第6話 《勇者パーティー》 エルシェン視点

《sideエルシェン》


 ついに、ついに僕は目的を達成したんだ!


 旅に出て一年。

 勇者の職業を授かって三年。


 僕は夢を叶えたんだ。


 そう、ボクの夢はハーレムパーティーを作ることだ。

 それもただのハーレムパーティーじゃダメだ。

 見た目が良くて、能力が高くなければ何の意味もない。


「えっ? スイートルームしか空いてない?」

「はい。本日は予約でいっぱいなのでスイートルームしか空いておりません」

「まっ、まぁいいだろう。僕たちはお金はあるからな」


 これが続くようなら考えないといけない。

 こういうところは全てヒースに任せていた。


 ポーターのルールーに任せる仕事だが、ルールーは参加したばかりで僕たちの事情を知らないからな。


「えっ? スイートルームだけって、みんなそこで寝るんすか?」

「仕方ないだろ。そこしか空いてないんだ」

「え〜、女性の方々は仕方ないですが、勇者さんと一緒は嫌っすよ」

「なっ! おい! 俺がこのパーティーのリーダーだぞ」

「それはそうっすけど。普通に男女一緒はマズいのでは? 強制なら、うちはパーティーを抜けるっす」


 ぐっ! これまでの女たちは僕の魅力の影響下で、言うことを聞いていた。

 それなのにルールーはどうにも状態耐性が高い様子で、魅了が効きにくい。

 せっかく顔は可愛くて、仲間にしてやったのに面倒だな。


「わかった。わかった。僕は冒険者ギルドの仮眠室を使わせてもらう。お前たちはスイートルームを使うがいい」

「それなら仕方ないっすね」

「エルシェン、いいの?」


 ルールーに言い負かされた僕を見て、魔法使いのシルディアが心配そうに聞いてくる。ヒースの次に仲間になって、僕にとっては初めての人だ。

 魅了のスキルがない頃に、僕と付き合ってくれたこともあり特別な存在ではある。


「シルディア、ありがとう。大丈夫だよ。それにこれから仲間としてやっていくんだ。女性同士で仲良くなってくれ」

「わかったわ」


 聖書者のアリス。

 シーフのミア。


 先ほどから無言で、事の成り行きを見ている二人に視線を向ける。

 彼女たちは魅了を覚えてから出会ったため、出会った時から魅了状態で、どこか虚な瞳でいる。話を聞いているのかもわからないくらい無気力な印象を受ける。

 

 見た目はいい。能力も申し分ない。

 

 だが、シルディアぐらい僕のことを想ってくれてもいいと思うんだけどな。


 女たちにスイートルームを譲った僕は冒険者ギルドにやってきた。

 

「おい、冒険者ギルドの仮眠室を貸してくれ」

「冒険者証の提示をお願いします」

「これだ」


 僕は面倒な手続きを終えて、さっさと寝たかった。

 明日にはホテルをとってゆっくり寝たい。


「えっと、エルシェン様ですね。仮眠室をお貸しすることはできません」

「はっ?」

「エルシェン様は冒険者ギルドの信用がありません」


 美人受付嬢にいきなり信用がないと言われて唖然としてしまう。


「そんなはずがないだろ! 今日の昼まで僕のスターは40に達していたはずだ! 15以上のスター持ちは仮眠室を貸してくれるはずだ」


 他にもスター40になっていれば、冒険者ギルドから受けられる恩恵はたくさんある。


「申し訳ありません。現在のエルシェン様のスターは9しかありません」

「何いってんだよ! 9って基礎的なスターじゃねぇか! モンスター討伐数と、冒険者ギルド貢献度があるだろ?」


 僕はスターの計算方法を理解しているので、自分がどれくらいのスター持ちぐらいかはわかっている。


「ヒースさんが脱退されたと連絡を受けました。エルシェン様のパーティーで一番の冒険者ギルドの貢献度(魔物討伐サポート)値が高かったヒールさんが抜けたためスターマイナス20。さらにリーダーとして、不当解雇を行ったとしてマイナス11にさせていただきました」

「なっ!」


 まさかのペナルティーに信じられない。

 ヒースを不当解雇? そんなはずはない。

 ちゃんと正式な手続きをして、ヒースにもちゃんと追放理由を告げたはずだ。


「不当解雇じゃない! ヒースの奴がそういったのかよ」

「いいえ。ヒースさんからは何も言われいません。ですが、酒場で話をしていた内容が伝わらないと思うのですか?」

「なっ!」

「こちらの要望に応じた貢献をしてくださっていたヒースさんを、新しいメンバーができたという理由で不当に解雇したことは、職員や他の冒険者からの証言でわかっています」


 ぐっ! こんなところでもヒースが足を引っ張るのか!

 

 あいつは使い勝手の良いコマだった。

 今まで僕がここまで連れてきてやったのに、こんな形を恩を仇で返されるとはな。


「わかったよ!」


 俺は冒険者ギルドを出て、今日の仮宿を探すために娼館へと向かう。

 ホテルもダメ。冒険者ギルドもダメなら、娼館ぐらいしか寝させてくれるところはない。ちょっと高いが、これぐらいの出費ぐらい1日働けば、どうとでもなるはずだ。


「一泊頼む。どの子にするんだい?」

「誰でもいいが、僕に似合う女ならな」


 僕は少し高めの娼婦を頼んで部屋に入った。


 財布の中身は空になったが、明日仕事をすれば問題ないだろう。 

 それにルールーに預けた荷物の中にまだ金貨10枚はあったはずだ。


 翌日にホテルに向かうと……


「シルディア?」


 ホテルにはシルディアだけで、他の三人の姿はいなくなっていた。


「エルシェン! 朝起きたら三人がいなくなっていたの」

「何っ!」

「荷物も全部なくなってて」


 僕はとんでもないピンチを迎えていた。


 

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