第7話 初陣?
「みんな、そろそろだ」
どれほど歩いただろうか。
恐らく今日だけで普段の一週間ほどの方向距離になっているだろう。もう私の足は限界に来ているが、部隊に後れを出すわけにはいかないために必死で歩き続けた。幸い私が携帯している武器は重くないが、他の兵士達は小銃を担いだりしているため私の倍の重量を持って移動している。
先頭を歩く隊長が歩みを止めた。ここは初めに歩いていた獣道からは外れたものの、木々が生い茂り多少勾配「みんな、そろそろだ」
どれほど歩いただろうか。
恐らく今日だけで普段の一週間ほどの方向距離になっているだろう。もう私の足は限界に来ているが、部隊に後れを出すわけにはいかないために必死で歩き続けた。幸い私が携帯している武器は重くないが、他の兵士達は小銃を担いだりしているため私の倍の重量を持って移動している。
先頭を歩く隊長が歩みを止めた。ここは初めに歩いていた獣道からは外れたものの、木々が生い茂り多少勾配になっていて、私たちの正面から見ればちょうど視界が隠れる。そんな場所であった。
「お仕事ですか」
「ああ」
2人の声色が先ほどまで雑談していた物とは違うためか、妙な緊張感を私も抱き始めた。
しかし、かなり歩いたとはいえそれでも歩行での距離だ。まだまだここはトリディア領土であろう。それにも関わらずこんなところで戦闘が行われるのだろうか。
もしかしたら私が知らないだけで戦況はかなり劣勢で、既に自国内まで前線が押されているということだろうか。
こんな緊張感で詳しいことなんて聞けるわけもないため、嫌な思考ばかりが頭を駆け巡る。
「確認する」
エルヴィスが一言そういうと部隊の全員がその場でしゃがみ込んだ。私も遅れながら真似をする。慣れないリュックと歩行による腰の疲労が少しばかり和らぐような気がした。
エルヴィスも中腰になると、その隣に1人の隊員が寄っていく。
「見えるか」
「ちょっと待ってください」
その人は自分の指でわっかを作り、まるで望遠鏡をのぞき込むかのようなしぐさを始めた。その光景は子どもが遊んでいる風にも見えるが、ここで私はこの人物が秘力である遠目ができる人物だと知った。
実際に見たのは初めててのことで、話に聞いていた通りの仕草をすることに多少の興奮を抱く。そもそも私が生まれ育た町は人口も少なく、戦争によって若い人がほとんどいなかった。
「いました」
まるで吐息のような小さな声で報告をする。しかし、今この場では全員に行き届く十分な声量であった。
「数は」
「8人」
「シェイド達はポイントに到着しているか?」
「既に準備完了のようです」
「じゃあ俺たちもいくぞ」
そう言うと隊長は数名の名前を呼び着いてくるように指示した。
「後のものは待機」
いつも通りならルークが何かを言うかと思ったが、その場で黙って頷くだけであった。
私も同じくその場で待機を命じられる。これから初めての戦闘をすることになるかと息巻いていたが、どうやらそれはまたの機会らしい。これについては私が無能だからでなく、単に役割的な話のようだ。
「敵国斥候よ。恐らく全員秘力を使える連中ね」
私の耳元でノラがささやく。恐らく私以外の誰にも聞こえていないだろう。何をしていないのに緊張で体が硬直している私の意識が少しばかり反れた。
「こんな中までよく入ってこれたもんだね。本当に。正規の連中はなにやってるんだか」
呆れと言うよりも苛立ちに近い感情のようだ。それもそのはずだ。軍の失態のしりぬぐいをさせられて、なおかつ手柄どころか名誉すらこちらにはないのだか。
この様子を見ると皆納得をしてここで戦っているわけではないようだ。そうなるとなおさら疑問が湧いてくる。なんのために戦っているのかと。
私自身が世間知らずというのもあるが、分からない、理解できないことだらけだ。
「敵の存在に気づいたけど軍を動かすと相手に察しとられるし多くの情報を与えることになる。だから本来存在しないはずの私たちで相手するの。もし生きてかえっても誤情報を与えることができるから」
隊長がその場からいなくなると、先ほど呼ばれた隊員の左側別の男が銃を構えて座っている。その間もずっと敵の位置を視認し続けているが左手で肩を掴む。
すると次の瞬間。
銃声が響いた。
続いて少し離れたところからも同じ音が聞こえてくる。
それまでは私には敵の位置は全くもって把握できていなかったが、発砲を聞こえた途端に遠くの方で数人の人が動くのが見えた。そしてさっきまでは気が付かなかったが、そのすぐそばに自国の前哨基地が築かれていた。
どうやら敵兵はそこへ探りを入れるのに夢中でこちらの動きに全く無警戒だったようだ。そして、隊長率いる5名もその場所に向かって発砲している。
「1人逃げたね」
私の隣にいるノラがそうつぶやく。
「全滅するより、仲間を見捨ててでも情報を持ち帰ることを優先したね。なかなかいい決断をするね」
それは今までこの部隊の人たちも同じことをしてきたかのようないいかたであった。私もいつかそうなるのだろうか。もちろん切り捨てる側に。
「だけど甘いよ」
その逃げた1人は跳躍の秘力の持ち主だったようで物凄いスピードで走り去っていく。それは隠密といものとはかけ離れた、逃げ切ることだけを意識したものだ。私でも目で追えるほど大胆な逃走だ。
しかし、その人影が一発の銃声で地面に落ちていくのが見えた。
「さすがだな。シェイドは」
任務は完了したのだろう。ノラが立ち上がりながら遠くにいる味方の方を眺める。それに続き多くの隊員も重い腰を上げる。私にとっての短い休憩時間が終わった。
「そりゃこのくらいはやってもらわなきゃ。あいつが一番いい装備持ってんだから」
羨ましいと言わんばかりにルークは口を尖らせる。いい戦果を出すならいい武器が必要と言うのは、治療だけの話ではないようだ。私は武器の知識が全くないため、自分が持っている銃ですら、良いものなのか悪いものなのか分からない。
「仕方がないだろ、狙撃兵は拳銃じゃ務まらないんだから」
「あ~あ。このくらい毎回楽ならいいんだけどな」
「楽っていうか私たち何もしていないんじゃ……」
皆に続きながら私も立ち上がる。疲れからかリュックを背負ったままでは立ち上がれず一度おろしてから立ち上がった。
「いいんだよ。たまにはこういうのも」
射撃をしていた隊員が私の方を向きながらそう言う。私にはそれは当てはまらないような気がする。
「よし行くぞ」
今度はノラが先頭を歩き始め、それに皆がついて行く。その様子を見ると副隊長的ポジションなのだろう。
しかし、今更ではあるが今の戦闘で敵国の人間ではあるが8人が命を落としたのだろう。目の前で行われたことではあるが、私は一切関与していないし死体も見ていないから、なかなか実感が湧いてこない。
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