イベントボス出現! 幻のゴーレム タ・ロース
72.ゴリアテ傭兵団との別れ
その後、軽く話し合った結果、やっぱり私達はここでゴリアテ傭兵団の人達と別れることとなった。
というのも、どう考えてもゴリムラさんのクエスト、次のフェイズは隠密行動系のクエストっぽいんだよねぇ。
そうなると、数が多いのはかえって不利になるだろう、という結論に至ったのだ。
それよりは、私達も私達で、なにかイベントボス対策になりそうなものを見繕っておくべきだろうという話になり、ゴリアテ傭兵団との行動はここまでとなったというわけである。
「……さて。とりあえず、イベントボスがタロスだったと仮定して、戦うとなれば何が必要になると思う?」
「そうですね……これまでに私達が集めた情報を基に考えるならば、近接戦でどうにかするなら氷冷薬は必要になるかと思います」
「氷冷薬……」
「一時的に、熱波耐性を得るバフポーションの一種ですね。素材は、この辺りに生息しているロレススパイダーあたりがいいかと思われます」
「そう?」
「はい。あと、お嬢様に限れば、今着用なさっているフォーマルドレスとロレススパイダーパラソルを持って挑めば、近接戦は問題ないと思われますが……」
いや、それはどうなんだろう。
近づけば発熱して、付近にいるだけで熱波ダメージを受ける、というようなことは確かに集めた資料の中にはあったけど……。
でも、ふんわりとしていてバランスがとりづらいフォーマルドレスに、ネタ武器の傘だよ?
どうやって近接戦しろっていうのさ。
まぁ、確かに? 傘は盾から派生する装備品で、盾の延長線ともいえる扱いも可能といえば可能だけどさ。
盾としての性能は本来の盾未満なんだよね。
しいて言えば、魔法攻撃に関しては、全ての傘に共通してデフォルトの特性として備わっているみたいなんだけどさ。
「私はやっぱり、後方支援が向いていると思うんだよね」
「そうだね。ハンナのスキル構成だと、後方でポーションがぶ飲みしながら魔法撃ってる方が、貢献できるかもしれない」
「でしょ?」
「あとは、やっぱり消耗品の分配とか?」
「それは事前準備の方じゃないかな」
「まぁ、それもそうだけど……」
とにかく、私達は私達にできることを、ということでそれぞれができること、作れるものを片っ端から作っていくことにした。
鈴は氷冷薬を作ると言って、ミリスさんに聞きに行っていた。
そしてアスミさん。彼女は彼女で調合錬成で早速何やら始めるらしく、私にある程度のルケミカ融和剤とエリクシルパウダーの作り置きを頼んで、そして彼女もまたミリスさんのところへ話を聞きに行ってしまった。
残された私は、とりあえずルケミカ融和剤の調合から取り掛かることにした。
そして出来上がったそれをアスミさんに渡したところで、さてどうしようかな、と思い悩む。
鈴に氷冷薬の作り方を教え終わり、アスミさんと調合錬成の話に入ったミリスさんに相談するのは最後の手段にするとして、私は久々にヴェグガナークの屋敷の図書室に行って、調合関連の本を漁ってみることにした。
「ん~……思い返してみれば私、回復系とか補助系とかのポーションとか、あとは中間素材とかなら普通に作ってきたけど、攻撃に使えそうなものってほとんど作ったことないよね。どこかにそう言ったものがあればいいんだけど……」
イグニ・グレネードとて、アレは火属性の攻撃道具ではあるけど今回のイベントボスには不向きであることが想定されるから、論外。
もっと、今回のイベントボスに使えそうな、それこそ水属性の攻撃とか、あとは強酸系の液剤とかの作り方が載っている奴ならそれがベストなんだけど……と、そんなことを考えながら調合関係の本が納められている本棚を探していたら、
「あ……、これ、とかどうかな……」
たまたま目に着いたその一冊が、見事に私が求めているようなアイテムの作り方が載っていそうなタイトルだったので、思わずそれを手に取ってみた。
手に取ったのは、『【危険! 取扱注意!】エレメンタルポーション製薬法』というタイトルの本と、『【取扱注意!】有害ポーション全書』という私の今の要求にバッチリコミットした一冊。
さっそくそれらを屋敷の私の自室まで持って行って、パラパラとページを適当にめくっていった。
「へぇ……エレメンタルポーションは、名前の通り何らかの属性の魔力が込められたポーションなのかぁ」
エレメンタルポーションは、服用することであらゆる攻撃にその属性が付与される他、その属性への耐性まで得られるポーション。例えば『ブレイズポーション』だったら火属性のポーションなので、全ての攻撃に火属性に対する耐性が付く、といった感じだ。
そして魔法攻撃を放った際には、付与されている属性とマッチした魔法であれば、効果が二倍以上に跳ね上がるという効果もある、とも載っていた。
品質の良さにより、その倍率は変わって来るらしいけれど、これは私にとってはまさに渡りに船だろう。
私、【水魔法】スキルはまだ育ち切っていないから、イベントボス戦で使うにしてもちょっと役不足感がぬぐえないし。
これで補強することができれば、私も少なからず貢献できるようになるだろう。
作り方は……う~ん、ちょっと難しいか?
私はサイファさんを呼んで、欲しい素材をドロップするモンスターとはどのあたりで遭遇できるかを聞いてみた。
「ロレススパイダーに、ブリザードスライムですか……。ブリザードスライムはロレール連峰の低地でも遭遇できるモンスターですね。ロレススパイダーは、天使族の里の周辺でも出てくるので、天使族の里に転移すればよろしいかと」
「そうだったんだ」
それは意外だった。
蜘蛛らしい敵とは遭遇しなかったんだけど……たまたま遭遇しなかっただけなのかな。
まぁ何はともあれ、あのあたりに出てくるってことは、私でも対処できるような敵みたいだからちょうどよかった。
サイファさんに頼んで、素材集めを手伝ってもらうことにした。
再び天使族の里へとファストトラベルし、サイファさん案内のもとロレススパイダーのいるらしい場所へと向かって歩いていく。
その道中で、サイファさんは少々緊張した面持ちでこう注意してきた。
「ロレススパイダーは搦手が厄介ですのでうかつに近寄らないように。蜘蛛の巣を発見したら、慎重に歩くようにしてください」
「わかりました」
「それから、くれぐれも蜘蛛の巣は見逃さないように気をつけてください」
やけに念を押してくるな……。
それほど厄介な敵なんだ……。
「ロレススパイダーの糸は、素材として物凄く重用されるので。できれば、余すことなく集めておきたいところです」
って、蜘蛛の巣云々はそう言った意味もあったんかーい!
いや、まぁいいんだけどさ。
お金になるなら、それはそれで意味があることだし。
ただ、言い方が……いや、何も言うまい。
ありがたいことに、違いはないんだしね。
それからしばらく、私達は黙々と歩き続けて、やがて木々が広がる小森林地帯へと足を踏み込んだ。
ロレススパイダーの巣と思われるものを発見したのは、それからほどなくしてのことだった。
「……見つけましたね、ロレススパイダーの巣を」
「そうですね。この辺りに、いるんでしょうか」
「少々、お待ちを…………そこです!」
――ヒュッ!
サイファさんが弓に矢を番え、注意深く周囲の様子を探ったかと思えば、あっという間に弦を引く。
そしていられた矢は一直線に跳んでいき――やがて、ドサッ、と木の上から巨大な蜘蛛が落ちてきた。
「……倒せましたね。これがロレススパイダーです」
「これが……」
見た目は、青白い蜘蛛という感じだ。
VTが0になっているためか、あまり観察することができないまま消えてしまったが、見た目はやはり巨大な蜘蛛というのが第一印象だった。
ドロップしたのは、ロレススパイダーシルクが4個。それから、ロレススパイダーの氷結毒が2個。
私が欲しかったのは、氷結毒の方だ。
ただ、これでは数があまりにも少なすぎたので、引き続き数が揃うまでロレススパイダーを狩り続けた。
そうして、氷結毒の数が数十個分揃い、また一合目の山小屋周辺でブリザードスライムの乱獲もしたところで、本日は残念ながら就寝時間となってしまったのでお開きとなってしまった。
目標としていたブリザードポーションの作製にこぎつけたのは、翌日の午後になってのことだった。
お店のアトリエに移動して、本を片手に早速ブリザードポーションを調合してみる。
ブリザードポーションは、鍋こそ使うものの加熱処理は行わずに調合することになった。
必要な材料は、ブリザードスライムのドロップ品である、ブリザードスライムのコア。これは、スライム系のモンスターの共通ドロップであるスライムゼリーとはまた別にドロップするアイテムで、スライム系のモンスターはこれらをセットでドロップすることがほとんどだ。
それから、ロレススパイダーの氷結毒。さらに、粉々に砕いた氷を入れた氷水。
これらを冷却魔法で冷やしながらかき混ぜることで、ブリザードポーションは出来上がった。
「冷たすぎるなぁ……これ飲まないといけないの?」
「効果は高いようですが……これを飲むのは勇気がいりそうですね。それくらい、キンキンに冷えてます」
そりゃあ、ロレススパイダーの氷結毒が使われているからね。
冷却効果はばっちりのはずだよ。
【ブリザードポーション】×3
氷精の恵み(効果・中/効果時間・中)、氷精の護り(効果・中/効果時間・中)
ロレススパイダーの氷結毒とブリザードスライムのコアの粉末を混ぜ合わせ、氷水に溶け込せたポーション。
飲むと氷精が好む魔力を放出しやすくなり、氷精の加護を一定時間得やすくなる。代わりに火属性にはとても弱くなるので、使用する場所には注意を要する。
火山地帯などで火属性のモンスターが多いからとこれを飲むのは自殺行為と言えるだろう。
品質指数:631/1200 ☆3
対応カテゴリー:(液体)、(秘術の片鱗)、(調味料)、(激辛料理)、(生産補助道具)
生産者:Mtn.ハンナ・ヴェグガナルデ
うん、きちんと出来上がってるね。
これなら、私でも十分イベントボスと戦えるようになるでしょ。
あとはゴリムラさんからの連絡を待つか、イベントボス出現のアナウンスを待つのみ。
それまではイベントクエストをこなしながら、回復アイテムとかを用意して待機することにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます