第17話 《勇者パーティー》 エルシェン視点 2

《sideエルシェン》


 僕はどこで間違えた? シルディア以外の全てが僕の手からこぼれ落ちていった。


 ヒースを追放したことが悪かったのか? ルールーを仲間にしたことか? ハーレムパーティーを作ろうとして見た目が良くて、能力のある女性に魅力を使って従わせたことか? 僕だって自分が強引なことをしているのはわかっている。


 だけど、そうでもしなければ全てが上手くいくなど思っていない。

 そうだ世の中はそんなに都合よくはできていない。


 僕は辺境の貴族家で生まれた。

 貧しいながらも四男として、それなりの生活をしていた。

 だが、貴族の四男というのは代用品にすらなれない穀潰しで、女性たちに見向きもされない。


 僕は幼い頃から見た目が良かったから、多少は遊んでもらえたが、物心ついた頃には誰も僕のことなど見なくなった。


 そう、初めて恋心を抱いた幼馴染のナターシャは、兄さんのお嫁さんになった。


「ナターシャ。僕は君のことが」

「エルシェン、何をいうつもり? 私はあなたのお兄さんの奥さんになったのよ」

「だけど」

「やめて、ハッキリ言わせてもらうわ。あなたには興味がない。男性としての価値がないんだから」


 幼馴染に言われた残酷な言葉は、今でも僕の中で傷として残っている。

 

 男として価値がない存在、それが僕だった。


 だが、勇者の称号を授かったことで多少は改善するかと思えた。


「勇者、そうかそうか、エルシェン良かったな」


 そう言って父上に喜ばれた。

 だけど、喜ばれた理由を聞いて僕は絶望することになる。


「これで家を出ても冒険者として生きていけるな。勇者なら世界を渡ってスキルを手に入れれば、王様にもなれるかもしれない。頑張るんだぞ」


 父上は、僕を家から追い出せることを喜んだんだ。

 自分でもこんなにも絶望するなんて思わなかった。


 幼馴染からも、家族からもいらない物として扱われる僕。


 絶対に見返してやろう。


 そんな思いで領地を出た。

 最初は戦うことが怖かった。

 勇者と言ってもそれほど凄い力はなくて、努力しなくちゃいけなかった。

 

 最初のスキルは肉体強化だった。


 冒険者になって苦労している時に、仲間になってくれたヒースにはお調子者で、強気な態度を装った。


 だけど、いつからか、それが僕自身だと僕も思い込むようになって、シルディアが加わってからは余計に張り切った。

 だって、勇者がかっこいいところを見せれば、女性はいくらでも声をかけてくれるんだ。


 僕は価値のある男になりたかった。


 ヒースのゴーレムは使い勝手が良かった。

 一つ目の門を超えた時、魔法が使えるようになった僕に対して、ヒースは二体目のゴーレムを召喚できるようになって、荷物運びをしていた。

 

 明らかに男として、僕の下の人間だと思うようになっていた。


 二つ目のスキルである魔法によって、魔法使いのシルディアとの距離が一気に縮まった。


 シルディアに魔法のことを教えてもらうようになり、何かと一緒にいるようになり、ヒースが雑用している間に、二人で話をしていい雰囲気になっていった。


 最初は僕から強引にだったけど、シルディアも嫌ではなかったと思いたい。

 自然に二人が恋人同士になって、僕の気持ちはさらに有頂天になった。


 勇者はモテる。

 勇者はカッコいい。

 勇者は男としての存在価値が高い。

 

 二つ目の門を超えて、三つ目のスキルである魅力を手に入れた。

 

 それからだ。僕の中で今まで抑えていた感情が爆発した。

 

 この魅力の力を使えば、今まで僕のことを価値がないと言った者たちを見返すことができるかもしれない。

 

 幼馴染のナターシャも、僕を追い出した家族も見返してやれる。


 その前に、もっと人々を魅力して僕の価値を高めたい。


 聖書者のアリス。

 シーフのミア。


 世界を渡るたびに、僕は見た目が良い冒険者に声をかけて、魅了を発動していった。能力もあり、見た目もいい二人を加えて、三人の女性と付き合うようになって、僕の自尊心はどんどん満たされていく。


 そして、三つ目の門を超えて、四つめのスキル剣術を手に入れたことで、僕はかなり強くなった。


 そうなると足手纏いのヒースの存在が目障りに感じてきた。


 女性ばかりで十分なパーティーなのに、どうして目障りな男がいるんだろう? 僕のパーティーに男はいらないよね?


 ルールーを見つけて話をした。

 魅了を使ったが、効き目が悪い。

 だけど、ルールーは俺の仲間になってくれるそうだ。

 

 なら仲間になった後で、やりようはいくらでも存在する。


「そのはずだったのに」


 僕はシルディアと共に冒険者ギルドに向かって三人の行方を尋ねた。


「はい。本日朝早くに三人から脱退の申請をいただきました。理由は方向性の違いと伺っています」

「方向性の違い?」

「はい。ただ、お三人からはエルシェン様から異常状態になるスキルを発動されたともお聞きしております。そのため居場所などは教えないでほしいと言われております」

「なっ!」


 僕が魅了を使っていたことがバレたのか? だから三人は僕から離れていった? 魅了がなければ僕には価値がないと言いたいのか?


「わっ、わかった。異常状態は行っていないが、彼女たちの意見を尊重する」

 

 これ以上、事を大きくして、僕の信用が地に落ちれば冒険者の仕事もできなくなる。


「エルシェン」

「シルディア?」

「私もここで脱退するわ」

「えっ! なぜだい? 君は僕のために残ってくれたんじゃないのか?」

「いいえ、最初からの仲間だから、ちゃんと別れを告げるために残っただけよ」

「なっ!」

「受付さん。私も方向性の違いで脱退します」

「かしこまりました」


 目の前で行われる脱退に僕は止めようと手を伸ばすが、その手をギルマスに止められる。


「勇者エルシェン。お前には色々と事情を聞きたいことがある。冒険者ギルドの2階にきてもらえるか?」

「はっ、離せ! 今はシルディアと話をしないと」

「悪いが、それもさせられねぇな。そっち方面の話でもあるからな」


 僕がもがきながらギルマスの拘束を解こうとするが、一向に解くことができない。


「さようなら、エルシェン。あなたのことを嫌いではなかったわよ」


 シルディアが立ち去っていくのを、ギルマスの太い腕の中で見送ることしかできなかった。

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