第18話 《勇者パーティー》 シルディア

《sideシルディア》


 私は魔法使いとして落ちこぼれだった。

 戦いに赴いても活躍できない。

 誰もパーティーに誘ってくれない。


 そんな時に声をかけてくれたのが、エルシェンだった。


 エルシェンとヒースは、不思議な二人組で、私の前で張り切る勇者エルシェンと、真面目でコツコツと頑張るヒース。


 エルシェンの空回りに天然で気づいていないヒースは見ていて面白い二人に思えて、どうしてこんな二人がチームを組んでいるんだろうと不思議に思うぐらいだった。


 だけど、エルシェンの剣技とヒースの気配りで上手くパーティーとして機能していたから、私が加わることで二人に足りない遠距離攻撃を超えることができた。

 それは私にとって落ちこぼれと言われた魔法使いが必要とされた気分だった。


「シルディア。魔法って難しいね。よかったら教えてくれない?」


 そう言ってエルシェンは一つ目の門を超えたことで魔法のスキルを手に入れて聞いてきた。

 彼よりも魔法の知識だけなら、私の方が持っている。

 だから、私は彼の魔法使いの師匠として、魔法を教えることになった。


「ヒースはどこに行ったの?」

「ああ、あいつは宿を取ったり、アイテムを買い足したり、雑用をしているよ」

「全て彼に任せていてもいいの?」

「いいのいいの。適材適所って言葉があるじゃない。僕は剣を使った戦闘、シルディアは魔法、ヒースは雑用、これもパーティの形だよ」


 ヒースは他にもゴーレムを使って運搬や見張りもしてくれている。

 普通のゴーレムは30分も起動していれば、魔力枯渇を起こすのに、ヒースは毎日稼働時間を伸ばしているように感じる。


 彼の毎日努力をしているからだ。


 逆に、教えてと言いながらエルシェンの魔法へ対する態度は、少しだけ適当に感じられる。むしろ私と話すための口実に思えてきた。


 だけど、女性として自分を必要としてくれて、必死に口説こうとしてくれるエルシェンを嫌いにはなれない。

 

 私たちが付き合い出すのに時間はそれほど掛からなかった。

 ヒースには悪いと思ったけど、彼はそんなことを気にするような人間ではなかった。


 ストイックにゴーレムだけを作り、ゴーレムを運用することに真面目になっていた。砂や岩は少し泥臭くて、それでも必死な姿は別に悪くないと思える。


 エルシェンと付き合い出して、明らかにエルシェンの態度がおかしくなってきた。

 ヒースへ対する当たりが強くなり、私に対して乱暴な口調も増えた。


 どうやら、気が大きくなってしまったようだ。


 二つ目の門を通ると、彼の輝きが一段と強くなった。

 逆にヒースは元々自分一人で仕事をやり遂げる人なので、陰が薄くなっていく。


「新しいパーティーメンバーを連れてきたぞ」


  聖書者のアリスは、聖書を読むことで回復魔法や浄化魔法を使うことができる僧侶系の職業だ。


 私たちのパーティーに足りないメンバーだったので、大歓迎したい。


 だけど、アリスが加わってから、私の中で二つの気持ちがせめぎ合うようになった。


 エルシェンのことは好き。

 だけど、どうしてアリスにも優しくするの? それも許したい? わからない。


 二つの気持ちが混じり合って、モヤモヤする日々が続いた。


 シーフのミアも加わって、さらにモヤモヤは増していく。

 彼が好き離れたくない。だけど、納得できないのに上手く彼に対して怒れない。


「ヒースを追放して、ルールーを入れる」


 彼が望む言葉が口から出てきて、思ってもいないのにヒースを傷つけてしまう。

 ヒースは最初からパーティーを組んでいた仲間で嫌いなんて思っていない。

 むしろ、彼の努力を認めているのに、エルシェンに嫌われたくない。


「そうね。あのブサイクなゴーレムは必要ないんじゃない?」


 ごめんなさい、ヒース。

 本当は思ってないの。


 あなたがゴーレムに対してひたむきに努力をしているのを知っているのに、どうして私はこんなことを言ってしまうのだろう。


 だけど、その理由をやっとわかった。


「皆さん、異常状態が解けましたか?」


 久しぶりに晴れやかな気分になった。


 そして、モヤモヤの理由がやっとわかった。


「ありがとう。ルールーあなたのおかげで気持ちがスッキリしたわ」

「わっ、私は」

「けっ、犬に噛まれたとでも思うです」


 アリスは最初から魅了を使われていたようで、絶望を浮かべた顔をしていた。

 ミアは私たちよりも少し大人で、どうでもいいと納得していた。


 ルールーのおかげで私たちは魅力から解き放たれて、彼への感情がまやかしであったことを知らされる。


 そう、私が最初に感じていた好意はすでに消え失せていた。


 彼に感じているのは疑問と嫉妬だった。

 だけど、今彼にあるのは嫌悪感だけだ。


「皆さんはどうしますか? 冒険者ギルドに事情を話せば、対処してくれると思います」


 ルールーの提案に私とミアはどうでもいいと答えた。


 私は元々彼の彼女だったから、そして、ミアはスラム街の出で生きるために経験をしていたから、互いに利益があったことも事実だと認めていた。


 だけど、アリスだけはそうはいかない。


「絶対に許しません!」

 

 彼女は二つ目の世界である神を崇める人々一員として、エルシェンを許さない。


 これは国際的な問題になる。

 だから、私は彼に別れを告げよう。


 彼はやりすぎてしまった。 

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