悪感を滲ませたような声で答える。その反応に気づいた村田少佐は、慌てて謝罪の言葉を口にする。

「申し訳ございません、閣下!」

 大将は再び微笑みを浮かべ、村田少佐を安心させるように頷いた。

「いや、気にする必要はない。むしろ、私が不快な反応をしてしまったようだ。」

 その一言で、村田少佐の緊張はほぐれた。

 車はゆっくりと速度を落とし、学校の校門前に到着する。

「到着しました。」

 村田少佐が運転手に告げると、大将は静かに車から降り立った。校門の前には、少し緑がかった軍服に身を包んだ、30代後半の男性が待っていた。その男性は、大将に敬礼をすると、力強い声で挨拶する。

「お待ちしておりました!統合連合艦隊司令長官 花森明上級大将閣下、そして副官の村田理恵少佐閣下!」

大将は男性に軽く会釈を返し、穏やかな声で答えた。

「こちらこそ、出迎えの労をとらせてしまい申し訳ない。私のわがままを聞いてくれてありがとう。」

黒髪ロングの髪をなびかせ、凛とした佇まいで立つ花森明。その姿は、まさに国連海軍の象徴であった。

 そして去年の11月、日本本土への上陸を目的とした帝国艦隊を小笠原諸島沖にて奇策と東郷平八郎元帥以来のT字戦法により帝国艦隊を壊滅させた。後に小笠原諸島沖海戦と呼ばれる戦いにおいて、明自身も左腕を失うなどの重症を負いながらも、生還しなおかつ味方にほとんど被害を出さすに撃退した事から明を「小笠原の英雄」や「小笠原の東郷」とも呼ばれる事になる。

「いいえ、我々も生徒の実力を是非御二方にご覧いただきたいと思っておりましたので」

「そうか・・・行こうか」

「はい」

 そしてその副官を務める。村田理恵少佐 士官学校からの友人で明からは「最も頼れる友」と評して、明は自身の半身の様な存在で理恵もそれを嬉しく思っている。小笠原諸島沖海戦でも明と共に参加し、明が負傷した際に変わらに指揮を取った。艦隊司令が指揮を出来なくなった時、艦隊が混乱なく行動出来たのは理恵の実績と言える。

「では、こちらへ何分、他の教師や生徒には極秘ですから」

 そう言うと校長は二人を校舎の裏口に案内した。









 同じ頃、同校の地下そこは広い白く塗装された鉄で覆われた横縦1200メートン高さ、10.85メートルの空間とその奥には全長9メートのロボットがまるで連結ディスプレイベースの様な所に立った状態で格納のされているしかもここに居る生徒分、つまり64機、しかしこれは本当一部、全生徒や見本を先生たちも含めれば100機以上は当然くだらない。

 そんな空間に人の女性が台の上に立ち、パイロットスーツを着た生徒たちに話してをしている。どうやら教官のようなだ。

「諸君等も知っての通り、帝国軍は今や世界の陸地及び海のほとんどを支柱に収めている事は所知の上と思う。しかも各戦線は帝国優勢で膠着だ!そうなったのも帝国軍が圧倒的物量と火力を持っているからとも言える。しかし帝国軍が最も優勢で居られ、これだけの支配圏を確立したのは一重に帝国の人型機動兵器「オートクルス」による所が大きい!」

 「オートクルス」・・・帝国が開戦初頭より使用していた全長13メートルの巨大な人型ロボットだ。人型であるだけあって戦闘力は通常の兵器よりも高く、加えて汎用性も極めて高った。何よりホバリング移動の機動性はとても良く、足裏に反重力術式が施してある為、少し浮いて居る。その為どんなにどんな密林でも、海上でも戦闘可能上にほとんど機動性を損なう事はない。更に格納式の魔動エンジンの噴射機があり、どんなに険しい山脈も超える事が可能だ。特に去年の帝国軍によるフランス本土へ侵攻する為、ピレネー山脈を越えて来た。それが出来たのはその機能があったらだと言える。

「そして・・・諸君らが搭乗するのがこの我々国連軍が開発した汎用人型機動兵器AD77「アーマードギア」その第5世代型だ」

 「アーマードギア」それが国連軍が帝国の対オートクルスに開発された人型兵器。先も述べた通り、帝国の優勢には「オートクルス」の存在が必要不可欠なのは明白。なんせ歩兵よりも攻撃力があるのは当然である以外、戦車や戦闘機よりもその機動力も戦術も汎用性も根本的に違い過ぎる。よって既存の兵器では対抗出来ない。出来たとしても多くの被害と引き換えに僅かな時間稼ぎにか過ぎないのは目に見えていた。

 そこで国連軍は鹵獲した。「オートクルス」徹底的に解析し、2年半の歳月を掛け完全させたのが、女性教官が話した「アーマードギア」だ。つまる所「アーマードギア」は帝国の「オートクルス」を人類の技術で製作した。言わばコピー品に過ぎないという事でもある。

 コピー品ある為、性能は勿論の事、当然、戦略的及び戦術的使い方もほとんど言って差し支えないものが今現在「第1世代型汎用人型戦術機動兵器AD77アーマードギア」と呼ばれる機体である。

 先も述べた様にあらゆる面で帝国の「オートクルス」と同じである為に、初戦こそは善戦するものの、人型兵器に関する戦略を含めたノウハウは当然の事ながら、帝国の方が圧倒的に上であり、直ぐに対策され、今では対「アーマードギア」戦の兵器も開発されている。国連も負けじと次世代機を開発し、現在まで第6世代型まで製作ており、学校にあるのはその一世代前のものになる。しかし帝国もそれを凌ぐ「オートクルス」や対「アーマードギア」兵器を開発する。までイタチごっこの様な状態に国連と帝国はなっており、現在の様な膠着状態になり、終わりの見ないな戦いになっている。

「諸君はこれを初めて本機に乗る際にも聞いたと思うが念の為に今一度説明した。これよりこの区域にて戦闘訓練を始める。今回のバーチャルステージとなるのは険しい岩場などが多いの密林地帯となる!なお訓練内容は1組と2組で敵味方にそれぞれ別れ、クラス事に6機の小隊で戦う!制限時間内に相手の隊長機もしくは相手機を全機行動不能にさせたほう勝利となる!総員!直ちに自身の搭乗機に乗り込め!」

「「了解!」」

 女性教官の厳かな号令が響き渡ると、生徒たちは一斉に身を起こし、格納庫へと駆け出した。一段面に機体がひしめくその場所では、彼らは機体の前まで駆け上がり、固定エレベーターを利用してコックピットのある胸元まで昇っていった。

 東郷せつなも、目的地であるコックピットに到着すると、高らかに認証コードを唱えた。

「SC89、東郷せつな!」

 彼女の声が響くと、胸部の搭乗口が開き、彼女はそのまま優雅にコックピットに乗り込んだと同時に機内の前方部にノイズが走りしばらくすると、周囲の様子が見えるようになり、機内は窓で囲まれたような状態になったこれが機体の顔に当たるメインカメラから投影されるメインスクリーンである。 他の生徒たちも、同様の方法で機体へと搭乗していく。搭乗の際には、厳密な本人確認が必要とされ、音声認証と機体のAIによる顔や目の認証が行われるのだ。

「よし!全員搭乗したな!」

「これより小隊別けを行う!呼ばれたものから左右に並べ!」

 この場に居る生徒全員が搭乗したのを確認するといよいよ訓練が開始されようとしていた。

「まず!1年1組!伊藤小雪!」

「はい、」

「お前は左側だ!」

「続いて2組!相川忍!」

「はい!」

「お前は右側だ!」

 教官の指示で生徒たちは機体を操縦しながら、左右に6機づつ並んで行く、1段上との生徒は機体の噴射を使い、ゆっくりと地面におり並んだ。

 そんな中せつなはまた一人考えて事をしていた。

(今回のステージは密林地帯・・・私の特な戦い方には向かない場所・・・さて、どう戦おうかしら?)

「東郷せつな...東郷せつな!」

「はっい!」

 せつなは、思考に耽っていたために周囲の騒音が届かず、まるで午前の授業のように時を過ごしていた。

「一体何をやっているんだ!東郷せつな!早くそこに行け!左側に整列しろ!」

「承知しました!」

 教官の怒声に驚きつつも、せつなはその場から離れ、左側へと疾走した。

 その様子を見た椿は少し微笑んだ。

 そんな事もがありながらも、せつなは整列し、教官も全員が揃った事を確認し、仮想PCを診て名前を読み上げる。

「これより小隊編成に入る!まずは1組からだ!呼ばれた者は一歩前へ!1年1組!伊藤小雪!」

「はい!」

「続けて!加藤建次!」

「はい!」

 こうしてまず1組の小隊の内、最初の小隊が編成された。小隊は本来10機以上で編成されるものだが、この訓練に関しては5〜6機の小隊で編成される事になってる。

 理由としては少数でのスタンドスプレーを期待していた事に他ならない。即ち少数の急増部隊でも個人がその能力を発揮し、そこからチームワークを高めるそれが本校の訓練における、方針であるためだ。

 そして対戦相手となる2組からも小隊が編成され始めた。

 対戦相手となる2組は主に政治家や富裕層の息子などが多かった。無論、せつな達に話し掛けた岸桐涼介も2組の所属である。その為かその生徒たちはまるでとっと叩き潰してやると言わんばかりの視線を1組に向けていた。当然1組の生徒たちもその後視線に対抗意識を燃やす目を向けていたが、せつなや椿にはどうでも良かった。何故なら二人にはとある野望があったからに他ならない。


 後に蒼き双銃の騎士、紅き雷光の剣士と呼ばれるこの二人の少女たちの戦いは今だ始まっても居ない…

                                                   つづく




                                                













              次回予告








密林をステージについに訓練が始まる!せつなは不安を覚えながらも戦う自身のベストを尽くし戦く、しかし、相手の圧倒的火力を前に小隊は劣勢に陥るが・・・ 

 

      次回!蒼空のヴァルキリー 第二話       

         「焼けつく程に手を伸ばせ!」












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