公式イベント開催!
59.公式イベント出発前の準備
光が収まると、私はいつものゲーム内での自室でベッドに横たわっていた。
「――ハンナ、セレモニー来てくれてありがとう」
「あ、私がいたサーバにも目を向けててくれてたんだ……うん。すごく、輝いてたよ。鈴」
うん、と鈴はむず痒そうにもじもじとしていた。
ところで――私がここにいるのは、いつもここでログアウトしているからまだわかるんだけど――なんで鈴やアスミさんまでここにいるんだろ。
しかもアスミさんに至っては昨日の夜と同じ、メインアカウントの方のアバターになってるし。
「鈴は、広場スタートじゃなかったんだ」
「む。きちんと私の説明聞いてなかったな?」
憤慨だ、と言わんばかりに鈴は私をぽかぽかと叩いてきた。
「イベントのオープニングセレモニーに最後までいた人は、前回のログアウト地点がどこであれ、たとえ他人のホームだったとしても、そこに飛ばされる仕様になっていたの。私達の場合、それがたまたまここだった。それだけの理由でしかない」
「そういえば鈴が屋敷にいるときは、二人揃ってここでログアウトだったね」
いつものこと過ぎて、逆にわからなかったよ。
そっか、そういうことだったのか。
「まぁ、あと私について補足しておくと、私は事前にナビAIに頼んでいたんですよ。セレモニー中は当然ながらチケット使って作ったサブキャラの方を使うとして、実際にログインするときにはメインキャラの方で転送してほしい、っていう感じで」
「へぇ……そんなに柔軟なこともできたんですね」
やっぱり、ナビAIって地味に高性能なんだなぁ。
私の二回目のランクアップの時にも、一番入れてほしかったサブクラスを見事にセレクトしてくれたし。
今回も、プレゼントコインを使ったボックスガチャの中身は、ナビAIによるセレクトなんでしょ?
それなりに高性能じゃないと、できないよねぇ。
「さて。何はともあれイベントも始まったし。私達も、動き始めましょうか。鈴達は、イベント期間中は普通通りに動けるんだよね?」
「うん。私達が今任されてる仕事は、あくまでもゲーム内での密着配信と、今回のイベントのOPとEDのセレモニーを開くことくらいだからね」
なら、期間中は三人で一緒に行動できるわけだ。
というわけで、早速イベント攻略に取り掛かるとしましょうかね。
「イベントクエストって、一体どこで受けられるんだろうね」
「さぁ? 実際のところ、私達もイベントの概要の説明を一足早く受けたのと、セレモニーの台本を渡された以外は、何も聞かされてないんだ。だから、セレモニーで話したこと以外は特に何も知らない。しいて優位性があるとすれば……なんだろ」
これは……本当に何もないな。
こうして首を傾げるあたり、私が本当に何も思いつかないって時にやる仕草(周囲の人達談)と同じだし。
「じゃあ、街中を歩いて回るしかない、かなぁ……」
「それもそうなんだけど……ハンナの場合は、一つだけ懸念事項がある」
「なんだろ」
「屋敷の外だと敵が多い」
あぁ、それが……。
「イベントページに載ってる情報によれば、イベント限定クエストに限れば妨害クエストの可能性はゼロだけど……」
「普通のクエストはその限りじゃない。つまり、時間のロスにしかならない妨害クエストが発生しうるってこと?」
「そういうこと」
う~ん、これは鈴も聞いてなかったかな。
「私のナビAIによれば、そういったのはイベント期間中は停止するんだって」
「ということは?」
「私も、期間中は他のプレイヤーと同じように、大手を振って外を歩ける!」
「おぉ……おめでとう、ハンナ。短い期間だけど、ついにゆったりと屋敷の外を歩けるときが来たね」
「うん! もう嬉しくて仕方がないよ!」
なんだかんだで、従者を連れていたとしても、奇襲に対応するために街中ですら気を張ってないといけなかったからね。
気の赴くままに屋敷の外を歩けるようになったのは、鈴が言うように、私にとってはこれが初めてだ。
「そんなわけだからさ、とにかく早速、街に出てみようよ」
「うん。そうだね」
そんなわけで、私は一旦ミリスさんを呼んで、着替えを手伝ってもらおうとしたのだけれど――。
今日は珍しく、ミリスさんが室内にいないや……あ、今来た。
「あ、お嬢様。お待たせいたしました。実は奥様から呼び出されておりまして……」
「え? エレノーラさんから?」
「はい。実は、今王国内でなにやら不穏分子が暗躍しているらしく……」
「不穏分子……?」
「イベントタイトルと何か関係ありそうだね……」
うん、同じこと考えた。
鈴の配信のリスナー達も、似たようなこと考えたみたいだし。
もしかしたら、イベントクエストの大半も、それに絡むんじゃないかなって感じで。
「えぇ、不穏分子です。この街でも数名ほどすでに捕らえられており、衛兵たちから伝えられた話によれば、なにやら宗教じみた文言ばかりを供述していたようです」
「なるほどね……気に留めておくわ」
「そうなさってください。……とはいえ、今は未だ何とも言えないので、考えても始まりませんね。それよりは、手を動かしていた方が生産的でしょう。さて……それでは、お待たせいたしました。ミリス・モルガン、ただいま戻りました。何かご用件はございますか?」
「えっと……それなら、これから冒険に出るから、準備を手伝ってほしいかな」
「かしこまりました。では、早速お召替えと、扇子と鞭の準備をいたしましょう」
「うん、よろしくね」
ミリスさんに、わからない未来のことなど考えていても仕方がないと言われて、私はせっつかれるように準備を開始した。
「ハンナ。イベントスロットにスキルはセットした?」
おっと、考え事してたらすっかり身支度が終わってしまっていた。
「あ、そういえばまだしてない」
「セットしないと、今回のイベントの半分は意味がなくなっちゃうから気をつけて」
「うん。すぐにセットするよ」
鈴にせかされて、私はメニュー画面からイベントスロットにスキルをセットしていく。
セットするスキルというか、今育てたいスキル自体はすでに決まっている。
一つ目は【鞭】の派生スキル。そのためにまずは、【鞭】スキルを派生させないといけないね。
進化先として選択できるのは、【一本鞭】と【指揮鞭】。当然ながら選ぶのは【指揮鞭】。
【一本鞭】はNPCへの威圧効果が付いちゃうから絶対に取っちゃいけない奴だ。
これでよし。あとはこれを一つ目のイベントスロットにセットして……うん、できた。
次は、二つ目だね。
二つ目のスロットには、改めて通常スキルとして習得しなおした【調合】をセットしようかな。私も【調合錬成】スキルに憧れができちゃったし。
調合系スキルを持つ身としては、やっぱりそれ関連のスキルをコンプしたい気持ちがあるしね。
あとの一枠は……う~ん、スキルポイントは惜しいけど、ここは【散歩】スキルを派生させて、その上位スキルに注ぐことにしようかな。
えっと、【散歩】スキルは……次は、【観光】になるのか。
【歩く】【散歩】と来て、次は【観光】かぁ。となると、その先は一体何になるんだろうなぁ。
何気にここ最近の中では一番気になっているスキルだから、今から次のスキル派生が楽しみだ。
――よし、確認完了。
「うん、できた。そういえば、鈴は何をセットした?」
「私? 私は【調合師】と【火炎魔法】と【ドレス】にしたよ」
「そっか。まぁ、今は鈴のメイン防具も【ドレス】だもんね。育てておくに越したことはないか」
「うん。アスミさんは?」
「私はまだ決めてないですね。始めたばかりなのでクラスレベルも低いですし、ある程度クラスレベルが上がってから決めようかと思ってます」
「あ~、そういうやり方もそういえばありなんだっけ。うん、まぁ、そういうことなら、これで全員準備完了かな。それじゃ、早速出発しよう」
そうして、私達は屋敷から街に繰り出した。
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