55.鈴の依頼とユニーククラス仲間
水曜日。
鈴は本日、イベントの最終調整で夕方まで留守にしていたため、私はソロでログインすることになった。
とはいえ、ルーチンとしては別に変らない。
ポーション類などの回復用アイテムは、駆け出しの調合器具などの小さい生産器具でも、1回で少なくとも5個はできるという良心的な仕様になっている。
それに加え、クラスが『店持ち薬師』になったことで所有できる調合器具のランクが1つアップ。
どうやら調合器具には3つのランクがあるらしく、そのうち今まで使用していたのは『携行用簡易器具』と呼ばれるランクだったらしい。
携行できる代わりに簡易的で、機能が制限される。実にわかりやすいネーミングのランクだった。
自分の好きなように器材を組み替えることで、ある程度専門性を持たせたり、おしゃれな感じにしたりと応用こそできるものの、基本的に『持ち運びできる』という利点に優れており、場所を選ばない。
マナランプを組み込めばより安定した調合ができるようになるうえ、最低限の数しか作れないという欠点こそあるものの、すべてのポーションに対応という点では、第2ランクの器具と比較して一長一短と言えるだろう。
その第2ランクの調合器具が、『据え置き型調薬スペース』と呼ばれるもの。
据え置き型、と付くことから当然持ち運びできず、特定の屋内のスペースに家具として設置することになる。
そのかわり容量が大きいので、携行用器具では一回の調合で最低限の量しかできなかったのが、一気に大量に量産可能になった。
まぁ、作る量を増やせば、それに見合った量の材料が必要になってくるんだけどね。
ただ、一度に大量のポーションを作れるようになったことで時短が可能になり、それだけ材料を取りに行ったり冒険に出かけたりする時間ができたのは確かで、鈴に露店を出してもらっていた時とは段違いの効率化が図れていた。
さて。そんなこんなで今日も無事に昼間~夕方を乗り切り、帰宅した鈴を出迎えて親と一緒に食卓を囲う。
話題はやはり、ゲーム関連の話と、鈴が所属するシグナル・9周りの話が中心になる。
今日はどちらかというと、鈴が持ち帰ってきたシグナル・9の話がメインになった。
「…………なんというか、ちょっと華に謝らないといけないことができたかも」
「謝るって、どゆこと?」
「シグ9がファルオンのアンバサダーになったことで、私たち全員がファルオンを始めることになったのは華も知ってるよね?」
「うん。まぁ……」
あれだけ大規模に喧伝したら、そりゃあね。ファルオンが気になっていた人だけじゃなくて、シグナル・9を追っかけていた人全員に広まっているんじゃないかな。
「実は、それ関連でまた、メンバー内で一人問題児が出ちゃって……」
「問題児って……」
鈴の言い方に、ちょっとだけ角が立っているのが気になる。
「その人、そんなにひどいの?」
「うん。まぁ、実際には運が悪かった、というべきかな……」
運が悪かったって……それはまた気になる言い方だなぁ。
もしかして――
「運が悪かったって言うと、もしかしなくても私と同じような感じでゲームをスタートしたっていう感じなのかな」
「うん。ほら、この前私が言ったように、DL解禁日にはシグナル・9全員が、何かしらの企画を各自でするように指示が出てたって言ったじゃない?」
「あぁうん、言ってたね」
「その中で、その人だけはランダム抽選でファルオンをプレイしてみるっていう、どう考えても地雷としか言えないような企画を敢行したの。私は、その結果がとんでもないことになったら目も当てられないから安全策で別の企画にした方がいいんじゃない、って止めたんだけど……」
「本人が譲らなかったわけか……」
「うん……。その子、かなりの冒険家だから……」
なるほど。それで、ランダム抽選の結果があまりにも思わしくなかった、と。
ちなみに、引き当てたのはなんとユニーククラス。それも私と同じ、Pレアのユニークだったらしい。
ただ、そのユニーククラスがまた曲者だったらしい。
「カジノのディーラー」
「え?」
「その子のクラス。カジノのディーラーだって」
「カジノのディーラー!? てことはもしかしなくてもスタート地点は……」
「そ。レクィアス」
あちゃぁ、よりにもよってスタート地点がそこになっちゃったのかぁ。
レクィアスはカジノがある歓楽都市というだけあって、貧富の差が激しいという背景設定がある。
それを裏付けるかのように、物価が現状でダントツの高さ・治安がすごく悪い・PCも借金を負いやすいという三拍子揃った鬼畜難易度のスタート地点になっている。
『ヘビーゲーマーへの挑戦状です。通常のプレイでは満足できないという方向け』という運営の紹介文にある通り、ここをスタートに選ぶのはある意味自虐行為ともいえる所業。
ナビAIですら、ここを候補に選んだ場合には『いいんですね』、『本当にいいんですね』、『後悔しても責任取れませんよ』と、三段階にわたって再考を促してくるという話だ。
私は話を聞きながら公式サイトにアクセスし、ここ最近見ていなかったユニーククラスの当選者一覧ページへと跳んだ。
すると、第二陣では当選者がなく、ただ既存プレイヤーの情報更新だけにとどまっていたそのページに、新たなプレイヤーが確かに書き加えられていた。
そのプレイヤーの名は――アスミ。
鈴の話を合わせれば、そのプレイヤーはシグナル・9のあすみさんその人だとわかる。
「ちょっと待って。カジノの女性ディーラーって言うことは、RPGに登場するのだとステレオタイプは――」
確か、ファルオンの公式PVでもチラリと登場したけど、確か衣装は――あれ? 普通に健全だった?
「今華が何を考えてるのか、手に取るようにわかるよ。結論から言えば、衣装に関しては男のディーラーの服とほぼ変わらなかったよ。下はスラックスだし、上はブラウスにベスト、ネクタイっていう普通の格好だった」
なるほどね。
となると――考えられる問題は、あと一つしかない。
つまり、ランダム設定の結果が思わしくなかったのだろう。
「ランダム設定の結果が悪かったの?」
「スキルだけで言えば、そういうわけでもないんだけどね……。ただ、ランダムで割り振られた初期フィジカルがかなり偏った感じになっちゃってて……」
「あ~、そういうことかぁ……」
「まぁ、それでも本人的には、戦闘面では問題ないって言ってるんだけどね」
「それ以外のところで支障が出ている、と……」
「そう。スタート早々にクラスシナリオらしいイベントが発生したらしいんだけど、クラスシナリオとクラススキルの関係で、探索と戦闘ばかりというわけにもいかなくなっちゃったみたいなの。――公式ページ見てもらったならわかると思うけど、アスミさんのクラススキル、意外と生産職向けなのわかる?」
「言われてみれば……意外と。でもこれって――いやでも……」
確かにこれは、私のところに来てもおかしくはなさそうな感じはするけど……正直、だからと言って私のところでも対応できるかどうかは甚だ疑問なところだ。
なにせ、アスミさんが引き当てたクラスに就いてる生産スキルというのが、確かに調合に関係しそうではあるものの、ファルオンにおいては全く別物のスキルまでくっついてしまっている、謎しか湧かなさそうなスキルだったのだから。
「それで、調合関連で一つ頭抜けた師匠NPCに師事してる私達のところに来たいって言ってるの。いいかな?」
自業自得、といえばそれまでになるのかもしれないけど、それを言ってしまえばじゃあ私はどうなんだ、という話になってくる。
私はたまたまバランスよくPPtが割り振られたけど、どうにもその人はかなり偏ったバランスになってしまったみたいだし。
同じユニーククラス持ちとしては、放っておけない気もする。
鈴からの依頼なら断る理由もないしね。
早速アスミさんとゲーム内で会うために、私は鈴ともどもファルティアオンラインへとログインした。
アトリエ・ハンナベルは、建物内に二人共用の広めのアトリエと調理場、そして居住スペースとそれなりに広い間取りで設計されている。
売り場もそれなりに広く取られているため、店舗としての規模もそれなりの大きさだ。
公式イベントは今週末、土曜日に開催される。
今日は水曜日。厳密な時間で言えば、開催まであと3日をとうに過ぎているといっても過言ではない。
鈴達シグナル・9もイベントに向けての最終調整で昼間はなかなか時間が取れず、配信枠は夏休みにもかかわらず夜しか取れないという日々が続いていた。
そんな中で、私は複数人のプレイヤーと相対していた。
一人目は、言わずと知れた鈴。
鈴の横に座っているのは、ワインレッドのドレスを纏った、少し気弱そうな顔立ちの少女。――なのだろうけど、中身は結構したたかな気質の持ち主なんだよね。それはもう、見た目と中身が一致していないキャラクターとなってしまっている。
そのプレイヤーの後ろに立っているのは、ルビーレッドのドレスが似合う女性プレイヤー。
そして最後に、鈴の後ろに座るのはトパーズ色ドレスが本人の活発な印象を引き立てている少女。
二人目以外の、鈴を含めた三人のプレイヤーは皆シグナル・9の顔役を務める最古参メンバーであり、初期メンバーのみで構成された派生アイドルユニット『シグナル・ジュエル』のメンバーでもある。
ワインレッドのドレスのプレイヤーも、当然ながらシグナル・9のメンバーだ。
ハイティーン以上のメンバーで固められたユニット『ディープ・ライト』の赤担当だったはず。
プレイヤーネームはアスミとなっているけど、確か正式なアイドルとしての名前は確か――千堂アスミさんだったかな。
ドレス姿なのは、それがシグナル・9とファルオンのタイアップ用の衣装だからだろう。
そんなようなことを前に鈴が言っていたし。
「……それじゃ、早速ですが話を始めさせていただきますね。私、ディープ・ライトの千堂アスミといいます。よろしくお願いします」
艶やかさがあることで大人からの人気が高いアスミさんの一声により、私達の話し合いは始まった。
「あ、はい。よろしくお願いします。鈴の姉で、PCネームは
「知ってますよ。鈴ちゃんからよく話聞きますしね」
「ん。ハンナは私の自慢の双子の姉」
こりゃこりゃ、お見合いじゃないんだから。
などという突っ込みは置いておく。
「んで、……アスミさん、でいいですかね」
「はい、それで大丈夫です。ファンの人達からは、大体アスミンって呼ばれてますけどね」
私は面と向かってアスミン呼びはちょっと遠慮するかな。
「アスミさんは、私達と一緒にゲームをプレイするっていう方向でいいんですかね?」
確か、鈴からはそう聞いていたはずだけど。
「はい、そうですね。そのために、こちらにいるなずなに力を貸してもらって、ヴェグガナークにファストトラベルしてきたのですし」
なずなさんにチラ、と視線を向ける。
「まぁ、ここには以前、来たことがあったからね」
「あぁ、そうなんですね」
そう言えば、まだ2陣が入ってくる前に、何回か鈴が別行動したことあったっけ。
その時に会っていたのかもしれない。
「鈴とは真っ先に会いに来たよ。やっぱりユニットメンバーだからね。フレ登録はしておかないと」
「うん。一週間もしないうちにヴェグガナークに到着してたね」
まぁ、街道歩くだけならレベル1でも対処できる敵しか出てこないのが、このゲームの一番の特徴だからね。
街を移動するなら、それほど時間はかからなかったんだろう。
「それじゃあ、私としては特に問題はないと思いますが……鈴は?」
「私も、特には……あ、一つだけ注意が必要かもしれない」
「注意?」
「うん。ほら、ハンナはただでさえ従者召喚でパーティ枠が埋まっちゃうから……」
「あぁ……そういえば」
それがあったね。
特に、今は従者の数が増えてしまった上に、サイファさんやサイファさんの従者のこともある。
彼女たちのことも考えると、枠はむしろ足りなくすらある。
私、ミリスさん、フィーナさんとヴィータさんの初期メンバーで4人。サイファさんとその従者で4人で八人。
あと新しく入った斥候達で3人がいるから、それで十一人だ。
まぁ、サイファさんの方は必要に応じて人数を減らしてもらうとしても、それでもかなりギリギリだろうね。
とはいえ、斥候三人はローテーションで誰か一人か二人をいれる形になるだろうから、実際にはあと一人くらいは問題ない。
「というわけなんだけど、鈴。他に何かあるかな」
「いや。ハンナがそれで大丈夫なら、私からは特には――あぁ、あとハンナの特性で、敵性NPCがいつ襲ってくるかもわからない、というのは把握してる?」
「鈴ちゃんの動画は時間がある時に見させてもらってますし、問題はないかな、と思ってます」
「う~ん、大丈夫かなぁ……」
アスミさんは大丈夫というけど、実際には私のPCレベル――38レベルのプレイヤーにちょうどいいくらいの敵性NPCが襲撃をかけてくる。
ということは、まだレベルがそれほど高くないアスミさんには、かすり傷ですら致命的な敵ということになる。
その辺りは、本当に大丈夫なんだろうか。隠密性に長けた暗部系のNPCも襲撃してくるんだけど。
「なんだったら、私とアスミで別パーティ組む形で、ハンナはパーティの人数制限最大まで召喚。それでアスミさんを厳重ガード。というのでもいいと思うけど……」
「あぁ、それが一番かもしれないね」
まだ実践投入していないからわからないけど、レベル的にはそれで問題なさそうだし。
最終的にアスミさんもこれに同意することとなり、私達はPC/NPC混成9人の固定パーティから、私とNPCの実質ソロなパーティと、鈴とアスミさんのペアを組み合わせた固定ユニット体制へと移行することになった。
「それじゃあ、最後に正式に仲間に入れさせてもらえたということで、私のステータスをお見せしますね」
「あ、ありがとうございます。それじゃ見させてもらいますね……。おぉう、これはこれは……見事なものをお持ちで……」
「その……こんなステータスですいません。できるだけ、邪魔にならないように努力しますので……」
「いやいや、気にする必要はないですからね。私達だって、完全にマイペースでこれまでやってきたんですし」
とはいえ、冒険家気質だという鈴の評価をして、アスミさんがそこまでへりくだるそのステータスは、それはまぁ酷いものだった。
私とは別の意味で、これはひどい。
企画で使わざるを得ない、という点がなければ即行でキャラリメイクチケット案件だろう。
それほどまでに唸ってしまうほどのステータスだった。
『NAME:アスミ・エルネス Lv.5 人間■ DEBD:1,005,000G(+0.05%/1M:CMP)
CLASS1:カジノのディーラーI■ Lv.7
HEALTH:VT■:980/980 MP■:135/135 CP:111/111 SECURE - / - GOOD
CONDITION +
BASE PHYSICAL -
PPt.0
ATK■:43 DEF■:38
MAG■:26 MDF■:22
DEX■:111 SPD■:75
LUK■:8 TLK:69
MND:48
CLASS1 SKILLS
【投げる■:3】【蹴る■:2】【短剣■:4】【フォーマル■:1】【愛嬌■:4】【社交■☆:2】【圧力流し■:2】【器用■:4】【知見■:3】【歩く■:5】【賭け■:2】【調合錬成■:1】
SKILLS SPt.0 -
魔法
【魔力操作■:3】【毒魔法■:3】【火魔法■:2】【植物魔法■:2】【魔法干渉■:3】
補助
【ステップ■:3】【隠れる■:4】【毒耐性■:1】【幻惑耐性■:1】
生産
【裁縫■:1】
う~ん、私の初期とはまた違った感じで偏ってるよね、これ。
戦闘面で考えるとステータス的には物理寄り。ただ、肉弾戦というよりは、主にアサシンとか斥候とか、そういった感じの傾向が強いステータスとスキルの傾向だ。
あとは、生産系に結構振り切れてる気がする。
私もレベル一けた台の頃にすでにDEXは100越えしてたけど、同じくらいの速さで成長している。
ユニーククラスは、名前だけだとどんな感じで成長していくかさっぱりわからないからフィジカルの伸びで判断するしかないけど、これを見る限りだとアスミさんは敵から隠れたり攻撃をかいくぐったりしながら素材を集めつつ、生産活動を行っていくっていう感じになるんだろう。
そう言った意味では、私とは毛色は違うけどやることはほぼ変わりないかもしれない。
問題なのは、NAMEの横にあるDEBDの項目。これ、どう見ても借金だよね。
話を聞くと、ベースになったキャラクターのものを引き継ぐような感じでクラスシナリオがいきなりスタートしたという。
ちなみに端数の5000Gはチュートリアル終了時に渡された準備金らしい。報酬じゃなくて借金なところが、ユニーククラス特有の運営の悪意臭を感じさせる。
ユニーククラスのプレイヤーが背負うハンデキャップは、必ずそのユニーククラスが持つ、通常クラスに対する優位性と対になっている。
つまり、この1Mもの借金に対応する何かが、アスミさんのステータスにはあるはずだ。
――それと、気になるのはこの借金のところに書かれている追記だ。
これ、一体何を意味してるんだろう。
「これ、追記されてるのって何なんでしょう」
「あぁ、これは利息ですね。CMPは複利、/1Mの部分は一か月ごとなので、1月ごとに元金におよそ500Gちょっとの金額が加算されていくっていう感じですね。まぁ、こっちは別にサボらなければそのうち終わると思うんですけど」
なんかあっさりしてるなぁ。こっちはあんまり問題に思ってないみたい。
まぁ、確かにそりゃそうだけど。
「問題なのはやっぱり、クラスシナリオの方ですかね。どうにも、この【調合錬成】スキルが密接に関係しているみたいなんですよ」
【調合錬成】ねぇ。
【調合】スキルならともかく、【調合錬成】――錬成、の二文字がくっついているとなると錬金術に関係したスキルではあるんだろうけど……。
このゲームで錬金術、といえばあまりぱっとしない生産系スキルとして割とよく知られていた。
【調合】系スキルみたいに品質の上限突破効果もないから品質の高いポーションを作ることもできないし、武器や防具を作ることもできるが性能はイマイチなものばかり。
一体何のためにあるのか理解不能とすら言われることのある謎スキル……の、はずなのだけれど。
そんなスキルと【調合】が合体して、一体どんなシナジーを生み出すことになるのやら……。
「……私の手には負いきれないかな。ちょっと、専門家に聞いてみましょうか」
プレイヤー同士の重要な話ということで、お茶の用意をした後で一旦席を外したミリスさんを呼び出す。
彼女にその【調合錬成】について聞いてみたところ、なんと彼女は珍しく驚いた顔をした。しかも若干食い気味にぜひとも薬師として弟子入りしてほしい、そして一緒に研究してほしいと懇願してたし。
まぁ、研究云々の話についてはまたあとあと触れていけばいいだろう。
「で、結局この【調合錬成】って何なの?」
「今は失われて久しい、古代の錬金術の技法だと伝わっています。私の家も代々その技法にたどり着くべく、調合技術を研究し続けてきたのですが……まさか、このような形で【調合錬成】持ちの異邦人と遭遇するとは思いませんでした」
なるほどねぇ……。
これ、話を纏めるとアスミさんのユニーククラスの立ち位置って、失われたはずの錬金術を密かに代々受け継いできた、由緒ある家系の出自――という、なんとも香ばしい設定のキャラなんじゃなかろうか。
そしてミリスさんの実家モルガン家は、薬師の名家として知られながらも、裏ではその失伝した古代の錬金術を代々探求してきた家系で――う~ん、これは面白い展開になってきたなぁ。
「アスミさんは、初期アイテムの中に何か手掛かりになりそうなものはなかったの?」
「それが……バックストーリー的に、私がゲームを始めるよりも前に何か問題が発生したらしくて、資料やら何やらがすべて失われた状態からのスタートだったんですよ」
あちゃ~、つまりアスミさん自身も事前知識なしの状態からのスタートになっているわけか。
タイミングを計ったかのように伝承途絶して、その直後からのスタート。
こりゃ、一筋縄じゃ行かなさそうだなぁ。
なにはともあれ、ミリスさんもまだ【調合錬成】については未到達の領域で、未だに研究中。スキルとしては持っているらしいから、おそらくはアスミさんとミリスさんの二人三脚で研究を重ねていくことになるんだろうね。
アスミさんの借金関連に関しては、私達と混ざってポーションを作ったり、彼女自身裁縫関連のリアルスキルが高いので服を作ったりして売ったりして返済していく感じになる。
あとは探索中に集めた素材を売ったりとかもそうだけどね。
方針としては、そんなところだろう。
「それじゃ、とりあえず明日から? それとも早速今からかな? ともかく、これからよろしく」
「はい、よろしくお願いします」
さて……それじゃ、今日は素材採取がてら冒険に行く予定だったし。
早速だけど、アスミさん連れてヴェグガノース樹海にでも行きましょうかね。
アスミさんの戦闘スタイルがどんなものなのか、ワクワクしながら樹海のとあるランドマークにファストトラベルする。
そして、近場のクリーチャーの拠点に襲撃をかけて、その戦い方を観察してみた。
アスミさんのバトルスタイルは、やはりというかなんというか、私が予想した通りアサシンスタイルだった。
それも、結構えげつない戦い方だ。
アスミさんのレベルなら、ここヴェグガノース樹海でも私やサイファさんの声援バフを掛ければある程度は対処できるということでやってきたのだが、夜ということもあってほとんどのクリーチャーも寝静まっているという状況をアスミさんはうまく使い、気配を殺して起こさないように近づきつつ、【魔法干渉】と【毒魔法】スキルで武器に毒の追加効果を付与して敵の急所を狙い攻撃。
そうして、クリティカルによる大ダメージを狙いつつ、失敗しても毒による弱体化と継続ダメージで弱らせてからの追撃で着実に倒すという、二段構えの戦法で敵と戦っていた。
樹海はまだ序盤の範囲内。
しかしながら、出現する敵はチームを組んでいたりまともな武装をしていたり、あるいは周りの景色に溶け込んでいたりと、レベルが一けた台の時はなかなか油断できない敵が出てくるこの樹海。
そんなヴェグガノース樹海で、アスミさんはクリーチャーに対しては危なげなく対処していった。
私が持つ特性によってポップした敵性NPCが出てきた際は私やサイファさんの従者達によって守られるし、数体の敵に囲まれてピンチに陥った際も私達が介入して倒されないようにフォローしていったので、一種のパワーレベリングと言ってもよかったのかもしれないけどね。
そうしてログアウト間際まで樹海で粘った結果、アスミさんのレベルは今日一日で一気にレベルが17にまで上昇してしまった。
まぁ、その中には敵性NPCからの経験値もそこそこ入っているから、それがなければ10レベルくらいにとどまっていただろうけど。
この分で行けば、偏ったステータスもバランスを改善するのにそう時間はかからなさそうだった。
とはいえ、時間も無限にあるわけでもなし。
時計が0時を示したところで、明日も予定がある鈴とアスミさんに時間的に限界が来たので、続きは翌日以降にという話になり、各自ログアウトすることになった。
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