第16話三つ巴
「でさでさ、穂波がさ…!」
「え〜?マジ?ヤバ〜」
クラスの中でも一際輝く女子達の話し声が聞こえてくる。視線を向けると、その先には芹沢さん。いつものように無垢な笑顔で笑っている。
先日のゲーム対決でも思ったことだが、彼女って結構キャラ作ってるのかな?学校での彼女は一般的なギャルそのものだが、遊んでいる時の彼女は無邪気な子供のようだった。もしかしたら後者は彼女の本性なのかも知れない。
「お、おい、愛里奈さんが来たぞ!」
クラスの男子の一人が扉を指さしてそう言った。男子の目線が一斉に底に注がれる。
今日は事件後初の愛里奈さんの登校日だ。クールビューティーな美しさを纏う彼女は自分の席に座ると、周りの視線に動じる事無く読書を始めた。
家だと落ち着きのない彼女だが、学校では気丈に振る舞う美少女だ。本当に同一人物なのかと疑ってしまう。
「愛里奈さん、大丈夫だったのかな…」
「あの後ずっと仕事で学校来てなかったんだよね?当事者だったのに休む暇も無いなんて、私だったら相当心に来るけど…」
クラスメイトの会話が耳に入る。彼らは事件から今まで愛里奈さんの様子を知らなかったため、心配なのだろう。大丈夫だ。彼女は皆が思ってるより図太いから。
「愛里奈さん、おはよう。この前は大丈夫だった?」
一人の女子生徒が愛里奈さんに話しかける。愛里奈さんが挨拶を帰すとすぐさま彼女の周りには人だかりができた。皆気になっているのだろう。
「ふわぁあ…愛里奈さん今日は来てるんだね」
俺の元へと恭也がやってくる。おおきなあくびをかまして何やら疲れ気味の様子だ。
「らしいな。人気モデルってのも大変だな」
「そうだね…この前ドラマの主演も決まったって言ってたし、事件の後なのに休む暇もなさそうだね」
そんなことはない。昨日は一日俺に抱きついて映画鑑賞をしていた。俺はそう言いたいところだったが、言ってしまえば関係が破綻してしまうため、口を噤んだ。
「仕事に支障とか出ないのかな?」
「あっちは一流だぞ?そんなのあるわけねぇだろ」
俺と恭也の間に挟まるように凪が割り込んできた。今日も相変わらずムカつく顔だ。
「そうか?あっちだって人間だぞ?」
「あの人は生きてる世界が違う。あんなことでなびくほどやわじゃないんだよ」
凪はあたかも分かっているようないい振りだ。一体こいつになにが分かるのだろうか。あの人が人間じゃないのは否定しないけど。
「お前になにが分かんだよ。話したことも無いくせに」
「なっ、べ、別にそんなことは関係無いだろ!俺は分かんだよ。そういうの」
「だからモテないんだよ凪。顔がいいのにその態度だから」
「はぁー!?意味わかんないんですけどー?」
恭也の一言が効いたのか、凪は恭也に噛みつくように反論を述べ始めた。まぁ事実だし、しょうがない。恭也も中々良いパンチラインだった。
「ふわあぁ…透、おはよう」
「彩奈、おはよう。…今日も寝不足か?」
目を擦りながら彩奈がやってきた。どうやら昨日もゲームざんまいだったらしい。目元のくまが物語っている。
「うん…中々狙いの素材が出てくれない」
「あはは…程々にしておけよ。くまなんてお前には似合わないからな」
「えっ…う、うん」
彩奈との会話を終えると、俺の背中に妙な寒気が走る。振り返ると、そこにはすごい目つきで睨んできている愛里奈さんのどす黒い瞳が見えた。体を震わせると同時にスマホが鳴る。
『透くん?変な事を言うのはよして』
別に変なことを言ったつもりは無いのだが…女子からしたら何か変な意味に捉えられる言葉を行ってしまったのだろうか?女子って難しい…
「へい、透くんおっはー!」
芹沢さんが元気よく俺に挨拶をかましてくる。この場合俺に来るんじゃなくて愛里奈さんの方に行く流れだが…彼女は細かいことは気にしないタイプだ。
「おはようございます芹沢さん。今日も元気ですね」
「えへへ〜私はいつだって元気だぜー?」
そう言って芹沢さんは笑ってみせた。無邪気な笑顔がなんとも彼女らしい。あの女の一件から立ち直れたようで何よりだ。
思わず俺も微笑んでいると、机の上のスマホが揺れた。次の瞬間、メッセージが次々と送られてくる。
『今日『も』ってなんなの?いつからそういう間柄になったの?』
『なんで私といるときよりも嬉しそうなの?浮気?浮気なのね?』
『ねぇ答えてよ透くんどうなのよ』
うわ〜…ヤバこの人。思ってた以上にやばいぞこの人。
愛里奈さんの方をちらっと見ると、クラスメイト達とやり取りをしながら机の下で目にも止まらぬ早さでメッセージを打ち込んでいる。この人目何個あるんだよ。
「ん?透くん、めっちゃスマホ鳴ってるけど大丈夫?」
「あはは、大丈夫です」
「どうかしたの?メンヘラな彼女でもできたかー?」
芹沢さんが俺にグイグイと肩を寄せながら茶化してくる。悔しいことに図星だ。その様子を見たであろう愛里奈さんからのメッセージはスピードを増していく。
「…」
「…?どうした彩奈?」
ふと俺の手が彩奈の手で包み込まれる。彩奈は俺の体を引き寄せるようにしてその手を引っ張った。
「…渡さない」
「ちょ、彩奈?」
「あはは…もしかして私まずい事しちゃった…?」
芹沢さんを睨む彩奈となにかを察したような芹沢さん。そして鳴り止むどころかそのスピードを増していくスマホ。もう何がなんだかだ。
「紫乃ー?購買行こうよー!」
「あ、うん。行くー!…透くん、じゃまた」
芹沢さんはそう言って手を振りながら女子たちの輪の中に消えていった。彩奈の手も俺の手から離された。
「ふぅ…」
「…彩奈?」
「…透、あの人危ない」
「危ないって…何が?」
「簡単に人を陥れる顔してる」
「えぇ…?」
俺は彩奈の言葉に首をかしげた。その真意を答えることはなく、彩奈は自分の席に戻っていく。
「あー…やっちまったな。そんなんだからモテないんだぞ透」
「お前に言われたくねぇよ。…なんなんだ?」
「お前が他の女とつるむのが気に入らないんだよあいつは」
「なんで?」
「さぁな。そこは自分で考えろ」
俺は凪の適当な返しに再び首を傾げる。俺が考えたところで真実が浮かんでくることはない。謎は深まるばかりだ。
「…ところで透。お前いつから芹沢さんと仲良くなったんだ?」
「ついこの前だ。別にそこまで仲良くなったわけじゃねぇ」
嫌な目つきをしている凪に俺はそう返す。だが凪はその態度にそそられたのか体を寄せて話しかけてくる。
「お前聞いたあるか?あの人の噂」
「噂?」
「あぁ。なんでも、あの人の家は金持ちらしくてな。一度学校の前にリムジンが来たことがあったらしいぜ?」
凪の口から出てきた噂は俺が聞いたことのない噂だった。きっと男子の間で密かに囁かれている噂なのだろう。こいつはそういうのにだけは敏感だ。
「また金の話かよ…お前そんなんだからモテないんだよ」
「関係ねぇだろ!?大体、俺は本気出してないだけでな…!」
「はいはい。で、もう一つの噂は?」
「…夜中に芹沢さんを見たって人が多くてだな。何の目的かは知らないが、いろんなところを徘徊しているらしいぜ」
「またあることないこと言ってると、女子からの信用失うよ」
「嘘じゃねぇって!だったとしても俺の嘘じゃねぇ!なんか今日お前つめてぇな!?」
そう言って恭也に噛みつく凪。なんか今日は二人共元気だな。
二人の様子を見ていると、再びスマホが揺れた。そういえばさっきから愛里奈さんんからのメッセージが止まっていた。画面に映し出されたメッセージは簡素なものだった。
『昼休み、校舎裏』
「…」
…今日も長くなりそうだ。
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