57.1ランク上のPOTベース素材


 翌日、金曜日の昼間。

 私は、昨晩のミリスさんの話を聞いて衝動を抑えきれなくなり、通常スキルの方でも【調合】スキルの方を取得してしまった。

 スキルポイントは確かに貴重だけれど、使わずにいるのもそれはそれで勿体ない。

 それに、【調合】スキルはたったの1ポイントで習得可能だし、スキルレベルが30になれば戻ってくる。

 どのみちマックスレベル100まで育てるのであれば、いくらかリターンがあるのだから問題ないと思ったため取得したのだ。

 ポーションショップやってるからには、【調合】スキルはそれなりに早く成長するだろうしね。

 ちなみに通常スキルの方で【調合】スキルを改めて習得したタイミングで、〈初心に立ち返って〉という称号も取得した。

 同じ系統のスキルをクラススキルで持っている場合は通常スキルで、通常スキルで持っている場合はクラススキルで取得しなおした場合に得られる称号で、効果は後に習得した同一系統のスキルの成長が早くなる、というもの。

 機会はそれほど多くなさそうだけど、割と有用そうな効果だったので棚から牡丹餅だろう。

 称号の効果もあってか、品薄になっていたポーションの素材も終えるころには、取得したばかりの通常スキルの【調合】スキルは早くもレベル16になってしまっていた。う~ん、一周目の時よりも早いね。

「上位スキルを持っているのですし、今のハンナ様からすれば【調合】スキルは復習にしかなりませんからね。スキルの成長が早まるのも当然という者です」

 あはは……まぁ、同じ系統のスキルで得られるパッシブ効果は、各効果ごとにより効果の強い物しか適用されないので、現状ではお荷物スキルになっちゃっている状態なんだけどね。

「さて、一通り不足していたポーションの補充は終わったようですね。これからの時間はどうお過ごしいたしますか?」

「そう、ですねぇ……」

 店舗スペースでポーションの補充を済ませたところで、作業を見守っていたサイファさんがそんなことを聞いてくる。

 サイファさん、一応は私につけられたガヴァネス兼お目付け役のはずなんだけど、すっかり私達プレイヤー側に染まっちゃってるよねぇ。

 まぁ、素がかなりのおてんばっぽい感じだから、仕方がないのかもしれないけど。

 う~ん、こればかりは人選ミスったんじゃないかなぁ、と今回ばかりはウィリアムさん達に突っ込みたくなってきちゃったなぁ。

 ――もっとも、今みたいに街の中にいる時は、きちんと目を光らせてるから油断はできないんだけど。

「今日は、素材の採取に行こうかなと思ってます。カチュアさん達が不足気味な材料は適宜採取してきてくれるとはいえ、やはりたまには自分で取りに行かないといけないと思うので」

「それもそうですね」

 準備を整えて、早速ファストトラベルで旧道……ではなく遺跡の地表、遺跡群に転移する。

 今日は素材採取も兼ねて、ヴェグガモル旧道の探索を進めようとも考えている。

 この遺跡群を起点に、東方面――ヴェグガナーク方面へと向かって歩いて行き、未確認のランドマークを登録しつつすでに登録してあるランドマークのもとまで目指す予定だ。

「……おぉ、早速ヒルアベリーが見つかった…………」

「あちらにはパイナダケ。付近にはパイナの実も落ちていますね」

「パイナダケは匂いが独特過ぎて、少々苦手なのですよね……。貴族の中には愛好家もいるらしいですが、私は彼らの気持ちがよくわかりません」

 あ~、形からして多分パイナの実は松ぼっくり……というと、パイナは松のことか。

 というと、パイナダケは自然とマツタケということになるけど……うん。確かに、匂いがちょっと変な感じ。

 リアルでも愛好家はいるみたいだけど、おじいちゃんとかおばあちゃんとか、そういった世代の人が好んで食べるのを見たことがあるくらいで、私もちょっと馴染みはないかなぁ。

「う~ん、薬草類はあまりこの辺りにはないようですね……あ、でもトワグマハーブ。これは薬草類ですね」

 しかも初めて見る薬草だし、これはぜひともゲットしておかないと。

 それから……んなっ、これは!

「なんでこんなものまで採取可能なの……」

「うぅ……この辺りは少々臭いが厳しい、と思っていましたが……まさか、これが原因だったとは……」

 私達の視線の先にあった、採取可能なそれは、紛れもなく何かの生物の落とし物・・・・

 かぐわしい香りがするそれは、素材として採取可能とはいえちょっと触りたくはないものだった。

 私達はそれを避けるように、やや大げさに迂回してそれをやり過ごすのであった。

「……しかし、気になりますね、先ほどのアレは」

「サイファ様、アレが気になるのですか?」

「はい。間近で見ずともわかるくらい、アレは大きかったですし、その……比較的新しい物でしたからね。あちらの方角から、とても大きな気配がしますし、注意した方がよろしいかと」

「そっか……」

 ちょっとだけ偵察を放ってみようかな。

「カチュアさん、エルミナさん。この辺りにちょっと大物がいるみたいなんだけど、どんな奴か探ってきてくれるかな」

「偵察任務ですね。どのくらいまでであればよろしいでしょうか」

「えっと……とりあえず、外見? 敵の種類が分かればとりあえずはいいかな」

「かしこまりました。では、行って参ります」

 カチュアさんとエルミナさんは、現れたかと思ったらあっという間にその場から消えてしまう。

 おそらくは、気配遮断スキルで認識し辛くなっているのだろう。

 まぁ、サイファさんと共有している【空間把握】スキルには二人の反応がはっきりと出ているんだけどね。

 二人も、サイファさんの【空間把握】スキルで敵の位置自体はつかめているのだろう。

 その大物のいる場所まで、立体軌道を描きながらほぼ一直線に向かっている。

 やがて、カチュアさん達が大物と思われる気配のもとまでたどり着き、少しだけ立ち止まってから二人して周囲をしばらく探索。

 そして、ある程度探索が終わったところで、私達のところへ戻ってきた。

「お待たせしました、お嬢様。敵の正体はドレイクマンですね」

「ドレイクマン?」

「はい。ありていに言えば、リザードマンを巨大化させたようなモンスターです。ですが、種別としては有鱗目ではなく地竜目に入り、ブレスも吐いてきます。ブレスの範囲は着弾地点とその周囲、極めて狭い範囲と限られていますが油断ならない敵かと。少なくとも、今のお嬢様ではとてもかなわない強さであることは確かです」

「大きく迂回しよう」

 話を聞く限りだと紛れもなくこの辺り、ヴェグガモル旧道のフィールドボスといっていい存在。

 迂回できる鳴らした方がいいだろう。

「それが……そうもいかないようなのです」

「どして?」

 二人から話を聞くと、どうやらドレイクマンは大きくカーブする河川のほとりに陣取っているらしく、しかもその河川を渡るにはドレイクマンのすぐそばを通らないといけないのだとか。

 あとは、少し離れたところには渡れそうな岩場も発見できたというが、私の服装でその岩場で渡河するには自殺行為だと言われてしまった。

 そして、二人の言葉を聞いてそういうことならと護衛の二人も留めに入ってくる。

「川の岩場は濡れています。ヒールの付いた靴で渡るのは危険ですから、そちらへ向かおうというのなら私達は全力でお嬢様をお止めしなくてはなりません」

「時には武をもってお諫めするのも我々の仕事なのです。しかしそれはあまりしたくはありません。ここは、一旦ふぁすととらべるで対岸のいずこかにあるランドマークに跳ぶべきかと具申いたします」

「……わかった。それなら、仕方がないね。川を渡るのはやめて、周辺の探索を続けよう」

 とりあえず、従者たちの好感度を削ってまで危険を冒す必要はないだろう。

 ドレイクマンの近くを通るにしても、ある程度離れれば相手も諦めるとはいえ危険であることに違いはなし。しかも、目的の場所はその向こう側なのだ。

 ファストトラベルで対岸に渡ることができるならば、それに越したことはなく、私は安全策で反対側からこの近辺を目指してみることにした。

「……こちら側はこちら側で、クリーチャー達のものと思われる拠点があるようですね」

「うん。あっちに歩いていったところにある拠点だよね」

「はい。それもそうなのですが……その他に、あちらの方角にもなにかの拠点があるような気配があります。注意した方がよろしいでしょう」

「そうなの?」

 そっちは全然気にかけてなかったなぁ。

 とりあえず、まずは復活していたオクタウロスの拠点を潰すところからかな。

 一度戦った連中だし、戦い方はすでに知っている。

 前戦った時と違い、今回は今の時点での消耗もかなり少ないので、危なげなくオクタウロスたちを倒すことができた。

 【空間把握】にはもう一つ、拠点の反応が残っているものの、今回の目的は素材集め。

 わざわざ無駄な戦闘をすることもないだろうと考え、私達はその拠点は無視する方向で探索をすることにした。

「この辺りもヒルアベリーは手に入るね。それに妹切草のいい奴に……あ、なんだろこれ。新しく見る素材だ」

「これはシゲル草ですね。ポーションベースの一種であるE-POTベースβや、優良な液肥の材料になります。…………この辺りは、群生地のようですね」

 なるほど……言われてみてみれば、確かにそのこと如くには素材特性として『エリクシル薬効』が含まれてる。それも、小に紛れて時折中が見つかるほど。

 これなら、もしかしたらエリクシルポーションを作るときは『エリクシル薬効(大)』を作ることも十分可能になるかもしれない。

 ある程度採取していって……それから、そろそろ屋敷の温室も運用を考えていきたいと思っていたところだし、ひとまずはこれの量産から手掛けて行こうかな。

 『エリクシル薬効(大)』のシゲル草が大量に手に入れば、より性能のいいエリクシルポーションができるかもだし。

「実際にエリクシルポーションを作る際には、エリクシル薬効の強度に気をつける必要はありますね。シゲル草自体がエリクシルハイポーションの素材でもありますから、強度を高めすぎるとエリクシルハイポーションになることがあります。市場の需要次第では売れなくなってしまう可能性もありますから、注意して取り扱うべきかと」

 あ、そっか。そういう問題があるんだね。

 今の市場からすると……エリクシルハイポーションも、若干なら需要は見込めそうだけど、本格的に売れ始めるのはまだしばらく先だろう。

 調子に乗って、エリクシルハイポーションを作り過ぎないようにしないといけないね。

「お嬢様、これ見てください」

「これは……シロツメクサみたいな花だね」

「ニード草ですね。マナの濃い場所、おおよそ森や樹海などのランドマークの付近に芽吹き、マナを多く取り込み際限なく成長する薬草ですね。料理に用いることで精神を落ち着かせる作用もあります」

「へぇ~。これもいくらか採取して行こっと」

 あとはベオークロゼ。これも拾っておこう。

 近くの気にはツタが張っていて、そのツタもペオース草という新素材だった。

 なにやらすごそうな効果を秘めているみたいだし、これもゲットだ。

 今回拾った素材たちは、どれも今使っているポーションベースよりもワンランク上のベースを作れる素材みたいだし、多めに持っていておいて損はないね。

 シロツメクサ……ニード草のところがちょうどランドマークにもなっていたし、次回以降も楽に取りに来れる。

 今日は思ったより大きな収穫があったなぁ。

 こんなにもすごい収穫があったんなら、今日は夕食食べたら、早速鈴やアスミさんと一緒に調合三昧するしかないよねぇ。


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