56.調合錬成への派生方法


 翌日の夜。

 この日私達はお店のアトリエに集まり、アスミさんに調合関連のレクチャーを行うことになった。

「それでは、本日もよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 まずは軽く挨拶をして、それからアトリエの中を案内した。

 アスミさんは、生産に関してはどうやらまだ始まりのポーションしか試していないらしい。

 始めたばかりだから資金的にも余裕がないし(というかそもそも時点で借金持ちだし)、マナランプを手に入れるまでは安定した品質のポーションを作ることは難しい。

 ということで、ミリスさんにマナランプの購入を手配してもらってプレゼント。サクッと調合器具を駆け出しの調合器具にカスタマイズした。

 これなら、火加減が安定するし、品質の良し悪しも向上することだろう。

「これが……ワンランク上の調合器具……」

「そう。マナランプを加えるだけで、器具の性能をあげられるんです」

「そうですね……。あ、代金どうしましょう」

「いいって、これくらいは。作ったポーション売ったり、素材卸したりしてればそれくらいはじきにたまるだろうしね」

 とりあえず、まずはお手並み拝見といった感じでアスミさんには普通ランクのポーションを作成してもらう。

 鈴が配信で垂れ流しにしていたこともあり、今や果汁の味がするポーションはプレイヤー市場では溢れかえるほどに流通している。

 必然、その作り方も簡単に調べられるように編集されているので、新規参入プレイヤーもすぐにある程度の品質のポーションが作れる。

 アスミさんはそれ以前に鈴と直接接する機会も多いので、アドバイスなど山ほどもらっている可能性もあるわけで、

 まぁ、結果としてアスミさんの薬師としての腕前は、そこそこといった感じだった。

「どうでしょうか。マナランプが思いのほか使いやすかったので、かなりの自信作なんですが」

「うん、いい感じですね。初めてにしては、上出来だと思います」

「それならよかったです」

 アスミさんが作ったポーションは、こんな感じだ。


【VTポーション】×5

VPを回復(中)、MPを回復(小)、満腹度+3%、お腹に響く副作用、酸味のある甘み

 敵の攻撃や、毒などにより減少したVTを回復できるポーション。

 素人作業だが丁寧に仕上げられており、素材に助けられたとも言い切れない出来栄え。

 市場に出回っているものの中ではよく見かける品物。

品質指数:200/800 ☆1

対応カテゴリー:(薬剤)、(治療薬)、(治療薬素材)

生産者:アスミ・エルネス


 まぁ、素材の品質が高すぎたっていうのもあるんだろうけど、それでも見ていて手際が良かったように思うし、温度調整もいい感じだった。

 月並みだけれど、私もうかうかしていられないな、というのが率直な感想だった。

「……ただ、アスミさんの場合はこれでスキルのすべてを把握できた、というわけでもないんですよね」

「そうなんですよね……。【調合錬成】……名前からするに、【調合】系スキルと錬金術系スキルの組み合わせ。でもいったいどうすればいいのか……」

 私達が未知のスキルに首をひねっていると、紅茶を用意するために席を外していたミリスさんが戻ってきており、横合いからこんなことを言ってきた。

「【調合錬成】は失伝して久しい技術です。わかっていることなど、【調合】スキルの一つの最終到達点であり、新たな起点であるということだけ。私見を述べさせていただきますと、【調合】スキルの延長線上である以上、普段通りの薬剤の調合を行いつつ、そこから考えを広げていくのが近道ではないか、と私は考えています」

「【調合】スキルの一つの最終到達点、かぁ……」

 なんか、凄い情報がなだれ込んで来たんだけど……?

「驚かれるのも無理はないでしょう。通常、薬師は【調合】スキルが【調合師】に派生可能となった段階で、すぐに派生させてしまいますからね。気づかれる方など、【調合錬成】を専門に研究しているようなものくらいでしょう」

「まぁ、そりゃそうか……私も、何も考えることもせずに普通に派生させちゃったしね……」

「私もだよ……そもそもランクアップの条件にもなってたし」

 大体は、よりいいポーションを作りたくなって、【調合師】スキルに派生させたくなってしまうもの。

 【調合錬成】スキルは、それを見事に逆手に取って巧妙に隠されていた感じがする。試す人なんて、検証班くらいしかいないんじゃないかな。

「……とはいえ、【調合錬成】に到達するなら【錬金術師】としても基礎を築いておく必要はありますけれどね。【錬金術師】をスキルとして持っていれば十分かと存じますが」

「なるほどね。要約すると、【調合】スキルをレベル100にしたうえで【錬金術師】スキルを持っていれば、【調合錬成】に特殊派生が可能になる、と……ちなみに、【調合錬成】と普通の【錬成】スキルって、できることに違いはないの?」

 このゲームでの錬金術のシステムは、使用する素材に手を向けて『錬成』や『分解』『昇華』といったアビリティを使用するするタイプ。つまり、MPさえあればお手軽にできてしまう、鍋とかはもちろんステータスの『CP』すら必要としないタイプだったはずだ。

 本来のスキルの系統からかけ離れた錬金術関係のスキル――それは、従来の錬金術系スキルとは違った部分があってもいいはずだ。

「ある、と思います」

 やっぱりあるんだ。

「【調合錬成】を用いれば、【錬成】系スキルでは錬成できないようなものでも、順序良く調合を重ねていけば完成させられて、さらに新しいレシピとしても確立できる――などという資料がいくつか見つかっています。さらには、【調合錬成】は【調合】スキルの延長線上ということに違いはありませんから、従来の錬金術では越えられないとされている品質の壁も、容易に突破できるものと期待されています」

 【調合】系スキル全般に含まれる、品質指数の上限突破効果か。それが【調合錬成】で実行できる錬金術にも適用されることが期待されてる、といったところかな。

 ふむふむ……つまり、今ゲーム内で活躍しているアルケミストのプレイヤーたちは、この【調合錬成】スキルを目指すのが最終目標ということになるのかもしれないね。

 ん~、だとするとアスミさんには、ぜひともその先駆者としてノウハウを垂れ流しにしてほしいものである。

 私と鈴が、鈴の配信で調合関連のノウハウを垂れ流しにしているように。

「ん~、でもいくら【調合錬成】のスキルを持っているって言っても、普通にやってたら通常の【錬成】スキルと同じような結果になっちゃいそうな気がするよね~」

「そうですね。実際、私もスキルとして持っているのは【調合錬成師】なのですが、錬金術に関しては通常の【錬成】スキルでできることと何一つ変わらないことしかできていないのが実情です」

 なるほど~。

 なかなかに難儀なスキルだなぁ、それは。

 調合関連の第一人者ともいえる名家の総力を挙げてなお、少しも解明できていないなんて……それじゃあ、今のところお手上げじゃない。

「現状では、アスミさんのスキルは単純に【調合】系と【錬成】系スキルを掛け合わせたもの、として考えるのが一番適しているのかな」

「結果として、そうなるかもしれませんね」

 なるほどねぇ。アスミさんも難儀なスキルをクラススキルに充てられたもんだ。

 普通に錬金術してもダメとなると、やはりミリスさんが言うように普段の調合に絡めて【調合錬成】の錬金術について考えるしかない。

 考えられるアプローチとしては、【調合】系のスキルで作れるポーションの中で、関係ありそうなもののレシピを調べて提供することしかできないかな。

 ん~、錬金術と関係ありそうなポーション、ねぇ…………。

 ――あれ?

 そういえば、どこかで錬金術に関係がありそうな混合・・ポーション・・・・・のレシピをどこかで見たような気がするんだけど……いったい、どこで見たんだったかな。

 喉に小骨が引っ掛かったような感覚にとらわれながら、私は鈴と一緒はログインできる時間いっぱいまで、アスミさんのスキルのレベリングに時間を費やすのであった。


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