第8話 勝利の余韻もなく
「よし、みんな集まったな」
エルヴィス達に合流するとそこには、先ほどまで別行動していた部隊の人たちもいた。こちらは10人程度の少ない人数ではあるが、全体でみると30人ちょっとの小隊編成であった。
「お疲れ様です」
「まあ俺はほとんどなにもやっていないがな」
私が先ほどの戦闘に加わっていた兵士の方々に敬礼をする。それを見て周りの隊員の人たちはクスクスと笑っていたが、隊長は敬礼はなかったものの返事をくれた。
私はなにか笑われるようなことをしたか少し不安になったものの、ここまで見てきた隊長通りの対応に安心感を覚えるようになってしまっていた。
「それにしても、凄かったですね。秘力を持った敵5人を……対処しきるなんて」
殺したとは口に出ずに、曖昧な言い方になってしまった。こんなことでは先が思いやられるが、まだ抵抗があった。それと同時に初めて目の当たりにする戦闘はこうもあっけなく終わってしまったことに、覚悟とのちぐはぐ感も同時に感じていた。
「あれは秘力が使える隊員がスポットの役割をして、狙撃主に教えてたんだ。まあどっちも腕が良いから出来ることだな」
「そんなこともできるんですね」
私自身の秘力は使えるとは到底言えないレベル。
元々その力そのものが私にとっては理解できていない。
「そもそもスコープなんて高価なものうちにはないしな、割れたら終わりだし」
「それにスコープの反射でばれることもある」
「シェイドの腕があればバレたってしとめきれるだろ」
私と隊長との会話に銃を肩に担ぐ男の人が混じってきた。
どうやら、シェイドという別行動をしていた狙撃手のようだ。こういった類の人物に会ったことがないが、この部隊の多くの隊員とは違い軍服をきちんと来ていて頭には軍用ヘルメットをかぶった「きちんとしている」人という印象を持つ人物だ。
しかしながらやはり所々の軍用品のボロボロ差は皆と大差ないようだ。
「初めまして」
私は敬礼をするとシェイドも返してくれた。
「そうだ。改めて紹介する。今日から俺たちの仲間になるエリナだ。みんな自分の命の次くらいには大事にしてやってくれ」
拍手で迎えられる。なんてことはなかったが、皆が共通して暖かな目で受け入れてくれていた。
そういえば、救護部隊の時はどうだったかなと思い出そうとするが、対して記憶がないということはあっさり終わったのだろう。あそこは戦死やケガで人の入れ替えなどがないため、配置転換でもなければそのまま領地内の施設で働き続けることになる。だからか、風通しも悪くなるし、そもそも忙しすぎて新米に構っている暇などなかったのだろう。
「みんな集まったから移動するぞ」
任務も終わり、身近に脅威がないこともあってか先ほどの緊張した空気感とは一変して声を張って隊長が皆を呼びかける。それに周りの人がぼやきながらも移動の準備を始めた。
これの一連のやり取りがこの部隊では日常なのだろう。
しかし、また歩いての移動となると私も気持ちが億劫にならざる負えない。こんなことで音を上げてはいけないと、頭では理解できていても体が言うことを聞いてくれなくなってきている。
そう考えていると、ノラさんを目線で探した。彼女は女性でありながら部隊の中心として行動していることに尊敬を抱く。
「みんな喜べ次の移動はこれだ」
そういって指す方向に車があった。いや、軍部の人が領地内で走らせている平べったいものではなく、戦地に人や備品を運ぶために使われる輸送を専門としたトラックであった。
「え、これで移動ですか!?」
思わず、はしゃいでいるかのような反応を取ってしまったことに気が付きすぐに、姿勢を正す。軍人としてはだらしがないこの部隊の中だと私の行為は少しばかり浮いてしまっていることに薄々感づいてはきている。
しかしながら何度も走っているところは見たことがあるが、一度も乗ったことがなかったのだから仕方がないと自分に言い聞かす。
私の出身地は農村地域であったため車が通るような舗装された道などなく、軍に所属するまでは見たことすらなかったほどだ。
「ああ、また前線まで戻んなくちゃいけないからなこれを借りていく。まあ途中で乗り捨てるがな」
私は敵地との境界まで歩いていくものだと思い込んでいたが、どうやらそんなことは無かったようで一安心であった。しかし、前哨基地のすぐそばにいてこんな堂々とトラックで移動なんて、これで本当に「存在しない」部隊として扱われていることに、なかなかの疑問を抱く。
「これで敵陣まで突っ込むんですか?」
隊員の中の1人が、冗談めかしてそんなことを口にする。
「まあ別にそれでも良いんだけど、次の任務的に合わないかな」
「ということは」
「そうだ次もなかなか厳しい戦いになるだろう」
エルヴィスがそう口にすると全員の目つきが鋭いものとなった。
「まあ、とりあえず二手に分かれて目的地まで移動するぞ。到着後詳しい任務説明をする」
隊長の指示通りに皆が各々トラックの荷台に乗り込み始めた。これが誰にでも運転できるものなのか、私には分からないがきちんと隊員の中にドライバーもいるらしく何を言われずともその2人は運転席に座った。
「早く乗りな。エリナ」
どっちに乗り込めばいいのか、わからず立ちずさんでいるとノラさんが私に声をかけてくれた。
「は、はい!」
手招きされ、いざ乗り込もうとしても背の低い私にはそれは一苦労で苦戦しているとノラさんが後ろから押してくれて、別の隊員が上から引っ張り上げてくれたおかげで、人生初となる乗車をすることができた。
その光景自体も、なんだか子どもを相手にされているみたいで恥ずかしさを覚えるも、その固い床に荷物と共に腰を下ろす。皆もこの移動には慣れているようで各々中の良いであろう隊員同士で隣り合って座っている。もちろん私の隣にはノラさんが腰を下ろした。
荷台には私たちの他に数個の木箱が使われているが、それの中身までは何かは私には察しがつかなかった。
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