第28話 鉱山攻略 5

《sideララ》


 私は信じられない光景を目の当たりにした。

 強制収容施設に入っていた犯罪者は、弱いわけじゃない。


 冒険者だったり、傭兵だったり、巡礼を終えていた者もたくさんいる。

 なぜならスキルを悪用したから強制収容施設に送られる者たちだと私は知っている。


 私は自分と同じ冒険者の仲間が簡単に倒されていく光景を見た。

 だから、あのモヒカンたちが弱くないことを知っている。


 頑丈で、異常な強さで、しぶとさと数が多い。


 それなのに呑気に「冒険者ヒースです」と名乗ってやってきた、あのおかしな冒険者は、数十名のモヒカンを動くことなく見えないゴーレムで吹き飛ばしてしまった。


 事情を話しても任してくださいと笑っていた。

 久しぶりに食べる温かな食事が嬉しくて、人から受ける優しさが嬉しくて。

 それなのに私は彼の言葉を信じられなかった。


「キュププ。見つけたのです」


 モヒカンに細いサングラス。

 下半身が蜘蛛の姿をした化け物のような見た目をしたモヒカン。


「ワタシは魔眼の蜘蛛の助よ。もう、不甲斐ない子ばかりだからワタシが探しにきちゃったじゃない。キュププ」


 私は彼を囮にして、逃げようとした。

 これは罰だ。

 幹部クラスが現れて助かるはずがない。


 普通のモヒカン兵ですら、私たち冒険者はなす術なく殺されてしまった。

 私の大切な人も、仲間たちもいなくなった。


「何よ〜? 諦めた顔をしちゃって、いいわねぇ〜その絶望的な顔が私は大好きよ〜」

「お前たちはどうしてそんなにも悪いことができるんだ?」


 犯罪者の気持ちが知りたいんじゃない。

 理不尽に抗いたいって思うんだ。


「あら〜別に悪いことをしているつもりはないわよ。好きに生きているだけ。どうして、自分だけの才能を手に入れたのに悪用しちゃいけないっていうの? 私は蜘蛛の体と蜘蛛の能力を手に入れた」


 サングラスを外すと六つの目がこちらを見ていた。


「ひっ!」

「あら〜傷つくわね。これでも私は自分のことを気に入っているの。あなたのような醜い女より私の方が美しいでしょ」

「お姉ちゃん!」

「カイナ、ごめんね。私が逃げようなんて言わなければ、隠れていれば」

「ううん。お姉ちゃんは悪くないよ。ずっと私を守ってくれたよ」


 カイナが涙を浮かべている。

 私が余計なことをしたから泣かしてしまったんだ。


「カイナ! 逃げな」

「お姉ちゃん!」

「少しだも私が時間を稼ぐから。これでも冒険者だからね。信じて、走りな!!!」


 カイナの背中を押して走らせる。

 

「あら〜綺麗ね。そういうの嫌いじゃないわよ」

「お前に好かれようなんて思ってない! 私はシーフのララ! 能力は短剣使い。私の短剣でお前を」

「だけど、ごめんなさい。ここはもう私のテリトリーなの」

「うわ〜!」


 私が振り返ると、蜘蛛の巣によって縛られたカイナの姿が見える。


「なっ!」

「あなたもよ」


 振り返った一瞬で私の首に蜘蛛の糸が巻き付いていた。


「ぐっ!」


 短剣で蜘蛛の糸を切ろうとするが、全く切れない。


「なっ、なんで私の短剣が」

「ごめんなさい。あなたが全ての物を着る短剣使いだったとしても、私のレベルの方が上みたいね。私の切れない糸が勝ったというだけよ」


 涙が溢れてくる。

 どうして私は無力なんだろう。

 せっかく三つの扉を超えて、スキルも手に入れたのに、どうしてこんなところで。


「グウゥ!」

「えっ?」

「何?」


 そこには真っ白な球体から手足を生やした不思議な魔物がいた。


「魔物?」

「ブー!」


 その魔物が現れたと思った瞬間に、私に巻き付いていた糸が切れた。

 カイナを捕まえていた糸も切れて、私たちを囲い込むように木々が現れる。


「何! あなたの獲物だって言いたいの?」

「ブー」

「ふん。魔物が何を話そうとどうでもいいわ。殺してあげるわよ」


 何が起きているのかわからない。

 だけど、助かったの? どうして? 彼は言っていた。


 自分はゴーレム使いだと。もしかして、あの白いモフモフがゴーレム?


「キュププ! そんな小さな体で何ができるっていうのかしら? 死になさい!」


 蜘蛛の助が放った大量の蜘蛛の糸がゴーレムを襲う。


「ブー!!!」


 花びらが待っている。とても綺麗なピンク色の花が咲いて、太い木が蜘蛛の下から突き上げて咲いていた。


「ハベヴッ!」


 木のうねりに飲み込まれた蜘蛛はまるで木の養分になるように飲み込まれていった。


「グウゥ!!!」


 小さなモフモフが声を出すと、私たちを囲んでいた木は無くなってゴーレムはどこかに消えてしまっていた。


「助かった?」

「お姉ちゃん?」

「とんでもない冒険者がいるのね。私、ここを無事に脱出できたら、普通に結婚してあなたのような子供育てる生活を送りたい。カイナ。絶対に私と共に生きよう」

「うん! うん。お姉ちゃん!」


 私たちは二人で抱きしめ合って、涙を浮かべた。


 あの冒険者を信じよう。


 ゴーレム使いは不遇職なんかじゃない。

 彼は私にとって助かるための命綱であり、唯一の英雄なんだ。


「カイナ、もう一度隠れ場所に戻ろう。彼が全てを終わらせてくれるまで、自分たちの身を守るんだ」

「うん! お姉ちゃんとお兄ちゃんを私は信じる」

「ああ、いくよ」


 絶対は次は見つからない。


 私たちは生き残るんだ。

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