70.再合流! 登れ! ゴリアテ傭兵団!
ヴェグガナークに戻る前に、私は改めてサイファさんや従者達を呼んで、状況を説明した。
今回の一件で天使族の里に起きたという異変や、そこから繋がる幻のゴーレムの話。これまでのクエストで読み取れた、邪教崇拝者の狙いの一部。それらを説明し、おそらくはエレノーラさんが何か掴んでいるのではないかと思っていることを私が伝えると、王都邸の私の部屋には数分の間、重苦しい空気が漂うことになった。
まぁ、わからないでもない。
だって、天使族という名前だけ聞いても高次元的な種族の里が襲撃されたというのだ。
それに加えて、その目的というのがまた問題で、私利私欲どころか反社的なものだというのが、このゲームの世界の住民であるミリスさん達にとってかなり強いショックを与えているのかもしれない。
最初に口を開いたのは、サイファさんだった。
「……エレノーラ様に、話を伺いに参りましょう。そして、ロレール連峰の天使の里に緊急視察をしたく思います」
「私も同感かな。天使の里での情報収集は、何か役立つものが得られそうな気がするし」
まぁ、クエストじゃないからイベントポイントもプレゼントコインももらえないのは痛いけど、仕方がない。
と思っていたのだけれど、サイファさんに話をしたところで、自動的にクエストが生成されたらしい。
事件が発生しているのがロレーリン侯爵領というのがどうやら味方をしてくれたようだ。
それから、私とサイファさんが良くのなら止めることはできない、と私の従者達も口々に賛同してくれた。
まぁ、こちらは従者ならば当然、という印象の方が強かったけど。
かくして、サイファさんからのクエストという形で私達はヴェグガナークの屋敷にファストトラベルし、早速エレノーラさんのところへ赴いた。
そして単刀直入に、彼女に今回の一件について情報提供を求めてみることに。
「エレノーラさん。ちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「えぇ、いいわよハンナちゃん。お茶を入れるから少し待っていてちょうだい」
少し待ってから、私とサイファさんの前にお茶が出される。
どうやら、サイファさんの様子からして私達が聞きたいこと、というのが何なのかを把握したのだろう。
「……それで、聞きたいこと、というのは近日多発している、私達天使族の謎の失踪事件に関することでよかったかしら?」
「そうです。ロレール連峰の天使族の里で起きた事件で、別のプレイヤーがクエストで調査した結果、謎の施設で天使族の大量死を目撃したっていう話もあるんですけど、なにか、知っていることはありませんか?」
「あら、そこまで知っているの。そうね……まぁ、あるといえばあるし、ないといえばない、といったところかしらね。その件でここに来たということは、おそらくはあなた達がつかんでいる情報と私が持っている情報には、大した違いはないわ。私は確かに天使族だけれど、そもそも今はもうウィルの妻として、一緒にこの領地に
「…………わかりました。では、そのようにいたしましょう」
「え? サイファさん?」
やけにあっさりと引き下がるんだなぁ、サイファさんは。
「エレノーラ様は、少なくともこのことに関しては嘘や隠し事はしていないご様子でしたから」
「えぇ、そうね。まぁ、天使族が狙われているという話を聞いてここに来たのなら、残念だけれど私は大して役に立てないわね。せいぜいが、報告を聞いて、それを基に依頼を出すくらい」
それに、天使族はそれほどやわではない、とエレノーラさんは語る。
地上こと、ファルティアの大地で活動するための肉体は確かに持っているものの、その肉体が死んだとしても本体は他にあるので全く問題はないのだとか。
せいぜいが、数か月くらい、再び地上に降りてくるまでの準備を要するだけなんだとか。
だから、というわけではないが、エレノーラさんはそれほど危機感を抱いてはいない様子だった。
とりあえず、サイファさんに促される形で私達はエレノーラさんの部屋を後にする。
「結局、ここじゃ大したことはわからなかったね」
「というか、私達やサイファさんの懸念とエレノーラさんの危機感の温度差が激しすぎる。もはや、危機感のきの字も感じていない感じがした」
う~ん、さすがにそこまでとはいかないし、ちょっとばかり心配はしている、というような感じはしたけど……でも、確かに鈴が言うように、私達とエレノーラさんとの間で温度差があるのは確かだった。
このまま話を続けていたとしても、大した情報が集まらなかったのは確かだろうから、ここはサイファさんに従ってさっさと退室してしまって正解だったのだろう。
「それで、これからどうしましょうか……」
「とりあえず、予定通り天使族の里へと赴いてみましょう。何かわかるかもしれません」
「わかりました。…………さすがに、夏場と言っても寒い、ですよね……」
高山地帯だし、寒いという印象しかないんだけれど……
「行くのが冬場だったり、そもそも天使族の里ではなく登頂に挑むのであったりすれば、それはそれ相応の身支度は必要でしょうが……天使族の里は、それほど高くない場所にあります。ロレリアより少し標高が高いですが、気候はこの時期なら少し涼しいくらいで済むしょう」
そっか、なら問題ないかな。
「ただ、道中は少々険しいので、【歩く】スキルが成長しきっていない鈴さんやアスミさんは注意した方がよいでしょう」
「わかりました」
【歩く】系のスキルって、何気に悪路走破――と言えるかどうかは走るわけじゃないから疑問なところだけど、持っているだけで悪路を歩くのに補正がかかるから、歩きやすくなるんだよね。
今はクラススキルとして入ってきたことに感謝しか覚えない。
「消耗品の補充も致しましたし、準備は万端ですね。いつでも出立できます」
「ありがとうございます、ミリスさん。セシリア、私達の方はどうかしら。何か不足はない?」
「問題ないかと思います」
「そう。それではハンナ様、鈴さんにアスミさん。早速ですが、ロレール連峰へと向かいましょうか」
「はい」
そうして、私達はロレール連峰へと向かうためにまずはロレリアへとファストトラベルするのであった。
サイファさん案内のもと、ロレール連峰の登山道を上っていく。
最初は、ロレール連峰の山頂を目指す登山道と一緒のルートを辿るらしいが、途中から道なき道を進むことになるというから、道中はなかなかに大変そうだ。
一応、目的地が地図上には表示されているものの、実際にはかなり回り込まないといけないようだ。
これ、今日中に到着できるのかな。
「天使の里のクエストの不人気な理由の一つに、拘束時間が長すぎたっていうのがあるんだよね。ロレリアで別に依頼を受けてきてもよかったのかも」
「あ~、それは失念してた……」
とはいえ、ロレール連峰はそれ一つが巨大なエリアとなっている。
途中にはランドマークも兼ねた山小屋や集落がいくつもあり、それぞれでクエストも受けられるみたいだから、結果としては他のクエストを受けた場合とそれほど効率的には変わりなかったみたいだけれどね。
そうしてしばらく登山を続けていくと、やがて一つ目の山小屋に到達。
そこで私達は、見知った面々と再度遭遇することになった。
「あれ、ゴリアテ傭兵団のみんなじゃないですか。どうしたんですか、こんなところで」
「それはこっちのセリフだ、ハンナちゃん。俺達はユニーククラス絡みのイベントクエストの続編だな」
「結果出るの速くないですか?」
「あぁ、クエストのバックストーリー的にはさっきのクエストでゲットしたキーアイテム計らんじゃいないだろうさ。今回のは、ロレール連峰できな臭いことが起きているから、その再調査だな」
これは驚いたな。
ゴリアテ傭兵団も、私達とは別ルートで、この山の調査クエストを受注していたとは……。
でも、私達のこれとゴリムラさんのそれが完全に同じかどうかはまた別ものだろうけど。
「ゴリムラさん達の目的地は、どこなんです?」
「それがざっくりとしていてわからんのよ。とりあえず、まずは山小屋とか集落とかで情報収集しながら、天使族の里を目指そうとは思ってるんだけど」
「そうなんですか。私達も今はクエストで天使族の里を目指しているところなんです。よかったらまた合流しません?」
「あら、そうなの。それじゃ、合流しましょうか。こういうクエストはやっぱり、人手が多い方が情報も集まりやすいものね」
決まりだね。
私達は、ゴリアテ傭兵団たちと再合流して、私達のクエストを達成するために協力を仰ぐことにした。
もちろん、私達がゴリムラさん達に協力するのも一緒なんだけど。
ゴリアテ傭兵団は、ロレール連峰に足を踏み入れたことはないらしく、暗中模索のところを私達に救われた形になったらしい。
とりあえずは天使族の里を目標にしていたとは言っていたものの、その天使族の里への行き方もまだわからないような状態だったようなので、私からの申し出は渡りに船だったという。
ただ、惜しむらくはやはりその天使族の里への道のりだろう。
サイファさん曰く、途中からは道なき道を進むことになるらしいし。
マップを見ながらでも、手探りでは危険なことに違いはないだろう。
途中の山小屋や集落で情報を集めなければ、まず間違いなく遭難は免れなさそうである。
「進むべき道が分かっているのは楽でいいねぇ」
「今回は、サイファさんが天使族の里までの道を知っているみたいですから、そこに行くまでの道の情報収集の手間が省けるのは大きかったですね」
掲示板でも、天使族のクエストを受ける上での注意点として、途中で天使族の里への行き方を聞いておかないと、最悪餓死でリスポーンする羽目になる、と書かれていたし。
とはいえ、実際にはゴリムラさん達の情報収集もあるから、手間としてはそれほど変わりないのが実情だ。
山小屋などで情報を集めながら、ロレール連峰を上っていく。
そうして、4つ目のランドマークを過ぎたあたりだろうか。
戦闘を歩いていたサイファさん達が足を止めて、こう言ってきた。
「ここから登山道を外れることになります。そうなると、懸念されるのがモンスター達の存在です。人の手の入っていない領域になりますから、当然モンスター達との遭遇頻度も高くなります。これまで以上に、気を引き締めてください」
「わかりました」
どうやら、いよいよ天使族の里に近づきつつあるらしかった。
地形の条件上、不意打ちを受けてしまうと、下手をすれば転落や滑落して追加ダメージを受けてしまうこともありうる。
若干緊張しながらも、私は再び歩き始めたサイファさん達の後に続いて、天使族の里へと続く道なき道を辿り始めた。
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