88.ファーマー募集開始
そんなわけで、ファーマーを募集することになった私だが、やることといえば簡単で、農業ギルドのギルドマスターに話を通しに行くのみ。あとは人材が集まるまでひたすら待機するだけの簡単なお仕事だった。
ただ、自分で各農村に出向いて自らスカウトしに行くことでも可能といえば可能らしいし、他にやることもほとんどない私は、これまでに行ったことがある村に行って、直接スカウトしに行くことにした。
まずはノリア村から。
「……着いた」
「農婦または農夫のスカウト……こういう村だと若者は貴重な働き手ですし、素直に応じてくれるかどうかは疑問なところだと思うのですが……」
「それは農業ギルドで募集をかけても同じことでしょ。当てがあるなら自分で赴いた方が時間的にも効率的じゃないかな」
もちろんファストトラベルができるからこその荒業なわけだが。
「おや、あなたは確か領主様の……」
「あ、はい。ヴェグガナルデ公爵が長女、Mtn.ハンナです。今日はちょっと、お願い事があって来ました」
「Mtn.ハンナ様がわざわざおいでになってまで私達に頼みたいことですか……。この村で用が立てばよいのですが……」
少々不安がる村人たちに、私は薬草の実物も出して、公爵家内で今持ち上がっている話を彼らに伝えた。
「実はこういう薬草を、バフ効果を損なわないようにしつつ種から栽培できないか、その方法を研究してみようという話が出ていまして……」
「なるほど。それのために我が村からファーマーを連れて行きたいということですね?」
「そうです。可能ですか?」
「ふむ……これも何かのお導きかもしれませんね。実はこの村は少々人員過剰気味でしてね。近々若者たちに希望を募って、数名ほどヴェグガナークへ出稼ぎに出てもらおうと思っていた次第なのです」
おぉ……早くも数名確保かな。
「やってもらうことといえばもちろん農業なんですけど、そのあたりは大丈夫ですかね」
「畑仕事が好きなのに都会に出向くなど嫌だという輩ばかりでしてな。ヴェグガナークに行った後も土いじりができるのであれば本人たちも本望でしょう。ぜひお連れください」
「ありがとう。あなた達のご厚情に感謝します」
ふむ……まずは数名ほど人材候補を確保、といったところかな。
これから面談して、問題なさそうなら雇用、という感じになる。
とりあえず、まずはその候補数名を集めてもらった。
集まったのは、男性2人に女性3人。
両方ともファーマーであることに違いはないものの、サブクラスでそれぞれ違いがあるようだ。
まず男性二人のサブクラスは片方が『薬師』、もう片方は『猟師』だそうだ。
『猟師』は弓系のクラスで、サイファさんが持っている『弓術』系統とは違う分岐を辿るクラスのようだ。
一方女性の方は一人が『行商』。もう一人は『錬金術師』で、最後の一人は『店持ち木工職人』らしい。
……うん、クラスの時点で決まったようなものだね。
あとは契約だけど、これはクエストで行うものなので私のテイム枠を使うようなものではないし、二人の雇用主も私というよりはヴェグガナルデ公爵家ということになる。
なので、二人から同意をもらった時点で、まずは人材を二人確保したと認められる。テイム枠にはまだ余裕があるし、これから先従者を増やすかどうかはわからないところだけれど、クエストでテイム枠が埋まってしまうのが避けられたのは幸いだった。
さて、二人には早いところ出発準備をしてヴェグガナークに来てもらう約束を取り付けて、私はそのままイダ村へとファストトラベルをする。
ここでも厚い歓待を受けながら村長の家へと案内されて、そこで村の人員に余裕があるかどうかの話をすることになった。
イダ村でも、ノリア村ほどではないが万が一の場合を見越したうえで、それでも3名くらい人員に余剰があるとのことだった。
三人ともTHE農村の村人・村娘といった感じのクラスで、三人の中で黒一点の男性と、二人いる女性のうち片方はファーマー系のクラス持ち。
このうち、サブクラスに『錬金術師』を持っている黒一点の村人はぜひともスカウトしたい。
あとは……残りは、来てくれた人達の世話をするために料理人系のクラスを持っている方の女性を雇っておこう。
――まぁ、私にできるのはこんなところだろうかね。
予定している人員が集まるまで、後7人まで減ったし。
とりあえず、後は農業ギルドにお任せして、私はひとまず屋敷に戻るとしましょうかね。
屋敷に戻った私は、その足で図書室にいるはずの鈴とアスミさん達のところへ向かった。
鈴は今、もう少しで【博識】スキルに届きそうということでゲーム内での読書に夢中になっているからね。
多分、数日以内には鈴も課題を達成するんじゃないかな。
とりあえず、せっかくだからアスミさんに昨日のエレノーラさんとの話について、それとなく話しておこうかな。
エレノーラさんからは何も言われてないし、私からある程度話を通しておいても別に問題ないかもしれないし。
「……というわけなんだけど。アスミさん的にはどう思いますか?」
私はアスミさんに昨日の話を説明した後で、本人にそれとなく意志を聞いてみた。
「別に強制とかそういうのじゃないんだけどね」
「う~ん……私としても、ハンナさんと一緒にいると面白いことが起きそうだし、それにミリスさんがいるから【調合錬成】に関する話も聞きやすくなるしで、今後も一緒にいさせてもらえるならその話に乗るのもありだとは思うんですけどね……」
「乗り気ではあるんですね」
「まあ、ハンナさんのクラス、見ているだけで面白いこと連発するからね。ゲーム内で社交界の話とか、結婚の話が出るとか……」
その話は忘れたいからしないでほしいんだけど……。
「まぁ、ぶっちゃけると借金に関してどうなるかわからないっていうのが本音ですよね。ユニーククラスに当たって、ゲームが始まった当初から背負わされているものなんですし。クラスシナリオと関係しない方が可能性としては薄そうな気がします」
「あ~、やっぱりそうなりますよね~……」
アスミさんのユニーククラスは、『カジノのディーラー』という、錬金術師とはほとんど何にも関係なさそうな名称の、謎のクラスだ。
何をすればランクアップするのかも手探り状態だし。
「ただ……エレノーラさん、公爵夫人っていう立場があるからなぁ……なんだかんだで、引き抜きには成功しそうな気がするんだよねぇ……」
「あぁ……家柄の差っていう奴ですか……」
まぁ、根拠としては大体そんなところだろうかね。
あとは、こんなこと言うのは不本意だけど、やっぱりアスミさん自身がゲーム内では平民でカジノの位置従業員でしかない、というのが大きいと思うんだよね。
言い方があれだけど、貴族にとっては大差ない人材難だから云々、で片付けられてしまいそうな気がしてならない。
「なんにしても、そういう話が始まっているなら、私は今回それに乗らせてもらおうかな、とは思います」
「ん、了解です。じゃあ、そのうちエレノーラさんから話が行くと思いますのでその時はよろしくです」
「わかりました」
私とアスミさんの話が終わったところで、鈴も今読んでいる本を読み終えたのだろう。
息抜きのためか、一旦顔を開けると、チラリと私を見てこんなことを言ってきた。
「アスミさんの話はいいとして。ハンナは、こんなところで油売っていてもいいの? 確か、お茶会の日まであと十日切ってるんだよね?」
「うん、まぁそうなんだけどねぇ……」
実際には、今のところもう私にできることなんてほとんど何もない。
しいて言えば、ミリスさんと一緒に薬草の種の品種改良について研究をし始めることくらいだろうけど。
とりあえず、そのあたりはもう一度エレノーラさんに相談かな。
私がそう考えていたら、それがフラグになったかのようにリサさんが私のところにやってくる。
どうやら、エレノーラさんが私のことを呼んでいるらしい。
「なんだろう」
「さぁ?」
「わかりませんけど……呼ばれたのなら、行った方がよさそうですね。私達、というか鈴ちゃんも呼ばれたなら、お店のことも関係あるのかもしれませんし」
「それはそうだね。それじゃ、ハンナ。すぐに行こうか」
「うん」
それにしても、何か用向きがあるなら午前中のお茶会の練習の時にでも話に出してもらえたらよかったんだけど……急に思いついたことなのかな。
なんだろうね、と鈴と一緒にあれこれ予想を立てながら、私達はエレノーラさんが待っているという執務室へと向かっていった。
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