第3話 ありがた迷惑

柴田は中庭のベンチに座り,一人欠伸をしていた.普段昼休みは教室で食べるが,今日は友人が中庭で食べるとゴリ押しして来たので,仕方なく中庭で食べることになったが,まだ友人達は,中庭に来ていなかった.


「先輩,奇遇ですね.こんなところで,お昼休みにたまたま弁当を持ってるなんて」


後輩は,そう言って,中庭で欠伸をしている柴田に近づいた.柴田は,欠伸で流れた涙を拭い,小さくため息をついた.

「……なるほど.迂闊だった.」


「私も,たまたま弁当を持ってるんです.これは奇遇ですね.先輩.」

後輩は,わざとらしく,そんなことを言って,まるでそのに自分が座ることが決まっていたかのように柴田の隣に座った.そして,柴田の顔を覗き込んだ.


「……アイツら」

柴田は激怒した。必ず、かのありがた迷惑をしてくる友人達を止めなければならぬと決意した。少し,柴田が教室に走れメロスしそうになったが,一度冷静になって,深呼吸をした.


「どうしたんですか?先輩.」

後輩は,すっとぼけた表情であった.


「なんて言ったんだ.」


「私は,ただ今日の昼休みここで食べるって独り言を言っただけですけど.だからびっくりしてます.」

後輩は笑っていた.まったくびっくりしている様子に無いとか柴田は言おうかと思ったが,流石に怠いので辞めることにした.


「高度な忖度を後輩にするなよ.本当に」


「……とりあえず,先輩.昼ご飯を一緒に食べませんか?」

後輩は,そう言ってわざわざ,柴田の前に立って,上目遣いになるようにしゃがみ込んでそう言った.後輩も無策では無かった.友人に良い案はないか聞いていたのだ.


「……1回,待って.その話の前にちょっと,連絡するから.」

柴田には通用しなかった.だから,後輩は,ゆっくりと柴田の隣に戻った.


柴田は,後輩との話を一度中断して,スマホで,一番上にいた,友人にメッセージを送った.『ふざけるな.何がしたいんだ』と.すると数秒で既読が付き,おそらくあらかじめ用意されていたであろうメッセージが送り返された『俺らは恋のキューピットさ.まあ,少し付き合ってあげなって.俺の彼女曰く,悪い子じゃないってさ.』恐らく,全員が返答する準備をしていたのだろう.


柴田の行動は友人に読み切られていた.柴田は,数秒間,スマホを眺めてからゆっくりと電源を切って.ポケットにしまうと,ゆっくりと空を眺めた.


「……先輩まだですか?」


「その聞くけどさ.一緒に弁当を食べたら何なの?」

柴田は,空を見上げながらそう呟いた.


「……何って言われても.でも,先輩聞いてください」


「はい.」


「先輩は暇人かも知れないんですけど.私は陸上部なんです.そして学年も違います.教室もまあまあ遠いです.」

後輩は,柴田が暇人と決めつけた.


「うん,そうですね.」

でも,実際暇人なので,何も反論することなく受け入れた.


「先輩は,性格重視って言いましたよね.つまり,私は先輩に性格で好きになって貰えば良いんですよね.」

後輩の理屈は間違っていなかった.それが出来るか出来ないかは分からないが,柴田が,後輩の性格を好きになれば,何の問題も無かった.


「あっ,振られたのは認めたんだ.」

柴田は何も考えずに暴言を吐いた.


「先輩,ナチュラルに最低な事言いますね.まあ良いですけど.先輩に性格を見せるためのタイミングが私には昼休みしかないんです.」

後輩は,立ち上がり,空を見上げている柴田視界に入り込んで,そう言って柴田を指さしいた.


「えっと.」

暇人の柴田には理解出来なかった.


「あっ,えっと.私は陸上部なんです.朝にも夕方にも部活動があるんです.そして家に帰ったら勉強もします.」


「……なるほど,じゃあ今日は」

柴田は理解した.彼女が忙しいことと自分が想像以上に暇だということを.それに加えて今朝彼女が,朝練が無かったことも理解した.


「今日は,朝練サボって怒られましたけど.」

しかし,その理解は間違っていた.


「何してるの……ちょっと待って,ねえ,聞くけどさ,今このまま帰ればさ.明日朝,家の前に来る?」

柴田は,真剣に頭を回し始めた.そして,少し関わったことで少し理解した彼女の性格から一つの可能性を思い起こした.


「行きますよ.先輩.」


「……」

柴田は,小さくため息をついた.柴田は比較的善良である.そして謎の責任感や罪悪感を感じるタイプの人間であった.そしてその感情は顔に出た.


後輩は,その様子を見て,それを感じ取ったのか

「そして,私は怒られれます.良いんですか?先輩」

そう言って,柴田の目をジッと見た.


「…………はぁ分かったよ.昼休みね.それとストーカーしないでくださいよ.」

柴田は,自分が悪くなくとも,相手が勝手にしていることでも,自分が関わって他人が怒られるという状況に耐えることが出来る人間では無かった.


「ありがとうございます.それと分かりました先輩.とりあえず,食べましょう.」


「……」

柴田は,ため息をついてそれから弁当を開けた.

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