第31話 鉱山攻略 8

 エルシェンの人生を聞いた俺は、正直理解できないと思った。

 

 確かに家族から愛されることなく、勇者になったからといって追い出されたことは可哀想だと思う。

 だけど、それ以降に仲間に対して魅力を悪用して、やってはいけないことをしていたことは許されないことだ。


 さらに、スキルとは才能であると同時に、女神様が授けてくださったギフトだ。

 それは自分たちだけでなく、多くの人を助けるための生きるために必要な力だと俺は思っている。


 それを悪用することを許してしまえば、互いに信頼して生きていくことはできない。


 エルシェンはそんな当たり前のこともわからない人間だったんだ。


「モッティ。遠慮はいらない全力でやってくれ。俺の魔力を全て使ってもいい」

「グウゥ! ご主人! 任せて」


 無邪気に笑顔を向けてくれるモッティは、今の俺が作れる最高傑作だ。

 彼女で倒せないなら、今の俺にエルシェンを倒す術はない。


 小さいモッティでも、サンドでも、エルシェンが持っている剣が全てを切り裂いてしまう。


「ふん、なんだ結局ゴーレムの後ろに隠れて、お前は何もしないのか? ならお前の前でゴーレムを切り刻んで、お前のことを殺してやるよ」

「やれるものならやってみろよ。お前にやられるような彼女じゃないぞ」

「はっ! 何が彼女だ。ゴーレムは所詮人形だろ?! キモイんだよ」


 エルシェンが動いて、こちらに切り掛かってくる。


 俺は自分自身を囮にすることも考えて、モッティとエルシェンの動きを追いかける。


「おいおい、逃げるのか?」


 エルシェンはやっぱり、モッティを警戒しながらも俺を殺すことを考えているようだ。こちらが油断すれば、一気に距離を積めてくるつもりだろう。


「お前こそ俺を追いかけていていいのか?」


 モッティが仕掛けるが、エルシェンはそれを受け流す。


「ふん、この程度で俺をどうにかできると思っているのか? 軽いな! ゴーレムとは思えないほどに軽い」

「そうか。随分と強くなったんだな」

「当たり前だ。お前にはわからないほど、たくさんの魔物を殺してやったからな」


 そうだろうな。

 だけど、それは俺も同じなんだよ。


 モッティとサンドにたくさんの魔物を倒してもらった。

 そして、ここに来るまでに犯罪者たちをたくさん倒した。


 自分よりも高レベルの人を倒しても、レベルが上がることを俺は知った。

 たまに盗賊討伐依頼が出ている場合があるが、俺は防御に徹していて人を倒したことはない。


 だけど、強制収容所に入っている者たちはレベルが高く。

 そんな奴らを倒せば、俺のレベルも一気に上昇していく。


「さて、鬼ごっこもそろそろ終わりだ」


 俺が距離をとりながら、逃げていった先には袋小路の山間だった。

 上に逃げるためには崖を登らなければならない。

 そして、左右は山間で登れない。


「おいおい、自分から袋小路に入って殺されたいのか?」

「うるさい! お前は本当に最低な野郎だな」

「最低? おいおい、俺は最低じゃない。最高だ! ヒューーーー!!!」


 ユラユラと水面を揺れる波紋のように、ゆったりとした動きでエルシェンが動き出す。その動きに澱みはなく、これまで積んできた鍛錬が伝わってくる。


「死ねーーーー!!!」


 そこから繰り出される一撃は重く鋭い。


 だからこそ……。


「ゴーレム!」


 最後の魔力を使って一体のサンドゴーレムを出現させる。

 俺の身代わりでエルシェンの一撃を受けた。


「小癪な!」

「いいや、最初からこの作戦だよ」

「なっ?」


 確かにサンドゴーレムを切り裂いた。

 だが、ドロリとした鉄分を含む鉱山の砂で作ったサンドゴーレムは粘着質があり、エルシェンの剣を捕まえる。


「なっ?!」

「モッティ!!!」


 容赦なんてしない。


 俺はエルシェンにムカついているんだ。

 理不尽で、身勝手で、自己中なこいつを殴り飛ばす。


「くっ、ゴーレム如きが!」

「お前は勘違いしている。モッティはゴーレム如きじゃない。

「誰がなんと言おうと愛すべきゴーレムだ」


 モッティが最速の一撃でエルシェンへ攻撃を仕掛ける。


「ゴーレムなんて受け止めてやる!」

「剣の無いお前なんて怖くない!」


 モッティの一撃がエルシェンの顔面を捉える。


「ぐっ!」

「ぶっ飛ばせーーーー!!!」

「グウウウウウウウ!!!!」


 モッティの一撃がもろにエルシェンの顔面を凹ませて、顔の半分を吹き飛ばす。

 イケメンだと自称したい顔が陥没して、随分と男前になったものだ。


「グェッ?!」

「最初から、モッティは手加減して、お前を油断させていたいだ。確実にお前を倒せるタイミングを見計らってな」

「きっ、貴様!」

「それだけ凹んだ顔でも生きているお前はスゴイが、この場であったことを全て話してもらうぞ」


 俺はエルシェンを拘束して、ハザマの街にある冒険者ギルドへ報告した。

 鉱山で起きていたことを知らなかった冒険者ギルドは迅速な対応で動き出してくれたので、鉱山の人々は解放されて、改めて治療が行われることになった。


 エルシェンと言えば、強制収容所をメチャクチャにして、鉱山に迷惑もかけたので、今まで以上の重積を課せられることが決定した。


 俺はエルシェンとの確執を自らの手で終わらせることができた。


 


 

 

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