スラム街でのクエスト、再び……
101.王女からの依頼と人手集め
王女からの依頼が舞い込んできたのは、その翌日のことだった。
平日ということで夜からのログインだったのだが、それを聞いていなかったらしい王女が、首を長~くして私達のことを待っていたのである。
「夜分遅く失礼いたしますわね、ハンナさん。よくお眠りになっておりましたわよ。……欲を言うならば、もう少し早く起きていただきたかったですが」
「申し訳ありません、リリアーナ王女殿下。ただ、私にもあちらの世界での生活というものがありますので」
「お気になさらないでください。ハンナさんは異邦人ですもの、あちらの世界での生活との兼ね合いもあるのでしょう?」
「はい、そうですね。今日も、実は学校で宿題をたくさん出されまして……」
「ほぅ……よろしければ、どのようなことを学んでいるのか、お伺いしたいところではありますが……」
う~ん、それは、何かのクエストのフラグ、ということなんだろうか。
私、ものを教えられるほど優秀な成績じゃないですよ?
と、そんな話はさておいて、とリリアーナ王女は挨拶もそこそこにといった具合で本題に入ってきた。
「さて、昨日の毒の混入騒ぎですが――まず、私の下にいる従者達の一部に、ヴェグガナルデ公爵家の関与を疑うような、口さがない者がおりますの。もちろん、用意した紅茶やお茶菓子の出どころからして、そんなことはないとわかり切っていますから、公爵家に裁きが下るようなことはまずありません。ただ、そういった考えを持つ私の従者が、あなた方に失礼を働く可能性がありますから、ご注意なさってください」
「わかりました」
まぁ、どんな時でも、騒ぎが起きればまずは身近な人に疑いをかける人はどこにでもいるよね。
だから、というわけでもないけれど、
「それで、実はハンナ様にぜひとも手伝っていただきたいことがございますの。例の、毒物の混入事件に関する調査なのですけれど……」
「私達の方でも、調査を行ってほしいということでしょうか」
「はい。ですが、私としましては、ハンナ様だけでは少々人数的にも心許ないと思いまして――可能であれば、どなたか信頼のおける方も呼んでいただけると助かるのですが……」
「いいですけど……」
「ほんとうですか!? そうですね――この街も広いですし、本格的に調査を進めていくとなると、30人くらいは欲しいところなのですが……」
「さn――」
さすがにそこまで必要になるとは思ってなかった。
私が用意できる人数といえば、何人になるんだろう。
私が【側仕え召喚】や【護衛召喚】で召喚できる最大人数が、9人まで。私を含めれば10人でしょ。
鈴とアスミさんを巻き込めば、それで12人。
樹枝六花にも協力を要請すれば18人――トモカちゃんがサモナー系で、8枠くらいあるみたいだから、それで26人。
それでも、まだ26人しかいないんだよね。
「あ、そうですわ。さすがに、モンスターは人数に含められませんわね。人並みに知性のある生物と言いますか、人と同じ思考ができなければ意味がないと言いますか――とにかく、サモナーの方に協力を仰いで人数を増やすにしても、【護衛召喚】や【店員召喚】など、人や亜人種などを召喚できる方に限定させていただきますわ」
あちゃ~、そうなるとトモカちゃんでも枠は本人一人分しか稼げないかぁ。
どうしよう……他に、後12人も人を集められそうな人なんて……そもそも私、思い返してみればあまりゲーム内でフレンド増やしてなかったなぁ。
ゲーム内でも、ほとんど決まりきった少数人数としか交流持ってきてなかったし。
どうしようどうしよう、人や亜人種のNPCを大量に召喚できそうな人なんて、店持ちの生産職の人くらいしかいないだろうし――でも、彼らはこういうの、あまり興味なさそうだしなぁ。
あとは、う~ん……あ、そうだ!
ゴリさん達だ!
ゴリさんなら確か、盗賊団の頭領からスタートしたっていう話だからそもそも私と同じタイプのサモナー特殊職だったはずだし、今は実績積んでNPC達からも厚い信頼を築けているっていう話だから、王女様の心証も悪くはないだろうし。
うん、ゴリさん達に協力を仰ごう!
早速、ゴリさんにメッセージを送る。あとは樹枝六花のみんなにもだ。
「とりあえず、思い当たる人達には協力を仰いでみました。あとは、その人達の返事待ちとなりますが……」
「ありがとう、ハンナ。その人達が協力してくれることを祈るばかりね」
「そうですね……。それにしても、意外と大人数を望まれるんですね」
「えぇ……。私も、当初は目立たないように、と思っていたのですけれど……あちらも、どのような手を使ったかは定かではありませんが、私がここにいることはわかり切っているようですからね。それならば、もう私も隠れていても意味がありませんから」
ばれてしまっているのに隠れ続けていても仕方がないから、守りを固めましょう、というわけか。
確かに、ロレルナーク近郊で発生した王女護送クエストからの流れを見る限り、すでに隠れてどうこう、という時期は過ぎているように思えるし。
これ以上、秘密裏に水面下で、というのにも限界があるのだろう。
それから、私達は昨日よりもかなり質素ではあるけれど、ミリスさんが用意してくれたクッキーをお茶菓子に紅茶を飲んでいった。
最初に返事が来たのは、樹枝六花からだった。
ちょうど暇していたところだったので渡りに船、だったようだ。
なお、人や亜人種系のNPCでなければ数に数えられないと知って、ちょっとだけがっかりしていた。
あとはゴリムラさん達。
彼らは、というかゴリムラさんにのみ関係する話というか。
ゴリムラさん、実は二度目のクラスアップをするにまで至っているらしいのだけれど、そのためのミッションが『貴族ランク4以上のNPCの誰か一人からクエストを受け、印象値50以上でクリアする』というものだった。
貴族ランク4といえば確か、伯爵家以上だった気がする。
貴族ランクを持たないプレイヤーは、会おうとしてもなかなか会えないNPCで、その上で都合よくクエストなんて発行されるわけでもなし。
途方に暮れていたところへ、私からの協力要請が入ったということだったらしい。
うん、そりゃあ、王族だもんね。
王女って、貴族ランクで示せるのかどうかわからないけど、確実に貴族ランク6以上はありそうだもんね。
「リリアーナ殿下、貴族ランクというのは、王族にも適用されているのでしょうか」
それでも、果たしてリリアーナ王女のクエストはゴリムラさんのクラスアップミッションには適用されるのかどうか、そのあたりはどうしても気になって、思わず聞いてしまった。
「貴族ランクですの? また妙なことを聞きますのね、ハンナさんは。まぁ、そのあたりはまだご存知でない部分もあるでしょうし、気になるのも仕方がありませんわね。貴族ランクは『貴族』と銘打たれていますが、その格付けの対象は貴族に限らず、王侯貴族および準貴族。そのすべてが含まれます。つまり――」
「……王族も含まれる、ということですか」
「そういうことですわ。ちなみにランク6以上は少々格付けの仕方が特殊ですが、基本的に爵位のランクが1上がるごとにランクも1ずつ上がっていきますの。公爵家の上に大公爵という爵位が設けられることもありますが、今は置いておきましょう。公爵や大公の上は王家しかありませんから、王族関係者は基本的には7。国王と正妃だけは特別扱いでランク8、ということになりますわね」
「そうなんですね」
『ランク6以上は少々特殊』の部分も気になるけど、そのあたりは今は聞かないでも大丈夫そうかな。
今肝心なのは、ゴリムラさんが私のクエストに付き合ってくれて、それが徒労に終わらないかどうか。その一点だけだしね。
リリアーナ王女が指定してきた人数に到達したのは、その翌日のこと。
結局、私が出した協力要請に応じてくれたのは、鈴と樹枝六花にゴリムラさんとあてなさん。それから、ゴリアテ傭兵団のクランメンバー数名。総勢20人ちょっともの人が協力してくれることになった。
ちなみにアスミさんは今回パスだそうだ。
私が依頼したドレスが今いい感じのところまで来ているらしく、今は他のことに気を回せないとか何とか。
週末までには完成させる意気込みらしく、私から頼んだ手前、邪魔もできないと感じたので、そのままアスミさんにはドレスの製作を頑張ってもらうことにした次第である。
それに――他にも、シグナル・9絡みの(ゲーム内装備の)依頼を受けているみたいだしね。なおさら邪魔はできない。
「や、ハンナちゃん。今日はよろしくね」
早速、王女からのクエスト(おそらく)に参加してもらえることになるメンツが揃い始めてきて、私はあれこれ考えるのを中断した。
「こんばんは、あてなさん。今回は協力してもらえるとのことで、ありがとうございます」
「よぅ。いいってことよ、ハンナ。こっちとしても、今回はいいクエストに参加させてもらえるようで感謝の言葉しか出ねぇからな。なんせ、簡単には済ませられそうにないクラスアップミッションが課せられてどうしようかって悩んでてなぁ……」
「ランク4以上の貴族からのクエストを、印象値50以上でクリアしろ、でしたっけ。普通にそんな行為の貴族と会う機会なんて、ないですもんね」
「まぁなぁ……。ま、冒険者ギルドのランクがC以上になって来れば、そこそこ貴族と会う機会も出てくるんだが……」
へぇ。冒険者ギルドのランクがC以上なら、貴族と接触する機会が出てくるんだね。
「ゴリムラさん達は?」
「俺達はあれだな。俺のユニーククラスのイベントによるもんなのか、意外と早い段階から貴族たちに目を付けられ始めてたなぁ……」
「どんな感じなのかは気になるところですけど……」
「んぁ? 別に面白いとかそんなもんでもないだろうけどなぁ……。要は、最近平民達の間で話題になっている傭兵団がどうこう、っていう口コミみたいなものから発展していったような感じだな。クラメン達もそのおこぼれにあずかったような感じだな」
なるほどねぇ。
ユニーククラスのシナリオ効果で貴族たちに名が知れ渡るのが加速化したって感じか。
私のクラス程顕著じゃないけど、それでもユニーククラス補正はレアリティの差を差し引いても馬鹿にできないくらいの強力さはあるよね。
――私のはレアリティが高い分、補正もハンデもかなり強力なものになっているけど。
「ハンナ、お待たせ」
「ハンナちゃん、来たよ。いやぁ、ハンナちゃんのお店に集合って言われてたけど、こうしてお店のプライベートスペースに入るのってなかなか機会がないから、すごく新鮮な感じがするよ」
私とゴリムラさんが話をしていると、鈴と樹枝六花のみんなも到着したようだ。
鈴は今日から数日間、このクエスト? の攻略実況配信をするらしく、今までは自分の工房でその挨拶をしていたようだ。
樹枝六花のみんなは、まねきねこさんとマリナさんが同じ進学校に通っているらしく、ちょっと宿題に手間取ったらしい。
最悪、集まる予定の人数自体は規定数を超えている、ということを伝えたら先にクエストないしシナリオイベントを始めちゃってても問題ないということを伝えられていたようだったけど、二人がいるということは無事に課題を終えられたんだろう。
「私達が最後だったみたいだね。もうみんな揃ってた」
「といっても、ゴリムラさん達も今さっき来たところだし、大差ないと思うけどね」
「そうなんだ」
「私達学生だもん、やることがあるならそっちを優先しないとだし、仕方ない」
「ありがとぉ~、ハンナ~!」
まねきねこさんに抱き着かれて感謝される。
まぁ、私もやるべきことを終わらせてから楽しむ派だし、やるべきことに時間を取られてゲームができなくなった時の苦痛はわかるからなぁ。
まねきねこさんの気持ちも痛いほど理解できるよ。
それからややあって、雑談もそこそこにして終わらせると、ちょうどよく予定していた待ち合わせ時間になった。
「さて、それじゃみんな揃ったことだし、今から屋敷の私の部屋にファストトラベルしますね」
「おぅ! 王族絡みのクエストやイベントなんて、まだほとんど出回ったことないし、燃えて来たぜ」
「あんたは燃えすぎて突っ走らないようにしなさいよ」
「わぁってるって!」
「概要だけは聞いたけど、スラム街かぁ。いつぞやの推理系クエスト思い出すね」
「スラム街って、前回の時もあれだけど何かとエラい人が絡むよね。主に被害者的な意味でだけど」
「今回は加害者側にもエラい人は絡んでるっぽいけどね」
私が宣言するや否や、集まってくれたみんなは早速大盛り上がり。
皆の興奮が冷め止まぬうちに、私はファストトラベルで屋敷の自室を選択し――いきなり大人数で現れたことで、私達を待っていたらしいリリアーナ王女や彼女を世話していたミリスさんを大いに驚かせてしまうのであった。
本作をお読みいただいている読者の皆様へ
リアルでの活動が忙しくて、なかなか更新することができませんでした。
数日間更新できなかったことについて、お詫び申し上げます。申し訳ありませんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます