第45話 宿場街

 鉱夫たちが鉱山を掘るために、作られた村だった場所は、街として一つの歓声を迎えつつあった。

 鉱山の入り口を背後に持ち、管理する者を置いて盗人が入らないように警戒をしながら、鉱夫たちが仕事を行いやすいように冒険者たちが出入りする。


 そんな鉱山ダンジョンとして、有名になりつつある。


「ねぇねぇ、ヒースお兄ちゃん」

「どうしたんだ? カイナちゃん」

「最近ね。人が増えたでしょ?」

「まぁ、そうだな」

「それを管理しているのが、ウチのお父さんとお母さん。それにララさんなのはわかるんだ」

「ああ、三人は頑張っているよね」

「うん。だけど、今回の費用を出したのはヒースお兄ちゃんだよね?」

「そうだね」


 今回はドワーフの人たちに肉を売りながら費用を稼いで、結局温泉宿だけでなく、冒険者ギルドや街を守る防御壁。それぞれの家々や外観も和風の建物を意識してやりすぎたと自分でも思う。


 軽く数億円は吹き飛んだ。


 だけど、全てを俺が出したと言うわけじゃない。

 鉱山の排出量を鉱夫長が増やしてくれて、女将さんが女性たちをまとめて、人材の管理をしてくれて、冒険者ギルドとの交渉をララさんがして流通などを安定させてくれた。


 これまで商売心を持っていなかった鉱夫長を組み伏せてくれた女性たちに感謝しかないね。


 だから、家々を作るのは鉱夫さんたち自らがお金を算出してくれて、俺はドワーフさんたちと交渉しただけだ。


 鉱夫さんたちも、瓦作りや、通気性のいい家作りは楽しかったようで、この辺はもう俺が思っていたよりも上手く作ってくれた。


「それなのに、ヒースお兄ちゃんは全然儲かってないよね?」

「そうかな? 別に借金をしたわけじゃないよ。稼ぎがある時に追加をしてお願いしただけだからね。それに冒険者ギルドは他の世界と繋がっていて、肉の流通や鉱山で採れた鉄の流通を、他の世界に売り捌いて大分儲かったって喜んでくれたよ」


 そうなんだよな。


 鉱夫たちは鉱山を掘っている間に、温泉宿などの宿場街が出来上がる。

 その妻や家族たちは、住んでいた掘立小屋から、和風の屋敷に移り住み。

 冒険者ギルドは、支店を持って鉱山と肉の流通が増えて。

 ドワーフたちは新しい発想の家を作り、材料を作って、楽しそうにしてもらった。


「みんなが楽しそうに仕事をしてくれて、まだ完全に完成じゃないけど、街を作り上げるって楽しいよね?」

「うん。みんなは凄く楽しそうだった」

「でしょ? それに俺は冒険者でしょ?」

「うん。そうだと思う」

「冒険者は魔物を倒して、お金を稼いで、レベルを上げるのがメインなんだ。そんな俺はゴーレムを使って、様々な道具を作って、魔物を倒してレベルは上げることができたから、お金以外の物で得をしているんだ」


 カイナちゃんにわかってもらえるのかわからない。


 だけど、肉を集めるのにモッティはフル活動して、戦闘をしていた。

 サンドはまだまだコントロールをするのが難しいが、研究対象として面白い。

 アイは持ち運ぶ力が強いので、ドワーフや鉱夫たちに重宝された。

 

 そして、一番の活躍をしたローレがいたからこそ、温泉が掘れて、荷物を運ぶことができた。


「ハァー」

「えっ?」


 なぜかカイナちゃんにメチャクチャため息を吐かれた。


「ヒースお兄ちゃんって、ここにずっといてくれる気はないよね?」

「……そうだね」

「街が出来てて、みんなが幸せで、ヒースお兄ちゃんの工場もあるけど、ヒースお兄ちゃんだけがそこにいないって私は思う」


 ドキッとさせられる。


「それが私は寂しいの! ヒースお兄ちゃんはみんなのためにたくさんお仕事をするけど、全然自分のことを大切にしない。それにここにいようとしてくれてない!」


 涙を流して怒りを表すカイナちゃん。


「えっと、違うんだよ。カイナちゃん。俺嬉しいだ」

「嬉しい?」

「ああ、これまでの俺はあまりいい人生じゃなかった。それは前に話したよね?」

「うん。あの勇者を授かった犯罪者のことだようね?」

「俺はあいつのパーティーにいて、仲間のために頑張っていると思っていた。だけど、全部まやかしで、自分一人で空回りしていただけなんだ。だけど、この世界に来て、一人で冒険をして、肉を求められて、人助けをして、みんなで何かを作るって、こんなにも楽しいことなんだって思える。最終的に目標は六つの扉を全て越えることだけど、もしも住みたい世界がどこだと聞かれたら、俺はこの世界に戻ってきたい」


 そう、俺はこの世界が気に入ってしまった。


 初めて一人で冒険をした時とは違って、ここにはたくさんのいい人たちがいて、楽しく過ごすことができた。


「それに工場はもう俺の家にしていいって、鉱夫長も言ってくれたしね」

「お父さんが?」

「ああ、だから、カイナちゃんがそんな風に思ってくれたのも嬉しい。ありがとう」

「ううう、ヒースお兄ちゃんのバカ! 絶対に帰ってきたよね」

「もちろんだよ。ここが俺の家だからね」


 そう、俺は宿場街が完成したら、この街を出る。そして、次の世界に旅立つつもりだ。


 カイナちゃんは、きっと感じとってしまったんだろうな。

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