67.合流! ゴリアテ傭兵団!
開けて翌日、午後。
ゴリアテ傭兵団からの誘いを受けた私達は、王都の広場で待ち合わせをして、そこで合流することになった。
私達側からは、いつも通り私と鈴と、私の従者達にサイファさん達。
まぁ、早い話が総出である。
枠が一つだけ足りないので斥候三姉妹は一人欠けている状態だけどね。
「ゴリムラさん、今日はよろしくお願いしますね」
「ああ、こちらこそな。あと、話し方は普通で構わないぞ。年齢気にするなら、俺も高一だしな」
「あ、そうなんだ。それじゃ、普通に話させてもらうね」
「おう」
それから、鈴とアスミさんも自己紹介をした。鈴達は配信も絡んでくるので、そのあたりの交渉もやっていた。
「それで、クエストの内容はどんな感じ?」
「内容自体は単純だな。今の第2クラスにクラスアップする前、つまりまだ『エルテマクス盗賊団頭領』だった頃にホームとして使っていた、王都郊外にある旧王都遺構って場所があるんだが。そこに怪しい連中が救っているっていうんで、探ってほしいというクエストが、俺宛にギルドから発注されたんだ」
「ふぅん……。ゴリムラさんあて、というのが気になるけど、やっぱりユニーククラスがらみなのかな」
「だろうな。というか、この前言ったろ? この公式イベントに絡んで、何かユニーククラス絡みで結構重要な役回りが与えられそうだって。まさしく、それ関連な気がするな」
「つまり、そのクエストの成否次第で今回の公式クエストの、今後の展開が変わってくると?」
「まだ断言はできないけど、多分な。とはいえ、失敗条件が今日の24時を回ること――つまり、今日中にクリアすれば問題ないって感じなんだけどな」
うっわ、それ責任重大じゃん。
今日中にクリアすれば、とは言ったけど、逆に今日中にクリアできないと何かまずいことになっちゃうってことじゃん。
うわぁ、なんだろう。すごく気になるなぁ。
「とりあえず、頼まれていたポーション類。持ってきたので納品しとくね。ミリスさん、お願い」
「かしこまりました。どうぞ、こちらがご依頼の品物になります」
「おぅ、確かに受け取ったぜ」
ミリスさんが持ち運びきれない分は、メイド兼斥候のカチュアさんやエルミナさん、それにサイファさんの従者のセシリアさんが手伝ってくれてどうにかなった。
「しっかしまぁ、そっちもそっちで大概だよな。大半がNPCなんだろ?」
「あはは……」
「しかもそっちは少数精鋭みたいだしな。くぅ~、レアリティの差が恨めしいというか羨ましいというか……」
「令嬢教育、体験してみます?」
「まぁ頑張ってくれや」
有無を言わさない切り返し。すごい手の平クルクルだ。
「で、クエストの内容はわかりましたけど、今の状況は?」
「ん~、状況、というかクエストのフェーズ自体、2段階しか無くてな……」
「最奥でボスを倒して、必要なキーアイテム手に入れて、それをギルドに持って行っておしまい、って感じなの。話だけなら、それだけだから簡単だし、道中の敵も私達はもちろん、ゲーム始めたばかりの子でも、数千G程度のNPC製の武器を買えば対処できる程度なんだけど……あぁ、もちろん、ある程度のレベル上げは必要だけれどね」
でも、ボスはそれでは歯が立たなかった、と。
例の、『魔法封印』と『最大VT継続ダメージ』の呪いを与えてくるボスだろう。
「呪いがどうにかできればいいんだけど、無制限に湧き出てくる邪教徒NPCからの呪いだから対処しても焼け石に水で……」
「あぁ、そういう……」
「加えて、ボスは耐久型、ボスの側近はヒーラー2人と魔法使い1人、それにボスを守る壁役2人と、とにかく固いんだ。各個撃破を狙ってたらそれこそジリ貧だ」
なるほどね。
それに加えて前述の呪い攻撃もあるからジリ貧以前の問題に回復が追い付かない、と。
ボスじゃなくて、その取り巻きが厄介なタイプだったのか。取り巻きさえ倒しちゃえば、ボスは無能、というよくいるボスの典型の一つだ。
「ん~、一応私達の方でも対策は絶てて来たんだけど……ただ、これ、ちょっと、いやかなり抵抗あるんだよねぇ」
「呪いを無効にできるアイテムでもあるのか? 解呪ならともかく、そんなものはまだ見つけたプレイヤーもほとんどいないってのに」
「まぁ、それに近いかな。……ポーションなんだけどね」
「ってことはバフ効果の一種か。効果時間は?」
「一度試してみたけど、軽く12時間は持つね」
極長のランクは伊達ではなかった。
さっきログインしてくるころにはもう消えていたけど、昨日試しに飲んでみた時間からして、多分今日の午前中はほとんどリバシア薬効の効果時間内に入っていたはずだ。
「長いわね。十分期待できそうじゃない。可能なら、今のうちに飲んでおきたいわ」
分けてくれるかしら、とあてなさんが問いかけてくる。
断る理由はないし、渡すのは問題ないんだけど……ただ、ちょっとその前に伝えておかないといけないよね。
リバシアリキッドの効果について。
「一応、どんな効果かだけは説明しておかないとだから、ちょっと待ってくれるかな」
「あぁ、そういえばそこ聞いてなかったね。ごめんごめん、ちょっと焦ってたのかな」
「他のポーションならともかく、このポーションの場合、下手をすると自滅もあり得るから注意してね」
「そんなに変なポーションなの?」
「変っていうか……まぁ、変といえば変だけど……単純に言っちゃえば、発生済みのものも含めて、効果が発動している時間内は常に、バフやデバフの効果が逆転するっていう効果なんだよね。まぁ、魔法由来、という制限は付くけど」
「へぇ、そんなのあったんだ……。ん、呪いってつまり、魔法だから……なるほど、確かにこれなら呪いにも対抗はできるね」
「うん。確かに、呪いには対抗できるんだろうけど……」
厄介なのはやはり、バフ効果すらもその効果の範疇に収めてしまう、そのカバー範囲の広さだ。
魔法に寄らないバフ効果であれば、例えば応援系バフとかポーションとかによるバフとかなら問題ないから、必要であればそのあたりを使うしかない。
一応、そのあたりも必要があればと思って、ミリスさん監修のもといくらか作ってきたから、一応は応援系バフ以外のバフも掛けることは可能ではある。
ただ、こちらの場合は効果時間が魔法のものよりも短い上に絶対量も限られてしまうので、使うなら短期決戦も視野に入れないとだろうけど。
「バッファーの皆には、いつもの調子でバフを掛けないように注意しておかないといけないね」
「リバシアリキッド使うならぜひそうして」
「うちはバッファーはヒーラーも兼ねてる連中が大半だし、残りも暇なときは魔法攻撃できる奴らだから大丈夫でしょ」
ならいいんだけど。
念押しのためのバフポーションも配布して、そしたらいよいよユニオン連結となった。
ユニオンリーダーはゴリムラさん、と言いたいところだったんだけれど、統率系スキルの補正値が私の【指揮】がダントツトップだったのて、名目とはいえ私がリーダーをする羽目になった。
「それじゃ、目的地に向かうぞ」
「ゴリムラさん、すぐ行けるの?」
「そりゃね。仮にもこいつの元ホームだし」
「そういえばそうだったね」
私の疑問に答えたのはあてなさんだった。
元ホームとはいえ一時的にダンジョンと化しているから、最奥部まで一気にとはいかない。
それでもファストトラベルでショートカットできるのは楽なことに違いはない。
ゴリムラさん達に連れられてファストトラベルしたのは、旧テイルガルド神殿跡と銘打たれた、朽ちかけた建物。
旧王都の神殿というだけあって敷地がかなり広く、また建物としての形を保っている。
まだそこそこの生活感が残っており、ここが元ホームだった場所らしい。
元、といっても今もゴリムラさんの支配領域であることには違いないらしく、ゲーム内で今のホームが何らかの要因で失われてしまった場合には、再びここがホームとして返り咲くとナビAIから案内を受けたそうだ。
だから、ということなのだろう。ゴリムラさんは何てこと内容にファストトラベルしてきたが、私達にはランドマークすら表示されていない。
私達は、ここにファストトラベルしてくることはできないようだ。
「さて、それじゃあこれからボスのいる場所まで向かうわけだが……」
「そこまでの道で出てくる敵は、どれくらいいるの?」
「う~ん、はっきり言って、それほど多くない。寄り道せずにボスのところまで向かえば、ほぼ間違いなくエンカ数ゼロでたどり着けるくらいには少ないな」
「じゃあ、クエストボスまでに消耗するっていうことは心配しなくてもいいんだね」
「そういうことだな。ま、遭遇したとして、俺達やハンナちゃん、鈴ちゃんはもちろん、アスミンもそれほど苦労せずに倒せる敵だから、雑魚敵に関してはさほど気負う必要はないだろ」
「それを聞いて安心しました」
アスミさんは、ちょっとだけホッとした様子でそう言った。
一人だけ、レベルが20を超えて間もないくらいのレベルだもんね。
それ以外では、一番低くても私のレベル42だし。
「そういや、レベル聞いてなかったな。俺は今のところレベル36で、あてなは45だったか?」
「うん、もうちょっとで46になるかなって感じ」
「まぁ、そんなところだ。ハンナちゃん達は……まぁ、ハンナちゃんがべらぼうに高いのは例のあれが絡んでいるからいいとして、鈴ちゃんも意外と高いんだな」
「まぁ、それなりにはね」
鈴は第2クラスだけど大体私と同じくらいのレベル。
だから、私達も戦力的にはゴリムラさん達とそれほど変わりない感じだろう。
ちなみに例のあれというのは私のクラス特性によるPCレベルの
今、クラスレベルが55を超えてしまい、PCレベルへの加算が11レベルとかなりかさ増しされる状態になっている。
さすがに本来のレベルよりも11も上のレベルの必要経験値ともなれば、求められるレベルもかなり変わってくる。
さすがにちょっと無視しきれなくなってきている状況だ。
今後は戦闘は本格的にNPCに任せきりで、私は後方で声援系バフや魔法による攻撃での支援が中心になるだろう。
まぁ、テイマーだし、それが普通の戦いなんだろうけどね。
ゴリムラさんは、そこで言葉を切って、さて、と私達の集団の前にあてなさんと並ぶ形で出ると、私達に振り向いて今回の作戦について説明してきた。
今回の作戦は至ってシンプル。
まず、ゴリムラさん達が昨日戦った所感によれば、ボスは取り巻きを無限に呼び出し、その配下たちに攻撃やら何やらを任せきりにするという、いわば集団戦タイプ。
その分ボス自身はやや無能気味で、投擲武器を投げて攻撃してくるくらいしかしてこない。
投擲攻撃自体は命中精度が高いため油断はできない者の、うまく近寄ることができればタコ殴りに出きるっぽいので、どうやって近づくか、そこが最大の課題と言える。
ボスは手下以外にも側近をヒーラー、魔法使い、タンクを抱えており、しかもその内訳は耐久性に特化している。
ヒーラーとタンクがそれぞれ二人敵にいる以上、各個撃破も狙いづらいということで、そいつら、少なくともヒーラーを倒すまでは前衛は遊撃に回り、魔法職など範囲攻撃ができる後衛がメインで攻めていく方向に話がまとまった。
「うっし! それじゃ、話もこのあたりで終わりにして、ぼちぼちクエストボスのところまで行きますかね。忘れないうちに言っておくが、今のうちにリバシアリキッドってのを各自飲んでおくように。あと、飲んだ後は明日になるまで一切バフ魔法は禁止だ! ヒーラーは回復に、魔法使いは攻撃に集中しろ」
「バフが必要ならさっき渡したバフポーションを各自飲むように。効果が魔法より短いから、そのあたりは注意して。あとおそらく呪いがリバシアリキッドの効果で反転して、ゲージじゃ残量が図りづらくなるだろうから、そのあたりも気をつけて。特に前衛はダメージも多くなるから逐次メニュー開いて数値で確認するようにして」
最後にゴリムラさんとあてなさんがそう話をまとめたところで、私達はそろいもそろって小瓶を取り出し、その中身を一斉にあおった。
――うっ、あっま!
私は今日が二度目だけど、やっぱりこの味は慣れない。いや、慣れたくない味だ。
「うぇ、なんだこれ……シロップ飲んでるみてぇだ」
「うっ、でも効果は本物だわ。バフやデバフが逆転するっぽいアイコンついたし、これで呪いもへっちゃらでしょ」
「酷い味だ……こんなポーション、もう飲みたくねぇ……」
「次飲むときはぜひ味を調整したものを出してほしいな」
ゴリアテ傭兵団の人達の評価も、おおよそ最悪そのもの。
そもそもがジャンルとしては消耗品の道具ではなく、同じ消耗品でも『素材』扱いなので仕方がない話なのだけれど。
「はぁ……まぁ、とにかくこれで呪い対策も万全になったわけだし。それじゃ、行くぜ皆!」
「「おおー!」」
そうして、私達はゴリムラさんが受けたクエストのボスのもとへと一直線に向かって走り出した。
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