第18話噂の正体
裏道を抜けて、入り組んだ住宅街へと出る。マンションやアパートが立ち並ぶ間を抜けるようにして進んでいくともうすぐで我が家だ。
この通りにはいくつか公園が存在している。住民のために設計されたいるらしく、どれも広い。俺はそのうちの1つである公園へと足を踏み入れた。
この公園は俺がいつも散歩するルートで、ここらへんの住民の人気お散歩コースになっている公園だ。ここは突っ切るとうちのマンションに早く着くことが出来るので帰り道にも重宝している。木々も生い茂っていて都会では数少ない自然を取り込めるのもお気に入りのポイントだ。
街灯の光を頼りに薄暗い道を歩いていく。すると俺の視界に一人の人影が目に入った。
…この時間に人?珍しいな。愛里奈さんか?…でも彼女は身バレを防止は徹底している。こんな分かりやすいことはしないはずだ。だったら誰だ…?
徐々に近づくに連れて色濃く主張してくるその銀色の髪色に俺は吸い寄せられるように駆け寄った。
「…芹沢さん?」
「…あれ、透くんじゃん」
見覚えのある制服。月光を浴びて輝く頭髪。整った顔立ち。どこからどう見ても本物の芹沢さんだ。…なんでここに?
困惑する俺を見て芹沢さんはへにゃへにゃと笑っている。まるで俺の反応を知っていたかのような様子だ。
「こんな時間にここでなにしてるんすか…」
「えへへ〜…実はさ、パケモンGOしてたらここについちゃって…」
『パケモンGO』。パケモンの派生作品であるアプリゲームのことだ。スマホのカメラ機能を使うことであたかも現実でパケモンと遭遇しているかのような体験が出来る今大人気のゲームであり、俺ももちろんやっている。よるは危ないからやっていないが。
「はぁ…?夜にそれのためにですか?」
「うん。結構あるんだよね〜没頭してたらどこにいるのか分かんなくなっちゃうこと」
「…少し危機感がなさすぎじゃありませんか?この時間に女子が一人歩きは襲われてもおかしくないですよ」
「いやいや大丈夫だって〜最悪パケモンバトルで勝てばいいし?」
「んなゲームじゃないんすから…」
冗談かのようにそう言って笑う彼女をみて思わずためいくを漏らした。この人おおらかなのは良いことなのだが、いささか危機感がなさすぎる。もっと自分の容姿と体の破壊力を知ったほうがいい。
「…てか、なんでこんな入り組んだ場所に」
「私、散歩がてらやることがおおくてさ。気になった路地には全部入る主義なのですよ」
「だからってこんな時間に入る人がいますか…世の中どんな人がいるか分からないんですから、早く帰ったほうがいいっすよ」
「そんな冷たいこと言うなって〜…透くんこそ、こんな時間になにしてたの?」
「バイトですよ。バイト帰りです。ここ通ると近道なんですよ」
「バイト?へー…どんなバイトしてんの?」
「…飲食店っすかね」
「へ〜、じゃ料理とかするんだ?」
「まぁ、度々やりますね…」
「大変なの?バイト」
「そこそこっすよ。夜はかなり忙しいですけど」
「へー…そうなんだ」
「芹沢さんはバイトしたことあるんですか?」
「いや、私は無いね」
「無いんだ…」
あたかも当然かのように言い切る彼女に俺は驚いた。俺の中で高校生はバイトぐらいしてて当然という意識があったからか、芹沢さんも当然やっているものだと思っていた。それゆえに少し以外だった。…もしかしたら別の方法で稼いでいるのかもしれないが。
「やってみたくはあるんだけど…機会が無いっていうかね」
そう語る彼女の横顔にはどこか不満げだった。…もしかして面接苦手とかなのかな?
「…わけありっすか?」
「まぁね…それよりさ、1つ聞きたいことがあるんだけど」
「なんですか?」
「…彩奈ちゃんとはどんな関係なの?」
「彩奈…ですか?別にただのゲーム友達ですけど…」
「…え?付き合ってないの?」
「別に付き合ってないですけど…」
芹沢さんは俺の言葉を受けて何故か面食らった様子だった。そして数秒の硬直の後になにかを察したような様子でため息をついた。
「…透くん、ダメだよ君…」
「え?」
「そのビジュとその性格でそれはダメだよ…危険因子製造機だよ…」
「き、危険…?」
「いい透くん?よく聞いて。透くんは今重罪を犯しています」
「えっ…」
「しかも多分君はそれに気づいていません」
「…」
「…自分の行動には気をつけるようにね」
…俺なんで説教されてるんだろう。というか俺はいつ罪を犯したというのだ。話を聞く限りだとかなりの重罪を犯しているようなのだが、当然俺には身に覚えがない。俺もあの女と同じところにぶち込まれるのだろうか…
「女の子ってのはね、男子が思ってるより怖いんだよ?気をつけてね」
「…なんで俺説教されてるんすか」
「いいから忠告だと思って覚えといて。…じゃないと、将来めんどくさい女だらけになっちゃうよ?」
「…それは嫌すぎますね」
「でしょ?だから気をつけてね。…あ」
芹沢さんが公園の入口の方を見て固まる。不思議に思って俺も同じ方に視線を向けると、そこには真っ黒なリムジンが止まっていた。住宅街の中の公園に、リムジン。どこからどう見ても異様なその光景に俺も思わず固まってしまった。
「え…なんすかあれ」
「あー…あれうちのだわ」
「…え?」
芹沢さんの発言に俺は再び身を固まらせる。それと同時に脳裏に浮かんだのは凪から聞いた噂。どうやらあの胡散臭い噂は本当だったらしい。今思えば夜中に徘徊している、というのも今の状況に合う。
「いやー…自分で言うのもあれなんだけど、うち結構金持ちでさ…あはは…」
「いやそんなさらっと…ていうか、この入り組んだ住宅地にリムジンとかどうやって入ってきたんだ…?」
「うちのドライバー結構腕がいいからね。それじゃ、そろそろ帰らなきゃ。帰り道、気をつけてね」
「え、あ、はい。それじゃ…」
芹沢さんは俺に手を振りながらリムジンの方へと向かって去っていった。やがてその姿もリムジンの中へと消える。俺はなにがなんだかまったく分からなかった。
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