74.主要都市防衛戦、開幕
その報せは、本日分の宿題で夏休みの宿題が全部終わり、達成感に浸っていた時に届いた。
イベント七日目の午前中、何が起こったのか調べるために掲示板を流し見ていたら、イベントボスの前哨戦らしい主要都市防衛戦が、正午ごろに突如始まったというのだ。
攻めてきたのは、多種多様なモンスターの群れ。
昼ご飯を食べながらの閲覧だったため、鈴と二人して手早く昼食を食べ終えて片付けを済ませ、急いでゲーム内にログインしたのは言うまでもない。
ログインしてミリスさん達に状況を確認すると、すでに各都市でプレイヤー達や、冒険者NPC、そして軍系NPCが迎撃戦に出向いているとのことだった。
私もそこに加わるために、すぐにミリスさんに準備を整えてもらう。
ミリスさんは、苦笑しながら私の要望に応えてくれた。
反対したい気持ちはあるものの、これまでにも時間さえあれば冒険に出かけたり、危険のある場所に赴いたりしていたので今さら何を言っても仕方がない、という複雑な心境らしい。
う~ん、迷惑かけちゃってるなぁ。変える気は、ないんだけど。
令嬢ロールは二の次というか、ユニーククラスの関係上仕方なくやってることだしね。
私達はイベントの序盤で王都にリスポーン地点を移していこう、ヴェグガナークに戻してはいなかったので、必然的に本日のログイン地点も王都の屋敷となった。
つまり、参加するなら王都が最寄りの参加場所となる。
ちなみにイベント前哨戦はワールドクエストにもなっており、クエスト画面からタイムラインを確認することもできた。
それによると、どうやらモンスターの集団は王国――フェアルランド王国の北西部、邪教集団のゴーレム製造拠点があるというフェロー渓谷の周辺に近いところからは波及していくらしい。
つまり、ヴェグガナークにもモンスターの襲撃の予定こそあるものの、他のどの場所よりも防衛戦の難易度は低い――つまり、敵の量が少なく強い敵もそれほど出てこないと表示されていた。
「逆に最も難易度が高いのはフェルペンスと、比較的近い場所にあるレクィアス。ロレリアは、ロレール高地の上に合って、ロレール連峰もはさんでいるせいか意外と難易度が低いね」
「うん。全体の中でも第六位。貢献度による配賦ポイントを美味しくいただくなら、やっぱり王都が一番バランスがよさそう」
「だねぇ」
王都は、フェロー渓谷からそこそこ離れているとはいえ、ストレートにモンスター達の進行方向にあるためか数が多く、NPCからの手厚いフォローがあるといっても全体の中では難易度が第4位と、やや難しめに設定されている。
つまり、うまくいけばそれだけ貢献度を稼ぐことができ、結果としてイベント本ともがっぽり稼げるということになる。
「さて、それじゃ防衛戦に参加しようか」
「だね」
すでにある程度時間が経ち、どの門からでも防衛戦に参加できると知り、私達は適当に南門から王都の外へ出た。
すでに王都の外は押し寄せてきたらしいモンスター達と、それに応戦するプレイヤー達やNPC達で溢れかえっている。
ちょっと出遅れた感があるけど――
「ん~、結構混戦状態だね。これ、私達が出る幕あるかな」
「っ!? っと、あるみたい、だよっ!」
私がそうぼやいたそばから、鈴のすぐそばにモンスターがポップする。
遠くに見えるモンスター達は、よくよく見てみればこちらに向かって走ってきているように見えて、足踏みをしているかのようにその場から動かない。
どうやら、アレはただのイメージCGらしい。
「つまり、フィールドに出ていれば……っ、自然と、モンスター達との、連戦にっ、なる……っ、てことか……」
鈴のフォローに回る暇もなく、私のすぐそばでもモンスターがポップする。
現れたのは、リザードマンのレベル30。そこそこ強い敵だ。
虚を突かれて一撃もらってしまうも、それ以降はカウンターアタックを中心とした近接戦で無事に討伐に成功。
不意打ちをしてくれたそいつは、ポリゴン片となって消えていった。
「お嬢様、大丈夫でしたか?」
「うん、大丈夫。まだVTも余裕あるから、回復はまだいいかな」
「かしこまりました。……私も、戦えればよかったのですが……」
「ミリスさん、私の側から離れないで」
「はい。お役に立てず申し訳ございません」
ミリスさん、相も変わらず戦闘系のステータスは成長性がないからなぁ。
レベルが45を超えた現在も、彼女のATK値は30にも満たないし、DEF値なんてもっと低い。
完全に、戦闘キャラではなく後方支援特化のNPCだ。
このイベントボスの前哨戦クエスト、どうやら混戦状態ということをイメージしてか、城壁に近い場所であっても360度どの方向からでも突然ポップしたモンスターに襲撃されるらしい。
こうした状況下では、基本的に回復担当であるミリスさんが生命線なので、彼女を中心に円陣を組むことになった。
「う~ん、周りを見てみると、なんか前線に出れば出るほど、ハイリスクハイリターンみたいだね」
「だね……。でも、まだ全然後方って言えるこの辺りでもすでに30レベル前後の敵鹿出てこないし、私達はここか、ここよりもう少し前あたりに留めておいた方がよさそうだね」
「うん。まだ、全体で46.0%……。先が見えてない分、リスクよりも安全策を講じたほうがよさそう」
「確実に倒せる敵を狙っていくのが一番ってことですね」
「そういうことですね」
とはいえ、逆にそうしないと推し負けるくらい、リポップ速度が尋常ではないということの裏返しでもあるんだけど。
私達の誰か一人の側にモンスターがポップすれば、その数秒から十数秒後には別の誰かにモンスターが襲い掛かる。それくらいの速さでモンスターが沸くとなれば、これはもう耐久戦以外の何ものでもない。
下手に今の私達では少し強いくらいの敵と戦うよりは、少し弱いくらいの敵と戦って、損耗をおさえたほうが今後のためになる。
なにせ、これはあくまでもまだ『前哨戦』なのだから。
この後、イベントボスが控えているとなれば、ここで激しい消耗をするのは差し控えたほうが無難だ。
そうして、安全策を講じてなるべく防壁から離れないようにして戦っていると、合間の時間に戦いの中にありながらも周囲の状況を確認することができるようになってくる。
そうした数秒の隙間時間を使って、随時周囲の状況をうかがっていると――フィールド上でリアルタイムに起きている、ある変化に気づくことができた。
「あれは――なんだろう」
何を示しているんだろう、アレは。
背丈の低い、カーテンのようなエフェクトがずっと伸びている。
防壁と平行に展開されているそれは、ともすれば王都を囲っているかのようにも見えて――そのエフェクトの上には、一定間隔で『ENEMY LEVEL BORDER』という印が浮かんでいる。
エネミーレベルボーダー……もしかして、あれってその線上のエフェクトを越えたところで、一段階上のモンスターが出てくる領域に入り込む、って言うこと?
だとしたらこれ、拙くないかな。
あのボーダー、どんどん私達の方に向かって迫ってきている。
今私達がいる領域が、どんどん狭まってきているんだけど。
この速度からすると、あと数分で私達は一段階上のモンスターと遭遇するようになるはずだ。
「みんな、気をつけて。あと少ししたら、一段階強い敵が出てくるかもしれない」
「え……あ、本当だ。ENEMY LEVEL BORDERっていうの、いつの間にかあんなところまで迫ってきてた」
「私も気付かなかった。多分、ある程度時間が経ってから初めて表示されたんじゃないかな」
つまり、これから先どんどん、強い敵が押し寄せてくるということなのだろう。
く……思いのほか、難易度が高いわね、この前哨戦。
その後、私が予想した通り、あと数回同じくらいの強さのモンスターと戦闘を行ったのち、エネミーレベルボーダーを超えることとなり、一段階強い敵と戦うことを余儀なくされた。
一回目のエネミーレベルボーダーを越えた先で遭遇した敵は、おおよそレベル30~40。
これまでの敵が、25~35だったことを考えると、下限・上限共に5レベルずつ上昇したという感じか。
この感じなら、まだしばらくは戦うことはできるだろう。
「アスミさん、大丈夫?」
「ちょっと不安ですけど……まぁ、何とかなりそうですね」
アスミさん、防具は鈴のと同じくらいの性能だからまだ何とかなるみたいだけど、武器はNPC製の安っぽい奴だからなぁ。
かなり難しい戦いになってくるはずだ。
と思っていたら、いつの間にか装備している短剣が変わっていた。
どうやら、昨日のうちに調合錬成で新武器を錬成していたらしい。抜け目ないな、アスミさん。
しかしながら……先ほどのボーダー、どうやら単純にポップする敵のレベルが上がるってだけじゃなくて、出てくる敵の種類もどんどん変わっていくみたいだ。
出現してくるモンスターの顔ぶれが、先ほどまではリザードマンとかグラスウルフとか、その手のどこででも見かけるような敵だったのに対し、今はそれらに加えておそらくはどこかの森林部で遭遇するであろう蜂のモンスター・ビッグワスプや、トラの要素がかなり強いトラ獣人の『ワータイガー』をはじめ、これまで以上に多種多様なモンスターが攻めてくるようになった。
特に気を抜けなかったのが、そのビッグワスプ戦だ。
レベルは25~27と低いレベルで出現するのだが、必ず5~8体の集団で出てくる上に、飛んでいる敵のため、私達が作っている円陣があまり意味をなさない。
ミリスさんが攻撃をもらってしまい、ピンチに立たされたことも何度かあった。
幸いにも同様に円陣の中で守っているセシリアさんは護身術を嗜んでいるらしく、円陣の内側に入られたら可能な限り扇子で応戦してくれてたし、ミリスさんに攻撃が言っても、手が空き次第リゲインポーションを使ってくれたから事なきを得たんだけど。
ともあれ、最初のボーダーを超えただけで、私達は苦戦を強いられつつあった。
この上さらに、二つ目のボーダーが生成されたのが、遠目に見て取れる。
これ――意外ときつい戦いになるかもしれないな。私達、二番目のボーダーを超えた後、生き残れるのかな……。
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