2.チュートリアル:ステータスの確認


 我がステータスのことながら、見ていて突込みしかできないような内容を目の当たりにして、しばらくの間呆然としていた私は、その後、ナビAIの声掛けによってようやく我に返ることができた。

「はぁ……だから言ったじゃないですか。後悔してもどうにもできない、と」

「あ~、あはは……いやぁ、なんかとんでもないものを連続して引き当てちゃった感がすごいなぁ、と」

「まぁ、すごいという言葉自体は否めませんが。現在プレイヤーの方々に提供している一般的なクラスやスキルからすると、あまりにも現実的とは言えない構成になってしまってますよ。いい意味でも、悪い意味でも」

 AIはまたしても、頭痛が痛いと言いたげに頭を抱える。

「とりあえず、ここでできることはもう終えてしまったので、後はゲームをスタートするのみとなります。なので、手早くスタート地点に移動してしまいましょう」

「あれ? ランダムで決まった諸々の項目の説明は?」

「それは公平性を保つために、ゲーム内でチュートリアルを終わらせるまでは禁止されているのでできません。これは、ここでいたずらに詳細な情報を流して、チュートリアルがただの作業と化してしまうのを防ぐ対策でもあります。なので、まずはゲームを開始いたしましょう。その後であれば、私に応えられることならいくらでもお答えいたしましょう」

 そう言われてしまえば、私はそれ以上要求することはできなくなってしまう。

 何も知らされずに放り出されるのも同然だけど、とりあえずここで説明を受けるのが不可能と分かった以上、もうここにいてもほとんど意味をなさないだろう。

 チュートリアルもきちんとあると明言されたしね。

「あ、ゲームを始める前に一つだけ注意があります。Mtn.ハンナ様は、ユニーククラスが当たりました。この場合、ゲームのブランド性や公平性を保つために、プレイ環境の監視が強まることになりますので、あらかじめご了承ください」

「プレイ環境の、監視?」

 なんぞそれは?

「まぁ、ありていに言えば、他のプレイヤー様以上に、不正にゲームのプログラムを書き換えたり、不正ツールを用いたりしていないか、などの監視をしますよ、ということになります。一応、HPのキャラクターメイキングのヘルプにもこのことは書かれておりますので、わからないことがあればご確認いただければと」

「なんだ、そういうことか。それなら問題なさそうだね」

「ありがとうございます。では、いよいよゲームをスタートいたしましょう」

 ゲーム内へはこちらの扉からどうぞ、と指示された扉から、私はゲームの世界へと足を踏み入れた。


「…………ん」

 ゲーム開始とともに再び真っ黒な世界へと放り出された私は、見えない力によって強制的に寝かせられてしまった。

 その後、ぼんやりと視界が開けてくると――そこは、知らない天井、というか天蓋付きベッドの天蓋だった。

「お嬢様……と、お呼びすればよろしいのでしょうか、お目覚めになられたようですね」

「ここは?」

 とりあえずは起き上がろうとして、しかしその前に声を掛けられる。

 なにかな、とそれを辿る様に横を向くと、声の主であろうメイド服を着た女性が心配そうな表情で私のことを眺めていた。

「ここは、ヴェグガナルデ公爵家の本邸でございます。これから先、この世界でのお嬢様のご実家となる場所です」

「この世界での……」

 どうやらこのNPCのメイドさんは、私がプレイヤーであることを認識しているようだ。

 なら、まずはこのメイドさんにいろいろ話を聞くところから始めればいいのかな、と思って口を開こうとすれば、メイド服のNPCは私が声を発する前に、再びそれを遮って私に言葉を投げてくる。

「いささか気にかかることもあるかもしれません。が、とりあえず、旦那様をお呼びいたしますね。あとのお話は、旦那様となさった方がよろしいかと思われます」

「は、はぁ……」

 そうして、メイドさんは、そのまま部屋から出ていってしまった。

 なんだか矢継ぎ早っていうか、なかなかしゃべらせてくれないなぁ。

 まぁ、そういうイベントなのかもしれないね。

 さっきのメイドさんは、『私』が『目を覚ました』ところで起動する、一種のイベントだった、ということなのだろう。

 なら、しばらくは流れに任せておいた方がいいのかもしれないね。

 ……とはいっても。

 メイドさんに話を聞くことができないとすると、一体何をどうすればチュートリアルが開始されるというのか……。

 私があれこれ考えていると、不意に目の前にウインドウが表示された。


『チュートリアル1/4 自分の能力を確認しよう

 あなたは無事にこのファルティアの世界で目を覚ましました。

 しかしここはあなたの常識が通用しないファンタジーな世界です。

 そのため、今から実際の行動を交えて、この世界で生き抜くために必要な知識を学んでいく必要があるでしょう。

 まずは、自分を知るところから始めましょう。メインメニューと念じれば、自身のステータスと共にメインメニューが表示されます

 クリア条件:メニューを開く』


 おぅ、自動的に開始された。

 なるほど、深く考える必要はなかったんだね。

 いわばさっきのはオープニングイベントみたいなものか。

 さて、肝心のチュートリアルだけど。

 最初はメニューを開くところから始まるのね。

 これはゲーム初心者にもやさしそうな配慮がされているわ。

 開き方はただ念じればいいだけなんだね。簡単カンタン。

 メインメニュー、オープン!


『NAME:Mtn.ハンナ・ヴェグガナルデ Lv.1 ハーフ(人間+エンゼル)■ T_RANK 6

 CLASS1:ヴェグガナルデ公爵令嬢■ Lv.1

 HEALTH:VT■:150/500 MP■:45/150 CP:30/30

 CONDITION -

 空腹 胃弱体・服毒 胃弱体・空腹

 BASE PHYSICAL -

 PPt.0

 ATK■:15(7) DEF■:15(7)

 MAG■:25(12) MDF■:30(15)

 DEX■:110(55) SPD■:20(10)

 LUK■:60(30)

 CLASS SKILLS

【側仕え召喚■:1】【護衛召喚■:1】【激励■:1】【扇■:1】【鞭■:1】【ドレス■:1】【指揮■:1】【淑女(公爵)■:1】【貴族■:1】【重圧■:1】【ダンス■:1】【博識■:1】【裁縫■:1】【調合■:1】

 SKILLS 10/10  SPt.0 -

戦闘:

【蹴り■:1】【支援特化■:1】

魔法

【光魔法■:1】【回復魔法■:1】【補助魔法■:1】【魔法干渉■:1】

生産

【採掘■:1】【金工■:1】【木工■:1】【料理■:1】』


 うん。上の方がちょっとひどいね。

 まず、勝手に名前が変えられちゃってるというか、後ろの変なのがくっついてるし。

 空腹ってなってるけど、道理でゲーム内なのにけだるさを感じるわけだよ。

 あと胃弱体って何だ胃弱体って。

『胃弱体:何らかの原因で胃が弱っている状態。この状態で『胃弱体解除』が付いていない食べ物を食べたり薬を服用したりすると、空腹と同等の弱体化効果を持つ腹痛状態になり、『異弱体』の効果時間も延長される。

 『胃弱体解除』はお粥やスープなど、消化の良いものに良く付加されている』

 うっわ、細かぁ。

 こんなに細かい表現してるRPGなんて見たことないよ。

 というか、腹痛って状態異常でなるもんなんか。

 んで、気になるのは『胃弱体・服毒』の方。

 なにこれ、私いつの間に毒なんて飲んでいたわけ!?


『クラススキルについて:

 クラススキルは、そのクラスで必須となる場合に強制取得するスキルです。そのクラスから別のクラスへ転職したとき、一時的に通常スキルに戻ります。

 なお、この方法でしか入手できないスキルをレアスキルといい、スキル欄では☆マークがつきます』

『貴族と貴族ランク:

 おめでとうございます。あなたは貴族として認定されました。

これ以降、平民や貴族ランク(叙爵した爵位、または関係性のあるNPCが所有する爵位付随する数的ランク)が自分より下の貴族との交渉が優位になります。

 貴族ランクの最高値は『王族』の7です。貴族ランクの最低値は『騎士爵』の0です。

 あなたの貴族ランクは6です』

『これらの項目はヘルプでより詳しい情報が確認できます』


 なんかいろいろ情報が流れ出してきたし。

 貴族になった、というのはそもそも初期クラスが公爵令嬢なのだからいいとして。

 いや、なんかいろいろ書かれてるからあとで確認しないといけないのは確かなんだけど、他に気になるのが出てきたから置いておく。

 最初に出てきたお知らせも、なんとなくだけどわかるから放置でいいかな。

 で、気になったのは『クラススキルについて』だ。

 おそらく、ステータスのスキル欄に出ているスキルの中で、CLASS SKILLSって書かれてるところのいっぱいあるスキルのことを示しているんだろうけど、これ着け外しはできないんだ……。

 試しに、【ダンス】を控えに移そうとしてみると……弾かれた。

 このスキルはクラススキルなので控えに移動できませんって出たよ。

 やっぱり、クラススキルを控えにするのは無理みたいだね。

 淑女とか、一体何の役に立つのかわからないスキルもあるけど、ただ無意味に冒険活動を制限するだけのスキル出ないことを願うばかりだ。


【淑女(公爵) Lv.1】 分類:戦闘スキル/従魔管理

・住民NPCをスカウトし、側仕えにできる。成功率は対象の側仕えにふさわしいスキルの合計レベルに依存

・成功率はスキルレベルと対象NPCの好感度、契約内容(契約金と召喚費用)への満足度により変動する

・住民からの好感度が上がりやすくなる。この効果は日々の積み重ねに依存し、スキルレベルに依存しない(微~)

 立ち振る舞いにもよりますが、住民からの信頼を集めやすくなります。ただし、貴族なので平民からの評判はあくまで雲の上の存在。貴族からは、それにふさわしい立ち振る舞いを特に求められます。

 これらの効果は十全に発揮されるまでの道筋がひたすらに長いでしょう。

 また特定の行動に対し、貴族の婦女らしい立ち振る舞いをするためのアシスト機能を使用可能になります(デフォルト:有効)。


 うっわ、ものすごい有用なスキル。というか、これ絶対にクラスの根幹を担うスキルだよね。

 【貴族】スキルの方は……。


【貴族 Lv.1】 分類:戦闘スキル/従魔管理

・住民NPCをスカウトし、護衛にできる。成功率は対象の護衛にふさわしいスキルの合計レベルに依存

・成功率はスキルレベルと対照NPCの好感度、契約内容(契約金と召喚費用)への満足度により変動する

・住民からの好感度が上がりやすくなる。この効果は日々の積み重ねに依存し、スキルレベルに依存しない(微~)

・他プレイヤーから犯罪行為を受けた際、相手のカルマ値低下量が上昇(極)

 周囲の住民が貴方をNPCとして認め始めます。

 住民を裏切るようなことをしない限り、あなたはその住民やその知人から信頼を寄せられるでしょう。

 また、貴方がどれだけ貴族としての生活に染まっているかを示す指標でもあります。


 こっちも似たようなものだね。

 『側仕え』と『護衛』でなんか分けられているけど、違いでもあるのかなぁ。そのあたりは、要検証かな。

 ただ、他にも有用そうだったり上位らしいものだったりするスキルがあるし、これだけ初期状態でいろいろ有用そうなスキルが付いてるんだもん、逆にマイナス方向に振り切れたスキルも一つくらいはありそうだ。

 幸いにも、メニューを閉じない限り次のチュートリアルには移行しないようで、メイドさんは一向に戻ってくる気配がない。

 落ち着いて、スキルを一つ一つ確認していくと――

「……ほっ。とりあえず、表立ったマイナススキルはないみたいね」

 でも油断はできないだろう。

 隠し効果でとんでもないマイナス効果があるとか、十分にあり得るし。

 気をつけるに越したことはないだろう。

 とりあえず、確認できそうなことは一通り確認できたので、メニュー画面をいったん閉じることにした。

 これだけ時間がたってもメイドさんが戻ってこないということは、やはりメニューを閉じないとフラグが立たず、いつまでたってもやってくることはないのだろう。

 その証拠に、私がメニューを閉じた途端、図ったかのように扉がノックされた。

「失礼いたします。お嬢様、旦那様をお呼びしました」

「あ、はい。どうぞ」

 呼びかけに応じ、部屋の外にいるらしいメイドに入室を促す。

 入ってきたメイドはなにやら美味しそうな匂いを漂わせるワゴンを押しており、また彼女自身が言っていたように、後ろに男性を伴って来ていた。


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