8.フィールド探索へ出発



「それにしても、お互い、見事にキャラ被りしちゃったね」

「あっはは。確かにね」

 私は狙ったわけじゃなくて、ランダム抽選したらたまたまサモナーの亜種クラスが出て来ただけなんだけどね。

「でも、私もログインルームでナビAIに話聞いてみたんだけどさ、ユニーククラスって初めから強い代わりに結構厳しいハンデを背負ってるらしいんだよね。治安指数って言う要素も、もしかしたらその要素の一つだったりするのかな」

「うん。私的には、街中がフィールドになるって言うだけで、結構な重荷になると思うんだけど……私のナビAIにも似たような話をされたよ。ユニーククラスの特典のどれかに対応する形でつけられてるんだって。だから、治安指数もいくつかある中の一つに過ぎないと思う」

「うっわぁ……私じゃ多分、キャラリメイク案件だわそれ……」

 よく使ってられるわね、と言われてしまえば突っ込む余地すらない。

 それでも、せっかく作ったのだから、という理由だけでこのキャラでゲームをプレイしようとしているあたり、私も重度のゲーマーだな、と思ってしまった。

「とりあえず、治安指数に関しては、何に対するハンデなのかはもう判明したも同然だから、今は別のハンデが何か、を考えるときかな」

「……あぁ、言われてみれば確かに……」

 この部屋、というか公爵家のお屋敷というわかりやすいアドがあるのだ。

 ゲーム内における自宅、というアドバンテージに対する『治安システムの厳密化』というのは、あからさまな『対応するハンデ』と言える。

「すごい、と言えばNPC関係の好感度についても、かなりのアドバンテージがあるんだよね。この辺りも、何かありそうで怖いかな」

「そこかぁ~……」

「なるほど……」

 まぁ、現状だとその『ナニカ』が分かっていないのが、一番のネックなんだけどね。

 あとは、もう一つのわかりやすいアドバンテージ――最初から『ある程度』強い状態でスタート、というポイントに対するハンデがなんであるか、だ。

 目下、ハンデが潜んでいそうなポイントはこの二点だろう。

「ま、あとは実際に目で見て確かめるしかないでしょ。ってことで、難しいお話はここまでにしましょ」

「だねぇ~。はぁ、リアルでもゲーム内でも、この手の話はほんと、頭疲れるわぁ」

「まぁ、だからこそやめられない部分もあるんだけど、ね」

 何が起こるかわからない。

 そう言うリスクのもとプレイするというのも、それはそれでなかなか乙なものである。

「それじゃ、そろそろフィールド探索にでも出かけよっか」

「うん。レベル上げて、早くいろんなところまわれるようになりたいし――」

「それに、せっかく生産スキルがデフォで付いてるんだから、そっちも育てたいしね」

 二人そろって同じ見解を得た私達は、早速街の外に繰り出すことにした。


「あ、そだ。探索に行くんじゃ、仲間を呼んでおいた方がいいよね」

「あはっ、違いないや」

 フィールド探索に出るにあたって、私達はお互いの従魔(私の場合は従者)を最初に召喚する。

 といっても、私の場合はローテーブルの上にいつの間にか置いてあった呼び鈴を鳴らすだけなんだけど。

「ほへ~、それ鳴らすだけでさっきの、えっとミリスさんだっけ? 来てくれるんだぁ」

「といっても、この場所――ホームだけの話だけどね」

「へぇ……私も、ホーム持ったら同じような感じになるのかな」

「さぁ……」

「おそらくは、そのようになるかと思われます」

「ひゃぁっ!?」

 相も変わらず、気配がないなこの人は。

「お待たせしました、お嬢様。どのようなご用件でございましょうか」

「これから二人で冒険しに行くから、準備をお願いしようかと思って」

「なるほど。私どもはいかがいたしましょう」

「ミリスさんと、護衛の二人。三人とも、一緒に来てくれると助かるかな」

 するとミリスさん、目をすぅっと細めて、

「なるほど。かしこまりました。では、不肖このミリス・モルガン、誠心誠意お二人の冒険者活動にご助力させていただきましょう」

 少々お待ちを、と言い残して、部屋から出ていった。

「うっわ、マジで気圧されたんだけど……」

「あれで、ミリスさんは完全に生産職として後方支援型のステータスなのが怖いよね……」

 従魔一覧で確認したミリスさんのステータスを思い出したのか、うんうん、と頷くトモカちゃんだった。

 ミリスさんが二人を連れて戻って来るまでの間に、私達はどのあたりに行くかを考えることにした。

「私は、ネット情報くらいでしか序盤の進め方はわからないんだけどさ。結局のところ、最初は街周辺ならどこでも敵の強さは変わらないんでしょ?」

「うん。このゲーム、明確にどこそこのエリアをこういう順路で進んで行くって言う縛りがなくて、むしろ街道をひたすら歩いてるだけじゃレベル1でも簡単に倒せるような敵しか出てこない仕組みになってるんだって」

 強い敵と戦うなら、街道から外れて大自然の中を進んで行くしかないのだとか。

 それは、例えば高い山の上だとか、深い谷の底だとか。

 マグマ煮えたぎる火山の火口とか、息も凍るような寒冷地帯とか。

 そう言った魔境に近づけば近づくほど、敵も強くなるという設計になっているらしい。

「ふぅん……」

 私の場合、街中で遭遇する敵対NPCはどうなるんだろうか、という疑問も出てくるわけだけど……それは、またその時に検証すればいいだけの話だろう。

 街中を歩いて外に行くわけだから、多分すぐにその疑問は解決されるだろうけど。

「お待たせしました。護衛の二人をお連れしました」

「いよいよ初陣ですね、お嬢様」

「私達、お嬢様をしっかりお守りしますから、ご安心くださいね」

「私は戦力にはなり得ませんが、お嬢様が冒険中に拾われた素材など、すぐには使えないものを中心に預からせていただきますね。お嬢様は、ご自身ではあまりお荷物をお持ちできませんから」

「NPCから愛されてるねぇ~」

「あはは……」

 スキルの効果もあるんだろうけど、多分職務に忠実なだけだと思うけどなぁ。

 あと、ミリスさんの申し出は地味に助かる。

 私、所持品枠がすごく少ないんだ……。30個しかアイテムを持てない。

 正直、チュートリアルでもらったアイテムをどうにか整理しないと、もうほとんどアイテムを持てない状態だ。

「ではお嬢様。お召替えさせていただきます」

「うん、よろしく~……っと、どうかな、トモカちゃん」

「おぉ~、ドレスアーマーだぁ……いいなぁ」

 羨ましそうに私を――私のコンバットドレスを見てくるトモカちゃん。

 けど、残念ながらこのコンバットドレスはトモカちゃんには着ることができないのである。

「トモカお嬢様には、申し訳ありませんがお嬢様が来ているようなコンバットドレスは着こなせないかと思われます」

「これコンバットドレスって言うんだ……でもどうして?」

「これ、鎧みたいに見えるし、服のようにも見えるんだけど……実は、『ドレス』って言う独立したカテゴリーに入っちゃってるの」

「こちらのコンバットドレスだけでなく、コンバットドレスというもの自体が、淑女が実際の戦場に赴くために纏う一種の戦装束ですからね。通常のドレスを着こなせる方でなければ、その真価は発揮できないのですよ」

「そうなんだぁ……うらやましいけど、諦めるしかないかぁ……」

 名残惜しそうに――極めて、不服だが諦めるしかない、といった表情でガックシとうなだれるトモカちゃんに、ミリスさんはふむ……としばし考えて、

「そうですね……。ですが、トモカお嬢様なら、召喚士のようですので一縷の望みならあるやもしれませんが」

 と呟くようにそう言ったことで、トモカちゃんはバッと元気を取り戻した。

「……あっ、そっか。ハンナちゃん、戦術的には召喚士と似たような戦い方になるんだもんね!」

「そう言うことです。その技術を磨きつつ――そうですね。高貴な人からのクエストを多くこなしていけば、いずれは叙爵される可能性もゼロではありません。そして叙爵されたとなれば――トモカお嬢様も、また貴族の御仲間入り。私達のように、ドレスを着こなさねばならない身分になるわけですからね」

「ほへぇ~……なんだか、一気に貴族令嬢へのルートが発見されちゃったなぁ……」

 いやホントに。

 ユニーククラスでしか貴族に離れないもの、と思っていただけに、実際に普通のクラスとしても貴族が実装されているとなれば、今の情報は多くのプレイヤーにとって、目指す先の一つとなり得るだろう。

 私という実例付きで、すでに公式サイトに参考資料が載っているのだから。

 こりゃ、掲示板に載せたら大騒ぎ間違いなしだよ。

「それはそうとハンナお嬢様、トモカお嬢様」

「なにかな」

「冒険にお持ちのお荷物の確認は、お済でしょうか。ポーション類が不足している程度であれば、すぐに補充できますが」

「ん~、私は大丈夫かな。トモカちゃんは」

「えぇっと、はい、私も大丈夫です」

 トモカちゃんは、顔を引きつらせながらなんとか絞り出すような声でそう答えた。

「至れり尽くせり過ぎないかな……」

「だからこそこの辺りのアドに対するハンデが怖いんだよ……」

 とはいえ、今のところは特に問題ないわけだし、使えるものはどんどん使っていくつもりだけどね。

「では、準備が整いましたね」

「うん。それじゃ、さっき打ち合わせたように、街の門までお願いね、トモカちゃん」

「えぇ。任せてよ」

 トモカちゃんはメニューを操作して『ファストトラベル』を選択、ヴェグガナークの西門を転移先に選んだ。

「これで、本当に一緒に私も転移できるんだよね」

「うん。パーティメンバーの誰か一人でも転移先を登録してれば、同じパーティ内の全員がその人のファストトラベルについていけるんだ。便利だよねぇ」

「うん、そんなの便利すぎるよ」

 なお、私の場合はチュートリアルが街の中で全工程が完結したけど、通常クラスでスタートした場合は、ランドマークの登録をしに行く段階になると目的地が街の外になり、『街の門でランドマークを登録後、周辺で実戦訓練』となるらしい。

 また、私と違って広場でログアウトしても問題ない通常クラスのプレイヤーの場合、もちろんスタート時からホームなど持っているわけもないので、最初のファストトラベル先として登録されているのは、噴水広場などの最後に立ち寄った公共広場になるのだとか。

「というわけで到着しました。ここがヴェグガナークの街の東門だよ」

「まぁ……いつも馬車の中からしか眺めていませんでしたから、新鮮ですね……」

「お嬢様。一応、この場所のランドマークも登録して置いたらどうでしょうか」

「どうでもいいですが、すごい人の数……。ここから見えるだけでも人で溢れかえっていますね……」

 ヴィータさんに促されるまま、私はとりあえずランドマークに触れておく。

 これで、ホームから街中を通ることなく冒険に出かけることができるようになったわけだ。

 あと、何気に冒険者ギルドも入った時点でランドマークに『触れた』扱いになるのか、ファストトラベル先にはいつの間にか登録されていたけどね。

 都合が良すぎる気がしないでもないけど、この辺りはトモカちゃんも同じだったみたいだし、私のユニーククラスの特性で、街で休憩中のほかのプレイヤーに迷惑をかけずに済むのは好都合だ。

 ありがたく使わせてもらうことにしよう。

「さ~てと。意気揚々とフィールドに来たわけだけれども。フィーナさんが言った通り、人で溢れかえってるね……」

「こりゃあ、この辺りでモンス狩るのは無理かもね……。一応、街の周りぐるりと回ってみようか」

「そうだね」

 それから、私達は街の周囲をぐるりと回りながらプレイヤーたちの同行を見定めていったものの、最初は誰もが考えることは一緒のようで、モンスターがリポップするそばから名も知らぬプレイヤーが狩る、というような光景しか見当たらなかった。

 幸いだったのは、私が抱えているハンデ――ゲーム内治安の厳格化によって、そこそこの頻度で暗部系と思われるNPCや、野盗系と思われるNPCと遭遇したことだろう。

 平原に出て、程なくしてそいつらがポップしたことに、徒労に終わらなくてよかった、と安堵した私は悪くないはずだ。

「NPC…じゃないよね。モンスターと同じアイコン付いてるし。こんな敵体験版じゃ見たことないけど、これがハンナちゃんのハンデ効果かぁ」

「そいうこと……激励、〈みんな、来るよ〉!」

 号令ついでに【激励】でステータス強化も忘れない。

「おぉ~、声援バフ来たぁ! しかも召喚士の【声援】スキルよりも強力だ!」

「えへへ……」

 そこまで褒められると、流石に照れちゃうなぁ。

 ちなみにポップした敵の強さだけど、私やトモカちゃん、そしてヴィータさん達やトモカちゃんの従魔といった集団の前には敵わない程度だったらしく、従者・従魔たちにボコスカ殴られてデータの藻屑となっていった。

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