第16話 火牛の焼き肉
俺は分けてもらった火牛を持って、宿へと帰る。
普段よりも早い帰宅ということもあって、食堂はいつもの賑わいはなかった。
「あら、今日は早いね」
「はい。朝早かったので、早めに切り上げてきました」
「いいね。自分のペースで仕事をするのが一番だよ。まだ日も沈んでないからね。どうするだい? もう食事にするかい?」
「いえ、夕食は賑わいを終えてからにします。それとこれを今日の夕食にお願いします。お裾分けもあるので」
「いつもすまないねぇ〜。これは?」
「火牛だそうです」
「なっ! なら、調理方法は焼き肉だね」
今からでも楽しみな発言に心躍りながら、俺は部屋へと戻っていく。
モッティとサンドスケルトンゴーレムを同時に発動すると、魔力消耗がかなり激しい。
魔力が枯渇すると、精神的にしんどくなって酷いと頭痛と吐き気に襲われる。
俺は今までそんな状態になったことはないが、今日は結構頭が重い。
「楽しみにしています」
「はいよ」
俺は女将さんにお肉を預けて、眠りにつくことにした。
♢
フワフワとした感触に包まれる。
「ご主人様?」
「ご主人」
「主人」
「ゴ」
四人の美少女に包まれていた。
「えっ? 君たちは誰?」
それぞれ特徴的な女の子たちが俺をご主人様と言って抱きしめてくれる。
柔らかくて、可愛くて、全員が俺に対して好意的な視線を向けてくれている。
「早く私たちに会いにきてください」
「待ってるよ」
「マツ」
「ま」
何を待っているんだ? 君たちは誰なんだ?
俺が彼女たちに手を伸ばして掴もうとすると柔らかな感触が手に伝わってきて目を覚ます。
「あん」
「え?」
目を開いた先には人影がいて、ぼやけた視界が次第にはっきりとしていく。
「ふふふ、おはようございます。ヒースさん」
「アーチェさん?」
「今日も最高のお肉をお土産にいただいたんですね」
「あっはい」
「ですから、これはサービスです」
アーチェさんの大きな胸で顔が包まれる。
先ほど手を伸ばして掴んだのは、アーチェさんの胸だったんだ。
初めて触る女性の胸が凄く柔らかくて、あんなにも気持ちいいんだって感動してしまう。
「ふふ、女の子の体に触るのは初めてですか?」
「はい」
「私も男の人に触られたの初めてです。ですが、ヒースさんなら何をされてもいいですよ。求められてもいないので、今日はここまでです」
そう言ってアーチェさんが俺の額にキスをしてくれる。
唇の感触も柔らかくて、胸と顔に残る胸の柔らかな感触に呆然としてしまう。
そのまま妖艶なアーチェさんの雰囲気に呑まれてしまって、俺はしばらく部屋から動けなくなった。
「ふぅ、心頭滅却すれば火もまた涼し」
俺はサウナに入っていつもよりも長めに汗を流すことにした。
気持ちがブレブレでセレスさんに続いて、アーチェさんからも女性の良さを教えられてしまった。
もうどちらかに身を委ねてしまいたい。
だけど、俺の目標はゴーレムマスターになることだ。
六つの門を全て超えて、スキルを全て取り終えるまでは誰とも付き合わない。
何度も欲望との戦いをしながら汗を流し続けて、めまいと共に俺はサウナをでた。
「くっ、八回転は流石に体の負担がでかいな」
アーチェさんから受けた衝撃が大きすぎて、俺はサウナで意識が朦朧とするほどに汗を流し続けた。
全身の汗を流して、外で上半身裸で呆然とする。
「レベルが上がったからかな。体も大分引き締まってきたな」
パーティーで行動している時は人の世話ばかりしていて、自分の体に意識を向けることなんてなかった。
美味しい物を食べて動いているから、体が引き締まって一回りぐらい大きくなったように感じる。
「はは、なんだろう。パーティーとして仲間と行動するって楽しいって思ってたけど、結局どこに行っても人付き合いはあるんだな」
女将さん、アーチェさん、セレスさん、ギルマス、凸凹コンビ。
今までパーティーメンバーに割いていた時間がなくなっただけで世界が広がったように感じるな。
なんとか立てるぐらいには呆然としていた体が落ち着く。
「食堂に行こう」
流石に腹が減った。
睡眠をとって、サウナを八回転して、腹は最高潮に減っている。
「おや、やっときたのかい? こっちで始めようと思っていたところだよ」
食堂に入ると、お客さんは全ていなくなっていて、女将さんとアーチェさんが丸テーブルに座って待っていた。その中央には鉄板が置かれている。
「すみません。サウナに入ったら呆然としてしまって」
「やりすぎは注意だよ。ほら、先に水飲みな。脱水になるからね」
「はい」
俺はジョッキに入れられた水を一気に飲み干した。
美味い!
汗を流し切った体に水が染み込んでいく。
「ハァーありがとうございます」
「いいよ。今日は私たちも一緒に食べさせてもらうけどいいかい?」
「もちろんです」
アーチェさんがウィンクをしてくれる。
ちょっと顔が赤くなるのを感じる。
「まだ顔が赤いよ。大丈夫かい?」
「いえ、大丈夫です」
「ならいいけど、それじゃ野菜から焼いていくよ」
女将さんが山盛りになった野菜を焼いていく。
キノコや玉ねぎ、ピーマンやキャベツを焼いて焦げ目がついたぐらいに、旦那さんが十人前の肉を持ってきた。
「全部食べられますか?」
「こんな美味い肉止められないよ」
「そうですよ。ガンガンに食べます」
女将さんとアーチェさんの言葉に俺は苦笑いを浮かべてしまう。
火の鳥亭の人たちと食べる焼肉はパーティーと食べたご飯よりも美味しくて楽しかった。エールがなくなればアーチェさんが入れてくれて、野菜や肉を女将さんがさらに乗せてくる。
「どんどん食べな若いんだから!」
そう言って楽しい焼肉を一緒にいただいた。
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