王女と第一王子

97.鈴と報告会

※国名を変更しました:シーエンフィック → イエンス


 夕食の席では、早速鈴がゲーム内で実装された隣国の話題を持ち出してきた。

「イエンスの地方都市の周り、ちょっとだけだけど探索してきたよ。今日見て来た限りだと、イエンスも地形とかが違うだけで、実質もう一つのフェアルターレみたいな感じだった」

「つまり?」

「公式発表に合った通り、良くも悪くも国が丸々一つ増えて、ゲーム内世界もアップデート前の倍近くに広がったって感じだね。掲示板を見る限りだと、やり込んでいるプレイヤー達はもうイエンスのフィールドの奥地とか秘境に行ってきたって人もいるみたいだけど、やっぱりフェアルターレと同じく、主要都市に近ければ近いほど敵が弱くて、離れるほど強い傾向にあるみたい」

「なるほどねぇ」

 ただ、国が違えば文化も、そして法や暗黙の了解などの決まり事。さらには風習なども違う。

 中には、フェアルターレでは許されたことがイエンスでは違法扱いとなったり、逆にフェアルターレで違法扱いのことがイエンスでは合法となったりしているなど大きく違っていることもあるので、プレイヤー達は今後、それぞれのプレイスタイルにあった国でのプレイをしていくことになるだろう。

 ちなみに、フェアルターレとイエンスの間で合法か違法かが異なっているものの対象としては、採取できる素材や作ってもいいアイテムに関する決まりごとが多い傾向があるようだ。

「イエンスは、多分だけど由来はSFかな」

「えすえふ? って、あのSFのことだよね?」

「うん。蒸気自動車とか蒸気機関車とか、そういったのが整備されてて、都市間の移動もそういったのを使えば数時間で済むようになってた」

 何それ羨ましいんだけど。

 フェアルターレでもそういうの取り入れてくれないかなぁ。

 今度ウィリアムさんとか、リリアーナ王女とかに聞いてみようかな。

「あと、フェアルターレより宗教国家に近いらしくって、結構そっち方面のしがらみも強いみたい」

 宗教絡みのしがらみ?

 鈴の話を聞くところによると、しがらみ、と言ってもシステム的なもので、ロールプレイを強要するようなものではなかったようだ。

「特に強く影響を受けるのが、ヒーラーと薬師をクラスに入れてる人たちだね。ヒーラーと薬師は神殿に行くと神殿にほぼ強制所属。まぁ、断ることもできるけど、イエンスでのNPCからの好感度は結構下げられちゃうみたい。それに、イエンスでスタートする場合は、【回復魔法】とか【調合】を通常スキルで選ぶとクラスも強制的に神官見習いになるみたい」

 何それ酷くない?

「まぁ、クラスシステム面での制約と、他に神殿所属になるって言うことでいくつかのルールが追加で科されるっていうだけで、冒険する上では特に問題はないみたいなんだけど」

「でも、イエンスに行っている間は、普通のヒーラー系のクラスはクラスレベル上げられないってことでしょ。ちょっと厳しすぎないかな、それ」

「まぁ、いってもイエンスにいる間だけの話みたいだしね。なりたくなければそもそもイエンスの神殿に行かなければいいだけの話だし。それに、サブクラス枠が解放されていれば、そもそもの話サブクラスに神官系をセットしていれば問題ないみたいだったからね」

 まぁ、どういうことなら、問題はない、のかな。

 神殿も、いうてクラスチェンジ以外ではほとんどお世話になることもなし。私や鈴、アスミさんなんかはそもそもエレノーラさんがクラスチェンジを受け付けてくれるので神殿の存在価値がほぼゼロに近い状態。

 現状では掲示板でも不満の声が大きいらしいけど、ヒーラーや薬師がイエンスで活動するなら、クラスチェンジの際にはフェアルターレで行うようにする、という回避策が定着していくだろうから、問題性としては低いんじゃないか、というのが鈴の見解らしい。

「そういえば、向こうの王都で樹枝六花と遭遇したんだけど、マリナさんも神官っぽい服装になってた」

 なんだかんだで、そういった価値観を楽しんでいる人もいるのなら、確かに問題性としては低いとみていいのかな。

 それでヒーラーや薬師など、クラスに関する話はひと段落となり。

 あとは、イエンスに出てくるモンスターや採取できる素材の傾向に関する話となった。

 イエンスでは、さっきも言った通り蒸気機関を用いた技術が発展しているが、街道整備も怠っていないのか、街道上ではフェアルターレと同じく最弱クラスのモンスターしか出てこない。

 ただ、出てくるモンスターはゴブリンはともかくとして、なんとフェアルターレでは友好的なNPCとして出てきたエルフが、イエンスでは敵性NPCとして出てくるらしい。

 主に都市郊外部以遠の森や山などに出没するらしく、フェアルターレにおけるリザードマンのような役割を担っているようだ。かわりにリザードマンは一匹も見かけないらしい。

 まぁ、蒸気機関使うとなれば空気汚染とかの公害も出てくるだろうし、それはエルフとかの自然系種族からは敵意買うよね。

 あと、古戦場が多いという設定もあるらしく、夜はほぼ全域で何かしらのアンデッド系モンスターが徘徊するようになるらしい。

 蒸気機関車が整備されているお国柄にふさわしく、フェアルターレよりも廃坑や廃トンネルなどの洞窟系ダンジョンが数多く存在。

 そうしたダンジョンでもアンデッド系のモンスターが付き物になっているらしく、先ほどのヒーラーや薬師と神殿の関係性もあって、神官系プレイヤーが光る環境はかなり整っているようだ。

「ヒーラーたちがそう言った制約を受けても、輝けるだけの下地はありそうってことか……」

 それがプレイヤー達に受け入れられるかどうかは別として、だけど。

 とかく、最終的にはプレイヤー達が、自身のプレイスタイルに合わせてどこを選択するのかを決めることになる。

 私はそもそも行くことができないから論外なのだけれど、プレイヤーにとっては一つの転換期が来たのは確かなことだろう。


 それから、今度は私が今日ゲーム内で体験したことを話す番となった。

 私が話せる内容といえば、ロレルナークに行ったことと、その近くで王女と会ったこと。そして王女の護衛クエストを受けて、ヴェグガナークまで送り届けたことと、公爵家で一時的に預かることになったこと。

 それくらいだったのだけれど――やはり、鈴としては王女と遭遇したことは何よりも衝撃的な内容だったようだ。

「まさか私がイエンスに行ってる間にそんな面白そうなことになってたなんて……もしかして、今回のアップデートで解放されたイベントの一つ、とかかな」

「ん~、私はそうは思ってないけどな~」

「どゆこと?」

「どうも、クラスシナリオともクラスアップミッションとも絡むイベントみたいでさぁ。一部のセリフに、今回のアップデートの話も追加されている節はあったんだけど、早かれ遅かれ、ロレルナークに行けば起こり得たイベントのような気がするんだよね」

 王女がこの時期に戻ってくることになった理由として、サイファさんがあげた理由は主に二つ。

「一つは、イエンスの学園とフェアルターレの学園では、夏休みの期間が異なるから。それで学園関連の齟齬が生じている可能性があるっていう感じかな」

「一つ目もそれらしい理由だけど……なるほど、確かに今回のアプデとは関係なさそうだね」

 隣国の存在、という話だけなら、別に隣国の解放を待たなくても、如何様にもイベントは発生させられるしね。それこそ、いきなり王女とその周辺のNPCを街道のど真ん中にポップさせるとかでもよさそうだし。

「んで、二つ目の理由だけど、多分こっちが本命。クラスシナリオ絡みで、王位継承権争いだね。二人の王子が王位継承権争いを本格化させ始めたんで、危機感を覚えた国王が王女を呼び戻した、というのが理由みたい」

「国外にいたほうが安全だと思うんだけど……」

「どうだろうね。暗殺者のことを考えると、国内の目の届く範囲内で守りたい、と考えたのかもしれないし」

「あぁ……そういう…………」

 王族なら、密かに隣国に暗殺者を送ることだって簡単だろうし。

 そうなれば、国外だろうが国内だろうが関係はなくなってくる。それなら、管理しやすいところまで戻ってきてもらうのが一番、ということなのかもしれない。

「……でも、それって女王フラグ近くに置いてるのと変わらなくない? 大丈夫なの?」

「わからないけど、多分フラグが強くなった感はある」

 とはいえ、それでもゲーム内での私の王位継承権は、まだリリアーナ王女よりも下なんだし。

 別にそう気にする必要はないとは思うんだけどね。

「…………少しだけ、不安かも。華、女王になりたくないなら、言葉には気を付けたほうがいいんじゃない?」

「どゆこと?」

「相手は仮にも王族なんだし、言葉遊びとか言質を取るのとか、かなり得意そうじゃない? うかつなことは言わないで、断ることははっきりと断った方がいいっていうか……」

「あ~、うん、それはもう、うん。気を付けるよ」

 多分だけど、うかつなことを言わなければ、これ以上フラグは絶たないだろうし。

 ……ただ、なぁ。形だけは王都に拠点置いてるとはいえ、お店はヴェグガナークにあるからどちらにせよヴェグガナークにはほぼ毎日行くことになるだろうし、そうなるとヴェグガナークの屋敷にもいく機会があるかもしれない。

 なにより、お忍びと称してお店に顔を出される可能性だって否定できないし。

「お店に王女様が来る可能性、もしかしたらあるかも」

「え? 本当に?」

「うん。一応、鈴も気を付けておいた方がいいかも」

「わかった。一応注意だけしておく」

 苦笑しつつもそういう鈴だったが、鈴的には王女と会うことはどちらかというと楽しみのようだ。

 まぁ、鈴からすれば部外者なんだし、そこまで気負う必要がないっていうのもあるのかもしれないけれど。

 なんにせよ、リリアーナ王女がヴェグガナークにやってきた以上、ヴェグガナークでは少し窮屈なことになりそうなのは確かだった。

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