第4話 弁当の話
中庭でしばらく無言で弁当を食べていた.そこには,話す機会を伺っている後輩と特に喋る気がない柴田がいた.後輩は,決心して無理やり会話を始める事にした.
「先輩,なんでちゃんと弁当を作ってきてるんですか?」
コールセンターもビックリな悪質なクレームだった.
「何そのよく分からないクレーム.」
柴田は自分から話すつもりは無かったが,別に無視するつもりも無かった.だから話しかけたら話し返した.
「私のチャンスが減りました,先輩.」
「チャンス?」
柴田は,食べる手を止めて,目をパチパチさせて首を傾げた.彼にはチャンスの意味が全く分からなかった.
「ええ,そうです.うまうまな弁当を作ってきて先輩の好感度アップ大作戦です.」
頭悪そうな作戦だった.柴田には,『うまうまな』が要らないとか,大作戦の大は何処からやってきたのかとか,言いたいことがあったが
「……いや,それで好感度は上がらないから大丈夫だよ.」
「何でですか?鉄板って,友達が言ってましたよ.先輩も可愛い後輩が作った弁当嬉しくないですか.」
後輩は,目を大きく開いて首を傾げた.
「……いや,別に,だってさ,昨日知り合った人からいきなり弁当を作ってきますって言われたら怖くね.自分がその立場になるって考えてみてくださいよ.」
後輩は,数秒,考えこんで,想像を働かせて
「……確かに……」
納得した.
柴田は,自分の弁当と後輩の弁当を見比べて
「それに,弁当作れるの?明らかに僕のほうが弁当を作れると思う.」
「……先輩,失礼ですね.私だって.」
「いや,めっちゃ弁当茶色じゃん.野菜食べれないの?」
柴田の弁当は色彩豊かだったが,後輩の弁当は茶色だった,野菜がこの世界に存在していないのかと思われるぐらいに,野菜が一切入っていない弁当だった.
「……先輩って結構失礼ですね.た,食べれますよ,余裕ですよ.」
後輩は,唇を嚙みながら,苦手を無理やり隠すために笑顔にしたせいで謎の表情になりながら,そう言って胸を張って見せた.
柴田は,その様子を見て,
「そう,なら僕のミニトマト食べる.」
思わずそう言っていた.
「ミニトマトですか?た,食べれますよ.でも一旦ケチャップにしましょう先輩.」
後輩は,加工したら食べれるタイプの人間だった.
「加工してるじゃん.それに,ミニトマトじゃなくて,普通のトマト使うでしょケチャップって大体.」
「……たっ食べれますよ.余裕です.そのままミニトマト食べれますよ.」
プライドと謎の強がりが彼女を突き動かしていた.
「……じゃあ,食べますか?」
柴田は,そう言って笑っていた.
「……食べますよ.先輩.食べてやりますよ.」
もう,食べれない人の苦手な人発言だったが,それを気にしている余裕が後輩には無かった.
「……そう,大丈夫,アレルギーとか無いよね.」
柴田は,良くも悪くもこう言う気遣いは出来た.
「心配ありがとうございます.大丈夫です,シンプルに野菜嫌いなだけなんで……あっ」
その唐突にやってきた柴田の優しさに謎のプライドや見栄が消えて思わず後輩は本音を漏らした.
「やっぱり,嫌いじゃん.」
後輩は,数秒間,停止して一度弁当をベンチに置いて立ち上がり,柴田の前に立つと
「うるさいです.食べれないものは食べれないんです悪いですか?先輩は野菜が食べれるほうが偉いって言うんですか.」
開き直り謎の逆ギレをしながら,地面を二度足で踏みつけて,柴田を睨みつけた.
柴田は目の前に立つ柴田見上げて,彼女の背の高さを見て,『多分良く食べて,良く運動して,よく寝てるから人は育つのかも知れないな』とかそんなことを思って
「そこまで言ってないですけど.まあ,でも野菜とかよりも肉とかを食べたほうが育つとか.」
適当にそんなことを言った.
後輩はそれを聞いて停止した.座っている柴田の目線は,大体で彼女の顔を見ていた.しかし,大体であり,足が長く顔が小さい後輩には,柴田が別の位置を見ているように見えた.そして,後輩は自意識が少し高かった.
「……せっ,先輩.」
後輩は,勘違いをした.
「何?高身長で良いよね,僕も肉を増やそうかな?いや,カルシウムか?」
柴田はそう言って笑っていた.
「……そうですね.先輩的に高身長はマイナスじゃないんですね.」
後輩は,ゆっくりと深呼吸をして,自分の失態を柴田が気が付いていないことを良いことになかったことにした.
「いや,プラスではないけど.背が負けるのは悔しいし,でも,最悪どっちでも良いですけど,多分.」
「……そうですか.まあ,とりあえず,私の弁当が茶色のはしょうがないんです,私は運動部ですよ,たくさん食べるのは仕方ないです.そうです,仕方ないんです.分かりましたか?」
後輩は,そう言ってドヤ顔を決めた.話が少し脱線していた.
「……いや,悪いとは思わないけど.何を食べるかは個人の自由だし,だから僕は野菜も食べたいだけだから,弁当は大丈夫ってだけで,自分で作れるし.とりあえず,座って昼ご飯食べようか.」
柴田は,目の前でドヤ顔をしている後輩を見て小さく笑ってから座るように促した.後輩は,少し顔を赤くして座った.
「先輩,自分で作れるんですか.……なるほど,ではこの話は終わりですね.まあ,そもそも私料理できないんで,作れないんですけどね,弁当.」
「……じゃあ,何で言った.」
柴田は,今までの会話が何の意味の無いことだと知り,荒めの口調でそう言った.
「家庭力があるフリしたらプラスかなって思っただけです.」
「……」
柴田は黙った.『この隣に戻ってきた後輩は,嘘を付くのがマイナスになると思わなかったのか』とか『この隣に戻ってきた後輩は,弁当を僕が要求してたらどうしていたのだろうか?』とかいろいろ思ったが,何かそれを言うのもアホらしくなって黙った.
「何か言ってください,先輩,可愛い後輩を無視しないでください.」
「いや,別に家庭力がプラスとか思わないけど.虚偽申告はマイナスだと思うな.」
だから柴田は,とりあえず,一番に思ったことを言った.
「……」
後輩は,目を見開き,少し納得したような表情としまったなと言う表情の狭間の表情で停止した.
30秒ぐらい柴田は放置していたが,
「じゃあ,プチトマト食べる?」
思わずそう言って声をかけていた.
後輩は,ニヤリと笑い
「要りません.嫌いなので,これでプラスですか.」
そう言って正直に答えた.
それに何て返すか柴田は5秒程度悩んで
「好き嫌いがあるので,マイナスです.」
そう笑って返答した.
「それはズルじゃないですか?先輩.」
「ズルではないでしょ.あと,中庭はちょっと寒いから,明日は違う場所でお願いします.」
柴田は,そう言ってプチトマトを口に入れた.
「……それは,賛成します.考えておきますね,先輩.」
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