93.3度目のランクアップとクラスアップミッションの情報開示


 ヴェグガナルデ公爵家の王都邸に戻ると、サイファさんが待ち望んでいたように私に話しかけてきた。

「ハンナ様、初めてのお茶会、お疲れさまでした。首尾は……聞くまでもなく、成功させられたようですね」

「わかりますか?」

「はい。やり遂げたような、それでいてやや疲れたような顔をなさっておりますからね」

 顔に出てたかぁ。

 まぁ、一時は私以外全員のMTLがレッドゾーンに入ってしまったりして、かなり際どかったけど。

 主催者のドリスさんなんか、0になる寸前まで下がっちゃったし。あと数ドット、MTLを削ってしまってたらアウトだっただろう。

 どういう条件で増減するのか、実に謎の多い社交バトルだったけれど、持ち出した話題に寄ってMTL値の増減量が変わることだけははっきり分かった。

「はっきり言って、まだわからないことが多すぎますけど……とりあえずは、目下の関門は突破できたかなぁ、という感じですね」

「そうですね。……ですが、これを皮切りにハンナ様にはお茶会やパーティなどへの招待状が数多く寄せられることでしょう。お茶会ならば、ハンナ様ご自身で開くことも可能です。ともあれ、それらはクエストという形で参加できるでしょうから、今後は状況に応じて参加なさるのが良いかと」

「うん、わかった」

 ふぅ……。

 しかし、さすがに気疲れしたな……。

 やっぱり練習と本番とでは大違いだったよ。

 ミリスさんが入れてくれたお茶を飲みながら、私はサイファさんとの話を続ける。

「さて……実際にお茶会に参加していただいて、見事に成功を収めてこられたのですから、ハンナ様は次の段階へと進むための壁を見事に乗り越えられたということにもなりますね。これからも、立派な淑女になるべく、邁進してまいりましょうね」

「あはは……努力させていただきます」

「はい。私も引き続き、お力添えさせていただきます」

 サイファさんにそう言われると同時に、私の眼前にはランクアップした旨を報せるメッセージウインドウが表示される。

『ランクアップ条件を満たしたため、ランクアップチャレンジを省略してランクアップしました:ヴェグガナルデ公爵令嬢II→ヴェグガナルデ公爵令嬢III

 このクラスでこれ以上のランクアップはありません。クラスアップミッションの挑戦条件を探して挑戦してみましょう』

 今回は、ランクアップチャレンジが発生する前に隠し条件的なものを達成してランクアップを果たした感じになっているらしい。

 ということで、前回や初回の時とはちょっと違ったメッセージから始まっていた。

 今回のランクアップで、『ヴェグガナルデ公爵令嬢』は最終ランクに到達。

 あとは、ひたすらレベル100を目指すか、上位クラスへのクラスアップ条件を探すかになるんだろうけど……普通のクラスと違って、ユニーククラスはシナリオイベントとも密接に関係しているため、クラスアップ条件がなんであるかはわからない。

 ある程度の情報はサイファさんやミリスさんから聞いているから、まったくわからないというわけではないんだけど……そこに辿り着くまでの道筋が、ほとんどわかっていない状態だ。

 ま、目下の目標はそのレベル100になった時点で開かれるらしい、『公爵家縁者』になること、なんだけどね。

 他家に嫁ぐとか、女王様になるとか。あとは公爵家を継ぐとか?

 そういうのは、自由を奪われそうでちょっと進みたくないルートだし。

 とりま、まずはクラスレベル100を目指すところから。

 そのためにも、今後はまたガンガンとフィールド探索や戦闘などをしていかないとだね。

 それから――社交バトル、意外と経験値が美味しいことわかったし、今後はそっちもある程度出ていく必要がありそう。

 というか、さっきまで話していた令嬢達って、あんなに多くの経験値を普段から取得していて、よくまぁ低いレベルを維持できているものだ……と思ったけど。

「そういえば、私くらいの年齢の貴族令嬢って、基本的には婚約結んでいたり、次期当主候補だったりで、上位クラスになっている人が多いんですかね」

「そうですね。大体の貴族令嬢は、すでに婚約が内定しているか、そうでなくても婚約に向けた働きかけをしているはずです。婚約に向けて動いている令嬢であれば、レベルだけで見ればハンナ様と同じくらいのレベルにはなっているでしょうね」

「やっぱりそうなんですか……」

「そうですね。とくにドリスさんの場合、次期当主候補を経て、次期当主として認められるまでに2回ほど、クラスアップを経ていますからね」

 つまり、それだけレベルもリセットされて、低レベルになってしまっているということか……。

 なんだろ。クラスアップ=クラスチェンジの一種、というくくりのためか、微妙にちぐはぐな感じになってしまってるんだけど……ゲームだし、そのあたりは無理矢理感があっても仕方ないことなのかな。

 とりあえず、話はそこで一旦終わりにして、私は目の前に現れているメッセージウインドウを読み進めていくことにした。

 内容的に、今のクラスではこれが最高ランクだと出ていることから、最終ランクにふさわしい大変化をしていてもおかしくはなさそう。

 よく注意して見ていかないといけない。

 さて、気になるランクアップの影響だけど……ふむ?

『メインクラスのランクが上昇したことにより、以下のボーナスが発生しました。

・クラスレベル上限解放:60→100 クラススキルレベル上限解放:60→100

 これ以上のレベル上限解放はありません

・サブクラスの枠数を拡張:1枠→2枠

 サブクラスには担当ナビゲーションAIの判断により、魔法使い見習いがセットされました。

 魔法使い見習いになったことで、必要なクラススキルを自動取得しました。

 必要により、転職申請が可能なNPCのもとで転職を行ってください。

・クラス特性の効果値が上昇しました:【戦場より遠き身分】

 プレイヤーレベルが【(クラスレベル)×3/30×(貴族ランク)÷2】レベル上昇する。

 このレベル上昇に伴う能力値の上昇は発生しないが、レベルアップに必要な経験値は補正後のものが適用される。

 あなたの貴族ランクは 6 です。

・これまでの活動傾向によりクラス特性が変化しました:【生命の穢れを嫌う者】+【敵多き身の上】→【麗しの戦姫】

消滅:【生命の穢れを嫌う者】、【敵多き身の上】

新規:【麗しの戦姫】

 スキルによる戦闘由来の経験値獲得量減少効果が緩和される。緩和率は(クラスレベル)%。

 【扇子】【鞭】スキルに対応した武器を装備時、【扇子】系、【鞭】系に属するスキルのスキルボーナスを各10レベル分ブースト。

 マスクデータであるSECUREを開示し、これに付随する各種クエスト・イベントの起動フラグを有効化。かつ、SECUREのしきい値を150に引き上げ、要求条件をしきい値の150以上に変更する(この条件はクラスにより変動する)。

 SECURE要求条件を満たしていなかった場合、約数分毎にランダムで悪漢系、野盗・盗賊・山賊系、暗部系の各グループに属する汎用住民NPCを確率で半径20メートル以内に敵対状態で召喚する。

・クラスアップミッションが解放されました:我が道を貫く意志

 情報開示条件達成済み:クラスレベル100+PCレベル100の時、特定のNPCに話しかける。ミッション完了後、通常のクラスチェンジ手続き時に候補に追加。

・クラスアップミッションが解放されました:家のために繋ぐ縁(!)

 情報開示条件達成済み:社交バトルで婚活を行い、婚約を締結する。ミッション完了時、強制変更。

・クラスアップミッションが解放されました:簒奪

 情報開示条件達成済み:特定のキャラクターに社交バトルを挑んで勝ち、次期当主の座を奪う。ミッション完了後、通常のクラスチェンジ手続き時に候補に追加。

・クラスアップミッションが解放されました:冒険女王への道(?)

 情報開示条件未達成:この上位クラスへのクラスチェンジ条件やクラスチェンジ方式は、開示条件を満たしていません。

・クラスアップミッションが解放されました:???(?)

 情報開示条件未達成:この上位クラスへのクラスチェンジ条件は、開示条件を満たしていません。』

 半分近くはクラスアップミッションの開放に関する情報だった。

 ただ、そうではない部分でも結構大々的に変わった部分はあって、例えば特性の【生命の穢れを嫌う者】は【敵多き身の上】と実質統合されるような形で新しい特性【麗しの戦姫】に切り替わったし、この新特性の【麗しの戦姫】には【社交】スキルのデメリットである戦闘行為による取得経験値の減少効果を緩和するという効果も備わっている。

 つまり、特性【戦場より遠き身分】と【社交】スキルのコンボにより、レベル上げがかなりしづらくなっていた状況に、光が差し込んだ形になったわけだ。

 【敵多き身の上】は今回もそのPCレベルのかさ増し倍率が増加し、これでクラスレベルの30%程度PCレベルがかさましされる計算になってしまったけれど、【社交】スキルのデメリット効果が緩和された分、若干マシになっていくことだろうとちょっと期待を寄せている。

 あとは、サブクラス枠の開放だ。

 ランクアップによってサブクラス枠が追加されたのは手放しで喜べるランクアップボーナスだ。

 ナビAIによって魔法使い見習いがセットされたのはちょっと悩ましいところだけれど……なんというか、これは後でゆっくり考えるべきことだろう。

 【魔法使い】なら、クラススキルがいっぱい増えるのでスキルポイントもたくさん手に入る機会が増える。

 単純に後々嬉しいことになるクラスだ。

 クラスアップしてレベルがリセットされた後なら、低ランクの魔法も再び出番が出てくるから成長させる機会は出てくるだろうし。

 あとは、【調合錬成】を取得することを優先して錬金術師にするべきか……それとも戦闘の安定性を強くするために施術士見習いに変更するか。その二つも考えられる。

 実に悩ましいところだ。


 さて、ランクアップの確認はこんなところだろう。

 今回のランクアップは、クラスアップミッションの解放がメインだったし、これから先どんどんクラス関係のシナリオイベントが目白押しになってくるだろう。

 私には、開示されているクラスアップミッションの中の内の一つ『我が道を貫く意志』に進めたらいいなぁ、とは思っているんだけど。

 他に開示されているミッションの情報を見てみれば、条件を達成次第、強制的にクラスが変化してしまうような困ったちゃんもいるみたいだから、果たしてそう上手くいくかどうか、甚だ疑問なところではある。

 まあ、本命は『我が道を貫く意志』だとして、大穴はなんだろ。とりあえず、簒奪は弟君を敵に回しそうだから論外。嫁ぐのもなんかゲーム内とはいえ政略結婚とか堅苦しくなりそうだからちょっと嫌だ。

 そう考えると、ネーミング的に一番敬遠していた女王ルート――『冒険女王への道』が大穴になってくるのかな。

 冒険女王って、なんか女王と言いつつも冒険するのをなんだかんだで許されそうな、そんな雰囲気のネーミングだし。

 あと最後の『???』が気になる。

 名前すらも開示されていないということは、サイファさんやミリスさんから聞いた情報の中には含まれていない、まったく未知のルートということなんだろうけど……。

 これはこれですごく気になる。

 けど、ろくでもないクラスだったらそれはそれで困るし、とりあえず目指すならすでにタイトルだけでも開示されているミッションのどれかにしておこう。

 もちろん、最優先で目指すのは『我が道を貫く意志』っていうミッションだけどね。

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