81.VSタ・ロース・レプリカ 決着


 かなり熱中していたのか、気づいたらもう夕方に差し掛かっていた。

 クエストミッションからの特殊スタンによるボーナスタイム、そして都市部への直接攻撃という都市防衛戦ならではともいえようとんでもない嫌がらせ攻撃を経て、タ・ロース・レプリカの残りVTは残り二割をすでに切っている。

 このころになると、もうタ・ロース・レプリカもできることをほぼ出し尽くしたらしく、純粋に出現当初に放ってきた発熱攻撃と投石魔法、そして投石魔法から派生したであろう、赤くなるほどに熱せられた岩を投げつけてくる魔法――便宜上、赤熱投石魔法、というべきだろうか――を放ってくるのみとなった。

 最後の赤熱投石魔法は、見た目通り土属性と火属性の複合魔法。

 爆発する特性も持っているらしく、着弾すればその周囲に爆風が広がって少なくないプレイヤーに被害が及ぶようになっていた。

 これがまたいやらしいことに、ターゲットとなったプレイヤーから少し離れたところに着弾するように狙いをややずらして魔法を放たれる。

 ターゲットとなったプレイヤーが動けば、それに応じるようにその赤熱投石魔法も軌道がずれる。

 つまり、ターゲットとなったプレイヤー自身では弾くことができないようにされているのだ。

 私や鈴も、その赤熱投石魔法の餌食に何回かなってしまい、巻き添えを食らったミリスさんやセシリアさんは、お互いに蘇生し合っていた(互いに少し離れたところにいたおかげか、両者が倒れるということは幸いにもなかった。それだけは救いだった)。

「まったく、最後の最後まで油断できないね」

「うん。でも、あの熱い投石魔法は、もう最後のあがき的な感じの攻撃でもありそうだけどね」

「確かにそれもそうだね」

 そうして、目からビームを封じた後に新しく加わった攻撃パターンにも怖じることなく、私達は着実に残りわずかとなったタ・ロース・レプリカのVTを減らしていった。

 そして、ついにあと一割、というところに至って、タ・ロース・レプリカは再び両手を上げて、その頭上に巨大な魔法陣を描いた。

 巨大な魔法陣からは、先ほどと同様に大規模攻撃と思われる投石魔法が展開される。

 一つだけ違う点があるとすれば、それは一つの巨大な岩の塊ではなく、無数の赤く熱せられた岩だったということ。

 先ほどの、クエストミッションをほうふつとさせる動作だが――今回は、どれだけ時間が経っても、クエストミッションを報せるウインドウが、メッセージが表示されない。

 つまり、あれは――

「まずい――あれ、多分私たち全員をレクィアスごと巻き込んで大打撃与えるような魔法だ」

「さしずめ悪あがき、といったところかな――」

 魔法陣の赤い輝きはさらに増していき、赤い岩の数はどんどんその数を増していっている。

 どんどん、一つの巨大な岩の塊のようになっていっている。

 あれがすべて放たれるのは、本当にまずい。

 私たち全員が死に戻りするだけでなく、都市防衛戦もほぼ失敗に終わる可能性が高い。

 それを防ぐためにも、早くボスを倒さないと――

 私は、とにかく少しでもボスにダメージを与えてそれを阻止しようと、ブリザードポーションを再度飲み干して、〈デュアルスペル〉からの〈トリプル・フリーズショット〉を次々と放っていく。

 鈴も、同じようにフリーズショットを連発している。他のプレイヤー達も、それぞれが強力な魔法で同じことを考えてボスのVTを0にしようと一斉に魔法を放った。

 魔法陣の輝きは、もう最高潮。いつ放たれてもおかしくはなかった。

 ――お願い、これで倒れて……!

 そう思いながら、私は〈フリーズショット〉の魔法を、残っているMPポーションを使い切る勢いで放ち続けた。

 そんな私の願いが届いたのか、タ・ロース・レプリカはその放たれたら一環の終わりとなるであろうその魔法を、ついに放つことなくVTを全損させた。

 プシュゥーッ、と蒸気を上げながら後ろ側に倒れ込むような動作を見せた後、完全に地面に接地する前に光の粒子となって消え去った。

「……勝った…………やった、イベントボスを倒したぞーっ!」

「うおぉ―――――!」

 誰かがあげた、その声。

 それに追従するように、イベントボスバトルに参加していた全プレイヤーが、勝利の雄たけびをその場で盛大に上げた。

 もちろん、私もそれに混ざってたし、なんなら片手を鼓舞しにして突き上げるまでやってたし。

 傍らでサイファさんから『はしたないですよ』と言いたげな視線を向けられていたけれど、混ざったっていいじゃない。

 なんたって、あとちょっとでヤバそうな攻撃が放たれようとしていたんだし。

 まさに、生か死か、といった状況だったんだから仕方がない。

 そうして勝利の余韻に浸っている私達を祝福するかのように、イベントボスが倒れ込んだあたりの上空に『CONGRATULATIONS!!』『EVENT BOSS DEFEATED!!』という二つのメッセージが表示され、同時に私達の眼前に先ほどのイベントボスバトルと、その前哨戦にあたるスタンピード戦のリザルトが表示された。

 ――私のリザルトは……えぇっ、これマジで!?

「私、全体貢献度1000位以内に入ってた」

「私は10000位以内でした」

「アスミさんはまだこれからでしょ。頑張って」

「そうですね」

 鈴達がなんか言っているけど、私は目の前に表示されたそれがいまだに信じられなくて、固まっていた。

「……ハンナ、どうしたの?」

「固まっちゃってますね……もしかしてフリーズしました? バグでも起きてます?」

「…………あぁ、いや、フリーズもバグも起きてないから大丈夫だよ。ただ、ちょぉっと予想以上の好成績だったから、驚いただけで……」

「へぇ。何位だったの?」

 私は、面白そうにそう聞いてくる鈴に見えるように位置関係を替えて、彼女たちに見やすいようにウインドウもずらした。

 ――イベントボス前哨戦・本戦 戦闘成績――

 ――全体評価 都市防衛率53% 評価ランクSS(SS 50%/S 40%/A 25%/B 10%/C 0%)

 ――個人評価

 ――通常与ダメージ数XXX あなたのLv.:46

 ――クエストミッションダメージ数XXX

 ――特殊項目 事前準備ボーナス……

 ――特殊項目 消耗品提供……

 ――特殊項目 デバフ付与……

 ――特殊項目 ラストアタックボーナス

 ――個人総合成績 147位


「個人成績、147位……私達の中で断トツじゃない……」

「というか、すご……。デバフ付与のボーナスえげつないね……」

「あれで実はかなりボスの行動を阻害で来てたみたいだもんね……」

 ボスの特性上6秒ほどで凍結は解除されてしまうとはいえ、そのたびに前衛組が攻撃を与えるチャンスを作っていたことに変わりはないらしく。

 結果として、高い成績を獲得するに至ったらしい。

 あと、事前準備ボーナスというのがあったらしい。

 これには事前にどのようなアイテムや装備を整えたかだけではなく、いかにクエストをこなしてイベントボスの正体に迫る情報を入手できたか、というのも含まれるんだとか。

 ちなみに一番高かった事前準備ボーナスは、王都地下水道のクエストクリアボーナスだった。

 これで入手できる情報が、トップクラスに高かったようだ。

 ただ、これはもちろん鈴達と共通して獲得できているポイントだったので、鈴達にも同じ分のポイントが入っている。

 ではどこで鈴達と差が付いたのかというと、それはデバフ付与とラストアタックボーナスの項目だった。

 鈴も鈴で、氷冷薬をプレイヤー達に提供していたことで事前準備ボーナスと消耗品提供ボーナスがかなり加算されたらしく、それで1000位以内に入ったようだ。

「……ふわぁ…………なんにしても、順位が順位だっただけにかなりのイベントポイントとプレゼントコインがもらえちゃったなぁ」

「うん。私は、とりあえず【調合師】と【火炎魔法】に優先的に割り振るつもり。【ドレス】は優先順位的には一番低いかな」

「そっか」

 【ドレス】スキルは、上位スキルへの派生に必要なレベルが30と、他の二つよりも低いことが確認できている。

 【調合師】は現在、スキルレベルがトップクラスの薬師でさえ未だに派生できていないという。

 ちなみにそのプレイヤーの最新のスキルレベルは33という話だから、これまでのスキル派生に関する有力説と照らし合わせると、おそらく次の派生に必要なレベルは60である、ということが予想されている。

 鈴の今の【調合師】スキルはやっと30に差し掛かろうかというところなので、確かに優先度としては一番高いだろう。

 ただ、問題になっているのはクラスレベルとの兼ね合い。

 イベントポイントの使用上の制約として、クラスレベルを超えるレベルには上げられないということだったので、鈴のクラスレベル的に一気に派生レベルまで上げることはできない。

 何とも歯がゆい話だ。

 私は……どうしようかな。

 まずは通常スキルで取得しなおした【調合】スキルに割り振れるだけ割り振って……あとは、【指導鞭】【観光】の順で割り振って以降かな。

 【観光】スキルも、探索はある気がメインだからサクサクレベルが上がってきちゃってるし。上がりにくさで言えば、【指導鞭】の方を優先すべきだろう。

 そんなことをつらつらと考えながら、私は夕食の時間が来るまで鈴達とイベントボスバトルの余韻に浸るのであった。

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