幻のゴーレムのレシピを追え!
66.ゴリアテ傭兵団からの誘い
ミリスさんが落ち着いてから、今度はアスミさんも試してみた。
アスミさんもしっかりと調合錬成を成功させることができ、これでこの方法がプレイヤーにとっても有効であることが確認できたわけだ。
ちなみにアスミさん、調合錬成を成功させることがランクアップ条件にもなっていたらしく、早くも『カジノのディーラーII』へとランクアップしていた。
アスミさんの次のPCレベルキャップは40と、それほど制限が解除されていないようだから、これ以降はいよいよ本格的に『カジノのディーラー』という肩書きとも向き合っていく必要が出てくるのだろう。
イベントが終わり次第、一旦レクィアスに戻ってみると言っていた。
あと、【投げる】スキルがクラス固有派生により、【投擲】スキルに派生したという。また、【投げる】自体も引き続きディーラーに必要なためか、続投するようだ。
私で言うところの【ドレス】からの【フォーマル】への派生制限にあたるのだろう。私の場合は、制限解除後の派生自体は自由だったけど。
さて、調合錬成が無事に開放されたアスミさんはインゴットや各種木材、布などの納品依頼にも手を伸ばすようになり、私達が受けるクエストは一気に多色化していった。
イベント4日目にあたる今日もその勢いは続き、私と鈴がポーション系の納品依頼を中心に受け、アスミさんはそれ以外の納品依頼を幅広く引き受けていった。
「アスミ様、私もお手伝いしますね。研究がはかどります」
「はい。よろしくお願いします」
と、ミリスさんもやる気になっているし、熱中している二人に水を差すのもちょっと気が引ける。
錬金術関連に関しては今のところは二人に任せておいて、必要に応じて調合関連で気になることができたらミリスさんのもとへ聞きに行く、という感じでいいだろう。
私のお世話云々に関しては他の侍女さんもいるし、別にアトリエ・ハンナベルとか屋敷とかの拠点にいる間は大丈夫だろうと思っているからね。
そうしてこの日は初日と同じく、生産にまつわるクエストを中心に受けていき、着実にポイントをためていった。
初日や昨日と違うことは、他のプレイヤー達も今日あたりからは積極的にNPCに話しかけて、直接クエストを受けていたことだろう。
どうやら、鈴やアスミさんの配信を介して【歩く】スキルの真骨頂を広めた効果が顕在化してきたようだ。
「この分なら、公式イベントのシナリオに絡んできそうなクエストが見つかるのも、そろそろかもしれないですね」
「ですかね」
正直、根拠なんてほとんど何もないんだけど、こうして【歩く】スキル持ちが多くなり、隠しクエストが見つかりやすくなっている現状だとそろそろ何かしらの進展はあってもよさそうにも思える。
そんな中、私のもとについ先日知り合ったばかりのプレイヤーから唐突にメッセージが送られてきた。
「ん? ゴリムラさんからメッセージだ」
「ゴリムラさんって、あのゴリアテ傭兵団の?」
「うん」
「なにか面白そうな話でもあったんでしょうかね」
「さぁ?」
とにかく、話は読んで見ないことにはわからないので、私はそのメッセージを開封して読んでみた。
「えぇっと、なになに……? ……へぇ、王都の南に遺跡があるんだけど、ゴリムラさん達今そこで発生してるイベント限定クエストに苦戦してるんだって」
「そうなの? ゴリムラさん達が?」
「私やハンナさんほどじゃないとはいえ、ゴリムラさんのスキル構成もユニーククラスというだけあってそれなりに優秀だと思ったんだけれど……」
まぁ、そのあたりはやっぱりあれかなぁ、レアリティの差が如実に出てるのかもしれないなぁ。同じユニーククラスといえど、レアリティが設定されてるみたいだからねぇ。
ゴリムラさんのスキル、言っちゃなんだけど【手下召喚】っていう盗賊系のスキルで私と同じようなことができるとはいえ、表立って『盗賊団の頭領』っぽいスキルといえるのはそれと【統率】スキルくらいしかなかったもんなぁ。
あとは武器スキルや防具スキル、そして探索系のスキルがちょいちょいあるくらいだったし。
ユニーククラスと言いつつも、普通のクラスと大差ない感じのクラスだしね。
「とはいえ、ゴリアテ傭兵団総員でかかっているみたいだけど、それで苦戦しているのはちょっと気になるね。一体何が原因なんだろう」
「なんか、かなりやばめの敵みたいだね。敵の開幕行動のせいで魔法封印とVT継続ダメージの呪い状態になっちゃうみたいで、なかなか倒せないんだって」
「フレッシュゴレイルの時みたいな感じの敵か……」
フレッシュゴレイルよりも幾分か呪いの効果は弱いとはいえ、それでも魔法が封印され、VTが継続的に減っていくというのはかなりの痛手だ。
ポーションだって無限にあるわけではないし、手軽に使用できるクイックアクセスアイテムもスタック機能なしの30枠のみ。
あとはこまごまとしたリストの中から目的のアイテムを探さねばならず、一瞬の隙が命取りとなるボス戦ではそれがどれだけ危険な行為かは言うまでもない。
つまり、回復魔法に頼らない回復方法が必要になってくる。
「そこで、私の出番、というわけね」
「ゴリムラさん自身も、【手下召喚】で似たようなことはできそうだけど……」
「薬師もいるだろうし、できるんでしょうけど、それでも足りない、っていうところかな。あ、あと魔法に頼らない方法で火属性の高火力範囲攻撃ができる方法があると非常に助かるって来てるね」
ん~、呪いかぁ。
昨日の今日で、リバシアリキッドの出番が出て来ちゃった感じかなぁ。
でも、ちょっと悩ましいんだよねぇ。
ポーションとして、有用なのはまぁ、認める。認めるんだけど……味が甘ったるいみたいであまり使いたくないんだよね。
試しにちょびっとだけ舐めてみたけど、まるでシロップ舐めてるみたいだった。
【リバシアリキッド】消耗品/道具
強リバシア効果、リバシア薬効(極長)、濃縮された甘さ
リバシア草の薬効を多めに抽出した特殊なポーション。
主にデバフ効果を持つ素材から抽出した特殊効果を逆転させ、デバフ解除薬を作るために用いられる。
服用することですでに発動中のものも含め、魔法の力を要員とするあらゆるバフ・デバフ効果を逆転させる効果を得ることができる。デバフだけではなく、バフ効果にも効果が及ぶため、取り扱いには注意を要する道具。
こんな効果なんだよねぇ。
バフ・デバフの効果が逆転するということは、当然通常通りのバフ効果を受けることはできなくなるわけで。
それだけで、ボスバトルに挑むにはかなりのリスクを伴う。
何がリスクになるってこのゲーム、
だから、リバシア薬効の効果中にデバフ効果を受けてバフと同等の効果を得る――なんてことはできなくなるわけで。
まぁ、リバシア薬効の範囲には、声援系のバフ効果は含まれないみたいだから、そのあたりをうまく使っていくしかないだろう。
とりあえず、リバシアリキッドを人数分持っていくとして、後はとにかくミリスさんと斥候三姉妹をフルに働かせて、ポーションゾンビアタックを仕掛けるしかなさそうだ。
あとは、攻撃手段。
魔法に頼らない火属性の攻撃魔法、とくればあれしかない。
先日クエストでも納品対象になった、イグニ・グレネードの出番だ。
イグニ・グレネードは鍋を使うわけじゃないから量産するのは少し手間だけど、欲しいって言うなら可能な限り持って行ってあげたほうがよさそうではある。
「サイファさん、イグニ・グレネードを矢に括りつけて敵の集団にぶつけることってできるかな」
「イグニ・グレネードを、ですか? 火をつけた状態で放てばあるいは可能性があるかもしれませんが、そのままの状態ではまず起爆させるのは難しいかと。それよりは、弓術系のスキルの範囲攻撃アビリティに頼った方が確実性は高いでしょう」
だよね。あれ、見た目からわかるけど普通に導火線に火を灯して起爆するタイプだし。
「必要とあらばやらないでもないですが、矢の痛みが早まるのでできれば他の手段を用意していただけると助かるのですけれど……」
「だよねぇ」
弓って木製だし、導火線に火がともった状態で放てば少なからずその火の影響は弓の耐久値にも影響を与えるだろう。
サイファさんに申し訳ないし、これはどちらかというと【投げる】と、【投擲】スキルを持ってるアスミさんが適任かな。
「とりあえず、方針を固めていきましょうか。まず、ゴリムラさんに合流するべきか、否か。それと、しない場合は物資の供給をすることになるかもだけど、それに賛成か反対か。そんなところだろうけどどうかな?」
「私もそんなところだと思う。方針としては、合流してもいいと思う」
「私もです。レベル的にはちょっと不安感はありますけど、難しそうなクエストですからそれなりに報酬も期待できそうですしね」
「ん、決まりかな」
アスミさんのレベルは現在20ほど。
装備品に関しては、防具に関しては今着用しているドレスがそれなりの性能なのでとりあえずは問題ないらしく、武器に関してのみ不安が残る感じらしい。
まぁ、そのあたりはイグニ・グレネードの数で補うしかないだろう。
今回、アスミさんには遠距離からの投擲攻撃に集中してもらう方針だし。
とりあえず、ゴリムラさんに合流する方向で話を受けた私達。
話し合いの結果、今はゴリムラさん側もリベンジのための準備が必要だし、私達側も急な話だったのでお互いに時間が必要ということになり、合流は明日ということになった。
というわけで、今日は各自で準備を整えながら、明日のゴリムラさんのクエストに備えるのが達成課題だ。
ミリスさんにはとにかくポーションを作ってもらうことにし、アトリエ・ハンナベルの調薬スペースを使って最大限の効率でポーション類を量産してもらった。
私はイグニ・グレネードづくり。今回は初日に受けたイグニ・グレネードの納品依頼とは違い、ガチで品質がいいものを求められるので、この中では最も品質指数の上限が高い私がそれにあたることになった。
鈴は私とパーティを組みなおし、その上で別行動。
フィーナさん、ヴィータさんと共に素材集めに行ってもらっている。
素材集めといえば、カチュアさん達斥候三姉妹にはミリスさん指揮のもと、どんどん必要な素材を集めてきてもらっている。
ミリスさんと斥候三姉妹が揃った今、ここに最高峰の無限ポーション生産機関が完成したといってもいいかもしれない。
最後にアスミさんだが、彼女は投擲武器が心許ないと言っていたがそれに関してはサイファさんがお古の投擲用の道具を貸してくれたようなので、それでスキルを上げに出かけている。
その場の勢いで、サイファさんに弟子入りもしたらしい。
サイファさん、弓だけじゃなくて投擲すら弟子を獲れるって、本当に鬼強いなぁ。
「……ふぅ。こんなものかな」
鍋を使うわけではなかったので、一度の調合に際して要領に制限があるわけでもないので、まとまった量を一気に終わらせてしまった。
そこへちょうどよく、ミリスさんがお茶を入れて持ってきてくれた。
「お嬢様、合間を縫ってお茶をお入れいたしました。軽食も用意してもらったので、少し休憩なさってください」
「ありがとう。満腹度がちょっとまずそうかなって思ってたところだよ」
「いえ。……しかし、さすがに大勢での行軍を想定しての準備となると、やはり並大抵の数では足りそうにありませんね。明日までに、間に合うかどうかは不安なところです」
そうなの?
「どれくらい作れた?」
「そうですね。カチュア達が手伝ってくれた分もありますので、スムーズに事が運びました。元々用意してあった分も含めて、今のところ――といったところでしょうか」
「すごっ! いや、それだけあれば十分だと思うけどなぁ」
「そうでしょうか。……まぁ、もともと10日ほど補充できない時のために作り置きしておいたものですので、結果としてこれくらいの量になってしまっていますが、大勢を一挙に賄うとなればやはりそれくらいあっても一日で使い切ってしまわないかどうか、といったところです」
「あぁ……」
でも、大丈夫だと思うんだけどね。
今用意できているのが、私達だけで活動した場合の、おおよそ10日分。
それに対してゴリムラさん達が連れてくる予定だと言っている人数は、20人ほど。
まぁ、十分じゃないだろうか。
それに、まだ今日は時間があるんだし。
「とりあえず、今日は時間が許す限り、調合あるのみだよ。ミリスさんも、今日はポーション作りを優先してもらえると助かる」
「かしこまりました。では、お嬢様の世話は他の侍女に任せましょう」
そう言って、ミリスさんは同僚の侍女たちをここに呼び出して、私や、今はここにいない鈴達の世話を申し付けたのであった。
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