初めてのフィールドとアトリエ入手
7.佳歩と合流へ
佳歩ちゃんとは、昼食中にも電話でやり取りを行って、お互いのPNを共有したり、待ち合わせ場所を取り決めたりした。
ちなみに待ち合わせに関してはこんな一幕もあった。
『待ち合わせなんだけど、体験版の時にもあった、ヴェグガナークの中央部に建ってるおっきな敷地の入り口前にしない?』
「え? ヴェグガナルデ公爵本邸の前で?」
『え? あの大きな塀の向こう側って、公爵家の本邸があったの? というか、どうやってそれ知ったの?』
「えぇっと、実はキャラメイクでランダム設定やったら、公爵令嬢っていうユニーククラスを引き当てちゃって……」
『えぇーっ!? まさかの、親友が公式サイトに取り上げられた時の人だったなんて!』
それから、どんな感じなのかを根掘り葉掘り聞かれそうになったので、詳しくはゲームの中で話すから、となんとか宥めた次第だ。
そんなこんなで、午後のゲームの時間。
早くゲーム内で佳歩と合流するために、私は最速でゲーム内の私の部屋に到着した。
「というわけだからミリスさん、これからトモカちゃんをお迎えに行ってくるね」
「かしこまりました。もとより、私共従者の役割は、お嬢様のサポートをすることですので、お気遣いは不要です。あぁそれと、今のうちに申し上げておきますが、トモカ様と冒険に出る際は、何かしらの理由をつけてむやみやたらに従者を増やすようなことは、極力ご遠慮ください」
リアルでの佳歩ちゃんとの話し合いの結果を、軽くミリスさんに伝えて、部屋を後にしようとする。
すると、ミリスさんから思いがけない言葉が返ってきた。
「それは大丈夫だけど……どして?」
改めてそう言われるとなると、ちょっと気になる。
公爵令嬢は、チュートリアルにもあったように、包括的に見てサモナーとしてのクラス色が強いように思えるクラスだ。
だから、従魔――私の場合は従者になる――の数はそのまま私の戦力増強にもつながるのだけれど……。
ミリスさんの説明は、思ったよりリアリティな話で、そして切実なものだった。
「私共は、お嬢様に付き従うという意味では確かにそうですが、最低限餌を与えておけば問題ないテイマーやサモナーなどの従魔とは違い、お嬢様と行動しているとき以外にはこの世界での日常生活というものもあります。生活をするには、先立つ者が往々にして必要となりますでしょう?」
「……つまり、主従契約をするにしても、これが必要になる、と……」
「そうなります。なのでぜひとも無計画な契約や召喚はお控えいただきたく……あぁ、ご心配なさらずとも、このミリス・モルガンや、護衛のヴィータとフィーナに関しては、正式な雇用主の関係上、賃金の支払い請求が公爵家に行くことになっているので問題はありません。あくまでも、お嬢様が自らご契約された方々のみとなります」
「…………なるほど」
つまり、契約時にある程度のゲーム内マネーが必要になる上、召喚する際にもお金が必要になるということ。
モンスターではないため、必要とするものもまた変わってくる。
わかりやすい違いではあったけど、なるほどミリスさんが注意喚起をしてくるのもわかった気がする。
ミリスさんやヴィータさん、フィーナさんが契約金や同行費無料なのは、おそらく一番最初だからって言うボーナス的なものだろう。
特別な事情がない限り、むやみやたらにNPCとの主従契約をしたり、ミリスさん達以外の人を召喚するのは避けた方がよさそうだね。
「さて、私や護衛の二人はいかがいたしましょう。念のため同行いたしますか?」
「ん~、今は別に大丈夫かな。ただ屋敷の門の前で待ち合わせてる友達を、迎えに行くだけだし」
「かしこまりました。では、行ってらっしゃいませ。」
ミリスさんに見送られながら、私はゲーム内の自室を後にした。
それから、チュートリアルの時に歩いた道順を思い出しながら屋敷内の廊下をひたすら歩き、私は佳歩ちゃんが待っているはずの、公爵家本邸の門前まで移動した。
門の前では、インする前に事前に見せてもらっていた、佳歩ちゃんらしきプレイヤーキャラクターがすでに到着しており、門番さんと話をしていた。
「あ、トモカちゃん!」
「やっほ、ハンナ!」
お互いに気づくや否や、飛びつくように駆け寄ってそのまま抱き合う。
「いやぁ、やっとゲームの中のハンナと会えたよぉ!」
「私もだよトモカちゃん!」
「キャラの外見、もう一度よく見せて」
「うん、いいよ」
私は、数歩下がって佳歩ちゃんが見やすいようなポーズで仁王立ちした。
「……ほぅほぅ、ハンナちゃんにしてはなかなか作り込んであるみたいだね」
「あぁこれ、違うの。私のログインルームを担当してるナビAIの話によればね、ユニーククラスは住民のアバターに入り込む形で成り代わるんだって」
「へぇ、そうなんだ。どうりで作り込んであるわけだ。プロのキャラデザは違うねぇ~」
「うっさいなぁ。あちょっ!」
ちょっとだけむかついたので、扇子でトモカちゃんのおでこを小突く。
「っと……ごめんごめん。ちょっと弄りすぎたかな」
「別に大丈夫だけどね。……それじゃ、そろそろゲーム初めて早々手に入れたホームに案内するからさ、ひとまずトモカちゃんの意見聞かせてほしいな」
「おぉ、ホーム……ぜひとも拝見させていただきますとも!」
あはは、インする前も、かなり食い気味に聞いて来てたからね。
これはあれこれ考察を立てるまで、てこでも動かなさそうだ。
トモカちゃんから送られてきたフレンド申請とパーティ申請を受理して、彼女とパーティを組む。
そして門番さんにトモカちゃんを通すように伝えると、私は念のため歩きで自室へと戻っていった。
もちろん、トモカちゃんを伴って、である。
「なんかいかにも貴族の家って言う感じだね~」
「そうだよね。私なんか、ゲーム内での自宅なのに未だに浮足立っているもん」
「あははっ、私も同じだよ」
自室に戻ると、そのままローテーブルやソファーが置いてあるところに向かい、そこで向かい合う形で私は腰を下ろした。
ミリスさん? 私達を出迎えた後で、なんか待機室に入ってったけど……。
「お茶をどうぞ。それからミルクとラモネド、キューブグラニです。こちらは、必要に応じてご使用ください」
では、ごゆっくりどうぞ。
そう言って、ミリスさんは今度こそ待機室の向こう側へと消えて、そのまま戻ってこなかった。
「……驚いたなぁ。まさか、メイドさん完備なんて」
「私も同じだったなぁ。あと、メイドじゃなくて侍女なんだって。本人前にそう言うと、怒られちゃうから気をつけて」
「わかった、気をつける」
とりあえず、気分を落ち着かせようとして手を伸ばした紅茶を見て、それでもう一悶着あったけど、なんとか落ち着きを取り戻して、私達はようやく本題に入ることができた。
「それじゃ、ステータス見せるね」
「お願~い。私も見せるから、見せ合いっこしよう」
トモカちゃんが座っているソファーは一人掛けなので、彼女が私の真横にくる形で座りなおしてから、私達はお互いのステータスを見せ合った。
ちなみにチュートリアルを終えて、今の私のステータスとスキルはこんな感じになった。
『NAME:Mtn.ハンナ・ヴェグガナルデ Lv.2 ハーフ(人間+エンゼル)■ T_RANK 6
CLASS1:ヴェグガナルデ公爵令嬢■ Lv.2
HEALTH:VT■:700/550 MP■:160/160 CP:73/73 SECURE 300/↑140【GOOD】
CONDITION -
冷静 活力強化
BASE PHYSICAL -
PPt.2/
ATK■:16 DEF■:16
MAG■:27 MDF■:32
DEX■:73 SPD■:21
LUK■:61
CLASS SKILLS
【側仕え召喚■☆:2】【護衛召喚■☆:2】【激励■:2】【扇■:1】【鞭■:1】【ドレス■☆:2】【指揮■:2】【淑女(公爵)■☆:2】【貴族■:2】【重圧■:1】【ダンス■:1】【博識■:1】【裁縫■:1】【調合■:1】
SKILLS 10/10 SPt.0 -
戦闘:
【蹴り■:1】【支援特化■:1】
魔法
【光魔法■:1】【回復魔法■:1】【補助魔法■:1】【魔法干渉■:1】
生産
【採掘■:1】【金工■:1】【木工■:1】【料理■:1】』
そして、こっちがトモカちゃんのステータス。
『NAME:トモカ Lv.2 人間
CLASS1:テイマー Lv.2
HEALTH:VT:700/550 MP:150/150
CONDITION -
冷静 活力強化
BASE PHYSICAL -
ATK:11 DEF:11
MAG:60 MDF:57
DEX:38 SPD:11
LUK:47
CLASS SKILLS
【餌付け:1】【懐柔:1】【従魔召喚:2】【捕縛:1】【魔力:1】【声援:2】【杖:1】【法衣:2】【統率:2】【博愛:2】【威嚇:2】【魔物識別:1】【調合:1】
SKILLS 10/10 -
戦闘:
【盾:1】
魔法
【無属性魔法:1】【光魔法:1】【回復魔法:1】
補助
【生存本能:1】【マジカル:1】【狩り:1】【興味:1】【隠密:1】【読書:1】』
私的に気になるのは、やはりクラススキルなど、通常クラスとユニーククラスの相違点だ。
「どうかな?」
「う〜ん……見た感じだと、サモナーの上位亜種っていう感じしかしないかなぁ。【指揮】とか、【統率】の上位互換スキルもあるし。【護衛召喚】とかも、理屈が不明なのはともかくとして、共通項はそれなりに多いし、きちんとテイマー? サモナーかな? とにかく、そんな感じのクラスやってる感じだね」
まぁ、【貴族】とか、それらしいスキルも混じってるけど、と苦笑しながらトモカちゃんなりの考察を披露してくれた。
とはいえ、そのあたりは私もチュートリアル中にわかったことなので、特に疑問に思うところはない。
「でも、サモナーには関係なさそうなスキルもクラススキルに入ってるけどね。……【博識】って、これなんだろ」
「【博識】? ゲーム内で読書できるんだって。あとはよくわかんない」
私は、【博識】スキルの詳細情報を呼び出し、トモカちゃんに見せた。
【博識 Lv.1】補助/動作補助
・ファルティアの文字を解読できる(大)
・ファルティアでの経験を知識として恒久的に残せる
・様々な物事を見極めることができる(大)
・様々な生産活動の品質限界を突破(中)
あなたが知見を広め、数多くの知識を集めた証ともいえるスキルです。
文章から的確に情報を得ることはもちろん、それまでに培った様々な経験に基づく知識が、貴方の冒険の助けになるでしょう。
「おぉ~……単純に、【読書】を極めたらこれになるって言う感じのスキルじゃないかな。私も、早くこのスキル取得したいなぁ」
「あはは……」
だとしたら、これは結構規格外だなぁ。
まぁ、私はゲームの中でまで読書をしたいとは思わないから、使うことがあるとすれば残り二つしか使わないかもしれないけど。
「でも、【読書】スキルを入れてるなんて、さすがトモカちゃん。ゲーム内でも、読書はするの?」
「片手間程度にはね」
トモカちゃんは、ゲームも好きだけどどちらかといえば読書好きで、学校でもよく自宅から持ってきた本を読んだり、図書室に行ったりしていた。
スキルに【読書】が入っていたことからすると、ゲーム内でも図書館とかがあれば利用するのだろう。
私も、クラススキルで【博識】って言う似たようなのあったし、読んでみようかな。
「あと気になるのは、このセキュアってやつ。これ、何なのかな。ハンナちゃんはわかる?」
「あぁこれ、治安指数だって」
「治安指数?」
「そう。なんかね、私の場合、ゲーム内だと貴族ってことで治安の良し悪しの影響をもろに受けるみたいなの」
「治安の良し悪し……具体的には?」
「街中でも、これが足りてないと私の周りだけフィールド扱いになる。敵キャラも当然のように湧く」
「ひぇ……それ、すごいリスクだよ……」
「襲ってくる敵の強さがまだほとんど未知数だからなんとも言えないけどね……」
それから、私達はそれぞれが持つ召喚系スキルの違いについても確認をしてみた。
まず普通の召喚士が持つ【従魔召喚】は、文字通り従魔なら何でも対応しているらしい。これは、半ば予想通りだった。
【従魔召喚】により召喚した使役NPCは、餌がなくても従ってはくれるようだけど、その際は維持コストとして一定時間ごとにMPを消費する。
これを回避するには、その従魔が属する系統が好む餌を与えるしかない。
ちなみにこの餌、【調合】で作れるんだとか。
またこの餌は召喚契約時に与えると成功率を上げられるらしい。
クラススキルに【調合】が含まれていたのはこのためだろう。
続いて私のスキル、【護衛召喚】と【側仕え召喚】。召喚できるのは、契約した住民NPCのみ。どちらで誰を召喚できるかは、そのNPCと契約した時の内容により決まる。
契約は【貴族】と【淑女】スキル(私の場合は【淑女(公爵)】)により行い、成功率はそれぞれのレベルとそのNPCに対する好感度。
ただし、契約時と召喚時に必ず契約金を支払うことになり、その契約金と召喚費用の交渉によっても、大きく左右されると【淑女(公爵)】の説明には書かれている。
「なんか、契約するときとか召喚するときに、いちいちお金取られるのが凄くリアルすぎる……」
「チュートリアルで仲間になった三人はお金がかからないみたいだから、しばらくはそれで頑張ってみるつもり」
なるどね、とトモカちゃんは私が表示させていた『従魔NPC一覧』を眺めながら呟いた。
「ま、いいと思うけどね。私のもそうだけど、チュートリアルで無償で仲間になる従魔って、そうとは思えないくらい即戦力になってくれるし」
まぁねぇ。
そういう味方キャラに限って、後半厳しくなるのがRPGの常ってやつなんだけど、ミリスさん達はどうなんだろうね。
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