ゲーム始めたら公爵令嬢だった件

シュナじろう

公爵令嬢はテイマー職!?

チュートリアル

1.向こう見ずなイノシシ


 私は山田華。

 自分でこういうのもなんだけど、これといった特徴のない、ごく普通の女子高生をやっている。

 ちなみに年齢は15歳だ。

 入学したのは、地元にある公立高校。

 可もなく不可もなくといったレベルの高校で、制服もよくあるセーラー服。少し離れた場所には私立の進学校もあったけど、そっちは割りとハードみたいな話を聞いたので、高校生活を一から十まで楽しみたい私的には公立高校の方がぴったりだった。

 そんなわけで高校受験を無事に勝ち抜き、新しい生活を無事に迎えることができたのだけれど、ある程度高校生活に慣れてきた今、私はいわゆる高校生デビューをしようかと考えている。

 私の前には、(開封済みの)段ボールが一つ。それから、小包もそれとは別に一つある。

 段ボールの方は、最新の没入型VRゲームマシンで、専用のヘッドギアを付けてベッドに横になれば、ゲームの世界に私を連れていってくれる魔法の機械だ。

 そして段ボールの中にゲーム機が入っているとなれば、おのずと小包の中身も答えが見えてくるだろう。

 ――そう。

 この度私は、新しいVRゲーム機を使って、今日のお昼から正式サービスを開始するMMORPGを始めようとしているのだ!

 ちなみに本日は休校日であり、宿題も前日にすべて終わらせているので丸一日フリー。

 心置きなくゲームにいそしむことができる。

「えっと、マシンの初期設定はもう済ませてあるし、3D写真も近くにあるスタジオで取ってもらったのを登録したから問題なし。あとはゲームを始めるだけかな……ん?」

 ゲームを始める前のチェックを進めていると、スマートフォンが鳴動した。

 この音は――着信だね。

 電話の相手は、親友の友永佳歩ちゃん。

「もしもし、佳歩ちゃん? どうしたの?」

『あ、華ちゃん? そろそろサービス開始だけど、準備の方はどうかな?』

「準備はあらかた終わったから、もうすぐインするよ?」

『そっか。それじゃ華ちゃん。もしよかったら、ゲーム内でもパーティ組まないかな。これでも体験版を最初期からプレイしたし、最初はいろいろレクチャーできると思うし』

「本当!? それはうれしいな。でもゲーム内のフレンドとかは大丈夫なの?」

『気にしないで。固定パ組む予定でもいるけど、今日はサービス開始日ってことで、全員の準備ができ次第っていうことになってるしね。あと、予定が合わないことも結構あるし、そういったときは一緒にパーティ組もうね』

「ありがとう!」

 佳歩ちゃん様様だ。

『それじゃ、とりあえずゲームの中で待ち合わせしよう。開始地点、ヴェグガナークにしてくれるかな』

「ヴェグガナーク、だね。わかった、覚えとく」

『間違えないように気をつけてね。私は先インしてるから、あとでゲーム内で会おう』

「りょーかい!」

 佳歩ちゃんのうれしそうな声を余韻に残しながら、私も残りのチェックを終わらせていく。

 えっと、あと必要なのは――と、スマートフォンは接続しておかないとね。

 ゲーム中は、現実のプレイヤーの体は深い眠りについている状態と同じであり、ゆえに現実とのやり取りは、主にスマートフォンの通話機能やメッセンジャーアプリを介して行うのが基本となっている。

 のだが、万が一スマートフォンの充電が切れてしまっていると、マシンとの同期も当然なくなってしまう。

 それを防ぐために、VRゲームをプレイする際は、スマートフォンを有線接続して電源を確保しておくのが鉄則になっている。

「さてと。栄養補給用のゼリーも準備万端だし……あ。ちょうどサービス開始時刻だね。それじゃ、ログインしよっと」

 私はいそいそとゲームソフトをヘッドギアにセットしてから頭に装着し、ベッドに横になった。

 そして、

「ゲームスタート!」

 私の意識は、現実世界から遠のいた。




 どこまでも暗い、闇の中。

 私は、そこに横たわっっていた。

 まぁ、よくある始まり方だ。

 いきなり草原のど真ん中に突っ立っていたりとか、真っ白な空間に放り出されていたりとかというケースもなくはないんだけど、昨今の研究の結果、そういったスタートの仕方だとVR酔いやVR障害を招くリスクが少なからずあるということで、このようにリアルでの直前での姿勢、視界でスタートとなるゲームが最近増えてきているのだ。

「えぇっと……まずはキャラメイクしないとなんだけど。調べた情報によれば、ナビゲーションAIが来るはずなんだけどなぁ……」

「お待たせしました~! この度は、ファルティアの世界へお越しくださいましてありがとうございます。私、キャラクターメイクと、このログインルームにおける各種ナビゲーションを務めさせていただきますAIです。これから先、末永くよろしくお願いいたします」

「あ、うぇ!? は、はい。その、こ、ここ、こちらこそ、よろしく、お願いします」

 急に現れたのは、私そっくりの、というか、そのままの私だった。声も私の声と似ているし……もしかしてこれ、初期設定で登録した3D写真と声紋が使用されてるのかな?

 というか、この姿のAIがそのまま私のログインルームのナビゲーターも務めるって、もしかして私、私自身にゲーム内の案内をされないといけないのかな。

 それ、なんかちょっと微妙だな……。

「あ、もしこの姿でナビゲーションされるのがお嫌でしたら、ナビキャラクターもメイキングで来ますので、あとで試してみてくださいね」

「あ、そうだったんですね。それなら、まぁ、よかったですかね」

 まぁ、あとで変えたいと思ったらその時に適当にメイクすればいいだろう。

 それに、後でって言うことは、先にやらないといけないことがあるんだろうし。

「では、早速ですがゲーム内での各種設定を始めていきますね」

 ナビAIがそういうや否や、当たりが徐々に明るくなっていき。

 どこまでも真っ暗だった空間が、どこまでも真っ白な空間に反転しきったところで、彼女の周囲にウインドウがいくつか表示される。

 内容はそれぞれ、

『1.PN』

『2.アバター作成』

『3.種族』

『4.クラス』

『5.初期フィジカル』

『6.スキル』

『7.スタート地点』

『8.オプション設定』

 となっていた。

「設定していただくのはこちらに表示いたしました8項目となります。なお、アバターと種族に関しましては基本、あとで変更ができませんのでご注意ください」

「そうなんだ。わかった、気をつける」

「はい。ではまず、最も重要なことを決めておきましょう。ゲーム内での、あなたのお名前ですね。どのように名乗りますか?」

 やはり、最初はキャラクターネーム。

 私は、すでに決めているものがあったので、それを伝えた。

「Mtn.ハンナさんですね」

「かしこまりました。ゲーム内でのお名前はMtn.ハンナさんで登録させていただきますね」

「はい。それでよろしくお願いします」

「わかりました」

 『1.PN』のウインドウが書き換えられ、『1.PN:Mtn.ハンナ』と表記される。

 プレイヤーネームが終われば、次は人によっては盛大に時間を取られてしまうという、ゲーム内アバターの作成だ。

 といっても、これに関しては、私はさほど時間をかけずに終わらせることができた。

 リアル準拠の外見に、若干AIによる補正を入れただけだしね。

 ちなみにアバターのプレビューは、ナビAIがそのまま務めた。

 ナビAIが私の姿を真似ていたのはそういう意図があったわけね。

「では、次ですね。三番目は種族になります」

 おぉ、種族か。

 事前情報だとヒューマノイド、エレメンタル、クリーチャーの三つになっていた。

 それぞれヒューマノイドは比較的バランス型で可もなく不可もなく。

 精霊種は魔法よりか物理よりかで二極化しているとβテスターだった佳歩ちゃんが言ってたっけ。

 あとはクリーチャー。ピンキリで一口では言えないらしい。

 それぞれの項目は実はカテゴリーでしかなく、その下に実際に選ぶ種族が羅列されている感じだ。

 うーん、悩ましい。

 いや、ヒューマノイド系がいいな、とは思っているんだけど、その中のどれがいいな、って言うのは決めてこなかったんだよね。

 はてさて、どうしようかなぁ。

「あと、言い忘れていましたが、この項目以降、スタート地点の決定まではランダム設定が選択可能になっています。選択肢が困る、とか特に決めていなかった、という場合にはこちらもご利用できますよ」

「じゃあ、残りは全部それで」

「はい!?」

 あまりにも悩んで時間が過ぎるのも遊ぶ時間が無くなって嫌だったので、私はどうせならとそのランダム設定を選ぶことにした。

「え、えっと、お客様? あまりにも早いレスポンスだったので聞き間違えたかと思ったのですが、今、ランダム設定をお選びになりませんでした?」

「はい。言いましたよ。遊ぶ時間が削られるのは嫌なので」

「聞き間違いではなかったのですね……」

 ナビAIは、なぜか頭をおさえながら首を左右に振った。

 さながら頭が痛い、ではなく頭痛が痛い、とでも言いたそうな雰囲気なんだ。解せぬ。

「その意志は固そうですが……一応、説明をさせていただきますね。ランダム設定は、名前の通りゲームの初期設定にまつわる設定をシステムに委ねてしまおう、というものになります。ただ、いくつか注意していただかねばならない点がありまして……」

「注意しないといけない……? あ、もしかして引き直しができないとか?」

「はい。一つ目はそうなります。それから、ランダム設定で引き当てた項目については、ランダム設定で引き当てたことを示すチケットマークが付けられます。万が一、ランダム設定限定のものを引き当てた際、不公平だと他のプレイヤー様に言わせないための措置となります」

「ということは、ランダムにすれば限定スキルとかもらえちゃったりするの!?」

「あくまでも可能性の話では、ですけれどね」

「なるほど……」

 まぁ、よくありがちな話だし、そのあたりはいいか。

 最悪、プレイに行き詰るようなスキルでも、頑張ってレベルを上げて、別のスキルを取ればいいだけの話だし。

「なお、ランダム限定のものに関しては、抽選を行う項目が多いほど出やすくなる傾向になります」

「ふんふん」

「が、ここで最も注意しなければならないことがあります」

「それは?」

 私がゴクリ、と生唾を飲み込みながらその先を促せば、AIも興が乗ったのか、明るくなった空間を再び暗くしてから、スポットライトを自身に当ててその最重要事項を言ってきた。

「ランダム限定の珍しい種族やクラス、スキルがあったとして、それが本当に有用なものとは限らない、ということです。それに、その多くはどちらかと言えばロールの補助的な役割のスキルで、少なくとも戦闘や生産などに対する良い影響はありません」

「なるほど……」

 まぁ、だとしても、私としてはそれほど気にするようなことでもないと思うけどなぁ。

 ソーシャル系のゲームだと割とよくある話だったし。

 私自身、時たまそういったのも食指を向けることがあるからなんとなくそう言う事情は理解しているつもりである。

「いえいえ、本当に高いリスクをはらんでいるんです。特に、珍しいものほど、その代償も高い傾向にありまして……」

「それこそ面白そうじゃない。うん決めた。やっぱり、残りは全部ランダムにしよう」

「本気ですか!? 開始早々詰まりますよ!?」

「心配性だなぁ。大丈夫だから、やっちゃってよ」

「……止めても、無駄そうですね。残念ですが、私如きAIでは止めることはできないようです」

「うんうん、止められない止められない。私、そうと決めたら一直線な性格だからね。あ、でもスタート地点だけは交易都市ヴェグガナークでお願い」

「はぁ……かしこまりました。後悔しても、どうにもできませんからね」

 わかったって。

 しつこく食い下がろうとしてくるナビAIを宥めながら、私は早く抽選を行うように促す。

 やがて、PNとオプション設定以外の各項目が目まぐるしく変遷していき――やがて、上から順に未決定だった項目が決められていった。

 その内容は――

「お……っふ……」

 あまりにもとんでもない抽選結果になってしまい、私は思わず言葉を失ってしまった。


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