第19話 《勇者パーティー》 エルシェン 3

 強制労働施設


 囚人が着る服を着て、僕は強制労働施設で働いていた。


「どうして僕がこんな場所で」


 あの日、冒険者ギルドのギルマスに捕まった僕を待っていたのは犯罪者としての事情聴取だった。

 

「お前、スキルの悪用をしているようだな」

「していません」

「嘘をつけ! すでに情報は伝わっているんだ!」

「証拠はあるんですか?!」

「ある」

「なっ!」


 そこには二つの薬がテーブルに置かれる。


「一つは貴様がパーティーメンバーにかけていた異常状態を解くための薬だ。そして、もう一つは貴様に飲んでもらう薬になる」

「のっ、飲みませんよ!」

「もしも、お前がしていないというなら飲むことはできるだろ?」

「ぐっ」

「飲めないなら、お前がしていたと自白したものとする」

「そんなの横暴だ!!! こんなもの証拠でもなんでもない!」


 僕はギルマスの前で立ち上がるが、すぐに椅子へと縛り付けられる。


「七つの世界が互いに別々の歴史を歩んできたことは有名な話だ。だが、我々冒険者ギルドに勤めるものたちは全ての世界に存在しており、スキルの管理者をしての役目を持っている。それが王族であろうと貴族であろうと関係ねぇ」


 ギルマスが何かのスキルを使って僕を縛り付けて睨みつけてくる。


「いいか、スキルってのは個人の才能だ。だが、人とは違う才能を発揮するということは人の社会で生きるってことだ。そこには必ずルールが存在する。どんな形であれスキルを悪用するなら、そいつは犯罪者だ。冒険者ギルドとして、スキル犯罪に対して処置を行わせてもらう」

「なっ、何をするつもりだ?!」


 ソファーに縛りつけられたまま、首輪をつけられた。


「今日からお前は奴隷落ちだ。強制労働施設にて仕事をしてもらう」

「バカな! いったい僕が何をしたっていうんだ!」

「罪状を述べてほしいなら、述べてやる。勇者のスキルには(カリスマ、魅了、服従、先導、支配)といった他者を操作するスキルが確認されている。貴様はその内の魅了か支配を使って、パーティーメンバーに命令をきかせていたんだろう」


 ぐっ、僕の魅了がバレていたというのか? 


「調べれば同じパーティーメンバーのゴーレム使いも不当な扱いをしていたことは大勢の目撃証言も出ている。魅了か支配の力を使って強制的に働かせていたんだろう」

「違う! ヒースには何もしていない!」

「今更、貴様の言葉に真実味があると思うのか?」


 僕がどんな言葉を発しても信じてはもらえないだろう。

 それに、飲めと言われた薬は自白液か、催眠液だ。

 それを飲んでしまえば、有る事無い事(全て事実)を話してしまう。


「ぐっ!」

「貴様にはパーティーメンバー三人の女性に対して損害金を払ってもらう。手持ちがないことは聞いているからな。強制労働施設に入る費用に上乗せしておく」

「なっ!」

「金で女性の気持ちを慰めることはできないが、貴様が行った罪に対して彼女たちに罪滅ぼしができる物は、貴様の死か金銭だけだ」


 殺されるぐらいなら労働の方がいい。


 僕は冒険者としての地位を奪われ、強制労働施設へと送られて毎日肉体強化を使って仕事に励んでいる。


 だが、どこに行っても僕の優秀さは目立ってしまう。


「あら〜エルシェンちゃん。今日も頑張っているじゃない」


 僕の優秀さに惹かれた一人が声をかけてきた。

 だが、背筋にとんでもない恐怖が襲う。


「おっ、おっす! メルビルさん!」

「ふふふ、可愛いわね」


 尻を撫でられる。


「ひっ!」


 この強制労働施設のボスであり、看守長であるメルビルは二メートルを超える高身長で、全身が鋼でできているのではないかと思えるほどの肉体美を誇っている。


「ふふふ、楽になりたいなら、いつでも言ってくれればいいのよ」


 俺は初日に看守長にある申し出を受けた。


「あら、可愛い坊やじゃない。私といいことするなら、仕事は優しくしてあげるわよ」

「ハァ?」

「うふん、あなたがの罪状、女の敵って感じね。きっと一生女からは相手にされないでしょうね」

「バカな! 俺は勇者だぞ」

「勇者、勇者ねぇ。この強制労働施設にいったい、どれだけの勇者が収容されているのかしら? 勇者って勘違いして、自分の能力を悪用する奴ばかりなのよね」


 クネクネと身をクネらせながら近づいてくる看守長に身を震える


「あなたもその一人よ」


 目の前で顔を覗き込まれる。


 恐怖と怒りで肉体強化して、看守長を殴りつける。

 だが、片手が軽々と受け止められてしまう。


「ふふ、まだまだレベルが足りないわね。ギルドマスターにしても、私たち看守にしてもレベルをカンストした者たちよ。あなたのような跳ねっ返りを抑え込むのがなのよ」


 そのまま壁に向かって投げ飛ばされて、岩壁にヒビが入る。


「ふふ、あなたのような男は調教しがいがあるわね」


 意識を失う前に見たのは、化け物の姿だった。


 それからは強制労働施設で地獄の労働をしながらも、なんとか脱走する機会を伺う日々を送っている。


 何よりも、強制労働の内容が、炭鉱に潜む資材集めと魔物討伐なのだ。


 これならばレベルを上げて強くなれば、いつか看守長を倒せるかもしれない。


「絶対に僕はここから抜け出してやる」


 価値ある男になって家族を見返す。

 その目標は変わってはいないんだ。

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