第12話 同級生
菱津の交友関係の狭さは割と有名な話で、そんな側面もまた、謎めいている、神秘的なといった印象を与えている。が、少なからず交流がある人にとってみれば、外見に騙されるな、といったところであった。
そんな数少ない話し相手の一人である小室は今現在、まさにそんな場年に出会し、飽きれ半分、変なものを見たといった目で、自分より遥かに小さい青年を見下ろしていた。
「・・・バカなのか?」
「だ、だって、ちょっと美味しそうじゃん?」
と、嫌そうに口から出したのは、理科の授業で配られた、沸騰石であった。
「まずい。」
「そりゃそうだろう。」
不満そうに、険しい目つきの唐変木を見上げた後、つまらなそうに石を洗っている。
「あーあ、なんでよりによって飴を切らしちゃったんだろう。いっそスクロースでもショ糖でもブドウ糖でも果糖でも麦芽糖でもトレハロースでも乳糖でもデキストリンでもサッカリンでもズルチンでもなんでもいい、甘いものが欲しいよう。」
授業中に何をい言っているのかとため息をつき、こうしていると無駄としか思えない美貌を見下ろす。
「小室、僕死にそうだよ。」
「砂糖を食べなくても、人は死なないだろう。ズルチンなんて特に毒性が・・・・・」
「毒性で死ぬ前に、僕の人格が死ぬの。脳が破壊されそうだよ。喉が渇いたみたいに甘いものが欲しいよう。」
至極真剣な表情で甘味補充の重要性を必死で解き始めたが、実際のところ砂糖など、マイルドドラッグと呼ばれるほど中毒性がある上、摂取しても健康にいいはずもなく、糖類ならば炭水化物を食べていれば事足りるのである。それを力説したところで、すぐに忘れ去るだろうことも流石に理解している。
「今朝は何を食べて来たんだ。米でも食べていれば、十分だろう。」
「今朝はね、カリカリのザラメが入ったワッフルのハチミツがけと、アイスクリーム、それにスモモのタルトだった。」
聞いているだけで胸焼けしそうなレベルの甘味を食べておきながら、まだ足りないという神経がわからず、首を振った。そんな反応を地味に面白がられていることを、小室は知らない。
(全く、どうやったらこうなるんだ。早死に・・・は、しないかも知れないにしても。)
「あーあ、カルメ焼き?の授業にならないかなあ。別に失敗してベッコウ飴みたいになってもいいし。」
「は?」
「何かで見てさ、試したらなぜか前そうなったんだよね。なんでかなあ、完全にどろっどろの飴でさ、普通に美味しかったんだけど・・・片付けがそれはもう面倒で。それだけが難点かなあ。」
「いや、それもそうだが・・・」
目の前で教師が不機嫌そうに実験の説明をしているのを見ても、目の前の器具を見ても、そもそも先ほど口に含んでしまったものを見ても、カルメ焼きのカの字もできそうにないものだ。
「小室、人間に不可能はないはずなんだよ。僕の全細胞が砂糖を欲しているんだから、目の前のこの、石ころみたいな味のものがチョコレートになっていてもおかしくないんだよ。」
想定がそもそも飴でなかったことに今更ながら驚いた。どうやったらここまで酷い砂糖中毒になるのか。おそらく誰も、本人すら知らないし、これから先も分かることはない。
同じような疑問を抱く三峰も背中でその会話を聞きながら、今度からあからさまに何かを模したような菓子は避けようと思うのだった。
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