5.チュートリアル:公爵令嬢はテイマー職


 とりあえず、表示されたウインドウをさらりと読み流していく。

『淑女/令嬢/貴族について:

 淑女や令嬢、貴族などのクラスは、テイマーに代表される使役系のクラスです』

 おぉ、ここでクラスごとの戦い方のチュートリアルが来たのか。

 うん、使役系なのは知ってた。だって思いっきり『召喚』っていうスキルがあるんだし。

 これでわからなきゃ、アマでもゲーマーとは言えないよね。

 クラスのバトルチュートリアルは、続いてひとりでにステータス画面が開き、能力値のいくつかに印がつけられた。

『MAGやMDFが高くなるので魔道士系や施術士系のクラスと似たような戦いも可能ですが、それらほどMPの伸びは顕著でないため過信は禁物です。もしあなたの初期MPが大きくても、それは種族や初期フィジカルポイントによる初期値ボーナスですので、おまけ程度の期待にしておきましょう』

 ふむふむ、通常のスキルには回復と補助って言ういかにも後方支援的なスキルがあるけど、手慰み程度でメインには据えない方が吉、と。メモメモ……。

 さて、続きは……ポチっとな?

 次に表示されたのは、『従属NPC一覧』というウインドウで、メインメニューの『従属NPC』という項目から表示できるらしい。

『公爵令嬢の専用スキル【側仕え召喚】と【護衛召喚】で呼び出せるのは、主従契約を交わした住人NPCとなります。

 今回は、側仕えの住民NPCはすでに至近距離にいる上に、戦闘向けではない能力傾向、かつVTが残り僅かとなっている状態なので、召喚してもほとんど意味がありません。ここは、襲撃により引き離されてしまったヴィータとフィーナを、護衛召喚で呼び戻しましょう。

 スキル名『護衛召喚』をコールして二人の名前を呼べば、召喚に応じてくれます』

 なるほど?

「護衛召喚、ヴィータさん、フィーナさんカモン!」

「お待たせしました!」

「遅ればせながら参戦させていただきます!」

「おぉ! かっこいい!」

 二人はまだ駆けつけようとしていたが少し距離が離れていた。

 が、光りに包まれて消滅した次の瞬間には、直ぐ目の前に転移してきた。

 これにより、私一人対敵キャラ二人だったのが、私+護衛二人対敵キャラ二人になったので、数の上の有利不利は一気に逆転した。

 ただ、護衛二人はそのまま敵を一人ずつ担当したようだったけど、チュートリアルで『弱い』と言っていた割には、わりと苦戦している様子だった。

 もしかして、チュートリアルで仲間になったNPCということもあって、めちゃくちゃ弱い?

 そう思って二人のステータスを再確認してみると――うん。レベルは確かに1だけど、少なくとも近接戦向けの、総合的に見れば私より少し強い程度のステータスだったよ。

 ということは、単純に敵の方が強いっぽい?

 そして、敵の猛攻によって二人のVTが7割を切ったところで、再び戦況が停止。

 チュートリアルウインドウが再開された。

『敵が予想していたより強かったようです。

 このままでは召喚した従属NPCが倒されてしまうのも時間の問題です。

 そこで、召喚した従属NPCをクラススキルで応援してあげましょう。

 クラススキルの【激励】は、従魔や従属NPCを含む、パーティメンバーの能力値を全体的に一時強化できるスキルです。【指揮】のスキルで効果も拡張されているため、これを使い、戦闘中の従属NPCを二人同時に強化してみましょう』

 戦闘周りのチートリアルは、意外と懇切丁寧だった。

 実践形式だし、チュートリアルということで『次へ』を押したり、指定された行動かそれ以外の戦闘行動か、そういった行為をしなければ十分考える時間を与えてくれるのだから、実に勉強になる内容と言える。

 ちなみに一緒に表示された【激励】と【指揮】の詳細説明にはこんなことが描かれていた。


【激励 Lv.1】 分類:戦闘スキル/支援

・指定したメンバー一人のATK、MAG、DEXを一時的に強化(大:Lv.1~)

・指定したメンバー一人のDEF、MDF、SPDを一時的に強化(中:Lv.1~)

・スキル名をコールし、実際に掛け声(内容は自由)を言うことでスキルを発動する。

・すでに同系統の下位スキルによる強化を受けていた場合、このスキルで効果を上書きする。

・すでに同系統のこのスキル以上のスキルによる強化を受けていた場合、そのバフ効果の残り時間を3分間延長する。

・【指揮】を同時に保有している場合、一度に効果を発揮する対象が常に【指揮】スキルと同じになる。強化効果は減衰しない。

 挫けつつある味方に渇を入れ、その能力を一時的に向上させます(元気いっぱいの味方にも効果はあります)。

 反動はありませんが、気の抜ける掛け声があとに続いても効果があります。鬼軍曹のようなロールをする際には十分気を付けましょう。


【指揮 Lv.1】 分類:補助スキル/冒険補助

・同一の集団に属するメンバー全員の全能力値を、自分か対象が離脱するまでの間強化する(小:Lv.1~)。所属人数が多いほど効果は強くなる。

・同一の集団に属するメンバー全員の索敵系のスキルや探知系のスキルの効果が共有される。

・以上の効果はすべて、パーティまたはユニット規模の集団で行動している間常に発動する。

・カンパニー以上の集団に属していても、同一のパーティまたはユニット内で、上位互換のスキルの影響下でなければ発動する。

 軍に換算して小隊規模の集団を取りまとめることができるスキルです。

 中隊規模になると役不足なのでもっと実力のある指揮官に任せましょう。


 うん、すごい。小隊って言うのがどれくらいの規模を指しているのかはわからないけど、パーティの上の規模の集団をも対象にしているくらいだから、きっとすごいんだろう。

 これは期待できそうだ。

「それじゃ早速――激励! 〈二人とも、一気にいくよ〉!」

「「ハッ!」」

 二人が息ぴったりに、私に威勢ある返事を返してきた。

 と、同時に。

 私も含めて、強化エフェクトと思われるものが発生して、また私自身力がみなぎってくるように体が軽くなった。

 これ、すごい!

 視界の端に出ているインジケーターには、各種ゲージの他に新たに旗のマークに上向きの矢印が一つついたアイコンが付いた。これが、激励バフのアイコンだろう。

 私からのバフを受け取った二人は、一気に持ち直して敵NPCのVTを削り始めた。

 私にも、何かできることは――そうだ。

 この機会に、魔法系スキルの使い方も覚えておこう。

 えぇっと、まずは二人のVTが減ってるから、回復しないとだよね。

「え~っと、回復魔法、回復魔法……どうやって使えばいいんだろ」

「ぐはぁっ!」

「無念……」

「あ、倒しちゃった……」

 さすがはチュートリアル。バフスキルが前提の戦闘だったのか、【激励】したらあっという間に戦闘が終わっちゃった。

 うぅ~、せっかく他のスキルの使い方も覚えられる機会だったのに~。

 ……あ、でも回復魔法なら別に問題ないか。

 護衛の二人、VTが減ってる状態だし。

「お嬢様、回復魔法を使えるのですね」

「あ、ミリスさん! 大丈夫だったんだね!」

 チュートリアルのメッセージで大丈夫だって言うことはわかってたんだけど、グサッって深々とナイフが刺さってたんだもん、ゲームと言えどさすがに心配しちゃうよね。

「ご心配いただきありがとうございます。何かあったときのためにポーション各種を持ってきていたのが幸いしました」

「あ~、よかったぁ」

「はい。備えあれば患いなし、ですね。……ところで、お二人を救うために回復魔法を使いたいのでしたね?」

「うん、そうなんだけど、スキルは持っているけど使い方がね」

「でしたら、『リトルヒール』の魔法を使ってみたらいかがでしょう。回復魔法の初歩の初歩と聞きますし、まだ実践したことのないお嬢様も問題なくご使用できるかと思います。使い方も、ただ『リトルヒール』と唱えるだけですよ」

「わっ、ありがとうございます!」

 でも、とりあえず馬車に戻ってからにしましょう、というミリスさんの提案のもと、ひとまず馬車に移動することになった。

 さすがにチュートリアル中に二回目のエンカウントはないと思う――というか思いたいけど、実際のところどうなのかは全くわからないからね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る