75.前哨戦の終了、からの不意打ちボスバトル


 結論から言うと、生き残ることはできた。

 最終的にはレベル50オーバーの敵が出てくるところまで行ってしまったものの、一番苦戦したのはレベル35~45レベルという、三段階目の時だった。

 逆に言うとそれより先、4段階目以降は敵の単体の強さは強い代わりに、多くても3~4体の集団にとどまってくれたため、それほど苦戦することはなくなったのだ。

 中にはイベント開催前、ヴェグガモル旧道で避けたドレイクマンやそれに匹敵する大型モンスターも混じっていたけれど、そうした敵はいずれも単体で、それも他のモンスター達とある程度の距離を開けてポップしたので、周囲にいる他のパーティメンバーと一緒にタコ殴りにできて、おいしいくらいの敵だった。

 今は夕方。

 全体討伐率は90%を優に超えており、あと30分もしないうちに100%に到達するだろう。

 ここまでくれば、後は消化試合のようなものだった。

 出てくる敵も、フィールドボスクラスの大型の敵ばかりとなっている状態だが、こうした、野良ユニットがいくつも組めるような状態だとヘイトの奪い合いで敵を完封したも同然の状況に持ち込めてしまうため、皆してポップしたモンスター目掛けて突っ込んで行ったり魔法を放ったりと、やりたい放題だ。

 かくいう私達も、その中の一員なんだけど。

「……っと、出たわね、リトルサラマンダー!」

 リトルサラマンダー。火属性の敵で、通常はレクィアス地方、レクィアシス火山のフィールドボスの一角を務めている強敵だ。

 そう、強敵のはず、なのだけれど――今の状況下だと、タンクたちに取り囲まれて挑発されまくり、あちらこちらに気が散っている間に私達、後衛組が水属性の魔法を連発するものだから、ただ図体が大きいだけの雑魚敵に成り下がっていた。

 ボスクラスの敵だから倒せば貢献ポイントもがっぽり。だけじゃなく、通常の経験値とかもがっぽり手に入るから、すごくおいしい敵だ。

「ハンナ、あっちでレッドワイバーンが群れてる。アスミさんが毒魔法撒いたおかげで、すごく面白いことになってるよ」

「あはは、毒魔法で盲目にしたら、動きが滅茶苦茶ですね。あ、あそこ同士討ちになってるし」

 意外と怖いことをやっている人が約一名、いないこともないけど、とにかくこんな感じで、最終的には経験値的にも素材的にも、そしてゲームマネー的にも美味しいワールドクエストとなってくれたのであった。

 そうして全員で協力して次々ポップするボス級モンスター達を討伐していくと、やがてモンスター達の精製速度が目に見えて落ちてくる。

 そして、18時半を過ぎたころになると、どれだけ待ってもモンスターはわいてくることはなくなってしまった。

 このころになると全体討伐率も99%となり、前哨戦はほとんど終わりとなってしまったことをうかがわせた。

 おそらく、他の都市でももうまったくモンスターが出現しなくなったか、出現しても物凄くまばらな状態になっているのだろう。

 やがて、そろそろ夕食の時間だし、途中だけど一旦離脱してログアウトすることも考えないとかな……と考え始めたところで、ついにその全体討伐率が100%を達成した。

 と同時に、『World Quest Clear!!』という文字が大々的に表示され、私達の目の前にクエストリザルトが表示される。

 前哨戦ワールドクエストのリザルトは、各都市の防衛に回ったチーム内で共有される、都市防衛率というパラメータを基準に全体の評価が行われ、その中でモンスター討伐率や、回復魔法や回復アイテムの譲渡などで貢献したなどの間接的な貢献度などなど、様々な要素を加味して個人ごとの成績が決定されるらしい。

 私達王都チームは、王都を守る防壁にちょっとばかりの損害を与えてしまったものの、結果的に損害警備ということで、前哨戦のワールドクエストは王都チームは評価Sランクで幕を閉じることができた。

 個人成績はというと、私は全体の中でもなかなかの成績。

 どうやら中盤以降、余裕ができ始めたあたりでミリスさんを介して周囲のプレイヤーたちに回復系のポーションを配ったことが、その評価につながったようだ。

 私達が使う分も確保しておいたけど、かなり余裕をもって持ってきていたし、なんならカチュアさん達に逐次在庫を補充してもらったりもしたしね。

 あと、ポーションを配る際は、そのポーションの生産者に70%の貢献度が配布される仕組みになっているようだ。

 消費アイテム生産者ボーナスという欄があって、その横に『仲介者3:7生産者』という表記があったから、そういうことなんだという認識である。

 どうやらミリスさん自身が作った分はきっちりとNPCサポートとして計算されるらしく、私の従者NPCだからといってずるがしこいことはできない仕組みになっていることも、ここではっきりと示されていた。

「……どうだった?」

「ん、ばっちり。上位ランクとまではいかなかったけど、中堅クラスのランクには入り込めてる」

「う~ん、私も始めたばかりにしては上々じゃないですかね」

 アスミさんのリザルトを見せてもらったけど、これもなかなかに高い。

 私や鈴よりもそれなりには慣れているとはいえ、それでも貢献度ランキングでは中堅クラスに食い込んでいるから、アスミさんの頑張りが如実に表れている。

 その結果が、単なる下駄ではないことはアスミさんのステータスにも表れているだろう。

 純粋に、アスミさんの(ゲーム内での)実力が、この二週間でそれだけついたということの証左だった。

「う~ん……っ、はぁ……。なんか、お祭りの終わりっぽい雰囲気に包まれちゃってるけど、これまだイベントボス出てきてないんだよね……」

「うん、そうだね。まぁ、とりあえずは、イベントボスが出現するまで待機かな。その間に、食事とお風呂、済ませちゃおうか」

「だね」

 そうして、私達は周囲のプレイヤーに挨拶をして、一旦ゲームからログアウトした。


 う~ん、参った。見事に読み違えた。

 イベントボスは、私達が再度ログインする頃には、すでに出現していたらしい。

 どうやら、前哨戦は『背後から迫るゴーレムから逃げるモンスター達』というのを演出するためのワールドクエストだったらしく、私達がイベントボスと戦っている間に、すでにイベントボスである自動人形タロス――とモチーフにしたボス、タ・ロース――は、出現していたのだ。

 夕食を食べながら掲示板を見ていた私達は、慌てないようにしっかりと夕食を食べて、きちんと風呂に入ってからゲームを再開した。

「あ、お嬢様。やっと目を覚まされましたか。大変です、天使族の里で聞いた、タ・ロースと思われる巨大なゴレイルが北西方向から迫ってきているのです」

「みたいだね。早く私達も行こう」

「やはり、行かれるのですね」

「うん、そのために色々装備したんだもの」

 前哨戦でそれなりに消耗してしまったけれど、それでも私達がイベントボスで使う分くらいは十分に残っているはず。

 ミリスさんに確認して、それであっていると確認が取れたら、すぐにいつもの冒険用の装備に着替えてイベントボスのいる場所へと向かった。

「タ・ロースと思われるゴレイルは、現在三体確認されています」

「三体!? 巨大な奴なんだよね!? ただでさえ、天使族の血がたくさん必要になりそうな奴なのに、それが三体持って……」

 一体、どれくらいの天使族を殺ったのさ、邪教集団の人達。

「そのあたりは何とも……ただ、普通の、ヒューマンやヒューマノイドなどの神官たちも生贄にされたと思われる行方不明者は各地にいるようですし、もしかしたら水などで薄めて利用している可能性だって考えられます」

 一概にこうとは言えないわけか。

 それにしたって、三体っていうのは予想外だったけど……。

 とにかく、私達はどのタ・ロースと戦いに行くか、まずはそれを決めないとね。

 どうやらタ・ロースは、三体とも別々の地方を攻めるために大移動をしているらしい。

 一体は、フェルペンスやレクィアスを狙うために、王国西部を移動しており。

 一体は、ロレリアを狙うためにロレール連峰のふもとを全力疾走しているらしい。もしかしたら、その後なんかしてヴェグガナークを狙うのかもしれない

 そして最後に残った一体は、王都へとストレートに向かっている。

 ――というか、プレイヤーが一点に集中しないように見事に分散してるけど、運営の人達って、もしかしてこれを狙って前哨戦が食事時に終わるように仕向けたのかな。

 なんか、そんな気がしてならないんだけど……さすがに気のせい、かな。

 まぁ、今はそんなことはどうでもいい。

 私達は、どれを狙うか。

 今一番重要なのは、それである。

 どこのタ・ロースを狙うのがいいのか。

 それはもちろん、決まっている。一番近い奴を狙うのが一番だ。

 すでに、その王都から一番近いところで応戦中の集団に混ざるべく、『馬車』を走らせているところなんだから。

 ちなみに私と鈴、アスミさんにミリスさん、サイファさん、そしてセシリアさんで一台使っており、残りは護衛だけなので馬で付いてきている状態だ。

 うん、まさに貴族令嬢だよね、これだけ見ると。

「さすがにこのタイミングで馬車の登場には驚いたなぁ……」

「馬車とは言いつつも、引いているのはミニドレイクですがね。公爵家でも、限られた時にしか使わない非常事態用の馬車ですが――まぁ、今がまさにその非常事態だですから、別に使ってしまっても問題ないでしょう」

「というか、それ使っちゃってもよかったのかな?」

「お嬢様が先ほどあちらの世界に戻られている間に、奥様から呼び出されまして。いざというときには、私用しても構わないと、直々に許可をいただいています。何なら書面もありますよ?」

 そんなものまで……やけに協力的だなぁ、エレノーラさん。

 なんだかんだで今回の一件、結構気にしてるよね、これ。

 公爵家秘蔵の馬車というだけあって、その速力はかなりある。

 私達と同じように、夕食中にイベントボスが現れて、迎撃に走っているプレイヤーだろう。

 王都周辺で迎え撃とう、というプレイヤー達もいないわけではないけれど、前哨戦同様、都市防衛率がパラメータとして出てきているため、少しでも報酬を多く稼ぎたい大半のプレイヤーは、主要都市でボスが攻めてくるのを待つよりも、網を張って打って出ることを選んでいる。

 肝心のボスの位置自体は、マップ上に表示されているので、見失うことはほとんどないし――私達王都チームの場合は、敵が一直線に向かってきているから、ある意味網の張り方も単純で済むしね。

「……この辺りのはずだけど……」

 かくいう私達も、そのマップに表示されたイベントボスの現在位置を確認しながら、御者をしてくれているカティアさんに進行方向の指示を出している。

 ある程度近づいたら、後はサイファさんにも確認を手伝ってもらっているけど。

「…………いましたね。向かって10時の方向。ちょうど、数十名が戦っているようです。やはり、巨大なゴレイルというだけあって一撃当たりがかなり重いらしく、かなり劣勢のようです」

 うん、サイファさんの【空間把握】で感知できる範囲内に来たから、馬車で近づけるのはここまでかな。

 これ以上近づいたら、戦闘中の移動次第では馬車も戦闘に巻き込まれてしまう可能性も否めないし。さすがに秘蔵の馬車を台無しにする勇気はない。

 馬車から降りて、カティアさんに馬車を戻すように伝えると、私達は視線の先に移る、数階建てのビルくらいの巨体を誇る、巨大ゴーレムへと向かって走っていった。


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