65.調合錬成に初挑戦
ふぅ。終わった終わった。
調合三昧しているとつい時間を忘れちゃうよね。
私、一体どれくらいの間没頭してたんだろう。
…………まだ、1時間も経ってなかったね。
ミリスさんが請け負ってくれた分も無事に終わったみたいだし、私は鈴達が戻って来るまでしばし休憩をとることにした。
「ん~、それにしてもルケミカ融和剤、か……。これ、調合には使えないのかな」
「使えないことはないですが、仮にVTポーションなどの有用なものに使用したとして、とても飲めるようなものではなくなってしまいます」
そりゃそうか。
【ルケミカ融和剤】家具/器材
ルケミカ効果、エリクシル薬効、デバフ逆転VI(瞬)、解毒作用(小~)、毒予防III(長)、エウレカ効果、昇天する不味さ
木工職人や革職人、金工職人や細工職人などがアイテムを作製した際、使用素材に秘められた特殊効果を製作物に付与する際に用いる液体触媒。
ルケミカ効果はエリクシル薬効やリフレッシュ薬効を発現させるために必要な複数の効果を一つにまとめる効果、リバシア草に含まれるリバシア効果、セパレタリキッドに含まれるセパレタ効果、そしてエウレカドリンクに含まれるエウレカ効果を一まとめにしたものである。
服用すると素材となったポーションすべての効果が発揮されるが、味は最悪で改善の余地もない。
市場に出回っているものの中ではかなり品質が高い品物。
品質指数:1634/2400 ☆3+
対応カテゴリー:(液体)、(秘術の片鱗)、(調味料)、(激辛料理)、(生産補助道具)
生産者:Mtn.ハンナ・ヴェグガナルデ
品質指数がかつてないほど高い数値を示している。
けれどこれは、中間素材の品質が高かったのだからこうなって当たり前。
あとは、ルケミカ融和剤の作製難易度――上限突破をしていない、プレーンな状態での品質上限がかなり高めに設定されているからだろう。
スキルによる品質上限の突破効果は、その『プレーンな状態での上限に対してn倍の数値を加算』っていう感じの効果だしね。
「ルケミカ融和剤の材料を思い出してみてください。半分は混合ポーションでございましたね? つまり、それだけルケミカ融和剤に求められる技術が高いということです」
「そうなんだ……あっ、アスミさん。大丈夫かなぁ」
これだけ高い難易度のポーションだ。
始めたばかりのアスミさんに任せるようなものでもなかったような気がしてならなかった。
ちょっと不安になりながらも鈴とアスミさん達を待っていると――やがて、私達に遅れること20分くらい。
それくらいになってようやく、鈴達も調合を終えたようで、私の工房に再び入ってきた。
「お待たせ」
「遅れてすいません。実は、ルケミカ融和剤を一つ完成させた途端、クラスシナリオと思われるイベントが始まっちゃいまして……」
「おぉ! クラスシナリオ!」
やっぱり、私の直感は正しかったんだ!
【調合錬成】のキーは間違いなくこれだったんだ。
「クラスシナリオ、一体どんな感じでした!?」
「私のアバターのベースになったキャラクター――エミリー・エルネスさんの記憶に関するムービーですね。内容としては、鍋になにか液体のようなものを入れて、その後鉱石類を二つほど投入する、といった内容でした」
「う~ん、ピンポイントで【調合錬成】にまつわる手掛かりが来たぁ、っていう感じだね」
「はい。ルケミカ融和剤を作った直後のことだったんで、鍋に入れていた液体は間違いなくルケミカ融和剤だと思います」
「なるほど。つまり、ルケミカ融和剤の作製が、アスミ様が宿っている肉体に眠る記憶を呼び起こすカギとなっていたということですね」
ミリスさん達、NPC風に表現すればそう言うことになるんだろう。
「とりあえず、いくつか余分に作ってみたんで、これで【調合錬成】の錬金術ができないかどうか、試してみませんか?」
「そうだね! ぜひやってみよう!」
そうと決まれば、急いで納品分のルケミカ融和剤をギルドに届けてこないとね。
あ、カチュアさん。代わりに行って来てくれるの? ありがと~、それならリスポーン地点をお店に戻してもいないからカチュアさん送還するだけで済むし、心置きなく実験に集中できるよ。
というわけで、クエストの達成報告はカチュアさん達斥候三姉妹に任せて私達は調合三昧の続きをしよう!
さて、アスミさんが作ってきた余剰分のルケミカ融和剤は、4個。
私と鈴も余分に造って、合計で24個ほどある。
つまり、携行用調合器具の鍋の大きさからして24回までは実験できるということになる。
「モルガン家の調べによれば、【調合錬成】は器材が揃っていても薬剤の調合に関しては通常の調合になってしまうそうです。つまり、【調合錬成】が可能なのは薬剤以外の錬成となります」
「なるほどね。まぁ、道理といえば道理か」
元が調合スキルからの派生なのだし、【調合錬成】でも通常の調合は可能。なら、それをいちいち錬金術で作る必要はないということだろう。
「ここは最もわかりやすく、これで試してみましょう」
ミリスさんがそう言って取り出したのは、ん~……何かの石? いや、銅鉱石か。
「以前、私もルケミカ融和剤についてはもしかして、と思い試したことがありました。ただ、結果は失敗してばかりで成功したケースはゼロでした。ですから、今回はそれの失敗したケースは省いていきましょう」
「そうだね。ミリスさん、私達がそのダメなケースに行きそうだったら、事前に教えてくれるかな」
「もちろんです。私も、お嬢様の側仕えとなり、りすぽーんというのが可能になりましたから最悪の事態は免れるようになりましたが、それでも死ぬほどのダメージを受けるのは避けたいですからね」
つまり、失敗すると最悪それくらいの何かが起きるということか。
気をつけないといけないね。
「アスミさん、ムービーではどんな感じだった?」
「そう、ですね……」
アスミさんは、記憶を反芻するかのような手つきでおずおず、とルケミカ融和剤に手を伸ばすと、それをトプトプ、と鍋の中に流し込んだ。
携行用調合器具の鍋なので、全量を入れるとおおよそ3分の2ほどになる。
しかし、アスミさんは3分の1ほどで止めてしまった。
――ん?
でも、なんだろ。それだけで、携行用調合器具の表記が変わった……?
【携行用簡易錬金釜(不完全)】道具/器具
古代の秘術用具(小)、成功率0倍
調合器具にルケミカ融和剤を満たしたことで完成した、古代式の錬金術を行うための錬金釜。
しかしこれだけでは薬液に備わる複数種類の力の方向性がバラバラで、魔力の伝わり方が安定しない。
このまま錬金釜として使用するのは避けたほうが良いだろう。
鍋のサイズが小さいので、片手剣や槍などサイズの大きいものを錬成することはできない。
所有者:Mtn.ハンナ・ヴェグガナルデ
使用回数:残り 5回 で元のアイテムに戻ります
「ムービーでは、これにさらに何かの粉と水を入れてたんですけど……」
粉?
粉、ね……。ん~、なんだろ。
「あ…………もしかして」
「ん? 鈴、何か気になることがあった?」
「うん。ずっと気になっていたの。エリクシルパウダーが絡むアイテムって、何かにつけて『秘術の片鱗』なんて言うカテゴリーが付いてるけど、もしかしたらそれって……」
「なるほど……。鈴様、それ、いいかもしれません」
ミリスさんは心得たかのように、手際よくエリクシルパウダーと水を鍋の中に入れていく。
すると、鍋の中身は薄い褐色からきらきらとした虹色の液体に変化していった。
【古代用錬金釜(通常昇華)】道具/器具
古代の秘術用具
調合器具にルケミカ融和剤を満たしたことで完成した、古代式の錬金術を行うための錬金釜。
エリクシルパウダーの成分が呼び水となり、薬液に宿る力が一つにまとまっているため通常の錬成を行うのに適した状態となっている。
薬液がその力を失うまで、あと5回は使用できるだろう。
鍋のサイズが小さいので、片手剣や槍などサイズの大きいものを錬成することはできない。
所有者:Mtn.ハンナ・ヴェグガナルデ
品質上限:+250%
使用回数:残り 5回 で元のアイテムに戻ります
対応スキル:調合錬成
「いけそうだね……」
「はい。しっかりと、『錬金釜』になっていますね」
「うん。でも、対応スキルのところ……。これ、『すべての調合系スキル』って…………」
私も、そこは気になった。
すべての調合系スキル、と書かれているところからすると、もしかすると【調合錬成】スキルを持っていない私や鈴でも、もしかしたら可能性はあるって言うことなのかな。
「とりあえず試してみます。……これは鉄鉱石です。この鉄鉱石から、鉄のインゴットを作ることができれば、この実験は成功ということになります」
「うん。ミリスさん、頑張って……」
「はい……では、やってみます」
ミリスさんは、鉄鉱石を二つ鍋に投じると、匙を手に取ってくるくるとかき混ぜていった。
重たい鉄鉱石はすぐに沈んでなくなってしまったが――しばらくかき回していると、薬液が突如ほのかな光を放ち始めた。
「これは……初めて見る反応です」
「普段とは違うの?」
「はい。失敗すれば煙が上がったり、爆発したりしますから……そうならずに、こうして仄かに輝きながら安定した反応を示しているということは……」
ミリスさんが言い終わる前に、その結果が出る。
かき回していた薬液の中から、鈍い光を放つ綺麗なインゴットが一つ、浮かんできたのだ。
――調合錬成、成功の瞬間だった。
「やった――やりました! とうとう! とうとう、私はモルガン家の宿願であった古代の秘術に、到達できました!」
「うん、おめでとう、ミリスさん」
感激のあまり泣き出してしまったミリスさん。
このままアスミさんも実践を、とはさすがにいかないか……。
とりあえず、号泣してしまったミリスさんを椅子に座らせて、彼女が落ち着くまでひとまずの休息をとるのであった。
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