68.圧勝! ゴリアテ傭兵団!
クエストボスは、向かった先の旧王城――の中の、玄関ホール内。
文字通り敵の居城と化した古城の、入ってすぐのところで堂々と私達を待ち構えていた。
「ほぅ、一度ならず、再び我らのもとに参ろうとは……どうやら、よほど我らが神、タウ・ロウスさま復活の生贄にされたいらしいな。よろしい、では吾輩が自ら、お主らの生き血を一滴残らず絞り出してやろう。光栄に思うがよい……さぁ、崇高なる我が教団の信者諸君、この者達を捕らえるのだ!」
カァン、といかにも邪教の司祭です、といった風貌のNPCが手に持った杖を地面にたたきつけると、それで鳴り響いた音が合図になったのか、私達の周囲を埋め尽くすかの如く、邪教徒たちが数十人もの規模でポップした。
――え、さすがにこの人数は想定外だったんだけど。
「くくく、わざわざ生贄にその身を捧げに来ようとは、よほど我らが教団に関心を惹かれたのだな」
「さぁ、まずはその汚らわしい体を我らが呪縛にて清めましょうぞ」
「ふふふ、遠慮する必要はないのですよ。はぁっ!」
卑しい嗤いを浮かべながら、邪教徒たちは私達に対して手を伸ばしてくる。
その手のひらから禍々しい黒靄が噴出し、まるで石を持っているかのように私達を見る見るうちに覆いつくしていく。
やがて、私達は一人残らず呪いを受けてしまった。
うん、呪いは、しっかりかかってはいるんだけど、こうしてリバシア薬効の影響下にあると、むしろクエストボスが浮かべているしたり顔が滑稽にすら思えてしまう。
「……うん、リバシア薬効、うまく効いてるみたいだね」
「徐々にだけど、最大VTが上昇してきてるね」
「というか、考えたんだけどさ。これ、しばらくここでじっと耐えてたら、そのうち防御を固める必要もないくらいにVTが高くなるんじゃない?」
「あぁ、それはありそうだ」
いやいや、それは論外でしょ。
ある程度までなら許容はされても、欲をかけば結果としては二の舞になってしまうじゃない。
「〈鼓舞激励〉、〈ナパーム・スコール〉! 何を甘いことを言っているのですか、まったく。物資は有限です。それに時間も限られているのでしょう? 悠長なことを言っていないで、早く部隊を展開しなさいな」
「お、おぅ……あてな、前衛の指揮は任せた。後衛組は魔法の準備だ!」
ゴリムラさんの指示に従い、後衛の中でも魔法攻撃を主体とするメンバーは魔法アビリティの発動準備にかかった。
「〈デュアルスペル〉オールセット、〈チャージ・バーニングウェイブ〉。」
魔法アビリティは、【魔法干渉】スキルのアビリティである『チャージスペル』を使うことで1秒につき20%のブーストがかかるようになる。もちろんノーコスト・ノーリスクというわけにはいかず、チャージ中は通常よりもヘイトを集めやすくなる上に、1秒ごとに放とうとしている魔法アビリティ1発分のMPを消費し続ける。
ソロプレイ中に安易にチャージスペルを放とうものなら、リンク特性持ちを引っかけたと見紛うばかりに敵の集中砲火を浴びることになるのだ。
「魔法組がチャージを始めたわ! タンカーはヘイトコントロールを! しっかりヘイトを稼ぎなさい!」
「おう! 〈挑発〉てめぇ、こっち向けや!」
チャージスペルによりヘイトが後衛に向けられようとするが、即座にタンクたちが〈挑発〉によってそれを自身たちへと向けさせる。
その隙に、私達はチャージスペルを完成させ、そのすべてをクエストボスへと集中させた。
私が放ったのは、【雷魔法】スキルのアビリティ、〈バーニングウェイブ〉だ。〈ヒートウェイブ〉の正当上位アビリティであり、継続ダメージの総ダメージと拘束力、ともに〈ヒートウェイブ〉の比ではないパワーを誇っている。
さらに〈デュアルスペル〉と〈チャージスペル〉を併用することによって、絶え間なく敵を拘束できるように工夫も凝らしている。
――ところで。
今回の敵が放ってくる呪いは、最大VT継続ダメージのほかにもう一つあるというゴリムラさんからの情報を、私はきちんと覚えていた。
そう、『魔法系スキル封印』の呪いである。
リバシアリキッドの効果により、その呪いの効果もきちんと反転されているのだけれど、『封印』が反転すると果たしてどうなるのか――。
「うわっ、えげつねぇ。チャージスペル使ったにしても、やけに効きが良すぎないか?」
「リバシア薬効による、反転した呪いの影響だね……。さしづめ、効果2倍に反転した、ってところかな」
あとは、〈デュアルスペル〉によって可能となっている魔法の二重発動で、チャネル2――つまり、二発目にセットした魔法の消費MPが0になっていることにも気づいている。
つまり、魔法スキル封印の呪いが逆転すると、〈デュアルスペル〉での同時発動が事実上、初撃の魔法の消費MPのみとなる上に、全ての魔法アビリティの効果がおよそ2倍になる、というえげつない効果になることが証明されたということになる。
本来、このボス敵はジリ貧に持ち込まれるか、勝つにしても物理技を主体とした耐久戦が必至となる戦いとなったのだろうけど――リバシアリキッドのおかげで、超短期決戦も斯くやという状況になってしまっていた。
「というか、ハンナちゃんの〈バーニングウェイブ〉、マジえげつないな……」
「火属性のダメージ+フルバインドって、喰らうとかなりきついと思ってたけど、ここまでとは思わなかったな」
「相手の弱点にもろぶっ刺さっているっていうのもあるだろうな」
弱点属性っていうのは、確かに大きいだろうね。
それにバインド効果のおかげで側近の敵タンクたちによるガードもなくなってボスが殴り放題になってるし。
結果として、前衛たちはヘイトコントロールをやめてぼこすかクエストボスを殴りにかかっていた。
FFがないから私達の魔法を気にする必要もなし。私達も前衛たちの位置に気をつける必要もないから、絶え間なく魔法が飛んでいく。
そうして、クエストボスのVTがおおよそ半分くらいになったところで、バトルイベントが発生した。
「えぇい、生贄の癖に生意気な……! いいでしょう、手加減はここまでです。ここからは私も本気で戦わせていただきますよ……!」
クエストボスがそういうや否や、その半分ほどまで減ったVTゲージの下に小さいバーが表示される。
色がVTゲージとは違うから、追加のVTゲージというわけではなさそうだ。
なんだ、と言わんばかりに警戒しながら様子見のためにチャージしていた魔法の片方を破棄し、軽くファイアショットをぶつけてみる。
すると、タンクが庇うよりも前に見えない壁によってはじき返され、私のもとまで戻ってきてしまったではないか。
「熱っ! アイコンが何も出てないのに魔法を反射してくるなんて」
「もしかしたら、そういう特性が発生しているのかもしれないな……くそっ、どちらにしろ物理戦で倒さないといけないことに変わりはないか……」
ゴリムラさんが悪態をつくのを横目に見ながら、私は冷静に周囲の状況も確認する。
よく見れば、呪いを発生させる霧とは別に、新たに紫色の霧も発生している。発生源はクエストボスだ。
味方のヒーラーがVTが減ってきている前衛に飛ばした回復魔法も、なぜか返ってきてしまっているから、おそらくこの紫色の霧は、魔法反射の効果をPC、NPC問わずすべてのキャラクターに等しく付与するような、一時的な地形効果のようなものなのだろう。
そして、私達が放った魔法が反射されるたびに、ボスのVTゲージの下に追加されたバーが減少していく。
なるほどね……。あのバーは、おそらく魔法を反射できる総数を示しているといったところだろう。
魔法3発くらいで1割減少したから、おそらくは――
「【激励】ヒーラーたちは回復魔法を乱発して! それでこの状況はどうにでもなる!」
「っ!?」
なんだ、という視線で見られたのは一瞬。
察しのいい人はボスのVTゲージの下にある、追加ゲージを見て意図を理解できたのか、すぐに私の指示に従ってくれた。
「やっぱりか! この魔法の反射、回数が限られてるぞ! これなら何とかなりそうだ!」
すぐにヒーラーたちは回復魔法を無作為に放ち始める。
魔法職たちも、この機を逃さないと言わんばかりに、MAGを減衰させるデバフ〈ウィークニング・マジック〉を放ち、魔法反射を利用して自身に付与することで実質的なMAGバフを得ている。
やがて、魔法反射ゲージ(私命名)は底を突き、再び魔法がクエストボスに通るようになると後衛組は一斉にチャージを開始した。
私は警戒を続け、反射ゲージが少しでも戻ったら回復魔法を放つことにした。
貴族令嬢ということでエクストラフィジカルのTLKの伸びがいいのもあって、私は魔法アビリティのリキャストタイムが結構短い。
何なら、初期アビリティなら実質リキャストゼロで即座に再発動できるくらいにはなっているので、反射ゲージが時間経過で戻っても、即座にそれを削ることができた。
もしリバシアリキッドなしで挑んだなら、そもそも魔法系のスキルを封じられていたので問題なかったのだろうが――いや、その場合はその場合で別にアクションが用意されていたのかもしれないけど。
とにかく、魔法反射の地形効果付加を封じてしまえば、流れはもとに戻せる。
「ハンナちゃん、反射対策はこっちに任せて、ハンナちゃんはまた〈バーニングウェイブ〉を頼む。あれがあるなしだと効率がだいぶ違うからな」
「わかったわ。それじゃ、早速チャージに入らせてもらうわ」
そうして完全に流れが戻ってくると、もうほぼクエストボスを攻略しきったも同然だった。
最初はリバシアリキッドの効果があってもうまくいくかどうかはわからなくてちょっぴり不安だったけど、思った以上に敵の動きが単調で搦手もなく、対策さえしっかりすればただVTが高いだけの雑魚敵とほぼ変わらなかった。
「くっ――ここまで、のようですね……。いいでしょう、最早この辺りでできることはすべて終わらせましたし。この拠点は放棄し、撤退すると致しましょう。すでに賽は投げられた。我らが神復活の時まで、せいぜい足搔いて回るがよいでしょう。あっはっはっはっ……」
最後の一発、あてなさんがその片手剣を大きく振りかぶった一撃でボスのVTはゼロになり、捨て台詞を吐いて彼らは転移エフェクトと共に消え去っていった。
「……おっし! クエストボス撃破だ!」
「ドロップ品は……なんだ、クエストキーアイテムだけか。一度倒されてそれでこのざまじゃ、正直得るモノよりも失うものの方が多かったな」
「いや、一応イベント限定クエストなんだし、ドロップ品に目を向けてちゃアウトでしょ。クエスト報酬に期待しよう」
「…………だな。ハンナちゃん、鈴ちゃんにアスミン、今回はありがとな。リバシアリキッドがなかったら、また昨日と同じことになっていたかもしれん」
「役立てたならよかったよ。……結局、あとはMPポーションくらいしか使わなかったけどね」
最大VT継続ダメージの呪いは、逆転させたことで最大VT継続アップの効果になっていた。
そしてその結果、最大VTの上昇とともに残存VTも継続的に回復して言っていたため、VTポーションの出番はほとんどなかった。
なんなら、魔法系スキルの封印も逆転していたから、最高のコスパで回復魔法を使えてたしね。
「それじゃ、報告に行きましょ、ゴリさん」
「おう。ハンナちゃん達も来るか? 来なくてもクエスト報酬は受け取れるけど」
「ん~、それじゃ、着いていこうかな」
こんなに早く事が済むとは思ってもいなかったし、今の時間帯ならまだたくさんイベント限定クエストを受けられそうだしね。
王都の冒険者ギルドに行って、何かクエストを受けたいところだった。
こうして私達は、ゴリムラさん率いるゴリアテ傭兵団との初の合同クエストをクリアに導くことができたのだが――このクエストを皮切りに、クエストがどんどんチェインしていくことになるのを、私達は知る由もなかった。
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