103.スラム街探索


 周囲を取り囲む敵性NPC達。

 そのNPCの数の多さやレベルの高さに最初はビビって気圧されたものの、いざ戦ってみると割と各種耐性がザルであることに気づかされる。

 というのも、こうなった時の私達の常とう手段である、【雷魔法】の『バーニングウェイブ』が見事に突き刺さったのだ。

 『バーニングウェイブ』自体の効果範囲の広さ。そこに【空間干渉】スキルによる三重発動効果が加われば、より多くの敵を範囲に含むことができるようになる。

 つまり――

「ぐわあああぁぁぁぁ……!」

「あ、熱いいいぃぃぃっ」

「やめろおおおぉぉぉぉぉ……!」

 とこのような感じで、相対する敵をある程度絞り込むことができるのだ。

 『バーニングウェイブ』の効果からあぶれた相手は――四人か。

「これならすぐに倒せますね。さすがはハンナ様、的確な初動でした」

「いえ――〈トリプル・バーニングウェイブ〉!」

 サイファさんが『バーニングウェイブ』の効果範囲外にいた敵に矢を放ちながら、そう言ってくる。

 周囲で拘束効果を受けて苦しんでいるNPCも巻き込んでダメージを与えられるよう、『弓』系スキルのアーツで攻撃したようだ。

 私はというと、高いTLK値のおかげで早くもクールタイムを終えたため、追加の『バーニングウェイブ』を放ち、残った敵にも拘束効果を与えることに。

「……さすがはハンナ。こういう状態でも安定したサポート力だね」

「まぁね」

 賞賛されるべきはやはり【光魔法】とそこから派生した【雷魔法】のサポート系スキルとしての利便性の高さだろう。

 地味に敵対者に使われるといやらしいような、妨害系の魔法が数多く揃っており、そのラインナップは正規のスキルの分類的には『攻撃魔法系スキル』に分類されているにもかかわらず、掲示板上では『攻撃魔法系を詐称した妨害魔法系スキル』としていいように弄られているのも頷けるほど。

 とはいえ、中位以上の魔法になってくると、地味にダメージも響いてくるから、結局は攻撃魔法系スキルっていうのも頷けるように放ってくるんだけどね。

 最初の『バーニングウェイブ』の効果時間が切れる頃合いを見計らって、一発目と同じ射角で『バーニングウェイブ』を放つ。

 うん、完全にパターンに入ったよね、これ。

 もうこれで動けるNPCはいなくなったし。

 定期的に一発目と二発目の射角で『バーニングウェイブ』を放っておけば、今回登場した敵NPCはほぼ完封できる。

 その間に各個撃破でもなんでもできてしまうから、私達の勝ちは確定したも同然だ。

 最初はどうなることかと思ったけど、戦ってみれば何とでもなるものだね。

 完全な消化試合となったことで、私はやれやれ、と溜息をつく。

 同じことを思ったか、鈴も溜息をつきながら私の隣に並び立つと、先ほどの話の続きをしてきた。

「まぁ、ハンナの場合スキルによるサポート力の高さもそうだけど、クラスの特色上、TLK値が異様なほどに高いから。そのせいもあると思う」

「あはは……」

「こればかりは笑い事じゃない。ハンナは魔法職としても十分やっていけるクラス」

「それはどうかなぁ」

 普段からMP管理は半ばミリスさんありきのプレイスタイルとなっている状態だ。

 しかし、私のクラスは、素の状態ではそもそも魔法職としてはややMPに乏しいことが特徴の一つとして挙げられる。

 決して少ないわけではないし、むしろ多い部類には入るだろうが、魔法職として見れば不足がちといったところに落ち着く。

 加えて、魔法職として活躍するにはもう一つ、彼らと比較して明らかに足りない要素が一つ存在している。

 それを踏まえて考えると、やはり鈴が言うような、魔法職としてやっていけるということは、多分ないんじゃないかな、というのが私の考えだ。

 というか――

「普通の魔法職の人達って、TLK値はどれくらいの成長力なんだろ」

「〈ダブル・バーニングショット〉! 聞いた話によれば――1かから2、たまに3っていう人もいる。1レベルで4上昇する人もいるみたいだけど、そこまで行く人は逆にINTの伸びがかなり悪いって感じみたい」

 鈴が、魔法を使ったことで消費したMPを回復させるために、MPポーションを飲みながらそう言ってくる。

 私も『ライトニングアロー』の魔法を連発して敵を倒しつつ、

 INTは主に魔法使い系のクラスに発生する固有能力値で、消費MPを軽減したり魔法の威力を上昇させたりする効果がある。

 それの伸びが悪いと、魔法職としてはかなり運が悪いといえるかもしれない。

「私の場合は一回のレベルアップで5ポイント……」

 なるほど、確かに魔法職の人からすると高すぎるかもしれない。

 う~ん、これにミリスさんのサポート力が加われば――うん、確かに私、魔法職としてもやっていけるといえばやっていけるのかもしれない。

 少しだけ、考え方を改めてみてもいいのかもしれないな。


 さて、そんな感じで危機的状況になりながらも、結果的に大したことにならずに済んだ私達は、ようやく手柄を一つ立てることに成功した。

「毒物の素材の出どころ、か……一応、採取することはできるみたい」

「どうなんだろうね。採っておく……?」

「ミリスさんは、解毒ポーションやそれにまつわる毒の知識には明るいですが、毒薬そのものの調合方法にはあまり詳しくないと言っていました。作るならお二人の独力で行うことになるでしょうが――危険ではないでしょうか。その、こんな状況もありますし」

「…………あ~、確かにそれもそっか……」

 王女を保護している手前だ。うかつに毒物などを集めれば、暗殺を画策していると疑われてもおかしくはないかもしれない。

 素材自体は毒にしかならないし、私達のプレイスタイルからして明らかに不用品でしかない。

 触らぬ神に祟りなし。素材として採取することは可能だったが、クエストキーを手に入れたことですでに用済みとなった以上、あえて危険物に手を出すことはないと判断して、私達はその場を後にすることにした。

 う~ん、しかしあの毒草や毒キノコの群生地が、一体どんな手掛かりになるというのか……。

 一応、男たちが去っていった方角に進んでは見たものの、それからは再び手掛かりらしきものを見つけるには至らなかった。

 しかし私達が担当していた街区を探索し終わり、一度集合地点であるスラム街の噴水広場に戻ろうか、という段階になったところで、私達に再び幸運が舞い降りてきた。

 先ほど通った時には何もなかったところに、明らかな変化が生じていたのである。

「あれ? ここ、さっき来た時は何もなかったよね?」

「そういえば……あそこ、【観光】スキルが反応してる」

「私の【視察】スキルでも把握できますね。あれは――血痕でしょうか。確かに先ほどまではなかったと記憶していますから、つい少し前に、何者かがけがをした手であそこに触れたとみて間違いないでしょう」

「詳しく調べてみよう」

「そうですね。なにか新しい発見があるかもしれません」

 おそらくはそれがまたクエストの進行度が上昇するキーとなるだろう、という半ば確信めいた気持ちを抱きつつ、そのいかにも何かありそうな血痕へと近づいていく。

 すると、ある程度近づいたところで、再び視界に【観光】スキルの新しい反応が映り込む。

 場所は、血痕が残されている壁のすぐ近く。

 吹き出しから出ている矢印を視線で辿っていった先には、見覚えのあるエンブレムが落ちていた。

「これは、王女殿下を襲った犯人が持っていたエンブレムと同じものですね」

「ちぎれた紐がついているし……これは気づかずに落としていった可能性もあるね」

「とりあえず持っておこう」

 そうして、私達は『血痕』と『二つ目のエンブレム』という二つの手掛かりを入手することに成功し、さらに周囲に手掛かりが残っていないか歩き回ってみることにした。

 しかし――それからは、私達は一つも手掛かりにありつくことはついぞなかった。

 ただ、その代わりに他のクエスト参加者たちが別の場所で手掛かりを発見したらしく、それで100%になったので、まぁいいじゃないかという話になった。

 クエストの第1フェーズが100%になったことで、クエスト自体の進行度も第2フェーズへと移行。

 今度は、手に入れた手掛かりをもとに実際に敵の拠点を探し出すのが目的となる。

 前回のスラム街を舞台にしたクエストと違って、今回は自分たちで目的地を探し出さないといけない。

 ――とはいえ。

「さすがに、今日は夜も更けてきましたね。そろそろ、今日の捜索は終了にした方がよいかもしれません」

「ですねぇ……」

 他のメンバーに確認を取ってみても、クエストもキリがいいところまできたし、一旦中断して明日に持ち越そうという話にすでになっていたらしく。

 皆の了解も得られたようなので、今日のクエスト攻略はここまでとなった。


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