第30話 鉱山攻略 7

《sideエルシェン》


 目の前に現れたヒースを見て、僕は心から喜んでいる。

 だってそうだろ?! 


 今、一番殺したい相手が目の前にいるんだ。


 探す手間が省けた。

 僕をこんな目に遭わせたのは全て、ヒースが原因なんだ。

 ヒースがいなくなってから全てが上手くいかなくなった。


「お前に会いたかったよ。ヒース」

「お前に何があったのか知らないが、随分と様変わりしたんだな」

「何があったのか知らないだって?! なら教えてやるよ!」


 僕がどれだけ苦労したのかね。


 あれは強制収容所に連行された後のことだ。

 来る日も来る日も魔物を何十、何百と討伐する日々。

 しかも力の制限を行われて、戦うことの辛さで気が狂いそうになった。


 だが、制限をかけられたおかげは、勇者の本来の力が目覚めるきっかけになった。それは逆境でこそ勇者は力を発揮するということだ。


 ピンチになったことで、僕は一つ、また一つと自力でスキルを解放していった。

 魔導具で封じられていたスキルを取り戻した僕はそれを悟られないために、少しずつ少しずつ囚人たちを魅力していった。


 奴らは元々犯罪者の荒くれ集団だ。

 

 だが、力を封印されていたことで、解放される時を心から願っていた。

 それを少しだけ後押ししてやるだけで僕へ忠誠を誓うことは簡単だった。


「いいか、お前は僕から彼女たちも、冒険者としての信頼も、仕事も全てを奪ったんだ。そして僕の人生を狂わせた」

「いや、話を聞いても俺が悪いところを理解できないんだが? ルールーに騙されたのはお前がルールーを彼女にするために加盟させたからだろ。しかも、他の女性たちに魅力をかけていたなんて」


 俺は事実を全てヒースに話してやった。

 そうさ、俺は魅力で女たちにいうことを効かせていた。

 ずっとヒースに全てを押し付けて仕事をしてきた。


「だから、お前がいなくなったせいで、女も仕事も上手くいかなくなった。全てお前のせいだ」

「逆恨みもいいところだろう」


 看守長との戦いは俺の中で一番危険な戦いだった。

 俺を狙って寝室に入ったところで魅力を使い、なんでもいうことを聞くまで魔力を使いまくった。


 今までで一番必死に魅力を使ったかもしれない。


 それでも僕の方がレベルが上がっていたから勝利することができた。

 今の俺はレベル60。


 自分でも圧倒的な強さを手に入れた。

 能力の高さもあるが、誰も俺には逆らえない。


「ハァーお前はそんなやつだったんだな」

「そうさ! お前の知る僕は僕自身が作り出した偽物だ。僕はなぁ〜認められたい! 必要とされたい! 欲しいものを手に入れたい! 自尊心と、商人欲求と、物欲の塊なんだ。ハァーやっと言えた。なぁヒース知っているか?」

「なんだ?」

「人はな誰かに必要とされたいんだよ。生まれつき、家族から厄介者扱いされてきたやつの気持ちがわかるか? 幼馴染で大好きな女の子から拒否された気持ちは? 勇者だとわかって、親から早く出て行けと言われた気持ちはどうなる?!」


 俺はこれまで生きてきた全てをヒースに聞かせてやる。

 どんな気持ちでどんな思いで生き的のか、お前にわかるのか?


「エルシェンがどんな気持ちで生きてきたのか、それを吐き出していることはわかった。それで? 強引に女性へ魅力を使って優秀であることをアピールして、俺を蹴落として、全て失敗したら俺のせいか?」

「そうだ! 全てお前のせいだ。全部上手くいっていたんだ。それなのにどうしてお前を追放した途端、俺の人生が狂い始めなくちゃならない! お前がお前が全部悪い」

「そうか、長々と話をしてくれてありがとう」

「はっ?」


 ヒースの前に可愛らしい美少女が誕生する。


「なっ、なんだその可愛いのは?!」

「ありがとうエルシェン。俺のゴーレムを可愛いと言ってくれて」

「ゴーレムだと! ゴーレムはあのブサイクな見た目と愚鈍な動きしかできないやつだろ! さっきの小さいのもおかしいが、お前! どんなスキルを手に入れたんだ?!」


 こいつの前に現れた羊の獣人を思わせる美少女は完全に俺の好みだ。

 だが、あれがゴーレムである以上は女じゃない。


「僕がこの剣を手に入れたのと同じで、お前も力を手に入れたということか、いいだろう。どっちの力が上になったのか試してやるよ。お前が作り出した、人形遊びをめちゃくちゃにしてな」


 僕が必要とされたいのは、ここまで一緒にやってきた

 気持ちの悪い男たちじゃない。


 もっと可愛くて綺麗な、女たちにチヤホヤされて僕が勇者であることを褒め称えてもらいたい。


「だから、俺は鉱山を手に入れて成り上がって、たくさんの女たちを僕の前にひれ伏せさせてやる」

「お前の歪みは、お前の育ってきた環境にあるのかもしれない。だけど、社会を知ってもその歪みを正す努力をしなかったのはお前自身の性根が腐っているのが問題だ」

「ウルセェよ! お前みたいにゴーレムの研究ばかりしているオタク野郎に、性根とか言われたくねぇよ!」


 やっぱりこいつとは相入れないない。


「もういい。お前を殺してやる」

「俺もお前には腹が立ってるんだ。殴ってやるよ」

 

 僕は剣を構えて全力で肉体強化と剣術スキルを発動する。


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